ありふれランブル!   作:ゲーマーN

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第1章 第4幕

「見つけたっスよ! 次の階層に続く階段!」

 

 翌日、拠点で報告を受けた日景たちは、アスカが発見した下層への階段がある部屋へと赴いた。

 その階段は雑な作りをしていた。階段というより凸凹した坂道のような形状をしており、ただ下の階層への通路があるだけ。その下は、行く先が見えない迷いの闇に閉ざされていた。

 不気味な雰囲気を醸し出すその深い闇は、まるで巨大な怪物の顎門のようだ。しかし、この先に次の階層がある以上、日景たちに進む以外の選択肢はない。

 

「行こう、みんな」

 

「はいっス!」

 

「うんっ!」

 

「了解です」

 

 日景たちは、互いに頷きあうと、その闇へと足を踏み入れた。

 その階層は暗かった。光が差し込むような隙間がなく、空間全体が闇で満たされている。地下である以上、光がないのは当然だが、それでも今までは緑光石である程度の視界は確保できていた。

 だが、この階層には緑光石は存在しないらしい。それどころか、天井すら見えずただ深い闇が続いているような気さえする。

 

「これが……次の階層」

 

「……真っ暗だね」

 

 足元すら見えない状況に、日景たちは不安を覚えるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 この先、何があるのかも分からないが、とにかく前に進まなければ。

 

「調査開始だ。全員、何か気付いたことがあれば、必ず報告するように」

 

 日景の号令で一行は前進する。前を歩くのはアスカとヒノエ。その後ろを日景と那岐が続き、最後尾をリッカが歩くという陣形で、日景たちは暗闇に包まれた階層を進んでいく。

 唯一の光源は、日景の持つライトだ。この闇の中で光源を持つなど自殺行為に等しいが、この階層の探索に灯りは必要となる。ただ、ライトが照らす範囲もまた狭く、周囲全てを見通せるわけではない。どうしても見えない部分は、アスカが犬神特有の嗅覚で索敵を行う。

 

「あれ? 今、何かが光ったような……」

 

「! 全員、警戒を密に。ヒノエ、引き続き索敵を頼む」

 

「うん、わかった!」

 

 日景たちは警戒を強めるが、周囲に広がる暗闇は静寂に包まれている。何かが潜んでいるような気配もない。ヒノエの気の所為だったのか? そんな疑念を抱く日景たちの前方で、不意にアスカが立ち止まった。そのまま、ゆっくりと腰の刀に手を伸ばし――

 

「そこっス!」

 

 抜刀。同時に、闇を斬り裂いた。咄嗟に日景がライトを向けると、そこには体長二メートルほどの灰色のトカゲが壁に張り付いており、その金色の瞳で日景たちを憎々しげに睨んでいた。

 ズルリ、と真っ二つになった灰色のトカゲが滑り落ちる。どうやら、日景たちに奇襲をかけようとしたらしいが、アスカの索敵能力の方が一枚上手だったようだ。だが、まだまだ油断はできないと気を引き締め直した、その時――

 

「きゅ!?」

 

 イナバの鳴き声。直後、闇の中から何枚もの羽が飛んできた。ヒノエが即座に炎で焼き払うが、羽は次から次へと飛来してくる。そして、その羽の飛んできた方向に視線を向けると……

 

「……! 今度はフクロウか……!」

 

「これは……ちょっと多すぎるっスよ……!」

 

 そこにいたのは全身が灰色の羽毛に覆われた巨大なフクロウの群れ。その数は、十体以上はいるだろうか。この暗闇の中では正確な数は判別できないが、長篠の戦いの三段撃ちのように、遠距離から絶え間なく羽を飛ばしてくる。

 

「はああああ……!!」

 

 リッカが力を込めると、羽の弾雨を阻むように壁が迫り上がり、その堅牢さで羽を弾き飛ばす。

 

「ヒノエ!」

 

「あはっ♪ み~んな燃やしちゃうよ!」

 

 辺りの温度が上がっていく。ヒノエの周囲に溢れ出た朱色の炎は、羽を焼き払い、朱雀の姿を形作ると、そのままフクロウの群れへと飛び出し、灼熱の翼で敵陣を燼滅する。

 

 ――奥義 丙式・朱翼炎灼

 

 フクロウたちは、燃え盛る炎の翼に全身を包まれると、骨も灰も残さずに炎の中へと消えた。

 

「ふぅ……やったかな?」

 

 ヒノエが周囲を見回すと、何時の間にかフクロウたちの姿はなくなっていた。どうやら、今の奥義で全ての個体を倒しきったらしい。ヒノエは安堵の息を吐くと、日景に勢いよく抱きついた。

 

「えへへ~。うまくいったよ! 褒めて、褒めて~!」

 

「ああ、よくやった」

 

 日景はヒノエの頭を優しく撫でると、彼女の体をそっと抱きしめた。自分の勝利を喜び、褒めて欲しそうに頭を擦り付けてくるヒノエに笑みを零しながら、日景は、那岐の方に視線を向けた。

 那岐は周囲を警戒しつつ灰色トカゲから魔石を回収していた。魔石は、符術用の符を作成する際に染料とすれば、魔法陣同様に効力が上昇することが判明している。また、それ以外にも使い道があるため、回収は必須だ。

 

「……行こう。まだまだ先は長い」

 

 そして、一行は更に奥へと進む。だが、その歩みは遅々として進まず、道中で何度も同じような戦闘を繰り返しながら、日景たちは闇の中を進んでいく。既に、体感では何時間と探索を続けているが、下層への階段は未だに発見できないでいた。

 

 この階層の魔物も上層とは比較にならないほどに凶悪な個体ばかりだった。特に厄介なのは、やはりフクロウ。空を自在に飛び回ることができる上に、羽を散弾銃のように飛ばしてくる。

 最初に遭遇した灰色のトカゲもまた脅威だった。音を立てずに忍び寄ってくる上に、何よりも恐ろしいのは、その石化の邪眼だ。陰陽寮謹製の対霊装備がなければ、魔法耐性が高くない日景と那岐はそれだけで命を落としていただろう。

 

 加えて、光源はライトの光だけ。視界は悪く、常に不意打ちへの警戒をしなければならない。しかも、魔物は一体だけではなく複数で襲ってくる。その戦いは連戦に次ぐ連戦で、日景たちは心身ともに疲弊していった。

 そして今は、何度目かの魔物の群れとの戦闘を終えたところだった。リッカが構築した簡易拠点で休憩を取りつつ、次の階層への階段を探すために必要な行動について話し合うことにした。

 

「うう~……疲れたっス~! この階層、ホント大変っスよ~!」

 

「……同感です。この暗闇と固有魔法の組み合わせ、厄介にも程がありますよ」

 

 アスカとリッカは疲れ切った表情で、溜息を吐き出した。戦闘続きで体力・霊力ともに消耗しているが、それ以上に精神的な疲労が大きい。暗闇が常に周囲を包み込み、探索の最中は常に索敵が必要であり、それが集中力の限界を超えて精神に負担をかけていく。

 

「このまま闇雲に進んでも、いずれ限界が来る。早いところ階下への階段を見つけないと……」

 

「ゼ◯ダの伝説のダンジョンマップみたいなアイテムがあればいいのに……」

 

「そんな便利で都合がいいアイテム、現実にあるはずが――」

 

『フフフ……ところがぎっちょん! そんな都合のいい発明品が、あっちゃうんだなぁこれが!』

 

 日景の言葉を遮るように、陰陽寮との通信回線から少女の声が聞こえてきた。

 

「タカミムスビ……?」

 

 陰陽寮屈指の天才発明家。そして、指折りの問題児の一人。技術顧問を務める彼女の唐突な登場に、日景は警戒心を露わにする。人生を全て発明に捧げてきた彼女は紛れもない才女なのだが、独自の美学から発明品全てに自爆装置を付ける悪癖がある。

 

『やぁ。また新しい発明品ができたよ。なんと! 今度はカグライトの量を二倍にしてみたんだ!

 ご期待通り、もちろん自爆の威力も二倍! やったね!』

 

『わーいやったー……』

 

『うんうん! いい返事だ! さすがボクの実験体くんだ!』

 

 前世では、彼女が陰陽寮の技術顧問になってからマガツヒ討伐の効率は飛躍的に向上した。自立歩行するカラクリがマガツヒの情報を収集。適切な対策を事前に講じることで、マガツヒを安全に討伐できるようになったのだ。

 だが、その技術の進歩の陰には身を削る苦労がある。身を以て彼女の発明の性能を試す役目を務めていた日景は、無意識の内に遠い目をしていた。

 

『以前、四国の彼岸を訪れた際に苦労したと言っていただろう? そんな君のために、前々から開発していたカラクリがようやく完成したのさ! その名も『自律駆動式真品倶(マッピング)君一號』だ!!!』

 

「あの、例の機能は……?」

 

『もちろん搭載しているさ。やっぱり、メカであるからには最後は自爆しなくてはなぁ……』

 

「デスヨネー」

 

 ……嫌な予感ほどよく当たるものである。予想通りの返事に、日景は諦観混じりの相槌を打つ。

 タカミムスビの技術者としての才能と情熱は文句の付けようがなく、その熱意をもっと有意義なことに向ければ、より多くの素晴らしい発明品が世に出ることになるだろうに……と思わずにはいられない。しかし、本心から楽しそうにしている彼女の姿を見ると、自然と文句を言う気が削がれてしまうのだから不思議なものだ。

 

『実物は、食糧と一緒に転送術式で送っておくよ。説明書も一緒にね! では、さらばだ!』

 

 一方的に通信が切れ、日景たちは互いに顔を見合わせる。そして、その後すぐに送られてきた支援物資の中身を確認すると、そこには両手に収まる程度の小さな機械が入っていた。

 その外観は、2011年(二年前)に発売された携帯型ゲーム機にそっくりだった。表面には液晶画面らしきものが付いており、その左右には図形付きのボタンとアナログスティックが配置されている。

 更に、その装置を収めていた小箱の中には、説明書らしき中綴じ冊子が付属してたのだが……。

 

「えっと……この小さなボタンを押すことで電源が入るのか」

 

「完全に某ゲーム会社のゲーム機だよね、これ」

 

 日景は指示通りにボタンを押してみた。すると、液晶画面に五芒星のマークが表示されると同時に、軽快な音楽が鳴り響きながらゲーム画面らしきものが表示された。

 画面には幾つかのアプリが表示されており、その中には自爆機能アプリという物騒なものが紛れていた。見なかったことにして、液晶画面を下の方にスクロールしていくと、下に『マップ』とアプリ名が表示された地図のアイコンがあった。どうやら、このアイコンを押せば……

 

「これは……!?」

 

 アプリが起動すると同時に、日景は思わず感嘆の声を上げた。その地図には現在地を示す青い光点があり、周囲の地形が表示されていたからだ。その上、周辺の魔物の位置情報まで赤い光点で表示されている。

 また、画面の操作性も極めて良好で、タッチパネルによる直感的な操作が可能となっている。

 

「これは凄いな……」

 

「うん……! これがあれば簡単に階段が見つかりそうだよ!」

 

 日景と那岐は、揃って笑顔になる。この装置があれば、暗闇に包まれた階層を探索する手間が大幅に削減できるだろう。更に、タカミムスビ製の発明品には便利な機能が盛り沢山だ。きっと、今後の探索で大いに役に立ってくれることだろう。

 希望の光が見えた一行は、探索を再開する前に食事を摂ることにした。本日のメニューは、串焼き肉と山菜おにぎり、デザートのリンゴだ。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

「きゅう!」

 

 食後、探索を再開した日景たちは仮拠点で休憩を取る以外は常に探索を続けた。この迷宮が何処まで続いているのか見当もつかない。少しでも早く先生生徒たちを日本に帰すためにグズグズしてはいられない。真品倶君のおかげで階段を見逃す心配はなくなった上に、探知機能により半径数百メートル以内なら魔物を感知できる。日景たちの探索は急ピッチで進められた。

 そして、遂に次の階層への階段を見つけた一行は、何の躊躇いもなくその先に踏み込んだ。

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