気ままに行くリク(偽)の旅路 作:仙儒
「ねーねー、お兄様。ライス、今日も皆に会いたいなー。何て……ダメ?」
いつの間にか妹ができていた件。
因みにこの幼女の名前はライスシャワーで、皆と言うのは100エイカーの森の面々だ。なんか一人でめそめそ泣いていたのを見つけて声をかけた次第。
ハートレスの気配はないけど闇の気配がビンビンでっせ。
口を開けばマイナスなことばかり出てくるので「うるせー! いいからドーピングだ!」のノリで100エイカーの森ぶち込んだ。
幼女時代からメンヘラになるのもどうなのかね。こういう思考回路の人物は男女年齢関係なく程々に何かをさせて変に考え込む時間を与えないのが重要だ。
こういう奴らって普通の奴らよりも想像力豊かで、結構しっかりと物事を考えて計画を立てられるし、変に現実的だから悪い方に悪い方に考えて行動できないんだよね。
これを世間では頭でっかちといいます。
まぁ、地頭がよく理解力がある故のクセのようなものだ。考えすぎる現代病ともいえる。
この幼女を見てて思うのだが、決して自信がない訳ではないのだ。
むしろ、自信家の傾向がある。
計算して導き出した答えに対しての自己評価と、周りから下される評価の温度差のギャップにどうして? となっている状態。
まごまごしていて優柔不断のように見えるけど、本質はしっかり芯が通っていて頑固で折れないし曲がらない。
そもそもの話、たぶんこの子。理屈をごねるくせに頭で考えて行動するタイプではないのだ。
早速、矛盾が生じているように見えるが恐らくこの子、パーソナルリアリティがかなり狭い。不器用であれもこれもと器用にやりくりできないから彼女の中で物事は徹底的な序列として存在している。ここからここ以降は譲ってもいいけど、そこよりも前は譲るとか遠慮するとか妥協すると言う概念が存在しない、と言う明確な境界が存在する。
この子が思考するということはそれだけこの子の中で序列が低いのだ。無論、人なのでそれに対して惜しいような気持ちも当然あるだろうが、それを譲ってしまってもいいという思考を挟む余地が存在する。
まごまごして決断できないのは人生経験の少なさからくる経験不足による判断力の無さが原因。だからこれは時間が勝手に解決してくれる。
で、御託をごたごたと並べ立てて最初に立ち返るわけだが。譲れるものと譲れないものの区別は残念ながらこの幼女しか知りえない事柄なので考えないものとして、その他の頭でっかちで理屈をごねる部分は考えさせるよりも行動したほうが実はとても簡単なことが多いことを実感させればいいだけなのでそれだけはやっておこうと思う。
と、言うわけで100エイカーの森に今日もぶち込む。
100エイカーの森のメンバーはこの幼女よりは思考ルーチンは大人なので、この子の同年代の子よりはこの子に合わせてくれるだけの余裕はあるし、成熟した大人よりもずっと子供(元ネタが幼児の教育用の絵本なので当然と言えば当然だが)の視点を有してるので心……感情を学ぶには一番効果的だと思う。
それに、理屈をこねるインテリのイメージにもれず本が好きだと聞いているからメルヘン……かは置いておくとしてファンタジーな世界には触れられるのはこの子にとって苦痛ではないと思う。
この子の思い出作りにモバイルポータルで写真を撮る。
この世界にはあの何とかミラクルと言う幸薄そうな少女以来だけど、相性はいいみたいだ。
ラビットがプーの為に用意したはちみつにお湯とレモンを入れて皆で飲みながら焚火を囲んで星空観測。
プーが楽しかったこの日を忘れないか不安になり頭を抱えたのを、例えプーが忘れても皆がちゃんと覚えてるから大丈夫だよとラビット達が言葉にし、それに追随してライスシャワーが「ライスも今日のこと、皆で一緒に過ごした楽しい時間。絶対忘れないよ!」と言ってプーと指切りし、ラビットやティガー達が「勿論だとも!」とライスシャワーとプー肩を叩いたり寄り添ったりする。
俺も「じゃあ、皆が忘れないように魔法をかけないとな」とキーブレードを薄墨夜に向かって構えてホーリーの魔法を使う。
転生したときに魔法のコントロールを頑張った成果を今こそ見せるとき。
幾つもの優しい光が夜空の星の輝きにアクセントを添える。
「わー」とありきたりな言葉が漏れ、皆が口々に綺麗だねと素直な感想を口にする。
大成功なり。
今日もライスは絵本を探す。
遠い遠い昔の話。絵本の中に迷い込む夢みたいな思い出。
ライスがダメな子なんかじゃないって、教えてくれた大切な記憶。
会いたいな、会って皆に話したい。皆がライスのお友達になってくれて、ライスはライスを好きになれた。
そうしたらね。絵本の外でもお友達ができたんだ!
数はそんなに多くないけど、とっても仲のいいお友達。ライスが中央トレセン学園に入学したときに離れ離れになっちゃって寂しいけど、手紙やウマホのチャットアプリでもやり取りを続けてる。
あの日、プー達と焚火を囲んで話し合ったことはよく覚えてる。
――――――
お兄様が無くさないように魔法をかけると言って空を彩ったとても優しいキラキラした光。
まるでお星さまがゆっくりライスたちに降り注いでくるような幻想的な光景。
その光景に興奮してはしゃいで、そのままねちゃって。本の世界の外で目が覚めて後ろ髪惹かれる思いで家路についた。
そして迎える最後の日。
「お別れだ、ライスシャワー」
「……え? お兄様どこかにいっちゃうの?」
「ああ。お前と一緒に過ごせて楽しかった。……ライスはどうだった?」
「ライスも、ライスも楽しかった! お兄様だけじゃない。プーもラビットもティガーもイーヨーもカンガとルーもオウルとも……みんなと一緒だったからライスは楽しかったんだ!」
あの時、ライスは初めて他人に対して全力の思いをぶつけた。
嫌いになられないかな? とか、迷惑をかけてないかなとかそんな思いは頭からすっぽり抜け落ちていた。
泣きながら「いやだいやだ」とお兄様に抱き着いて駄々をこねる。
「参ったな。……そうだライス。これを、大事なものだ。さらさ貝のお守り、これを持っていると何時か必ず巡り合う言い伝えがあるんだ」
ライスを撫でながら優しく引きはがしライスの手に貝殻を重ねて星形にした綺麗なそれを握らせる。
「さよならは悲しいものではない。今よりも未来の自分に送る声援だ。……大丈夫、また会えるその日までさよならだ」
――――――
そうしてライスはお兄様とさようならをした。
今まで登場人物とは遊びはしたけど、肝心の絵本のタイトルを覚えることをライスシャワーは忘れていたのだ。
回顧録にしまい込んだ記憶に引っ張り出した写真を図書室のテーブルの上に並べてテーブルの上に倒れこむ。
「あはは……。その、元気、出してください。大丈夫! きっと見つかりますよ! その絵本!」
「ごめんね、迷惑かけて。励ましてくれてありがとー、ロブロイさん」
同室のロブロイさんが今日もライスに付き合ってくれてる。
うう、帰ったらトレーナーさんからトレセン学園のライスへ届けられた大量のファンレターに目を通さなければいけない。
この世界では、ホープフルステークスからミホノブルボンとバチバチにやりあい、本来出るはずのなかった3冠全てに出走して皐月賞と東京優駿で惜しくも2位に甘んじたが菊花賞で1着を取るという原作に近いんだかそうじゃないんだかなことをしていて、知名度もそこそこあり、ミホノブルボンのよきライバルとして認識されていて少なからずミホノブルボン止めるならライスシャワーしかいないよねーと言う逆張り勢も合わさり原作のような事にはなっていなかった。
ボッチを極めず数こそとても少ないが原作ライスと違い勇気を出して人と交流した小さな違いが生んだ一種のバタフライエフェクトとも言える。
加えて、このライスシャワー。シンボリルドルフでさえ取れなかった秋の3冠をさくっと取っていたりする。そうした地道に小さな小さな人との輪を広げることでマックイーンに勝った時には原作では殆どブーイングしか無かった物が、会場の1/5位はライスシャワーの応援用のウマブレードの輝きと声援に変わっていた。原作ではヒールとして後ろ指差されていたのが、この世界ではダークヒーローの立ち位置を確立し主に中高大学生に絶大な人気ウマ娘へと変貌していた。なお、ライス自身が目指し憧れたヒーロー像とは違うため「なんかライスが思っていたものと違う」とネットを見ながら呟いたとかいないとか。因みに宝塚記念は勝ちこそしたが故障してしまい、療養中の身だ。
「ライスシャワーさん、ですよね。その……それ」
急に話しかけられて顔を上げると儚げでスレンダーなウマ娘が写真を指差しながら言う。
「あああ、ご、ごめんね。今すぐ片づけるからね」
「ああ、いや。そうじゃなくて、コレ!」
そう言って差し出された写真には幼い少女とプーの映っている。
「え?」
「オレ、小さいころにリクって言う人に連れて行かれて。それで」
「プー達とであったんだ。ねえ、その本のタイトル覚えてないかな? ええっと……」
「あっ、オレはケイエスミラクルって言います。覚えてますよ。確か……”100エイカーの森”ってタイトルだったと思います」
「ロブロイさん、100エイカーの森って絵本は……」
「残念ながら」
「そっかー」
図書館の主であるロブロイさんが首を振るということはそういうことなのだ。
うう、どこに行けばあるのかな?
そう思っていたら肩をトントンと叩かれて振り返ると黒いコートの怪しい人物が立っていた。
「やぁ、盗み聞きは余り褒められたことではないことはわかってるんだけど子羊ちゃん達から聞き覚えのある単語が聞こえたからね。はいこれ」
そう言ってとても大きな本が差し出される。
その表紙には間違いなく小さいころに見たプーの姿が描かれていた。思わずにコートの人物を見上げる。
「俺も聞きたいことはあるけれど。かわいい妹弟子たちの願いだもの。そちらを優先するだけの器量は持ち合わせているつもりだよ。さぁ、行きなさい」
そう言われるとその人物は大きな鍵のような物を此方に向けてきて、その鍵が輝きを放ちそれに目を眩ませて次に周りを見回すと、ロブロイさんとケイエスミラクルさんと、懐かしい森の中に。
余りの懐かしさに涙が出そうになるのを耐えながら走り出す。
ロブロイさんが何か言ってるような気がするけど、ライスは止まれなくて。
森を跳びぬけて。オウルが停まっていた木を越えピグレットと一緒に耕した畑を越えティガーと跳ねて遊んだ広場を越えて、皆で冒険した洞窟を越え、皆で焚火を囲みながら星を眺めたあの原っぱへ。
そこには十年ぶりのみんなの姿が確かにあった。
「プー! 皆!!」
皆が叫んだライスに気が付いてこっちを向く。
皆に抱き着きながら再会を喜ぶ。最初こそ大きくなったライスに戸惑っていた皆だけど、あの頃と同じで皆ライスを受け入れ歓迎してくれる。
遅れて息を切らしながら駆け寄ってきた2人にライスの大事なお友達だと紹介した。
「ライスも、ミラクルとも久しぶりなんだな」
蜂蜜の入った壺に手を突っ込んでその手をペロペロ舐めながら感想を言うプーに相変わらずマイペースだなと涙が流れる。
ラビットが「どこか具合でも悪いのかい?」と言いカンガとルーが「大丈夫? 泣かないでライス!」と宥めてくれてティガーが「そんなもん、ピョンピョン跳んでれば治るさ!」と相変わらずで。プーが「ライス達が泣いてるのを見ると、此処がとてもキューとなって苦しいんだな」と抱えていた壺を置いて胸のあたりを抑えながらこちらへと歩いてきて「ライスも、元気を出すんだなー」と頭をポンポンして慰めてくれる。
「大丈夫だよ、プーに皆。悲しくなくても、嬉しくても涙が流れることがあるんだ。ライスね、今、とってもとても嬉しいんだよ」
「そっかー。なら大丈夫なんだな。ボクもライスと会えてとてもとても嬉しんだな。ミラクルとももちろんロブロイともなんだな」
いつの間にかケイエスミラクルさんとロブロイさんも近くに居てケイエスミラクルさんが目に涙をためて「オレも皆に会えて嬉しいよ。とてもね」と返事をしていた。
高ぶった感情が落ち着くのを待って、改めて皆で遊んだ。ティガーとトランポリンを使ってどこまで高く跳べるかをみんなでしたり、皆で駆けっこをして遊んだり薄暗い洞窟をおっかなびっくり冒険したり。
楽しい時間はあっという間に過ぎて。
夕日が沈んで行く。
もうすぐお別れの時間。
何時かのように焚火を皆で囲みながら薄墨夜に光りだす星を眺めながら止まらないおしゃべり。
「さぁ、ライスシャワー、ゼンノロブロイ、ケイエスミラクル。名残惜しいとは思うけど、此処にはいつでも来れるようになる。だから今日の所はここまでだよ子羊ちゃん達」
また、いつの間にか後ろに現れた黒いローブの人物が大きな鍵を出すのを見ていたら手を下から引っ張られた。そちらを見る途中ケイエスミラクルさんと目が合いそれを向けるとプーが私とケイエスミラクルさんの手を握っていた。
「皆行っちゃうの? ボク、とても寂しいんだな」
そう言って悲しそうな顔でライス達を見上げてくるプーにライスがなんと声をかければいいか悩んでいると
「大丈夫だよプー。確かにオレたちはいなくなっちゃうけど、でもちゃんとプーのここにいるよ」
そう言いながらケイエスミラクルさんの白く細長い指がプーの胸を指す。
「そっかー。なら安心なんだな。寂しくないんだな。ライスもロブロイもきっとボクの
「うん、ライスの
涙で視界が歪んだと思って拭ったら図書室に戻っていた。
最初は表紙にプーが描かれちょっと寂しさを感じさせる表紙だった大きな絵本の表紙はライスにロブロイさんにケイエスミラクルさんと100エイカーの森のメンバーが焚火を囲みながら夜空の星を指差してる絵に変わっていた。
「故障してたのは治しておいたよ、動けないのは窮屈だしね。その本はライスシャワーとケイエスミラクル二人で管理してくれ。プー達に会いたくなったらメジロアルダンとメジロドーベルかマンハッタンカフェにリク様か俺の名を出せば無下にはしないはずさ。子羊ちゃん達」
そう言ってローブのフードの部分を取り隠されていた顔があらわになる。
その顔は三女神様の一柱の人物で彫刻と同じ鍵を手に持ちながらニッと八重歯が出るようにハニカんだ。
「まぁ、その話は置いておいて、マスt……リク様がどこにいるか知らないかい?」
ライス達は首を横に振る。
「あ~、やっぱり? だよねー。あ、そうだこれ、モバイルポータルって言うんだけど、ライスシャワーとケイエスミラクルには渡しておくよ。連絡が取れた方が何かと便利だしね。リク様が見つかったり変なことがこの世界で起こった時には遠慮なく言ってくれ。たのむよ子羊ちゃん達。あ、ゼンノロブロイはライスシャワーとでお願いね」
それじゃあね。
そう声を残していなくなってしまったダーレーアラビアン様。
たくさんの出来事が一気におこって理解が追い付かないけど間違いなく言えることは、新しいお友達ができたしきっとできるだろうという予感だけ。
不思議といつも感じる不安感のようなものは感じなかった。
そうしたら右手が光って大きな鍵が現れた。先端に星形の突起があるシンプルなつくりの鍵。ゲームではスターライトと呼ばれるキーブレードをびっくりして床に落としてしまうが一瞬にして消えライスの手へと戻ってきた。
これ―――お兄様が使っていたものと形は違うけど同じもの?
「え? オレも!?」
ケイエスミラクルさんの手には剣状の物にバラの茎が巻き付き蕾を付けている形の鍵、ゲームではラヴィアンローズと呼ばれるキーブレードだった。
この鍵は何なんだろう?
渡されたばかりで申し訳ないが渡されたウマホによく似た機械を弄るのだった。
心理描写難しいっピ
因みに故障していたライスが100エイカーの森で走り回れたのはダーレーアラビアンがライスの肩を叩いた時に魔法で治していたから。