ありふれランブル!   作:ゲーマーN

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【推奨BGM:追憶】あやかしランブル!より


第1章 第8幕

 戦闘後、部位ごとに解体した巨大サソリを転送したところで、陰陽寮側から女の子を囚えていた立方体――封印石の回収を頼まれた。技術部門がこの封印石の「魔力を弾く性質」に興味を示したらしく、サンプルが欲しいとのことだった。

 その性質上、通常の転送術式で転送するのは非常に困難であり、専用の陣を敷き、更に封印石自体を小分けにすることで何とか転送することができた。

 あとは、拠点に戻り、次の階層に進むために十分な休息を取るだけである。が、踵を返す前に、

 

「ん? これは……」

 

「……雪の結晶? なんでこんなところに……」

 

 封印石が置かれていた真下の床に雪の結晶と思しき紋様が刻まれているのに気が付いた。那岐の呟きに、全員が不思議そうに首を傾げる。紋様の謎を探るために、日景は、腰のポーチからフェアスコープを取り出した。

 

「…………!! 反応があった……!」

 

「本当っスか!? どんな感じなんですか?」

 

「この床の下、紋様の部分に、僅かだが、扉と似た魔力の流れがある。もしかしたら、その奥に何かあるのかもしれない」

 

「了解です。では、ここはわたしが……」

 

 そう告げると、リッカは自らの腕を床の紋様に突き出した。まるで泥の中に入れるように、腕は床の下に沈み込んでいき、やがて、リッカの肘までが床に埋まった。

 ぬりかべの能力は、壁を作り出すだけではない。見ての通り、障壁をすり抜けることもできる。

 リッカは、抽選箱の中を探るように腕を上下左右に動かしていたが、やがて、何かを掴んだのか「にまぁ~」と口元を歪めると、勢いよく腕を引き上げた。

 

「はい、お望みのものです。ふふ……手柄は、やっぱり一人占めに限ります」

 

 開かれた掌の中にはピンボールくらいの大きさの鉱石があった。一見すると、小さめの水晶玉のような見た目をしている。リッカは、その水晶玉を指先で摘み上げると、日景に渡してきた。

 

「これ、なんだろう?」

 

「見たところ、アーティファクトの類みたいだが……」

 

 日景は、その正体と機能を確認すべく水晶玉に霊力を流し込む。

 直後、緑光に照らされた封印の部屋が、宵闇色混じりの黄金の光で上塗りされた。

 目を細める日景たちの前に、一人の男性が投影される。

 美しい金髪と紅色の目を持つ初老の男だ。その人物を見て、女の子はひゅっと喉を詰まらせた。

 

『私の名前はディンリード・ガルディア・ウェスペリティオ・アヴァタール。誇り高き吸血鬼の国アヴァタール王国の宰相にして、そこの少女――アレーティアの叔父だ』

 

「……おじ、さま?」

 

 驚愕に目を見開き、呆然と呟く。無意識か、意識的にか、女の子は日景の服の裾を弱々しく握り締めた。そんな女の子の前で、映像の人物――ディンリードが、静かな声音で語り出した。

 

『……アレーティア。久しい、というのは少し違うかな。君は、きっと私を憎んでいるだろうから。いや、憎むなんて言葉では足りないだろう。私のしたことは……』

 

 そこまで口にしたところで頭を振ると、ディンリードは自嘲するように苦笑を漏らした。

 

『……あぁ、違う。こんなことを言いたかったわけじゃない。いろいろと考えてきたというのに、いざ遺言を遺すとなるとうまく言葉にできないな』

 

 彼は一度、大きく深呼吸をした。心をもう一度整理するように瞑目し、一拍。

 心からの感謝の念を虚飾なく込めた眼差しを、目の前に向ける。

 

『……そうだ。まずは礼を言おう。アレーティア。きっと今、君の傍には君が心から信頼する誰かがいるはずだ。少なくとも変成魔法を習得し、真のオルクス大迷宮に挑める強者であって、私の用意したガーディアンから君を見捨てずに救い出した者が』

 

 女の子の困惑が伝わってくる。彼女の体は、服の裾を握り締める力こそそのままだが、小刻みに震えていた。だが日景は、何も言わずに彼女に寄り添い、ただ静かに彼の語りに耳を傾けた。

 

『……君。私の愛しい姪に寄り添う君よ。君は男性かな? それとも女性だろうか? アレーティアにとって、どんな存在なのだろう?』

 

 恋人だろうか? 親友だろうか? 或いは家族? それとも冒険仲間だったりするのだろうか。

 楽しげに弾む声音。そこに映っているのは、ただただ姪の未来を夢想する叔父の姿だった。

 

『直接礼を言えないことは申し訳ないが、どうか言わせてほしい。……ありがとう。その子を救ってくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。私の生涯で最大の感謝を、君に捧げよう』

 

 女の子が今、どんな表情をしているのかは分からない。

 だが、日景たちは確認しようとも思わなかった。

 今は二人だけの、家族だけの大切な時間だ。そこに水を差す無粋な真似はしない。

 

『アレーティア。君の胸中は疑問で溢れているだろう。それとも、もう真実を知っているのだろうか。私が何故、君を傷付け、暗闇の底へ沈めたのか。君がどういう存在で、真の敵が誰なのか』

 

 そこから語られた内容は、まさに衝撃の真実としか言い様がない歴史の真相だった。

 

 曰く、この世界の神は人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促しており、女の子がその神の器として完璧な適性を有する『神子』として生まれたがために狙われていたということ。

 それに気が付いた彼が一計を投じたこと。その一環として、権力欲に目の眩んだ己のクーデターによって殺したと見せかけて、実際はこの迷宮の奥深くに封印する計画を立てたこと。

 そして、彼女の封印も、神々に僅かにも気配を掴ませないための苦渋の選択であったこと。

 

『君に真実を伝えるべきか否か……とても迷ったよ。だが、神を確実に欺くために言うべきではないと判断した。ただの裏切り者として私を憎めば、それが生きる力になるのではとも思ったんだ』

 

 神の目を欺くためには封印の部屋にも長くはいられなかったのだろう。だから、彼女を弑逆したと見せかけたあと、会話をする時間もなかったに違いない。その選択が、どれほど苦渋に満ちたものだったのか、映像の中で握り締められる拳の強さが示していた。

 

『……許してくれなどとは言わないよ。ただ……ただ、どうかこれだけは信じてほしい。たとえ君にとって無価値な真実だったとしても、知っておいてほしいんだ』

 

 ディンリードの表情が苦しげなものから、泣き笑いのようなものになった。それは、ひどく優しげで、深い慈愛に満ちていて、同時に、どうしようもないほど悲しみに濡れた、見ているだけで胸が締め付けられるような表情だった。

 

『愛している、アレーティア。君を心から愛している。ただの一度とて煩わしいなどと思ったことはない。――娘のように思っていたんだ』

 

「……おじ、さま。ディン叔父様っ。私はっ、私も!」

 

 長い封印の中で凍りついていた何かが溶け、女の子の瞳から涙が零れ落ちた。叔父との優しい想い出が一気に溢れ出してくる。

 

 私も、貴方を父のように思っていた。

 

 その気持ちは言葉にならずとも、ほろほろと頬を(まろ)び落ちる涙の雫という形で表出していた。

 

『最後まで守ってやれなくて、未来の誰かに託すことしかできなくて……すまなかった。情けない父親役だった……』

 

「そんなことっ」

 

 目の前にあるのは過去の映像だ。ただの遺言に過ぎず、言葉が届くこともない。だが、そんなことは関係ないと、女の子は必死に首を横に振った。

 ディンリードの目尻に光るものが溢れる。しかし、彼は決して、それを流そうとはしなかった。

 己の過去を振り返れば後悔も未練も尽きない。それでも、彼はただ姪の未来だけを思い描き続けてきた。だから、せめて最期は笑顔でありたいと、ぐっと目元に力を入れて堪えていた。

 

『傍にいて、いつか君が自分の幸せを掴む姿を見たかったよ。君の隣に立つ男を一発殴ってやるのが密かな夢だったんだ。そして、その後、酒でも飲み交わして頼むんだ。「どうか娘をお願いします」と。君が選んだ伴侶だ。きっと、真剣な顔をして確約してくれるに違いない』

 

 夢見るように映像の中で遠くに眼差しを向けるディンリードの表情は、確かに、娘の幸福な未来を思い描く父親のものだった。

 

『そろそろ時間だ。まだ話したいことも伝えたいこともあるのだが……私の生成魔法では、これくらいのアーティファクトしか創れない』

 

「……やっ、嫌ですっ。叔父さ――お父様!」

 

 記録できる限界が迫っているようで苦笑する叔父の幻影に、女の子が泣きながら手を伸ばす。

 叔父の、否、父親の深い深い愛情と、その悲しいほどに強靭な覚悟を目の当たりにして、言葉にならない想いが溢れ出す。

 

『私は君の傍にはいられない。いる資格も、もうない。けれど、たとえこの命が尽きようとも祈り続けよう。アレーティア、私の最愛の娘。君の頭上に、無限の幸福が降り注がんことを。陽の光よりも温かく、月の光よりも優しい、そんな道を歩めますように』

 

「……お父様っ」

 

 ディンリードの視線が少しだけ彷徨う。それはきっと、この映像を見ているだろう誰かを、彼の娘に寄り添う者の姿形を想像しているからだろう。

 

『私の最愛に寄り添う君。どんな形でもいい。その子を、他の誰よりも幸せな女の子にしてやってくれ。どうか、お願いだ』

 

「……分かりました」

 

 日景の言葉が届くはずもない。それなのに、彼は確かに聞こえたように満足そうに微笑んだ。

 きっと、遠い未来で自分の言葉を聞いた者がどう答えるか確信しているのだろう。本当に、尊敬に値する素晴らしい人物だ。

 映像が薄れていく。ディンリードの姿が虚空に溶けていく。それはまるで、彼の魂が天に召されていくかのようで……最愛の娘が真っ直ぐに見つめる先で、彼の最後の言葉が響き渡った。

 

『……さようなら、アレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように』

 

 暗い迷宮の中に、泣き声が木霊する。

 悲しくはある。けれど、決してそれだけではない、温かさの宿った感涙に咽ぶ声だ。

 体を回し、正面から日景の胸元に顔を埋める。光を収めた遺言の宝珠を握り締め、日景はそれごと彼女の体を優しく包み込んだ。

 どれほどそうしていたのか、やがて、彼女は涙で濡れた顔をゆるりと上げた。

 

「……日景……私は……私はお父様を、憎んでいた……」

 

 今にも消え入りそうな声で女の子が呟く。誰かを恨まなければ、希望を捨て、考えるのを止めなければ、心が耐えられなかった。だから、最も客観的な筋書きを真実と思い込み、自らを裏切った叔父を憎んだ。

 

「でも……それは間違ってた。本当は、恨む理由なんてなかった……ずっと、愛してくれていたのに……」

 

「…………」

 

「私はっ! ……私は、ただ……」

 

 涙で濡れた彼女の顔が歪む。強く握り締められた拳は、自らの激情を堪えるためか。それとも、その胸に渦巻く深い悲しみに耐えるためか。そうして、真っ赤になった目をゴシゴシと拭うと、彼女は決然と宣言した。

 

「……私、幸せになる。お父様もそれを望んでいるだろうから」

 

「あぁ……」

 

「でも…………私が幸せになるためには、神の存在が邪魔でしかない。地上に出れば、また私は狙われることになる。……だから」

 

「なんだろう?」

 

「力を貸してください」

 

「……」

 

 日景はじっと自分を見つめる彼女に目を合わせ見つめ返した。彼女の目には狂気や自暴自棄の色は見えない。復讐の意図がないわけではないだろう。だが、それ以上に、彼女は前を向いて、生きようとしていた。ここで終わらずに、もっともっと幸せになるために。

 そして、それは日景たちもまた望むことだ。だからこそ……

 

「ああ、一緒に行こう」

 

「んっ!」

 

 日景が差し出した手を、女の子は強く握り返した。

 斯くして、女の子――アレーティアは、日景たちと行動を共にすることとなった。

 余談ではあるが、この後の食事にはデザートとしてプリンが出された。彼女はそれはとても幸せそうに口にして、日景たちは、それを見て微笑ましく思いながら食事を終えたのだった。

 

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アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール 323歳 女 レベル:61

天職:神子

筋力:80

体力:200

耐性:40

敏捷:80

魔力:4780

魔耐:4920

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化]・高速魔力回復

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