ありふれランブル!   作:ゲーマーN

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序章 第9幕

「それで、お前たちは結局何者なんだ?」

 

 ハイリヒ王国王宮内、緊急時の集合場所に指定されている屋外訓練場で、メルドは、神妙な面持ちで見慣れない服装をした日景と那岐に問いかけた。

 日景は、平安以降の公家が着ていたとされる狩衣と似た黒い衣服を纏っている。と言っても、本来の狩衣ほど余裕のある作りではなく、脇などの隙間もしっかりと縫い合わせられており、狩衣風の現代衣装というのが最も適切な表現だろう。

 

 一方の那岐は、白と青を基調とした神秘的な雰囲気の着物を着用している。両肩を露出した穢れのない白の装束を赤と金の豪奢な帯で留めており、更に帯からは白から青のグラデーションが美しい袖の部分が左右の腕に伸びている。細やかな両腕には黒の腕貫を身に着けており、それとは逆に両足には白のニーハイソックスを履いている。

 陰陽寮謹製の戦闘用防具。ここ数日の間に陰陽寮から送られてきた日景と那岐の戦装束だ。

 

 あの日、迷宮で命懸けの死闘を繰り広げた日から既に五日が過ぎている。宿場町ホルアドで一泊した生徒一行は、翌日の早朝には高速馬車を利用して王都まで戻ることになった。

 これ以上、迷宮内で実戦訓練を続行できる精神状態ではない。人類の希望である勇者一行に戦意喪失されるわけにはいかない。致命的な障害が発生する前に、生徒たちの精神面をケアする必要がある、と騎士団側は判断を下したのだ。

 

 帰還を果たし今回の一件が伝えられた時、王国側の誰も彼もが安堵の吐息を吐いたものの、勇者一行を救ったのが犬人の少女と知ると一様に嫌悪の表情を露わにした。

 国王や教皇ですら同じだった。強大な力を持った勇者一行が亜人族に救われるなどあってはならないこと。神から見放された亜人にすら劣るような者が魔人族に勝てるのか、と人々に不安を広めるわけにはいかない。神の使徒たる勇者一行は無敵の英雄でなければならないのだから。

 

 だが、彼等はまだ分別のある方だった。中には声高に亜人の処刑を望む者までいたのだから。

 生徒たちの手前、公の場で発言したのではなく、物陰でコソコソと貴族同士の世間話という体ではあるが。薄汚い獣風情を王宮の中に招き入れるなど有り得ないだの、せめてその醜悪な耳を切り落としたらどうだだの、それはもう好き放題に貶していた。

 それらの声を黙らせたのは、正義感の強い光輝――ではなく、アスカ自身のステータスだった。

 

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アスカ 135歳 女 レベル:100

天職:双剣士

筋力:710 [+最大18576]

体力:90  [+最大3060]

耐性:330 [+最大7149]

敏捷:230 [+最大5400]

魔力:2500

魔耐:2000

技能:魔力操作[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+魔力圧縮]・双剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]・火属性適性[+効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+持続時間上昇][+複数同時発動][+連続発動][+付加発動]・式神契約[+真華]・権能[+天照大神]・言語理解

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 レベルは100を成長限度とするその人物の現在の成長度合いを示す。勇者である光輝の限界は全ステータス1500といったところだ。素のステータス限界自体は光輝の方が上であるが、最大値に差が有り過ぎる。限界突破の技能で光輝も三倍に上昇させることができるが、それでも筋力に関しては四倍以上の開きがある。その上、那岐の固有魔法”伊邪那岐”により、アスカもステータスの倍化が可能であるから、如何に規格外のステータスであるかが分かるだろう。

 

 一応、比較すると通常の人族の限界が100から200、天職持ちで300から400、魔人族や亜人族は種族特性から一部のステータスで300から600辺りが限度である。魔力と魔耐の数値を除けば、普通の亜人の限界とそこまで大差があるわけではない。しかし、最大出力に関しては化け物としか言い様がない。

 この数値を前にして、アスカに喧嘩を売るほど教会及び王国上層部の人間は愚かではなかった。

 

「改めて自己紹介を。自分の真名は土御門日景(ツチミカド・ヒカゲ)。超国家機関『陰陽寮』の最高幹部の一人だ」

 

「土御門……?」

 

 男子生徒の一人――清水幸利が怪訝そうな声を漏らした。今、この訓練場には日景の要求で騎士団員の他に生徒全員が集められている。優花も聞き覚えのある家名に驚いた様子だった。

 

「土御門って……ねぇ、藤原くん。まさか、あの陰陽師関係で有名な土御門だったりするの?」

 

 優花の当然の疑問に、日景はコクリと頷いた。

 

「ああ。今でこそ藤原性だが、本来の家名は土御門だ」

 

「本来の……? それってどういう……」

 

「自分も詳しくは知らないが……明治政府より旧陰陽寮の廃止が告げられた折、当時の当主が、分家且つ右腕的存在だった藤原家の当主に、家名の交換を命じたらしい」

 

 家名を交換した後、新旧土御門一族の歴代当主はこの件に関しては口を噤んでいる。当主の座を継ぐまでは、日景も当時の真相を知ることはないだろう。

 

「つまり、藤原くんは安倍晴明の末裔で……日本にいた時から陰陽師だった?」

 

「そういうことになる。そして、学業の裏で人々の生活を脅かす魑魅魍魎の類を退治していた」

 

「中学生の頃から私も陰陽寮所属の陰陽師として一緒に仕事してたんだ」

 

 安倍晴明――日本史上最高の陰陽師。日景がその末裔であるという事実に、生徒たちは驚きの表情を隠せない様子だった。対して、事情を聞いたメルドは得心が行ったというように頷いた。

 

「……そういうことか。お前たちが最初から派生技能に目覚めていたのは、この世界に召喚される前から技能の数々を磨いていたからか」

 

「しかし、何歳から……? あれほどの数の技能、並の経験で身に付くものではありませんよ」

 

 メルドの腹心の部下、王国騎士団副団長のホセ・ランカイドが新たな疑問を口にする。

 

「小学一年生――齢にして7歳の時に、同級生の女の子を救うために山の神と対峙したのが最初の実戦だ。その一件を切欠に、日本に対霊組織がないことに危機感を覚えた自分は、新旧土御門の陰陽師と共に対霊組織を立ち上げた。それが今日に於ける『陰陽寮』だ」

 

「……な、7歳? 今の年齢から逆算すると、日景君には十年弱の戦闘経験があるわけですか」

 

 予想以上の若さに驚愕しながらも冷静に日景の戦闘経験年数を導き出すホセ。しかし、前世の記憶を持つ日景と那岐の経験は、この十年という数字すらも大幅に鯖を読んだものだ。前世と今世を合わせれば、二人の実戦経験は数十年単位にまで引き上がる。

 その上、戦闘経験の内容自体も非常に濃いものだ。今世は邪神、前世はベヒモス級の戦闘能力を有する鬼型のマガツヒが最初の難敵であり、その後も日景と那岐は多くの強敵と戦ってきた。

 

「先日、この陰陽寮から連絡が来た。日本側でも自分たちを連れ戻すために行動しているそうだ」

 

 その言葉を聞き、真っ先に声を張り上げたのは光輝だった。

 

「じゃあ、俺たちは今すぐ日本に帰ることができるっていうのか!? なら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ! オルクスに行く前にだって伝えることはできただろう!」

 

 非難するような眼差しと声音に、しかし、日景は「はぁ」と溜息を漏らす。その態度に、光輝は目尻を険しく釣り上げ、日景に敵意を漲らせる。

 

「なんとか言ったらどうなんだ!? お前が、もっと早く教えてくれていれば!」

 

「ちょっと、光輝!」

 

 諫める雫の言葉も聞かず、熱り立つ光輝に日景は眉を顰めると、今度は深い溜息を吐いた。

 

「光輝、説明はよく聞いてほしい。自分は『先日、連絡が来た』と言ったはずだ」

 

「それがどうした?」

 

「連絡が来たのは迷宮突入前夜のことだ。翌日の早朝、まだ陽が昇って間もない頃に訓練を開始した以上、説明する時間はなかった」

 

「だ、だけど、王都に帰ってからは十分に説明する時間も……」

 

「だから、今、ここで事情を説明している。もう少し冷静に話を聞いてくれないだろうか?」

 

 それでも、光輝は納得できないようで未だ厳しい眼差しを日景に向けている。日景の隣に立つ那岐が、「もう仕方がないなぁ」と幼子を見るような目をしているが、光輝は気が付いていない。

 

「それと、今すぐに帰れるというわけではない。確かに陰陽寮との直通経路を開通することはできたが、それも術の類を通すのが限界だ。普通の人間が通れるほど大きな道は作れていない」

 

「だが、彼女は召喚できただろう! それなら、日本に帰ることも……!」

 

「アスカを召喚できたのは、アスカが自分と契約関係にある式神だったからだ。何の関係もない人間を召喚するなんて、それこそ安倍晴明であろうと不可能だ」

 

 日景が思い出すのは、前世、禍の王との決戦を前にして千載の彼方に迷い込んだ時の記憶だ。

 

『自身をここに……召喚したのか……!? な、なるほど!? 晴明ほどの術者ならば、日常的にこのくらいの術を使えるという……』

 

『いや、普段はこんな無茶しねえよ。召喚術式はヒトを飛ばすようにも、自分から飛んでいくようにも作られてねえからな』

 

 安倍晴明ほどの術者ですら召喚術式で人間を遠くに飛ばすのは無茶の類なのだ。常人並の才しか持たない日景は当然として、安倍晴明の再来と称されるほどの天才陰陽師である陽晴にも、別の世界から全くの他人を召喚するなんて芸当は無理だ。

 

「尤も、日本に帰る方法に関しては既に目星を付けてある」

 

「……日景君、それは本当なの?」

 

 雫の問いに日景は頷く。

 

「ああ。と言っても、確実というわけではないが……」

 

「……そう。それで、その目星って?」

 

「【オルクス大迷宮】だ」

 

 その答えに、訓練場に集まっていた生徒の殆どが口を閉じた。オルクス大迷宮。そこは、生徒たちに『死』を強く実感させたトラウマの迷宮だ。あの迷宮に、日本に帰るための方法があるとはどういうことなのか。騎士団員を含む全員の疑問に答えるように言葉を続ける。

 

「転移魔法。今の時代には存在しない神代の魔法の一つ。しかし、自分たちはその魔法を体験したはずだ」

 

「迷宮のトラップ……」

 

 ボソリ、と生徒の一人が呟いた。その言葉に、日景は正解だと言わんばかりに頷いた。

 

「ああ、そうだ。迷宮の罠には空間転移の魔法が使われていた。ならば、大迷宮の創造者は転移魔法の詳細を知っていたはず。自分はそこに、日本へと帰還するための糸口があると考えている」

 

 繰り返しになるが、今現在開通している経路では術の類を通すのが限界だ。裏を返せば、術を介せば二つの世界を行き来するのは可能ということ。召喚の術による転移は難しいが、空間転移の魔法ならば或いはいけるかもしれない。

 一人、また一人と生徒たちが顔を上げていく。彼等の瞳には確かな希望の光が宿っていた。

 

「この後、自分と那岐は準備次第、オルクス大迷宮へ調査に向かうつもりでいる。メルド団長、その許可を貰えないだろうか?」

 

 生徒の眼差しに、副団長のホセは「やられた……」と心の中で漏らした。この状況では日景の提案を断るわけにはいかない。元の世界に帰る方法という生徒たちの希望を否定するのは、彼等の心証を致命的に損なう事態に繋がりかねない。

 尤も、そんな小細工をせずとも、生徒を大切に思うメルドの返答は決まっていただろうが……。

 

「……わかった。俺の権限でお前たち二人にオルクスへの単独調査を許可する」

 

「「ありがとうございます!」」

 

「ただし、必ず生きて戻れ。いいな?」

 

「「はい!」」

 

 斯くして、日景と那岐の旅は始まることになる。多くの思惑が交錯する王国、転移の魔法を垣間見た迷宮、生徒の奪還を目指す陰陽寮――

 日景たちは、生徒たちを元の世界に帰すため、世界の真実を巡る冒険へと足を踏み入れた――。

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