ラスボスが増えてるブルーアーカイブ   作:シフィ

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 残酷な表現が含まれるため、注意してください。





回想・首なし仏

 

 

 エデン条約が締結されてしばらくした頃。

 

 シャーレにアリウス自治区の調査依頼が入った。

 セイアちゃんの襲撃も、ナギサちゃんの襲撃も防いだ後、耳にすることも、目にすることもなかったが、情勢が落ち着いた今、アリウスという潜在的な脅威に手を伸ばす余裕が生まれたのだ。

 

 そして(ウルト)とアトラちゃん、そしてSRTのFOX小隊は連邦生徒会長ちゃんとティーパーティーの要請を受けてトリニティの地下深く、カタコンベ(共同墓地)を歩いている。

 

 危険そうなので()()()()()()()()()()()()だ。通信用のドローンがあるので先生はシャーレからでも指揮ができる状態になっている。

 

 

「……ねえ、まだ着かないの? 似たような角をもう3回は曲がったわよ?」

 

 

 金髪で狐耳のちっちゃい子、FOX小隊のクルミちゃん*1がぼやく。

 まあFOX小隊って名前だし、みんな狐耳だけど。

 

「いえ、当機(アトラ)の観測では、全て違う場所です。トリニティから提供された情報と、当機によるマッピングの比較を行っていますが間違いなく目的地に近づいています」

「そりゃ結構だけど、それが言いたいんじゃなくてさ……」

《“変わり映えのしない景色だと、どこまで進んでるのかわからなくなるよね。”》

「そう! それが言いたかったの!」

 

 カタコンベ(共同墓地)、という名に相応しく、あたりには鬱屈とした空気が漂っており、ネズミや蝙蝠、その他の分解者以外に生命を感じない。

 

 空気が澱んでおり、腐臭すら漂っている。

 

 ……臭いし、あまり長居したい場所じゃないね。

 

 

「ここから出たらお風呂に入りたいね。」

「いいねぇ、ここに来るまでに温泉ホテル、なんてのがあったし。作戦が終わったら行っちゃう?」

「うちの会社と、温泉開発部でやってるホテルだから予約はすぐ取れるよ、取っとこうか?」

 

 

 茶髪のFOX小隊の子、オトギちゃん*2の発言を聞いてスマホを出す。

 返事を聞く前に私が入りたくなってきたので、予約はもう取っちゃおう。

 昔はそこの最上階に住んでたし、毎日温泉に入ってたけど、今はシャーレに住んでるから1週間近く温泉に入れていない。

 

 温泉の素じゃ、本物の温泉には勝てないのだ。

 

 

「そこって……ニコが前にバイトに行ったって言ってたところ?」

「そうかも。おいなりさんを幾つか納品しに行ったけど……良いお湯だったから、みんなにも入って欲しいな」

 

 

 桃髪のFOX小隊の子、ニコちゃん*3のおいなりさんは絶品なので期間限定で販売していた事がある。

 入荷するとすぐに売り切れてしまう人気商品だ。

 

 

「あまり気を抜くな、既にここは敵地だ。侵入はバレていると思っておけ」

「当機とウルトがいますから、問題が起きたとしても何とかします。

 それに、半径2km以内で通信が行われた形跡はありませんし、センサーも存在しませんからユキノは緊張を解くべきです」

「……そうか」

 

 黒髪のFOX小隊の隊長。ユキノちゃん*4が気の抜けた返事を返す。

 

 アトラちゃん*5がいると電子装備は全部無意味だし、ほんと便利な子。

 

 私とアトラちゃんの2人がいるならどんなことも何とかなるけど、

 ゴリ押しで全部ぶっ飛ばしちゃう癖があるから繊細に動く必要がある時はSRTの子達と連携をとる事が多い。

 

 

「便利よねー。SRTの装備にもこんな事ができる通信装備なんてなかったわよね」

「肯定します。当機は世界を救う兵器なのでとても高性能で万能です!」

 

 

 撫でて〜と、アトラちゃんが飛びついてきたのでぐりぐりと撫で回す。

 こんな汚いところの腐臭がアトラちゃんに付いたら大惨事だ。

 

 背負っているどデカいマシンガンや、アトラちゃん自体の重さで床が抜けそうになるが、うまく力を分散させてお姫様抱っこする。

 

 幸せな重みだ。400kgくらいかな? 

 

 アトラちゃんを猫可愛がりしながらカタコンベを進む。

 FOX小隊のみんなから呆れた視線を向けられるが何がいけないのか。可愛いは正義だ。

 

 セイアちゃんにも「あまり甘やかすと君のように育つからやめたまえ」などと言われたが、最高ではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく進み……イヤな腐臭が鼻を突いた。

 嗅ぎ慣れない、しかし生理的な嫌悪感を煽る吐き気さえ覚えるような匂い。

 

 これはちょっとイヤな想定をしておかないとダメそうだね。

 

 鼻を押さえているクルミちゃんの肩を叩く。

 

 

「私が先頭歩くよ。嫌なもの見ることになりそうだから気を確かにね。」

「……あんたは平気なの?」

「平気、ってわけじゃないけど、私って耐性ありそうでしょ?」

 

 

 臭いの嫌いだし、死臭なんて苦手な匂いTOP3に入ってくるけど精神的に私はかなり強い方だ。

 

 この腐臭が生徒が腐った死臭だとして、キヴォトスにおいて死体なんてそうそう見ない。特殊部隊であるSRTなら一つくらい見たことはありそうだけど、この匂いはダメだ。

 

 何人転がってるんだかわかったものじゃないし、死体の状態も悪いだろうから他の子に見てほしくはない。

 あの時(対策委員会編 2章)、間に合わなかったホシノちゃんの姿とか、縋り付くアビドスの子たちの姿は見ていて面白いものではなかった。

 

 

「気遣いは不要です。私たちSRTは、どんな状況下に置いても十全に行動できるように訓練を積んでいますので」

「いやーに断定的だけどさ、まだ()()だって決まったわけじゃないって。……アトラちゃんなら本当にそうなのかわかりそうだけど」

「当機の観測では、動体は小動物以外検知していません。ですが、アリウス自治区内で人型の物体が複数倒れ込んでいるのを確認しています」

 

 

 アトラちゃんに生徒の死体は見せたくないなあ。

 きっと何とも思わないんだろうけど、教育に良くない。

 

 アトラちゃんにはもっと人間的、というか、感情的になってほしい。

 

 

「人型の物体って……人じゃないの?」

「人であれば頭部が存在しません。ヘイローがあるとしても、頭部の欠損は生命活動が不可能になる損傷です。そのため人型の物体と表現しました」

《“そっか……”》

 

 

 アトラちゃんを降ろしてSRTの子たちを追い抜く。

 尋常な状況ではなさそうだ。SRTの子たちに先行させるのは危険すぎる。

 

 私なら何が起きても大丈夫だし、仮に毒ガスなんかがあった時も私には効かない。

 

 

「待て! 今分散するのは……」

「……行っちゃったねぇ?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 梯子を登り、ハッチを開ける。

 

 ……雨だ。空には一筋の光も存在せず、ただ暗色のみが空を染めている。

 先ほどから感じていた死臭はより強烈になり、降り頻る雨に洗い流されることもなく、空気が腐っている。

 

 路地を進むと、首から先を失い、腐臭を放つ生徒がいた。

 そばには腐肉を齧るネズミに蛆の群れ。

 

 その生徒にはヘイローは存在せず、神秘はとうに褪せている。

 

 

「…………」

 

 

 雨ざらしになっている生徒を抱き抱え、屋根の下に降ろす。

 

 ()()

 

 頭部がなく他にも様々な欠損があるにしても一般的な女の子の体重ではない。

 食事を満足に摂ることもできなかったのだろうか。

 

 血に染まった制服には髑髏(ドクロマーク)と薔薇、そしてARIUS(アリウス)の文字が刻まれた校章。

 アズサちゃんに見せてもらった校章、そしてセイアちゃんとナギサちゃんの襲撃があった時にも見たもの。

 

 罪を犯したとしても、こんな姿になる必要はあったのだろうか。

 

 最期に何を思っていたのだろう? それも頭がなくなってしまっている今ではわからない。

 

 

 これは、()()()()()()()()()()()

 

 

 アトラちゃんの話では他にもたくさんこんな姿の生徒がいるはずだ。

 雨空の下で放っておくわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「この先がアリウス自治区だ。MOUT(市街地戦)が予想される。各自、装備の点検を行え」

「酷い匂いだね……想像したくないけど、やっぱり……」

 

 

 チャンバー(薬室)を確認する金属音と、微かな雨音がカタコンベに響く。

 

 

「当機のコンディションに問題はありません。プロトコル維持による演算領域の消耗もレベル1(半永久的に維持可能)の範囲です」

「……FOX3(クルミ)、突入準備を」

「りょーかい!」

 

 

 ハッチを開け、突入。

 事前の調査通り敵の姿はない。

 

 路地から飛び出し、各所をクリアリング。

 

 強烈な腐臭以外に異常は見つからない。

 

 

「ウルトはこっちです。当機に追従してください」

「全く、単独行動するなんて、プロとしての意識が足りないわね! 

 強いからってバックアップも無しに1人で突っ走ってちゃ、倒してくれって言ってるようなものよ」

「きっと、私たちのことを心配して先走っちゃったんだと思うよ。ウルトさんは優しいから」

「いつもご飯の差し入れくれるしねぇ」

 

 

 アトラの案内に従い、移動する。

 

 辺りの建物はほとんどが廃墟となっており、屋根や壁が残っていない建物ばかりだ。

 瓦礫の間を抜け、他に比べれば比較的損壊の少ない建物。聖堂と思われる場所についた。

 

 聖堂のそばには、連邦生徒会の白いコートを黒く汚した白い髪の長身の少女。ウルトが佇んでいた。

 

 


 

 

「ウルトっ!」

「わっ、今はダメだよ。汚れちゃう。」

 

 

 アトラちゃんの飛びつきを回避して、腐肉やらで汚れたコートを脱ぎ捨てる。

 

 この匂いが香水でマシになるとは思えないし、アトラちゃんとの触れ合いはまた今度だ。

 

 

「何してたのさ、そんなに服汚して」

「……偵察?」

「単独行動は慎んでくれ、我々の仕事には冠生徒会長補佐(ウルト)の護衛も含まれている。貴方の力は承知しているが、現状では安全を保証できない」

 

 

 ユキノちゃんに怒られてしまった。

 

 まあ、おかげで1人で先走ったおかげでこの辺りの死体は聖堂の中に集めることができたからよかった。

 

 死体に簡単な防腐防虫処理もした。

 時間もなかったので、シアン化水素とかの毒ガスを宇宙から召喚して撒いて済ませちゃったし、私とアトラちゃん以外は聖堂の中に入ると危険だ。

 

 

「うぃ。」

「……ところで、ここって地上よね? 雨も降ってるし。衛星写真からこの辺りの地形は確認したのよね?」

「うん、トリニティから依頼を受けてから調べてみたけど、

 アリウス自治区らしき場所は発見できなかったよ。

 だからブリーフィングでも自治区は地下に存在するかもしれないって」

 

 

 私も事前調査してみたけど、アリウス自治区については何も分からなかった。

 カタコンベへの侵入方法や、内部の変化パターンについてはシスターフッドの文献に記載はあったんだけど。

 

 きっとセイアちゃんの夢や、アズサちゃんの話がなければここまで辿り着けなかっただろう。

 

 

《“不思議な力で隠されていたんだろうね。”》

「そうですね。様々なセンサーや写真にも映らない秘匿された場所……だからアリウスの生徒たちはトリニティの自治区の中で長い間潜み続けることができたのかも」

「ユスティナ聖徒会が関わってるし、隠すことには慣れてたんじゃないかな。あの秘密主義の集団ならなんだって有り得るよ。」

 

 

 雨で濡らしたタオルで、身体中の汚れを拭う。

 

 死臭は取れてないけど、多少は綺麗になった。

 体表を真空にすれば匂いも漏れないけど、かなり神経使うし、不測の事態を考えると他の子たちには我慢してもらうしかないね。

 

 

「アトラちゃん、外に出たわけだけど何か探知できたものはない?」

「……巨大な動体を1つ検知しました。その動体の付近で線状のものが蠢いています」

「巨大な動体……それがこの自治区の元凶か?」

 

 

 巨大な動体ねえ、ビナーとかヒエロムニスとかその類いっぽい? 

 となるとFOX小隊だけじゃ対処できなかっただろうし、私とアトラちゃんがついてきて正解だったね。

 

 それにしたって生徒を虐殺するとは思えないけど。

 

 

「どうだろうね。何にしてもその巨大な動体とやらが関わっているのは間違いないだろうし、案内してくれる?」

「わかりました! 当機についてきてください!」

「目標と接触する前に、退路の確保と地形の把握を行っておきたい。……問題ないでしょうか?」

「私に許可取らなくてもいいよ。

 それに敬語もめんどくさいし、戦闘になれば判断が鈍る原因にもなるでしょ? 気を遣わなくていいから。」

「……了解した」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アリウス自治区の奥。

 アズサちゃんから聞いたバシリカと呼ばれる建物に近づくにつれ血の匂いが濃くなってきた。

 

 思えばアリウスの生徒たちはこの方向から逃げてきていたのだろう。

 こちらの方角に背を向けている死体が多かったし、バシリカの方面には死体が少なかった。

 

 狙撃ポイントを確保すると言い残し、オトギちゃんが部隊から離れて行ったが、生徒の死体と出会ってはいないだろうか。

 

 アリウス自治区に入ってから、FOX小隊の子たちの顔色が悪い。

 みんなで一緒にいたから精神的に保っていた部分もあるだろうし、1人きりにするのは不安だ。

 

 

《“皆、大丈夫? ”》

「作戦行動に問題はない。それに……我々がやらなくては」

 

 

 私がアリウスの子たちを片づけたから、今のところ死体に鉢合わせてはいない。

 だけど、私の腐肉で汚れた姿や、この死臭でどういった事件が起きているのか確信しているようだ。

 

 空気が悪いし、先生にセクハラでもして空気を和ませようか。

 

 

《“私がそっちにいないのが歯痒いけれど……無理をしないでね。”》

「ここ臭いし、早くお風呂入りたいよね。作戦が終わったら先生も一緒にうちの温泉入る?」

《“……え? 一緒に? ”》

「一緒にって……まさか先生も一緒に温泉に入るってわけじゃないわよね!?」

 

 

 一緒に入るのも楽しそうだけど、先生のことだし一緒には入らないだろう。

 水着でも着れば一緒に入ってもいいと思うんだけどね。

 

「そうそう、混浴ってやつ。アトラちゃんとも一緒に入ってるもんね?」

「それは、その、恥ずかしくはないのでしょうか……」

「うーわ、先生って何も知らない女の子と一緒にお風呂入ってるの? 教育に悪そ……」

 

《“いやいやいや! 入ってないよ!? ”》

 

 

 先生が操作している通信用ドローンの軌道がブレる。

 実際には一緒に入ってないし、先生は私たちとお風呂場で鉢合わせないようにシャーレのシャワールームは利用していないのだが。

 

 

「お風呂はウルトと一緒に入ってますよ? 先生はいつも独りぼっちなので楽しくなさそうです」

「……あんたねぇ、微妙にあり得そうな嘘つくのやめなさいよね」

「私は一緒に入ってもいいと思うんだけどね。」

 

 

 適当に雑談し、気を紛らわせながら先へ進む。

 

 

 

 

 ……バシリカが見えてきた。

 

 壁面が血のように赤い枝のようなもので覆われており、異様な気配を感じる。

 

 血枝からはいくつか()のようなものが生えており、私たちを見つめている。

 端的に言ってキモい。

 

 

「あの赤い枝は刺激するな。アトラから報告のあった動体と関係のある物であれば危険だ」

「アレは当機の検知した物体と相違ありません。

 既存の植物にアレと似たものは存在しないため、

 検知した動体が繁殖させた生体兵器の可能性があります」

「刺激するなって言ってもあれじゃ中に入れないわよ? どうするの?」

 

 

 どうするも何も、どうせ倒す相手なんだし、やることは一つだ。

 宇宙(そら)に意識を込める。

 曇天の遥か彼方で宇宙(そら)を彩る星々が煌めきを増す。

 

 一帯の血枝を吹き飛ばして、尚且つFOX小隊の子たちが衝撃に巻き込まれないような隕石を選定……

 

 

「こちらFOX1(ユキノ)FOX4(オトギ)、状況報告を。どうぞ」

《こちらFOX4(オトギ)、その赤い枝の間をスコープで覗いてるけど、

 アトラちゃんの言った通り巨大な何か……人型が動いてるねぇ。

 IRスコープ*6だから姿形ははっきりとわからないけど、こちらに気付いてはなさそう。

 あとは、右側の壁面に穴が空いてて、そこなら赤い枝に触れずに侵入できるんじゃない?》

「こちらFOX1(ユキノ)、了解した。指示があるまでFOX4(オトギ)はポイントアルファで待機。

 これよりFOX小隊はターゲットの偵察を行う。

 FOX2(ニコ)は突入時の退路の確保を。

 FOX3(クルミ)FOX4(オトギ)から連絡のあった壁面で突入準備」

 

 

 えっ、偵察? ぶっ飛ばしてよくない? 

 近寄る方が危なそう。

 

 気合いを抜き、大気圏のすぐ側で待機させていた隕石を衛星軌道に放り出す。

 

 

「ねね、ユキノちゃん。アレ、丸ごと隕石とか爆弾で吹き飛ばしちゃダメなの?」

「……先方(トリニティ)からアリウス自治区の文化財は破壊しないように要請を受けている。

 作戦行動に支障がない限り破壊は避けたい。

 それに……ウルト会長補佐とアトラがいれば問題はないのだろう?」

「はい! 当機とウルトがいれば全部何とかなります!」

 

 

 良い返事。

 

 トリニティからの要請で壊さないように、か。

 今のこの状況をもたらしたかもしれない元凶に対して悠長な判断だとは思うけど、私とアトラがいれば何とかなってしまうのは確かだ。

 

 アリウスの生徒たちの抵抗したような跡を見ても、触れた瞬間にアウト。

 みたいな相手ではなさそうだし問題はないだろう。

 

 死体の状態から考えて、おそらくあの血枝が身体に巻き付いてその後、頭を食いちぎられ死亡。

 だから血枝にはなるべく近づきたくないんだけど、引っ張れば千切れるでしょ。

 

 

「突入メンバーは私とアトラちゃん、それとユキノちゃんにクルミちゃんの4人?」

「その予定だ、他に案が?」

「いや、隕石でぶっ飛ばさないならそれで良いよ。

 あとは、アトラちゃん。多次元障壁*7を突入メンバーに張れる?」

「可能ですが、当機の演算能力だけでは当機とウルト以外は障壁の内側から外側に干渉できなくなってしまいます」

 

 

 じゃあ先生のシッテムの箱*8の出番だけど、ドローン越しに使えるのかな? 

 

 

「先生、何とかできそう?」

《“やってみるね。”》

 

 

 先生の操る通信用ドローンがふらふらと揺れ、一瞬、赤いヘイローが浮かんだように見えた。

 うまくいってそうな雰囲気。

 

 ドローンの軌道が怪しいので作戦中はアトラちゃんの頭に載せておこうか。

 

 

《“……これで大丈夫かな? ”》

「いつもより通信にラグがありますが、修正可能な誤差です! 

 ……プロトコルATRAHASISの権限を一時的に付与。多次元解釈を開始します」

 

 

 目の前の空間が一瞬歪み、すぐに元に戻る。

 一歩歩くと身の回りの空間が遅れてついてくる。

 

 いつも通りの挙動だ。

 これがあるとビナーのビームとかその他諸々が完全に無視できてすごく便利なんだよね。

 

 元々私に神秘の絡まない物理現象は通じないとはいえ、防げるものは防いでおきたい。

 特に今回は何をしてくるのかわからない相手だ。

 

 やっておいて損はないだろう。

 

 

「……これ、何したのよ? 妙なのが纏わりついてるんだけど」

「超強いバリアを張っただけだから、気にしなくて良いよ。

 時間がかかるとアトラちゃんの負担も増えるし早く突入しちゃおうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 血枝を避け、バシリカの中。

 

 そこら中で蠢く血枝に触れないように気をつけ慎重に進んでいくと、白と赤の巨大な人型のナニカを見つけた。

 背中に浮かぶヘイローは戒めるような荊で覆われた円環。

 

 夥しい数の赤い瞳を持った頭部からうじゅる、うじゅる、と肉をこすり合わせ、啜るような音が響く。

 

 その背後には元の姿が見えなくなるほどに血枝で覆われた十字架。

 ひび割れたステンドグラスから差し込む薄明かり。

 

 ステンドグラスに刻まれているのはあの化け物の姿だろうか。

 その上には黒い太陽のようなものが描かれている。

 

 不吉で、この世界(キヴォトス)にあっちゃいけないもの。

 そういった冒涜的で、根源的な恐怖をあの怪物と、ステンドグラスに描かれた黒い太陽から感じる。

 

 

 

「…………あら。この至聖所にやってくる子羊がまだいるとは」

 

 

 

 目と血枝の化け物から、想像もつかないほど明瞭で、澄んだ女性の声が響く。

 

 

 

「アリウスの生徒は全て()()()しまいましたが……あなた達は外の子どもたちですね。

 我が身をいくら()()へと近づけようとも、やはり、披露する相手がいなくては」

 

 

 

 化け物がこちらを振り返り、辺りの血枝から生えた()がにんまりと笑う。

 

 

 

「知恵も力もない。

 ただ弄ばれるだけの哀れで、愚かな子どもたちに(わたくし)の素晴らしさ。

 (わたくし)が至ったこの()()という境地を理解できるとは思えませんが、見せてあげましょう」

 

《“……!? 避けてっ! ”》

 

 

 血枝が波打つようにして、四方八方から迫り来る! 

 

 びっくりするほどキモくて、化け物の話を聞きっぱなしになっていたが血枝に触れられるのはまずい。

 

 足を至聖所の石畳に叩きつけ、アトラちゃんをお姫様抱っこ、ユキノちゃんとクルミちゃんの首根っこを引っ掴み飛び退く。

 

 3人を救出したが、ユキノちゃんとクルミちゃんの焦点が合っていない。

 ヘイローが明滅してるし、変なもの見てないか、これ。

 

 アトラちゃんは銃をしっかり構えてるし、問題なさそうだ。

 

 FOX小隊の2人をガクガクと揺すり、意識を戻す。

 

 

「……っ!?」

「……えっ? あっ、うわっ。何アレ! キモっ!?」

 

「成る程。ただの生徒ではないようですね。

 しかしまあ、この()()を見てなんと程度の低い罵声を。

 連邦生徒会の尖兵と言えど、無知な子どもにすぎないということでしょうか」

 

 

 空中で制動をかけ、着地地点を探るがほぼ全てが血枝で覆われてしまっている。

 あの血枝に触れた時のリスクが判明していない以上、私が枝を蹴り飛ばすのもアリだけど、余裕のある状況で確かめたい。

 

 

「一時撤退するよ。アトラちゃん、空中に足場。

 ニコちゃんとオトギちゃんは脱出の支援して。爆破して良いから。」

「わかりました!」

《えっ、大丈夫?》

FOX2(ニコ)、了解。ランデブーポイントまでの道を援護します》

 

 

 身体を捻り、アトラちゃんの生成した足場を蹴り、空中を走り抜ける。

 

 迫る血枝は抱えている3人に迎撃してもらい、爆発で揺れるバシリカから跳び去る。

 

 爆破で降ってくる瓦礫もあるが、多次元障壁に任せてすり抜ける。

 壁はすり抜けれないが、動いているものであればすり抜けることができるのだ。

 

 ニコちゃんに開けてもらった穴から飛び出した。

 化け物はまだ出てきていない。

 

 ……あの化け物がアズサちゃんの言っていたマダム、ベアトリーチェってやつなのかな? 

 

 白と赤の異形の大人。

 異形という一言で片付けるには、あまりにも化け物すぎたからアズサちゃんのいた頃とは姿が違うんだろう。

 

 抱えていた3人を地面に降ろす。

 

 

「い、いったい何なのよ!? あの化け物は!? 漏らすかと思ったじゃない!」

《うわ、FOX3(クルミ)、漏らしたの?》

「漏らしてないわよ!!」

 

 

 クルミちゃんってホラー苦手そうだよね。

 

 目玉だらけの頭がぱっかーんと2つに割れているところとかキモさ指数かなり高めだし、私もアレは好きじゃない。

 

 ゲームとか映画で見る分にはホラーでキモい敵もいいんだけど、

 現実で、しかも血と腐肉で臭いんだからもう最悪だ。

 

 ()()というには臭すぎた。

 

 マダムっていうんだからもうちょっと身の回りに気を遣ってほしい。

 

 

「無駄話をしている暇はないぞ、各自、戦闘態勢。

 ファーストコンタクトの結果、ターゲットを認識した際に何らかの精神汚染があることがわかっている。

 FOX4(オトギ)はサーマル以外でターゲットを視認しないように。

 次に赤い枝だが、枝部分には銃撃の効果が薄い。節々についている目玉を狙え」

 

「私たちは暗視装備に切り替えなくて良いの?」

 

「赤い枝の目玉を的確に狙う必要がある。

 あの枝に掴まれた時のリスクと精神汚染によるリスクを判断した結果、不要と判断した。

 私たちの誰かが異常をきたした場合は相互でフォローすることで対応する」

 

 

 ユキノちゃんが纏めてくれた。

 私は逃げるのに精一杯だったので、血枝の目玉が弱点って情報は助かる。

 

 マガジンに弾込めしたり、瓦礫を蹴り飛ばしてバリケードにしておく。

 

 

 準備を整えているうちに白と赤の異形がバシリカから姿を現した。

 

 

「撃てっ!」

 

 

 化け物から伸びている血枝の目玉、そして無防備な化け物に向かって銃弾を一斉にばら撒く。

 

 私の7.62mm弾とアトラちゃんの12.7mm弾がベアトリーチェの胴体に直撃するが、効いた様子はない。

 

 

 

「崇高に至った(わたくし)に、尋常の手段が通用するとでも? 

 あなた達生徒は私の贄に過ぎず。抵抗は無意味なのです」

 

 

 何発ぶち込んでも動きが鈍る気配がない。

 血枝の進行はSRTの子達で抑えれているが、本体であるベアトリーチェの歩みが止まらない。

 

 マガジンをリロードしつつ、前線を一つ下げる。

 

 ゆっくりと歩いてくれているから前線が崩壊していないが、あの巨体で走ることができるのだとすれば極めて危険な状況だ。

 

 ベアトリーチェを殴り飛ばすか、隕石や爆弾で足止めをしておきたい。

 

 

《“アトラ、撃てそう? ”》

「多次元障壁を維持した状態では、フルパワーでの射撃は困難です。狐の皆さんへの障壁を解除すれば本来の8割程度での射撃は可能です」

「じゃ、私から1発やってみようか。銃が効かないとしても私の拳か、隕石なら効くかもだし。」

 

 

 気合いを込める。

 放射能がちょっとマズいがとっておきだ。

 

 岩石のほとんどがウランで構成された比重の高い隕石を宇宙(そら)から呼び込む。

 

 曇天のさらに先で唸り声が上がる。

 

 

「耐爆姿勢っ!」

 

 

 叫び、多次元障壁を張ってないニコちゃんを庇った次の瞬間、天が裂け、鼓膜が破れそうな程の爆音が響く。

 

 雨雲が吹き飛び、先ほどまで私たちがいたバシリカを吹き飛ばす。

 

 神秘がほとんど乗らないとしても、隕石は隕石だ。

 宇宙から降ってくる石ころに籠ったエネルギーは伊達ではない。

 

 崇高とやらに神秘がどれほどあるのかでこの攻撃によるダメージは決まる。

 

 一般的な生徒であれば大怪我で済むが、機械など神秘を持たないものであれば粉微塵ですら生易しい表現になるだろう。

 

 

 

「ク、クククッ、ええ。驚きました。

 崇高に至る前の(わたくし)であれば幾度死んでもあまりあるほどの衝撃。

 隕石を降らせたのですか? ……思い出しました。あなたが黒服が言っていた宇宙の神。

 大袈裟な名前であり、ただの比喩と判断していましたが、その力を見るに宇宙の神というのは正しい表現のようですわね。

 ですが……身を裂き、忘れられた神々としてその身を貶めたあなたであれば私にとっての脅威にはなりえません」

 

 

 

 効いてなさそうだ。となると殴っても意味は薄そうだが、吹き飛ばす効果はあったようだ。

 隕石の着弾地点から10m以上移動している。

 

 血枝もベアトリーチェに引きずられるようにして動いており、いくつか千切れている。

 

 隕石でダメならアトラちゃん頼みになるか。

 

 

《“……あなたはゲマトリアの一員なの? ”》

 

「……ああ、自己紹介をしておりませんでしたわね。

 姿は見えませんが、そのドローンを操っているのは黒服の話していた先生でしょうか。

 初めまして。(わたくし)はゲマトリアでの唯一の成功者。

 儀式を通じて、我が身を崇高とした絶対者」

 

 

 血枝がまた新たに伸びるが、こちらに寄ってこない。

 

 ベアトリーチェが喋りに夢中になっている間にまた気合いを込めて、ガンマ線、ベータ線を溜め込む。

 物理的な衝撃は通りが悪いが、放射線はどうだろうか。

 

 ただの生物とは考えづらいが、機械というわけでもないし、効果はあるかもしれない。

 

 

 

「ロイヤルブラッドという神の子羊(Agnus Dei)を捧げることで罪を背負った子どもたちは赦され、楽園(エデン)へと旅立ちました。

 そして儀式によって(わたくし)は神秘を得たのです。

 いかがでしょうか、先生。神秘を持たざる身であるあなたにならこの偉大さが理解できるのでは?」

 

《“そんな事のために……あなたは生徒たちを犠牲にしたのか。”》

 

「ええ、犠牲にしました。全ては虚無である(vanitas vanitatum, et omnia vanitas)のならば、死こそが救済。

 子どもたちは(わたくし)が教えた通り、(わたくし)の思い通りに儀式の(子羊)となったのです。

 ……ふふっ、(わたくし)の願いはあの子たちの願いでもあったのですよ。

 子どもたちのために行動するあなたと、(わたくし)は似たもの同士なのでしょうね?」

 

《“ふざけるな。”》

《“子どもたちの願いを歪曲し、捻じ曲げ。”》

《“救いを求める声を貶めたのはあなただ。”》

 

「それが何か? 大人は自分にとって都合の良い事実を他人に、子どもに押し付けるもの。

 外の世界から来た先生ならそのような光景が珍しいものではないと知っているでしょう。

 戦争、政治、宗教。様々な目的から子どもたちは大人に都合の良い存在として育てられ、私たちに利益をもたらすのが役目。

 であるならば、他者を疑い、軽蔑し、呪う言葉を教え、(わたくし)の贄として正しい在り方を教えることの何が罪だというのでしょうか」

 

《“……あなたは教育を、大人として、子どもたちを導く義務を侮辱した。”》

《“私は、……あなたを許さない。”》

 

「……残念ですよ、先生。()()教育者、絶対者として私たちは理解し合えると思えたのですが」

 

 

 

 血枝が揺れ、ベアトリーチェの背後で輝くヘイローが変形する。

 

 赤い荊に覆われた円の内側に薔薇が咲く。

 

 血枝の目玉が開花し、血の涙を流す。

 

 

 

「これが偉大なる大人、崇高へと至った絶対者の力です。」

 

 

 血の涙が固まり、人の形を取る。

 

 生み出された小さな人形からヘイローが発生した。

 

 生徒を産んだ? いや、複製(ミメシス)か? 

 どちらにしてもやることは変わらない。

 

 

「アトラちゃん、ぶっ飛ばせる?」

「会話中にチャージしたので、障壁を張りながらでも2割程度の威力なら放てます!」

 

 

 先生の時間稼ぎがナイスだ。

 私のガンマ線ぶっぱはアトラちゃんの攻撃が終わってからで良いだろう。

 

 土壌を放射線で汚染するのは避けたいし。

 

 

「障壁解除と同時に撃って、倒せなかったら続けてフルチャージはいけそう?」

「発射後にプロトコルの維持が難しいですが、2分あれば大丈夫です」

「じゃ、その方針で。」

 

 

 ベアトリーチェが生み出した人形は結構硬いが撃破可能だ。

 本体から飛んでくるビームは瓦礫で防げるし、時間さえ稼げば勝ちだろう。

 

 アトラちゃんのフルパワーで倒せなかった場合は放射線ぶっ放して撤退かな。

 

 

「ユキノちゃん、そういう事だから、時間稼ぎお願いね。障壁なくなっちゃうからベアトリーチェからの攻撃には注意して。」

「了解した。」

 

 

 アトラちゃんが握っているM2ブローニングを模したマシンガンが分解され巨大なレーザー砲のような形に変貌する。

 多次元障壁が消え、血生臭い空間に無防備に放り出される。

 

 異変を感じ取った血枝や人形がアトラちゃんに迫り来るが、オトギちゃんの狙撃や、設置した地雷、みんなの銃撃と私の蹴り飛ばした瓦礫で追い払う。

 

 

「先生! 合図を!」

 

《“主砲、発射! ”》

 

 

 私が隕石を落とした時と遜色のない轟音。

 救世の兵器を名乗る少女から放たれた破滅の光が死臭のする空間を切り裂く。

 

 発射の衝撃で背後にあった廃墟が崩れ去り、隕石でめちゃくちゃになっていたバシリカ跡地。

 それと血枝に人形たちを瞬時に融解。焼却する。

 

 死臭は空気を焼き切ったオゾン臭に変わり、光が晴れる。

 

 

 

「グッ、アアッ!?」

 

 

 

 めっちゃ効いてる。

 

 原形はとどめているが、白と赤の枝のような手足はあちこちが焼け爛れており、頭部の大量の目玉も3割近くが開いていない。

 

 私の火力ってやっぱり低いよね。

 隕石とか見た目は派手だけど、神秘が全然乗らないのが痛い。

 

 

 

「こ、こんな。わ、(わたくし)は崇高へと至ったのですよ!? 

 だというのに、こんなたかが一生徒の攻撃などで……!?」

 

「当機はただの生徒ではありません! とても強くて、悪いやつを倒す救世主です!」

「……なんか余裕そうね?」

「チョロいです!」

 

 

 ベアトリーチェを倒しきれなかったため、アトラちゃんがフルチャージを開始した。

 

 この様子だと跡形も残らなさそうだ。ビナー3匹分くらいの耐久力か。

 こんな巨体、捕縛も難しいし、放っておいたら何をしでかすかわかったものじゃない。

 吹き飛ばしてしまって構わないだろう。

 

 バリバリとレーザー砲が放電を開始し、道中で拾った通信機器などの電子パーツが飲み込まれていく。

 

 

 

「有り得ません! (わたくし)の計画が、1度のみならず2度も阻止されるなど! 

 (わたくし)がこれまでに築いた地位と力は全て無意味だったとでも言うつもりですか!?」

 

全ては虚無である(vanitas vanitatum, et omnia vanitas)だっけ。あなたが教えた内容なんだからきっとそうなんじゃない?」

 

「そんな事が……許容できるものですか!」

 

 

 ベアトリーチェの身体が裂け、中から血枝が大量に伸びてくる。

 

 射撃で血枝を押し留め、ベアトリーチェ自身の歩みも隕石やら爆風で妨害され、遅々として進まない。

 

 血枝の目から放たれるレーザーや、本体が飛ばすレーザーが危険だが、それほど痛くはない。

 精神を汚染するのか、ヘイローに干渉しているのか掠ったFOX小隊の子の意識が度々飛びそうになるが、身体を揺するだけで治る。

 

 アトラちゃんが再チャージを開始して1分以上経った。

 

 

《“それが、あなたの踏み躙った生徒たちの想いだよ。”》

 

「何を……これで勝ったおつもりですか! まだです、まだ(わたくし)には成すべきことが……!」

 

「チャージ完了しました!」

 

「なっ、待ちなさい! 待って」

 

 

 

 アトラちゃんの目が薄紫色に輝き、レーザー砲に溜め込まれたエネルギーが異音を発する。

 これでお終いだ。

 

 ベアトリーチェの敗因は私とアトラちゃんがここにいた事だろうね。

 FOX小隊の子達を連れて退避する。

 

 

《「発射!」》

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「こりゃまた派手に壊しちゃったねぇ?」

「はい! オトギの言う通りぶっ壊しまし……う、ウルト、壊しちゃダメでした!」

 

 

 アトラちゃんがあわあわと寄ってきた。可愛い。

 手を念入りに拭いてからアトラちゃんの頭を撫でる。

 

 土や、埃でアトラちゃんの藍色の髪が汚れてしまっている。

 ハーフアップにしている髪を解き、櫛を入れる。

 

 

「私が最初に壊しちゃったし、あの化け物の血枝ですでにボロボロだったから、きっと大丈夫。」

《“建物より、みんなの方が大事だからね。私からサクラコとナギサには謝っておくよ。”》

 

 

 私もフォルテちゃんに睨まれそうだなあ、また嫌われちゃうよ。

 

 アトラちゃんの攻撃によって、ベアトリーチェは跡形もなく消滅した。

 色々と崇高だなんだと言っていたが救世主(アトラ)には勝てなかったのだ。

 

 その影響でバシリカ含め、付近にあった建物は瓦礫の山になってしまった。

 ベアトリーチェの語った内容以外の背景は不明なままだ。

 

 もしかしたら行った儀式に関する書物もあったかもしれないが、なくなっちゃったしね。

 

 

 ユキノちゃんとニコちゃんが付近の偵察から戻ってきた。

 

 

「付近に残っていた赤い枝は全て排除した。アトラ、あの怪物以外に敵性存在は?」

「プロトコルを再起動します。……当機とウルト、それとFOX小隊以外の動体は検知できませんでした」

「……そうか。15:08(ヒトゴーマルハチ)FOX小隊。作戦行動を終了する」

 

 

 だらけ切って、座り込んでいたクルミちゃんが地面に寝そべる。

 

 

「あー、もう! 疲れた! ひっどい匂いだし、化け物は出てくるし、過去一最低な任務だったわ!」

「クルミちゃん、そんな所で寝ちゃったら服が汚れちゃうよ。タオル敷いてあげるから、こっちに来て」

「……ほんっとニコってお母さんみたいよね」

 

 

 のそのそと立ち上がり、ニコちゃんの方に寄っていく。

 

 私もアトラちゃんの髪を整え直し終わった。

 あとはお風呂に入ってからだ。

 

 

「帰り道は? またカタコンベ?」

「出入り口がそこにしかない以上、そうなる」

「うへ、あそこ結構長かったよね」

 

 

 ベアトリーチェがアリウス自治区を隠していたならヘリでも呼んで帰れるんだけど、未だにGPSが正しく機能していない。

 迎えを呼ぶのは難しそうだ。

 

 大きな出入り口もあるんだろうけど、今判明してるのはハッチ付きの通路だし、

 アトラちゃんに車を作ってもらって乗って帰るのも難しい。

 

 ヘリを作ってもらっても良いんだけど、フルパワー射撃した後で疲れてそうだしね。

 

 

「当機も少しだけ疲れました。早く帰ってみんなに会いたいです……」

「“うん、早く帰っておいで。”」

 

 

 先生の声を皮切りにみんながいそいそと撤収準備を進める。

 

 私はもう少しするべきことがあるから、帰るのはもうちょっと後だ。

 

 

「私は少し用事があるから、みんなは先に帰っておいて。」

「……ウルト?」

 

 

 振り返ったアトラちゃんの背中を押す。

 

 

「大した内容じゃないし、終わったらすぐに行くよ。」

「……わかりました。先生と一緒にお風呂で待ってます!」

《“えっ!? ”》

 

 

 ……行ったね。

 

 さて、天気はもう晴れちゃったけど、まだ外に転がってるアリウスの子たちがいるだろうし、片付けてあげないと。

 

 全てが終わって。

 彼女たちを火葬し終わった後はこんな薄暗く陰惨な場所じゃなく、太陽のよく見える場所に埋葬しよう。

 

 ……ここでの出来事はアズサちゃんに伝えるべきなんだろうか。

 

 私にはどうするべきなのかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、ウルトは何をしに行ったんでしょう?」

 

《“……きっと、忘れられた子たちを助けに行ったんだよ。”》

《“だから、戻ってきたらいっぱい労ってあげないといけないね。”》

 

 

 

 

 

 

 

*1
クルミ(FOX3) SRT特殊学園 FOX小隊所属 金髪狐耳でCV釘宮っぽい女の子。 スーパーサイヤ人化した黒見セリカのようにも見える。 FOX小隊のポイントマンであり、状況に応じた臨機応変な対応が得意

*2
オトギ(FOX4) SRT特殊学園 FOX小隊所属 茶髪狐耳で陽キャな女の子。 ダボっとした袖口と見えそうで見えないお腹がチャームポイント。 FOX小隊の狙撃手でその立ち振る舞いから敵に存在をアピールすることで行動を制限させる

*3
ニコ(FOX2) SRT特殊学園 FOX小隊所属 桃髪狐耳で皆のママ。あのミユがお世話になったと言うほどなのでニコのお世話力は本物。 FOX小隊の副隊長であり、その柔和な雰囲気とは裏腹に戦闘時には冷静かつ的確な判断を下す

*4
ユキノ(FOX1) SRT特殊学園 FOX小隊所属 黒髪狐耳で真面目そうな子。 FOX小隊の隊長であり、実質的なSRT特殊学園の代表。正義感と責任感が強く、小隊員のことやSRTのために様々な苦労を背負っている。後輩たちからの評価は完璧超人であり、非の打ち所がない。

*5
久世アトラ 連邦生徒会 シャーレ所属 極めて長い藍色の髪をハーフアップにしている一人称が機械っぽい子。 趣味はマリンスポーツで褒められることが大好き。 特殊な力により機械に対して絶対的な支配権を持っている。

*6
IRスコープ 暗視機能のついたスコープ。今回、オトギが使っているのは熱源を見るタイプ。サーマルスコープとも

*7
多次元障壁 同一次元に存在するのか、しないのか、といった概念的な障壁。対抗するには同一次元の存在となるか、多次元解釈を計算し、分析することで突破する必要がある。 ウルトは別の方法で突破できる

*8
シッテムの箱 A.R.O.N.AというOSを内蔵したタブレット端末 ほとんどが謎に包まれており、連邦生徒会長と連邦生徒会長から許可を得ている先生以外は起動ができない。キヴォトスにおいて最高に近いオーパーツ。






 アリウスの生徒たちは、儀式を完遂し、崇高へと至ったベアトリーチェに食われました。

 エデン条約に関する作戦を尽く失敗したアリウスの生徒たちの評価は低く、連邦生徒会長が存在するこの世界では数の力ではなく特別な力を求めました。

 ミメシスを手に入れるための作戦も、連邦生徒会長によってエデン条約締結の会場が変更されてしまったため頓挫しています。


 本領を発揮する前にベアトリーチェは死にましたが、ウルトとアトラがいない場合、キヴォトスが滅びかねない程の脅威です。
 ・触れるとヘイローの力がなくなり、先生級の耐久、力になってしまう血の枝
 ・認識するだけで意識が薄れる特殊な容姿
 ・食った生徒を再現し、召喚する力
 ・一定以下の威力(アトラ・ハシースのスーパーノヴァ以下)の攻撃をほぼ無効化する耐久性

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