ありふれランブル!   作:ゲーマーN

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序章 第3幕

 戦争参加の決意をした以上、生徒たちは戦いの術を身に付ける必要がある。いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、元は骨の髄まで平和主義に染まった日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人と戦うことなどできるはずもない。

 しかし、その辺りの事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある神山の麓のハイリヒ王国にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

 王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国とのこと。王都の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。

 

「わぁ…!」

 

 一行は、聖教教会の正面門に辿り着いた。聖教教会は神山の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。高山特有の息苦しさなどは感じられず、それ故に生徒たちはここに至るまで高山にいるとは気付いていなかった。

 生徒たちは、太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見惚れてしまう。

 

 どこか自慢気な顔をしたイシュタルに促されるまま先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂と見たのと同じ素材で造られている美しい回廊を進んでいく。

 その台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが徐ろに口を開いた。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、”天道”」

 

 その直後、魔法陣が燦然と輝き出した。そして、まるでロープウェイのように足元の台座が動き出すと、神山の麓に向けて斜めに下っていく。どうやら、先程の『詠唱』で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。

 ある意味、初めて目にする『魔法』に生徒たちの大半がキャッキャと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。

 

 雲海を抜けると地上が見えてきた。下の方には大きな町が見える。山肌から迫り出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座のロープウェイは、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。

 日景は眉を顰める。彼らの構図は、雲海を抜け天より降りたる『神の使徒』そのままだった。性質の悪い宗教団体が信者を獲得するために行う洗脳・示威行為とそう大差はない。

 

「自分もあまり宗教に明るい方ではないが、この世界を見ると政教分離の必要性がよく分かる」

 

「政教分離……って言うと、社会科の授業で習った?」

 

「ああ。憲法第20条で定められた『政教分離の原則』のことだ」

 

 政教分離原則。国家と宗教は切り離して考えるべきであるという原則のことだ。

 第二次世界大戦以前の日本では政治と宗教が密接に結びついていた。それが後に多くの悲劇を齎したことは、日本人ならば誰もが学校で学んだことだろう。

 この世界の場合、ことはさらに深刻だ。何故なら、この世界には異世界に干渉できるほどの力を持った超常の存在が実在しており、文字通り『神の意志』を中心に世界は回っているからだ。

 

 自分たちの帰還の可能性と同じく、世界の行く末は神の胸三寸なのだ。徐々に鮮明になってきた王都を見下ろしながら、日景は先程の光輝の言葉を思い出していた。

 自分一人で全てを救えるなどと自惚れるつもりはない。しかし、この世界に召喚された生徒全員を無事に元の世界に帰すくらいはしてみせる。そのためには、とにかくできることからコツコツとやっていくしかないと気を引き締め直すのだった。

 

 

 

 王宮に到着すると、生徒たちは真っ直ぐに玉座の間に案内された。道中、騎士らしき装備を身に付けた者や文官と思しき者、メイドなどの使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、或いは畏敬の念に満ちた眼差しを向けてくる。生徒たちの立場は既に周知されているらしい。

 

 美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に辿り着くと、その扉の両サイドに直立不動の姿勢を取っていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たずに扉を開け放った。

 イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。光輝など一部の者を除いて生徒たちは恐る恐るといった様子でその後に続いた。

 

 扉を潜った先には、真っ直ぐに伸びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子――玉座があった。玉座の前には覇気と威厳を纏った初老の男が立った状態で待っていた。

 その隣には王妃と思われる美しい女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、十五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。また、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者たちが、右側には文官らしき者たちが三十人以上は並んでいる。

 

 玉座の前に着くと、イシュタルは生徒たちをそこに留まらせ、自分は国王の隣へと進んだ。

 そこで、徐ろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、国王よりも教皇の方が立場は上のようだ。

 

 以降は、ただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃はルルアリア、金髪碧眼の少年はランデル、王女の名はリリアーナという。

 更に、騎士団長や宰相など、高い地位にある者の紹介が成された。余談だが、途中、ランデル王子の視線がチラチラと向けられていたことから、香織の魅力は異世界でも通用するようである。

 

 その後、開かれた晩餐会で異世界料理を堪能することになった。見た目は地球の洋食と殆ど変わらないのだが、たまに桃色のソースや虹色に輝く飲み物が出てくることがあり、洋食屋を実家が営むとある女子生徒が頬を引き攣らせていた。

 晩餐会が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。部屋の片隅に置かれた天蓋付きベッドに生徒たちの大半は愕然としていた。

 

 日景は、豪奢な部屋にイマイチ落ち着かない気持ちになりつつも、それでも怒涛の一日に張り詰めていたものが溶けていくのを感じ、寝台の上に倒れ込むとともにその意識を落とした。

 

 

 

 翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

 まず、集まった生徒たちに十二センチ×七センチくらいの銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒たちに、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

 尚、騎士団長が生徒たちの教官役をしている理由は、対外的にも対内的にも『勇者一行』を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。メルド本人も「むしろ面倒な雑事を副長に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたので問題はないのだろう。

 尤も、騎士団長に仕事を押し付けられた副団長は大丈夫ではないかもしれないが……

 

「よし、全員に行き渡ったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落な性格をしており、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員たちにも普通に接するように忠告するくらいだ。

 生徒たちもその方が気が楽だった。自分よりずっと年上の人たちから慇懃な態度を取られるというのは居心地が悪くて仕方がない。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って血を擦り付けてくれ。それで所持者が登録される。”ステータスオープン”と言えば、表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもんは知らないからな」

 

 その説明に「なるほど」と頷きつつ、生徒たちは顔を顰めながら指先に針を刺す。そうして血を魔法陣に擦り付けると、プレートに刻まれた魔法陣が淡い光を放つ。

 他の生徒と同じように血を擦り付けると、日景のステータスプレートの魔法陣も淡く輝き、その直後、スッと真綿にインクが染み込むように純白……とは少し異なる、春に注ぐ優しい陽の光のような色合いへと変色していった。

 

 予期しない変化に瞠目する生徒たちにメルドが説明を加える。曰く、魔力というものは人それぞれ違う色を持っているらしく、プレートに自己の情報を登録すると、所持者の魔力光に合わせて染まるとのこと。つまり、そのプレートの色と本人の魔力色の一致を以て身分証明とするわけだ。

 最も信頼のある身分証明書という評価にも納得が行く。元の世界で言えば、指紋認証や虹彩認証などの生体認証をしているようなものだ。信頼度が高いのも当然だろう。

 

(自分の魔力光は白色……と言うよりは、陽の光の色と言うべきか?)

 

 自らの魔力の色を確認した日景が視線を巡らせば、他の生徒たちも自分の色というものをマジマジと見つめているところだった。

 

「珍しいのは分かるが、しっかり内容も確認してくれよ」

 

 苦笑いしながらメルドが確認を促す。その声で、生徒たちはハッとしたように顔を上げて直ぐに確認に移った。当然、日景も自分のステータスプレートに視線を落とす。そこには……

 

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藤原日景 17歳 男 レベル:1

天職:陰陽師

筋力:30

体力:30

耐性:80

敏捷:40

魔力:200

魔耐:150

技能:魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇]・陰陽術[+発動速度上昇][+効果上昇][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・限界突破[+戦鬼]・加護[+伊邪那美][+天照大神][+月夜見尊][+素戔嗚尊][+久久能智神][+宇迦之御魂神]・言語理解

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 と、表示されていた。他の生徒たちもマジマジと自分のステータスに注目している。

 

「全員見られたか? 説明するぞ? まず、最初に『レベル』があるだろう? それは各ステータスの上昇とともに上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルとは、その人間が到達できる領域の現在値を示しているというわけだ。レベル100ということは、自分の潜在能力を全て発揮した極値ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がるという訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことは分かっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている」

 

 メルドの言葉から推測するに、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に『天職』ってのがあるだろう? それは言うなれば『才能』だ。末尾にある『技能』と連動していて、その天職の領分に於いては無類の才能を発揮する。

 天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

 日景は自分のステータスを確認する。天職欄には『陰陽師』と記されている。技能欄にも『陰陽術』があることから、プレートが正確に自分の能力を測っているのは間違いなさそうだ。

 

「あとは……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前たちならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 曰く、この世界のレベル1の平均は10らしい。筋力や体力はそれほどではないが、魔力と魔耐の数値は水準を大きく上回る。この世界の基準からすれば十分非常識な数値だ。

 

「ねえねえ。日景のステータスはどうだった?」

 

「自分は見ての通りだ」

 

「うーん……。やっぱり、私のステータスっておかしいのかな?」

 

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南雲那岐 17歳 女 レベル:1

天職:伊邪那岐

筋力:20

体力:20

耐性:100

敏捷:30

魔力:1000

魔耐:100

技能:伊邪那岐[+限界突破][+覇潰][+戦鬼]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化]・陰陽術[+発動速度上昇][+効果上昇][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・高速魔力回復[+瞑想]・加護[+伊邪那美]・言語理解

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 那岐のプレートは晴れた空のような明るい青色に染まっていた。天職『伊邪那岐』に関しては思うところがあるが、ステータス自体はそこまでおかしいところはない。ある一点を除いて。

 

「……魔力の数値が桁違いだ」

 

「うん。この魔力って霊力のことだとは思うんだけど……」

 

 上位世界の存在である生徒たちはトータスの人間より高いスペックを持っている。とは聞いていたものの、この世界の平均の100倍は流石に異常だろう。その推測を後押しするように、光輝が自らのステータスを報告する。

 

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天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

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「ほお~、流石は勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あはは……」

 

 メルドの称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみにメルドのレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップクラスの実力者だ。だが、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、そう遠くない未来に追い抜くことだろう。

 日景のステータスに関しては魔力が高いくらいの能力値でしかないが、やはり那岐の魔力の数値は生徒たちの中でもずば抜けている。

 

「どうしよう……」

 

「素直に報告するしかないだろう。おそらく、大丈夫だとは思うが……」

 

 那岐を励ましている間に報告の順番が遂に回ってきた。今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルドの表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

 ええいままよ、と意を決した那岐は日景と一緒に自らのプレートを提出した。二人のステータスを確認したメルドの表情は「うん?」と笑顔のまま固まった。

 

「陰陽術? 見たことのない技能だが……それに、もう派生技能に目覚めているだと?」

 

 技能=才能である以上、先天的なものなので増えることはない。唯一の例外が『派生技能』だ。

 これは一つの技能を長年磨き続けた末に、所謂『壁を越える』に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば、今まで不可能だったことが、ある日突然、コツを掴んだことで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

 故に、この世界に召喚されたばかりの二人が派生技能に目覚めているはずがないのだが……

 

「……………………」

 

 不安そうな表情で自らを見上げる那岐の様子に疑惑の感情を飲み込むメルド。なにか秘密があるのは間違いないだろうが、それ以上は追求するような真似をせずに、日景と那岐にそれぞれプレートを返却する。

 

「……まあいい。心強い味方が増えたことに変わりはないからな!」

 

 二人には聞きたいことがあるが、衆人環視の中で聞くようなことではない。それに、長年戦いの中で磨いてきた直感がこの二人は悪い奴ではないと伝えてくる。自らの直感を信じることにしたメルドは、どこか優しげな目で安堵の息を吐く那岐と日景を見守るのだった。

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