Q:メインストーリーと逢魔襲来イベントと交流は全て繋がっているお話なのでしょうか?
A:時系列はイベントによって様々に変わりますが、もちろん繋がっています!
夕凪の祠――今は昔、安倍晴明の世に、神事や祭礼の際に使われていた祭壇の跡地。
前世の日景は、補佐役のイズナが課したマガツヒ討伐の任務を果たすために、相棒のアスカと共にここに訪れていた。練習生を卒業したばかりの二人は、今回が初任務だ。緊張と不安を胸に、荒れ果てた祠に足を踏み入れていた。
「てりゃああああああ!!!」
「――――――――――!!!!!」
気合に満ちた掛け声とともにアスカが二振りの刀を振るう。その一撃は見事にマガツヒの体を斬り裂き、後方に吹き飛ばした。その体が激突した衝撃で、壁がガラガラと崩れ落ちる。
「……ん? 壁の後ろ、なんか出てきたっスよ?」
そう言って、アスカが崩れた壁の後ろを覗き込む。そこには……
「おぉーーー……ご主人! イズナちゃん! ここの奥、通れるようになってるみたいっスよ!」
「何……!? 地図にそんな道はなかったはずだが……」
アスカが指し示した方を見ると、崩れた壁の奥から通路のようなものが覗いていた。
そこは、随分と昔に作られたもののようであり、至るところが風化していたが、辛うじて通路の形を保っている。イズナは地図を取り出し、改めて確認するがやはりこの通路の情報はない。ここは何度も調査され調べ尽くされたはず……まさか、未知の通路が見つかるとは思いもしなかった。
予想外の出来事にイズナが難しい顔をする一方で、アスカはワクワクと目を輝かせている。
「これはきっと、なんかすごい秘密が隠されてるに違いないっス! 行ってみましょうよ!」
「え……で、でも……危ないかもしれんし……」
「大丈夫ですって! それに、なんかあってもせーぜつ? に強いイズナちゃんがいるんだから問題ないっスよ!」
「ん……まあ、それはそうだが……まずは、■■の意見も聞いてだな……」
「ご主人! どうしますか?」
期待の眼差しを向けるアスカを前にして、どうしたものかと考えていた、その時……
『――――――――れか』
魂に直接響くような、微かな声が日景の耳に届いた。
「ん? どうしたっスか?」
「……声が聞こえた」
「え? 私には特に何も聞こえなかったっスけど……」
「私もだ。聞き間違いではないのか?」
『――誰か――――――』
聞き間違いではない。確かに、通路の奥から女の子の声が聞こえてきた。
「確かめに行かなくては!」
「あ! ちょっとご主人! 急にノリノリっすね!?」
「お、おい!? お主ら待たんか!」
二人を置いて、日景は通路の奥へと走っていく。その後をアスカとイズナも慌てて追いかける。
未知の通路を進んだ先には、大きな空間が広がっており、その中心には地面から突き出すように大きな水晶が生えている。日景は、その水晶の中に人影らしきモノがあるのに気が付いた。
白く透き通った髪と青い瞳の神秘的な雰囲気を持った女の子。原因は不明だが、追いついてきた二人には、彼女の姿が見えていないようで水晶を不思議そうに見つめている。
「これは……?」
「水晶……かのう。しかし、なんでこんなところに……」
『力を…………』
「また声が……」
水晶の中から、自分を呼んでいる。その声に吸い寄せられるように、足が自然と進んでいく。
「お、おい! 迂闊に近寄ると危ないぞ!?」
『力を貸して……!!!!』
声に導かれるまま、日景は、手を差し伸べ……
そこで、日景たちの意識は目の前の女の子に戻ってくる。呆然とした面持ちで日景たちを見つめていた紅の瞳の女の子は、あの時の女の子のように、必死に助けを求めてきた。
「た、助けて……お願い……!」
顔を上げ、懇願する彼女の声はもう何年も出していなかったように掠れていたが、それでも日景にははっきりと彼女の切なる願いが伝わった。
「勿論だ」
「ふふ、ここで即答ですか。あなたはやっぱりかっこいいですねぇ。……ですが」
そう言って、リッカは目の前の女の子を注意深く観察する。そして、真剣な表情で口を開いた。
「日景さん。本当に助けるんですか? 彼女が危険ではないという保証はありませんよ?」
「……承知の上だ。それでも、自分は彼女を助けたい」
「決まりだね! 日景がそう言うのなら、私も協力するよ!」
リッカの言う通り、目の前の女の子が危険な存在ではない保証は何処にも存在しない。
むしろ、こんな地下深くに封印されている以上は相応の理由があるはずであり、下手に解放すれば自分たちにも危害が及ぶかもしれない。それでも、日景はその女の子を助けたいと思った。
明確な理由はない。ただ、ここでこの少女を見捨ててはいけない。そんな確信めいた「何か」が日景の胸の内にはあったのだ。
「……本当に、相変わらずですね。そういうところを、わたしは好きになったのですが……」
「リッカ…………」
「仕方ありませんね。わたしも力になりますよ」
リッカは肩を竦めて微笑むと、日景の前に進み出て女の子を捕らえる立方体に手を置いた。
「あっ」
その意味に気が付いたのか、女の子は目を見開いて小さく驚きの声を上げた。リッカは、そんな反応を気にも留めずに霊力を流し込む。すると、立方体は灰白色の霊力光に覆われた。
本来は、イメージ通りに変形するはずの立方体は、しかし外部からの干渉を拒絶するようにリッカの霊力を弾いた。とはいえ、全く通じないわけではないらしい。少しずつ、ほんの少しずつ滲み込むようにリッカの霊力が立方体を侵食していく。
「っ、何のこれしき!」
リッカは額に汗を流しながら、霊力を注ぎ込んでいくが、やはりというか一筋縄では行かないらしい。だが、彼女は諦めることなく懸命に霊力を流し続けていく。
魔力に換算すれば、詠唱六節分の霊力量だ。そこまでしてようやく霊力が浸透していき、僅かではあるが立方体が形を崩した。既に、周りはリッカの霊力光により灰白に煌々と輝き、部屋全体が淡い輝きで満たされている。
「日景……! 私たちも!」
「ああ、一緒に……!」
那岐が意識を集中すると、彼女の周りにも光が満ち、同時に力が漲るのを感じ取る。日景は右腕を、那岐は左腕をリッカの背中に置くと、増幅した力を流し込んでいく。灰白、陽色、空色、混じり合い、輝きを強める霊力の光に、女の子は大きく目を見開き、この光景を刹那の間も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続けた。
七節……八節……九節……。正真正銘、全力全開の霊力放出。持てる全ての霊力を注ぎ込む!
「リッカちゃん!」
「あと少し! 頑張って……!」
アスカとヒノエが、必死に霊力を送り続けるリッカに声をかける。彼女等もまた、この状況を打開するために自分たちに出来ることを精一杯行っていた。
そして遂に……その時は訪れる。立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ女の子を蝕んでいた拘束具が外れていく。それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太腿と彼女を包んでいた立方体が流れ出す。
一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでも神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解放されると、女の子は地面にペタリと内股座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力もないらしい。
同時に、多くの霊力を消耗したことで激しい倦怠感に襲われたリッカも倒れそうになるが、日景がその体を優しく抱きとめる。
「はぁ……はぁ……」
「……お疲れ様だ、リッカ」
「ありがとう、ございます……」
日景が苦しそうに息をするリッカの頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。そして、少し落ち着いたところで神水の入った試験管型の容器を取り出す。ゴクッと中身を飲み干すと、全身に活力が戻り、疲労感が和らぎ、倦怠感も嘘のように消え去っていく。
改めて、日景は女の子の方に向き直る。彼女は、真っ直ぐに日景たちを見つめていた。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに込められている。
「……ありがとう」
震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げた。その言葉を贈られた日景たちは、互いに顔を見合わせると微笑み合う。
「一先ずは……」
「?」
礼を言う女の子は、突然日景が羽織っていた外套を脱ぎ出したことに不思議そうな顔をする。
「これを着てほしい。使い古しの外套ですまないが、裸のままよりはマシのはずだ」
「……」
差し出された外套を反射的に受け取った女の子は自分の体を見下ろし、剥き出しになった自分の体にようやく気が付いた顔をした。彼女は日景の外套をギュッと抱き寄せると、顔を真っ赤にして上目遣いでポツリと呟いた。
「エッチ」
「す、すまない……! そんなつもりでは――」
日景が慌てて弁明しようとしたが、予想外の方向から追い打ちをかけられる。
「……確かに、日景はエッチだよね」
「那岐!?」
「そうっスね。ご主人、すぐ女の子と仲良くなるし、この前だって……」
「アスカ!?」
「ふふふ……日景さんはモテモテですしねぇ……」
「リッカ!?」
「大丈夫だよ。強いオスが沢山のメスを囲うのは当然だからね!」
「ヒノエまで!?」
女の子の発言に便乗した四人から次々と放たれる追撃にたじろぐ日景。然もありなん、前世の日景は、持ち前の善性と面倒見の良さで多くの女性を虜にしてきた。契約関係にある全ての式神と行為に及んだ正真正銘のカサノヴァなのである。
自分を置いてきぼりにして、突然始まった夫婦漫才? に女の子は目を白黒させるが、そこには先程までの緊張感はなく、ただただ楽しそうな雰囲気しか感じられなかった。
「……でも、ありがとう」
もう一度、日景たちに感謝の言葉を述べると、女の子はいそいそと日景の外套を羽織る。彼女の身長は百四十センチほどなので、日景の外套はお尻まですっぽりと覆い隠した。右腕側の袖を一生懸命折っている姿が何とも微笑ましい。
「それで、君に聞きたいことがあるんだが……」
「……んっ」
「その前に自己紹介をしておこう。自分は日景。このパーティのリーダーを務めている」
日景の言葉に続いて、那岐たちも自己紹介を済ませていく。
「私は那岐! これからよろしくね!」
「どうもっス! 私はご主人の式神のアスカっスよ! よろしくお願いしますね!」
「私はヒノエだよ!」
「ぬりかべのリッカといいます」
女の子は、順々に一人一人の顔を見つめると、最後に日景の顔をジッと見つめた。さも大事なものを内に刻み込むように、「日景……日景……」と何度も名前を繰り返す。そして、問われた名前を答えようとして……その時、悲鳴じみた声が日景の影の中から聞こえてきた。
「上です!!! 日景くん、逃げてください!!!!!」
ウカノミタマが警告を発したのと、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。
咄嗟に、アスカは女の子に飛びつき片腕で抱き上げると全力で地面を蹴り、一息で部屋の入口まで駆け抜ける。続いて日景と那岐を両脇に抱えたヒノエが飛び退き、遅れてリッカを背負ったイナバが扉の前に辿り着いた。
彼等が振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが舞い降りた。
その魔物は体長五メートルほど、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をワシャワシャと蠢かせている。更には二本の尻尾の先端には鋭い針が付いていた。
地球の生物で言えば、サソリに似た造形をしており、その甲殻は岩のように堅牢な鎧となっている。二本の尻尾には毒があると考えるべきだろう。見るからに凶悪そうなその魔物は、自分の縄張りを侵されたと言わんばかりに、殺気だった気配を日景たちに向けてきた。
おそらく、この魔物は女の子の封印を守るための最後の砦なのだろう。それは取りも直さず、彼女を置いていけば日景たちだけなら逃げられる可能性があるということを意味する。
しかし、日景たちの誰一人として、その考えを頭の片隅にすら思い浮かべることはなかった。何故なら、彼等は罪無き人々を守り抜くのを尊名とする陰陽寮の一員だ。彼女を見捨てるなど、最初から選択肢にすら入っていない。
「皆、行くぞ!」
「うん!」
「はいっスよ!」
「わかった!」
「了解です」
日景の声に応える全員が、既に戦闘態勢を整えていた。日景はポーチから神水入りの容器を取り出すと、床に降ろされた女の子に差し出す。
「……これは?」
「霊薬だ。それを飲めば、体力と霊力……魔力が回復できる。少しは体が動くようになるはずだ」
日景から説明を聞き、容器の蓋を開けた女の子は中に入っている神水を一気飲みする。長年の封印で衰えきった体に活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。
次いで日景たちは各々の武器を構えた。四本腕のサソリは、ギチギチと音を立てながらハサミを開閉し、尻尾の針を突き出して威嚇してくる。日景たちは背中に女の子の視線を感じながら、躙り寄ってくる四本腕のサソリを睨みつける。
「目標、巨大サソリ! 絶対に彼女を守り抜くぞ!!」
「「「「「応!!」」」」」
日景の言葉に全員が頷いたのを合図に、戦闘が開始されたのだった。