ありふれランブル!   作:ゲーマーN

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【推奨BGM:荒ぶる鬼神】あやかしランブル!より


第1章 第7幕 強敵★

「――――――――――――――!!!!」

 

 日景の宣戦布告に対する返答は、尻尾の針から噴射された紫色の液体だった。肥大化した尻尾から放たれた紫の液体は、大砲の弾のような勢いで日景たちに飛来する。

 対して、仲間の前に進み出たリッカが回復した霊力で防壁を作り上げる。防壁に着弾した紫の液体は、ジュワァと音を立てながら防壁を溶かしていく。どうやら、毒々しい色合いに違わず強力な溶解液のようだ。

 

「アスカ……!」

 

「やったるっス!!!」

 

 日景が合図を送ると、アスカは防壁を回り込むようにして巨大サソリに迫っていく。四本の大ハサミによる妨害を難なく躱し、懐に潜り込んだところで両手の刀を振るう。だが、直撃を受けた外殻は僅かに傷が付いたくらいでダメージらしいダメージは与えられていない。

 その事実に歯噛みしながら、より多くの霊力を込めて斬りつけるが、金属同士がぶつかるような音を響かせただけで、やはり外殻を突破することは敵わなかった。

 

 巨大サソリがいい加減にしろ! とでも言うように、その巨体で突進を仕掛けてくる。アスカは間一髪で飛び退くと、四本の腕による怒涛の連撃を躱しながら日景たちの元に後退してきた。

 着地の間隙を狙うように巨大サソリのもう一本の尻尾がアスカに照準を合わせる。尻尾の先端が肥大化していき、そこから凄まじい速度で針が発射された。避けようとするアスカだが、その針は途中で破裂して散弾のように広範囲に降り注ぐ。

 

「燃えちゃえ!」

 

 だが、その針の雨は突如発生した炎によって焼き尽くされた。ヒノエが放った朱炎により、アスカに直撃するはずだった針は全て迎撃され燃え尽きる。更に、彼女は追撃とばかりに朱炎を連続で放ち巨大サソリを牽制する。

 三人の戦いぶりに女の子は呆然とする。魔法陣や詠唱を使用せずに、魔法と思しき事象を引き起こす。それは、彼女たちが魔力を直接操作する術を有している何よりの証左だった。

 

(……私と同じ(・・・・)?)

 

 魔力操作。原則、魔物以外は行えない魔力の直接操作を可能とする特殊技能。自分以外にこの技能を持つ者に会ったのは、女の子にとって初めての経験だった。そんな状況ではないと頭の中では理解しながらも、巨大サソリより彼女たちを意識せずにはいられない。

 一方、日景は今までになく険しい表情をしていた。おそらく、巨大サソリの外殻の硬度は前世に対峙した玄冬の魔に匹敵、或いはそれ以上。並の攻撃では傷一つ与えられないだろう。

 

「キシャァァァァア!!!」

 

 突然、巨大サソリは咆哮を上げると、八本の足を操り猛然と日景たちに向かって突進した。四本の大ハサミを器用に使い、壁や床を破壊しながら突き進んでいく。日景たちを射程距離に収めた巨大サソリは、目の前の命を刈り取らんと全ての大ハサミを怒涛の如く振り下ろす。

 一本目をアスカが右の刀で、二本目を左の刀で受け流す。三本目のハサミをヒノエが霊力で強化した拳で殴り飛ばし、四本目をリッカが多重展開した防壁で防ぎ止める。

 

「今です! アスカさん!! 今の内に攻撃を!!」

 

「分かったっス!!」

 

 四本目のハサミを拘束するように防壁を更に展開したリッカが声を上げる。アスカは、拘束から逃れようと猛り狂う巨大サソリの腕を駆け上がると、その勢いのまま天井高くまで飛び上がる。

 

「はあああああ……!!!! 二天――」

 

 アスカの霊力が一気に高まり、溢れ出して彼女の背後に光の輪を形作る。その様はまるで……

 

「日輪……」

 

「旭光牙ァ!!!!!」

 

 星の引力を味方に付けたアスカは、流星の如き勢いで巨大サソリの脳天に刀を突き立てた。狼の双牙は巨大サソリの外殻を正面から突き破り、そのまま……致命に至ることはなかった。

 

「んなっ……!?」

 

 突如、周囲の外殻が波打ち、脳天に突き刺さる刀を巻き込むように外殻を再生させたのだ。その上、巨大サソリは散弾針を自身の頭上目掛けて発射した。危険を察知したアスカは素早く離脱を図るが、その代償に自らの得物を失ってしまう。

 攻防の要を奪われたアスカに、四本の大ハサミが襲いかかる。一本目は体を捻ることによって何とか躱すが、二本目以降は間に合わない。アスカの体を切り裂こうと左右から凶刃が迫ってくる。

 

「式神招来!!!」

 

 アスカの姿が掻き消え、二本の大ハサミが虚しく空を切る。同時に、日景たちの目の前にアスカが実体化した。召喚の術による空間転移で、四本の大ハサミの連撃から逃れたのだ。

 

「ご主人、助かったっス!!」

 

「ああ。……だが、今の攻撃が防がれるとは」

 

「あの外殻、厄介っスよ。玄武の時みたいに掠り傷を……ってわけにはいかないみたいっス」

 

「こと、耐久力だけに限れば、玄武以上の堅牢さを持っているというわけか」

 

「日景……」

 

 巨大サソリに注意を向けつつ、那岐が日景に目配せをする。アスカの二天旭光牙ならば、外殻を食い破ることはできる。だが、彼女の刀は巨大サソリの頭上に刺さったままだ。このままでは次の一撃を放つことができない。

 まずは、刀を回収する必要がある。故にこそ、那岐は切札を出す機会を伺っていた。

 

「キィィィィィイイ!!」

 

 どうするか、と頭を悩ませる日景たちを邪魔するように、巨大サソリが甲高い鳴き声を上げた。

 先程の外殻のように部屋全体が波打ち、四方八方から円錐状の棘が突き出してくる。これが巨大サソリの固有魔法なのだろう。周囲の地形を自在に操ることが出来るようだ。

 

「あいにくと!」

 

 尤も、地形操作を得意とするのは巨大サソリだけではない。リッカが霊力を流し込むと、地面が隆起して防壁を作り出す。その内部は大地が波打つのを停止させるほど強固な領域だ。

 

「通せんぼは得意です!!」

 

 ――奥義 不抜の堅砦

 

 周囲から円錐の棘が飛び出し日景たちを襲う。しかし、大地の防壁がその全てを防ぎ止める。岩盤を圧縮した堅牢なる城塞は、この程度の威力で抜けるようなものではない。

 地形操作の攻撃性能は巨大サソリが上かもしれないが、防御性能はリッカが上だった。棘は作り出せても威力はなく飛ばしたりは出来ないが、守りにはリッカの能力の方が向いているようだ。干渉力の差で巨大サソリの固有魔法では、防壁を破ることはできない。

 

「ヒノエ、あの外殻を突破できるだろうか?」

 

「ん~……できるとは思うけど、日景たちも巻き込まれちゃうよ?」

 

「そうか……」

 

 ヒノエの返答に日景は渋い顔をする。仮にヒノエが巨大サソリを倒せたとしても、朱雀の業火に巻き込まれたら日景たちも無事では済まない。間違いなく命を落とすことになるだろう。

 となれば、残された方法は一つしかない。二天旭光牙、アスカの必殺技で外殻ごと脳天を貫通する。だが、そのためには刀を取りに行く必要がある。その方法を考えていると、この部屋に封印されていた女の子がポツリと零した。

 

「……どうして?」

 

「?」

 

「どうして逃げないの?」

 

 自分を置いていけば助かるかもしれない、その可能性に気付いていないはずがない。なのに、逃げる素振りを欠片も見せず巨大サソリに立ち向かう日景たちの行動が、見ず知らずの自分の為に命を懸けるその行動が、女の子には不思議でならなかった。

 

「君に助けを求められたから」

 

「え……」

 

 女の子の疑問に対して、日景が返す答えはあまりに簡潔だった。そのシンプルすぎる返答に、女の子は言葉を失ってしまう。

 

(それだけ……?)

 

 自分の事など見捨ててもいいはずなのに、そんな理由で彼等は命を懸けると言うのか。お人好しにも程があるだろう。本当に、彼等は救いようのない馬鹿だ。

 だが…………。それが、それこそが、女の子が最も求めていたことだった。

 

「……ありがとう」

 

 三度、感謝の言葉を告げた女の子は、不意に日景に抱きついた。

 

「な、何を……」

 

 状況が状況だけに、女の子の突然の行動に日景は狼狽える。だが、そんなことは知らないとばかりに日景の首に両腕を回した。

 

「日景……信じて」

 

 女の子はやや緊張した面持ちで日景の首筋に顔を寄せる。

 

「ッ!?」

 

 鋭い痛みが首筋に走り、突き立てられた牙から血が流れ出していく。

 

「はむっ……! んっ……んんっ……ん、ふ……んぅ……ん、んふぅ、ん……っ」

 

 血が失われるにつれ、意識が遠のく。しかし、身体に感じているのは苦しみだけではない。お互いの意識が深いところで混ざり合っていくようなその感覚に、日景は覚えがあった。

 

「これは……。そうか、君は吸血鬼だったのか……」

 

 吸血鬼――文字通り、生命の根源とされる血を自らの糧とする種族。前世の頃から複数人の吸血鬼と契約関係にある日景は、すぐに女の子の正体と行動の意図を察すると同時に、彼女の口にした「信じて」という言葉の真意をも理解した。

 血を吸われるという行為に恐怖、嫌悪して逃げないでほしい。彼女の胸中を、その祈りを正しく理解した日景は苦笑いしながら、しがみつく小さな体を優しく抱き止める。

 

「じゅる……ちゅる……んぐ……んっ……んぁ……じゅっ……ちゅ……んく……ふうぅ……!」

 

 僅かに体を震わせた女の子だが、より強く抱きつき首筋に顔を埋める。何処となく嬉しそうなのは気の所為だろうか。

 

「キィシャァアアア!!」

 

 巨大サソリの咆哮が轟く。未だに日景たちを仕留められていないことに腹を立てているのか、その咆哮には怒りの色が滲んでいた。雄叫びとともに四本の大ハサミを勢いよく振り下ろす。

 

「やらせない!!」

 

 丙式・朱翼炎灼。朱雀の姿を模した朱色の炎が大ハサミを正面から迎え撃つ。炎属性の最上級魔法すらも上回る朱雀の炎が大ハサミの外殻表面を融解させるが、巨大サソリは固有魔法の全出力を外殻の再生に回すことで朱雀の権能に拮抗してきた。

 だが、その僅かな時間は女の子が吸血を終えるのに十分な時間だった。彼女の瞳が紅色に輝き、纏う雰囲気と容貌が一変する。

 

「じゅ……ぷはぁ!」

 

 どこか熱を帯びたような甘ったるい吐息を零すと、小さく可愛らしい唇を赤く濡らす。その仕草と相まって、外見こそ幼いながらも妖艶な雰囲気を醸し出している。

 また、先程までのやつれた様子は微塵もなく、張りのある白磁のような肌には瑞々しい潤いとほんのり朱色が差していた。頬は夢見るような薔薇色で、紅の瞳は温かな光を薄らと放っており、その柔らかい掌は、そっと大切なモノを撫でるように日景の頬に置かれている。

 

「……ごちそうさま」

 

 そう言うと、女の子は徐ろに立ち上がり、巨大サソリに向けて片手を突き出した。その華奢な身からは想像も出来ない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光なのだろう――黄金色が暗闇を薙ぎ払った。

 そして、神秘に彩られた彼女は、魔力光と同じ黄金の髪を靡かせながら、一言、呟いた。

 

「”蒼天”」

 

 直後、巨大サソリの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。

 巨大サソリは悲鳴を上げて離脱しようとしたが、そうはさせないとリッカが大地に霊力を流し込む。退路を塞ぐように隆起した大地は、巨大サソリをその場に縫い止める。

 ピンッと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げ惑う巨大サソリの頭上から真っ直ぐに落下した。

 

「グゥギィヤァァアアア!?」

 

 青白い閃光が部屋全体を満たし、視界を白く染め上げる。全ての闇を塗り潰すかのような蒼い炎は、まるで神の怒りが具現化したかのように、巨大サソリの身を焼き尽くしていく。日景たちは腕で目を庇いながら、その光景をただ茫然と眺めていた。

 やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。炎が収まったあとには、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しむ巨大サソリの姿があった。

 

「ギッ……ギギ……ッ」

 

 トサリと音がして、日景が視線を戻すと、女の子が肩で息をしながら地面に座り込んでいた。

 

「大丈夫か?」

 

「ん……最上級……疲れる」

 

「ありがとう。あとは、自分たちがどうにかする」

 

「ん、頑張って……」

 

 巨大サソリは未だ健在だ。融けた外殻を再生させようと必死に藻掻いているが、なかなか再生をする気配がない。おそらくは外殻を融解させた高熱による影響だろう。勝負を決するならば、今が好機だ。アスカは、巨大サソリに止めを刺すべく飛び出した。

 外殻の表面を融解させながら、怒りを露わに咆哮を上げ、大ハサミで迎撃する巨大サソリ。その攻撃を掻い潜り、巨大サソリの頭部に降り立つと刀の柄を掴んだ。

 

「アスカちゃん!」

 

 伊邪那岐。三倍化したステータスで深々と突き刺さる二振りの刀を力技で引き抜く。

 巨大サソリは自分が傷付く可能性も無視して二本の尻尾でアスカを振り払おうとするが、それを許す日景たちではない。巨大サソリの周囲を囲み、ヒノエとリッカが尻尾の動きを阻害する。

 二振りの刀を構えるアスカは、四つの霊力光を身に纏う。次の瞬間には彼女の姿が掻き消え……

 

「これで……ッ!!」

 

 表面が溶けて薄くなった外殻に金色の大狼が牙を剥く。本来の耐久力を失った巨大サソリの外殻は、日輪の輝きを宿す双刀の連撃を受けて、その絶対的な鎧の突破を許した。

 

「終わりだあああああああああっっ!!!」

 

 ――奥義 二天旭光牙

 

 そして……二つの斬撃は、巨大サソリの胴体を深く抉っていた。その巨体を維持するだけの生命力を失った巨大サソリは、ズズンッと地響きを立てながら力なく倒れ伏すのだった。

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