フウカちゃんの料理に関する能力はいくら盛ってもいい。
温泉開発部の温泉旅館で1日を快適に過ごし、翌日。
私はヒナちゃんと戦うことになっても問題ないように、ゲヘナ学園のあらゆる場所に
はたまた
「建物を倒壊させると後が面倒だから、ここは軽く補強しといて……」
「(やばい、やばい! ホントにいた! あのトリニティのティーパーティーをたった1人で襲撃した本物のアウトロー!)」
なーんか、チラチラとこっちを見てる生徒がいる。
でも、特に何かする様子もないので、置いておいて地雷の設置と、建物の補強を進める。
「(声をかける? いや、ダメよ! きっと今は重大な作戦の途中! 例えばあのヒナを倒すような……)」
置いた爆薬の周りに近くに落ちていた鉄釘、針金なんかが被害をいい感じに広げるようにして撒く。
悪辣かなあ? でも鉄球はちょっと前に使い切っちゃったし、許して欲しいなって。
「(あれは爆薬? なるほど、一流のアウトローは準備も怠らない。ということね! 勉強になるわ……!)」
ゲヘナの放送室から万魔殿までは結構長い道のりになる。その途中で戦車隊に砲撃されそうだし、いい感じに万魔殿に近い第三校舎を遮蔽に使う予定だ。
たくさん砲撃されるだろうし、動きやすいように物は片付けておこう。
生徒同士の喧嘩の痕が残る机と椅子を使われてない教室に突っ込んでは、崩れないようにロープで縛る。
「(机を片付けてる? 何でかしら。遮蔽が多い方が戦いやすいはず……)」
「ア〜ルちゃん? 何してるの?」
「ひやぁあ!? む、ムツキ!? ちょっと、脅かさないでよ!」
遠くの方で私のことを見ていた赤い髪の生徒が白いサイドテールの生徒といちゃつきだした。
爆薬を使って校舎に工作をしている私と、後ろの方でいちゃつく生徒。
トリニティだったらこんな真っ昼間、しかも授業時間中に爆薬し掛けてて咎められない、なんてことはありえないし、やっぱゲヘナだなあって。
「私は今、アウトローとしての勉強中なのよ! 今、あのお方に気づかれる訳にはいかないの!」
「あのお方って……アルちゃんが最近ハマってる覇王っていう人?」
私、ゲヘナに来てから覇王って呼ばれることの方が多いんだけど、そんなに浸透してるの? この中等部の頃のあだ名。
ちょっと恥ずかしいんだけど。安直すぎない? 覇王って。
初等部の頃の天凛神威とか化け物とかでも呼んでほしい。
「覇王じゃないわ、冠ウルト、超一流企業の社長で、あのティーパーティーを襲撃した超一流のアウトローよ!」
事実なんだけど、明言されると照れちゃうな。
私のファンに恥ずかしい姿を見せないようにグッと背筋を伸ばす。
「へぇ〜、私しか従業員のいない、へっぽこ企業の社長とは違うんだ?」
「べ、便利屋68*1は発足したばかりだから……そう、今はいわゆる下積み時代なのよ!
それにあの風紀委員会のカヨコのスカウトに成功したのよ。どう?」
「どう? って、カヨコって3年の先輩じゃん。すぐ卒業しちゃうよ? *2」
「うぐ……」
私みたいな社長を目指している生徒?
新しいタイプのファンだ。
ゲヘナだと私の暴力性というか、強さに惹かれてる生徒にはよく出会うけど、社長志望の子はそうそう見ない。
便利屋68。その名前はしっかり覚えておくとして……アウトローなんて言っちゃってるんだから、そういう
私のファン、アルちゃんと呼ばれた生徒と、ムツキと呼ばれた生徒の方へ向かう。
「あ、覇王ちゃん来た」
「……(えっ!? うそ! バレてた!? ど、ど、どどうしよう!)」
「話がちょっと聞こえちゃって、便利屋68に依頼したいことがあるんだけど。いい?」
アルちゃんは白目を剥いている。なかなか面白い顔だ。
でもこれだと受け答えできなさそうだし、ムツキちゃんの方を向く。
ムツキちゃんがアルちゃんの顔を見て、楽しげに笑う。
「あ〜こりゃ重症だねえ。受けるかどうかはアルちゃんが決める事だけど、依頼内容は?」
「風紀委員会への陽動。決行は2日後の14時。」
「任せてください!」
白目剥いてたと思ったら唐突に復活して即断してくれた。
百面相が面白いし、なかなかスパッとした良い子だ。トリニティじゃこんな子お目にかかれない。
見返りがどう、とか、行動による責任、とか、契約が云々と面倒臭い子が多い。
トリニティ上層部と関わりのない一般的な生徒であれば二つ返事で請けてくれることもあったけど。
「(い、い、言っちゃったあああ!!??)」
「(風紀委員会の陽動? 無理よ無理! だって便利屋68はたった2人の零細企業で……で、でもウルトさんはたった1人でティーパーティーに挑んで……そんなの、そんなの……)」
「やるしかないじゃない!」
一瞬でくるくると表情を変えたと思ったら、決意の言葉がアルちゃんから飛び出した。
フッ、おもしれー女。
胸元から一枚のカード*3を抜き取り、アルちゃんに差し出す。
「装備代とか必要な経費はこれで支払って。」
「わーお。これってブラックカード? 初めて見た〜」
「必要ないわ。報酬は成功報酬で受け取るのが私達、便利屋68の流儀よ」
何だかかっこいい事を言い出した。
もし失敗したとしても、アルちゃんの口座には匿名でお金送っておくとして、
目指してるものがわかりやすい、良い子だ。
ホントいい子だなあ、気に入ってしまった。
「流儀って、アルちゃん。これ初仕事だよね?」
「い、今決めたのよ! こほん、それに初仕事があの冠ウルトさんのお手伝いだなんて、心が躍るわ!」
「ティーパーティー襲撃の方がカッコ良かったけどね〜」
「無茶言わないでよ!?」
漫才してるし、後は任せて良さそうだ。
「それじゃ、期待してるね。」
手を振り、私はゲヘナの食堂に向かった。
「で、どうするの? ほんとに風紀委員会に喧嘩売る気? 昨日、アルちゃんお金がない〜ってもやし生で食べてなかったっけ?」
「あのお方の期待を裏切れないもの。それに失敗したら、今度は水道水で生活することになるから……」
「渡りに船、ってやつ? くふふ〜♪ それじゃ頑張らないとね!」
ゲヘナの食堂に着いた。
どこかのレストランで待ち合わせだと思っていたが、どうも「会わせたい人がいる」とか何とか。
ついでにお昼もまだだったので食べに来たのだ。
中に入ると、大きないびきをたてて寝ている生徒、隣の生徒にパンを口に突っ込んでゲラゲラ笑っている生徒、食事をしている生徒、銃をぶっ放している生徒、なぜか室内でバイクに乗っている生徒で、
パッと見て1000人近くが食堂内にいた。
すごい数。トリニティも生徒数は多いがここまで集まることはそうそうない。
見てるだけで爆撃したくなってくる数だ。
気合を入れて隕石を落としたくなるのをグッと堪える。
人混みを切り分け、奥にある配膳台まで進む。
「おい! あれ!」
「なんかどっかで見たような……え? 覇王?」
「ゲヘナにいるって聞いてたけど、なんで食堂に……?」
「静かにしないとロールケーキぶち込まれるぞ?」
「それ覇王じゃなくてな、な……ナグサ? だっけ? そっちだろ」
「「ぎゃはははは!」」
すごく騒がしい。
身長がデカいのと服装のせいなのか別の原因か人目を集めているが、気にせず進み、配膳台に到着した。
パンと、野菜スープと、目玉焼き。
思っていたより質素だ。
お肉も魚もないし、人数が多いから安く済ませようとしてる?
空いている席に座り、食事に手をつける。
こ、これは。
まず、いや、不味いって言い切るほどじゃないけど、微妙……
野菜スープは野菜の切り方が妙にデカいし、味が薄めだ。
目玉焼きは、普通に目玉焼きだが、白身の一部が千切れているし、ちょっと焦げている。
パンは、パンだった。普通。
……ええ?これをあの
あり得ない。何か弱みでも握られてるんだろうか。
イズミちゃんのバカ舌でも雑な料理の見分けはつくし、なぜ許されているのか。
私のやってる会社の系列でこんな飲食店があったら、即刻廃業命令を出すし、何なら私が隕石落として店を潰す。
原因を究明しなくてはいけない。
席を立つ。
配膳台を通り過ぎ、さらに奥の配膳カウンターらしき場所に辿り着く。
「シェフを呼んで。」
そう声を上げるが、給食部員らしき生徒は1人も出てこない。
いない? 作り終わったから帰った?
その場合、私はこの学校の給食部を
ついでに食堂で暴れているゲヘナ生も全員まとめてボコボコにする。
宇宙に気合いを入れるか迷っていると厨房の奥の方で水を流す音と皿がぶつかる音がした。
……行こうか。
厨房の奥に進むと、凄まじい手捌きで皿を仕分けて食洗機に突っ込み、皿を手で洗い続けている1人の生徒がいた。
なにあれ、すごっ。
やってる事は単純だが、その処理速度が尋常ではない。
1秒で2皿くらい片付けてそう。
そしてあの立ち姿と百鬼夜行の生徒みたいな特徴的なツノは、ゲヘナトリニティの料理対決の時に見た。
あの子のご飯は結構美味しかった覚えがある。
確か名前は、愛清フウカ。
あの子が給食部にいるのなら、
忙しそうだし、声をかけていいものか迷う……けど、理由を聞かなくてはならない。
「手伝おうか? トレー持ってきたらいい?」
「えっ?」
フウカちゃんがこちらを振り返る。
誰が来たのかを疑問に思ったのではなく、発言を聞いて疑問に思い、振り返った様子だ。
「あ、あなたは。ウルトクラウン社*4の冠ウルト!?」
ゲヘナに来てから色んな肩書きで呼ばれる。覇王だったり、スポンサー殿だったり、私の会社の〜だったり。
大半が覇王だけど……
びっくりしているフウカちゃんを尻目に、トレーを片付け、食洗機に入れていく。
「うん。ちょっとここに用事があってね、手は止めなくていいよ。」
「え? 何でもこんなところに……あ、えっと! ウルトさんにそんな事してもらう訳には……! 私がやりますので!」
「別にいいよ、聞きたいことはあるけど、手は空いてるしね。」
「そ、そうですか。でも、聞きたいこと?」
辺りを見渡しても、フウカちゃん以外の部員の姿が1人も見当たらない。
非常に奇妙なことだ。
こんな数の料理を1人で作ったとは思い難いし、配膳を考えると間違いなく手が足りない。
「他の給食部の部員は?」
「……私だけです」
「えっ????」
何言ってんだこの子。この私でも物理的に無理そうな事を言い出した。
自分の手柄を威張っている? いや、そんなことする子には思えないし……
フウカちゃんの顔を見ると、どんよりとしていた。疲れがすごそうだ。
……まさか本当にたった1人で作ったって言ってる?
ティーパーティーを1人で襲撃するよりヤバいことやってないか?
「ほんとに? 冗談じゃなく?」
「一月前に3年の先輩が引退しちゃいまして、それからはずっと1人です……」
「す、すげー。」
この私が驚愕するほど、すごい。というかイカれた事をしている。
人生で一番人のことを尊敬したかもしれない。
私なら確実に放りだすね。
「配膳ロボットとか、調理ロボットは?」
「すぐに壊されちゃいますし、部費も少ないですから」
職場環境が最悪すぎる。
この子の頑張りに対して
心の中の
「私に何かできる事はある!? 食材の発注は!?」
トレーを置き、フウカちゃんの過度な業務でボロボロになっている手を取る。
ゆ、許せない。1人の女の子にこんな負担を強いるなんて。ゲヘナはあっちゃいけない学校だ。
ごめんなさい。トリニティがめんどくさくてクソな学校だと思ってましたが、ゲヘナはもっと最低な学校でした。
エデン条約はもうダメだ。
トリニティとゲヘナの平和条約なんて結ぶ暇があるなら、フウカちゃんの労働環境を改善する条約を結んだ方がいい。
「わ、私は、そんな。大丈夫ですから」
「大丈夫じゃない! ほら、これを手に塗って寝てて! 後は私が何とかするから!」
抵抗するフウカちゃんに私の使っているハンドクリームを渡し、給食部の部室の方へ追いやる。
するとひとりでに部室の扉が開き、美食研究会のハルナちゃんが現れた。
「は、ハルナ!? なんで給食部の部室に!?」
「あら、ご機嫌ようフウカさん。それにウルトさんも。その様子ですと
「うん。この私をここに連れてきてくれてよかった。これだけで私がゲヘナに来たかいがあるというもの。」
「……随分と気に入られたようですね?」
「これどういう状況!? 突然ウルトさんが現れてびっくりしたんだけど、ハルナの仕業だったの!?」
暴れるフウカちゃんを、ハルナちゃんに手渡す。
ハルナちゃんが手慣れた手つきでフウカちゃんの手足を縛り上げ、口にダクトテープを貼る。
「もがー! もがー! (なんで私縛られてるの!?)」
「ウルトさんはどうなさいますの?」
「私はフウカちゃんの残ってる業務を全部片付けて、厨房をリフォームするよ。」
「なるほど、よかったですね、フウカさん?」
「もがー!? もががー!? (何が!? 待って、何する気なの!?)」
そして私はベルトコンベアの食器回収システムに、巨大な食洗機、さらに給食部の食材発注システムをウルトクラウン社のアプリに変更し、食堂の清掃用ロボット(武装済)や、配膳ロボット(武装済)を手配した。
全部永年保証つきなので壊されても安心。
調理はどこまでやって良いものか迷ったので、予備のフライパンや、コンロを交換したくらいだが一先ずはこんなところか。
食堂に残っていた生徒が改造中にちょっかいをかけてきたが、全員マグマの海に沈めて放置している。後で回収しとかないと。
「短時間で随分と様変わり致しましたわね」
「まだまだやれる事は残ってるけどね。」
食堂改造中に、やはりフウカちゃんは疲れが溜まっていたようで、眠っていた。
今は食堂の机を美食研究会の3人、
「これ美味しい〜! これどこで買ってきたの?」
「オデュッセイア*5の海鮮丼専門店、水着バニーってお店で買った。商品名は海原の黄金丼ね。」
「(……水着バニー?)こちらのラーメンは何処のものなんですか?」
「そっちは山海経の玄武商会。爆盛り豚骨ラーメン。」
私とハルナちゃんは食べ終わっており、ともにティータイムを楽しんでいる。
マカロンを摘み、パクリ。
美味いぜ。
「このままご一緒に食事を楽しむのも悪くはありませんが……ご用件を伺っても?」
「うん。本題に入ろうか。美食研究会に頼みたい依頼っていうのは、私がヒナちゃんと戦うことになった際の援護だよ。」
「ひ、ヒナ!? ヒナって、風紀委員長だよね!? 無理無理、無理だよ! 私たちいつも捕まっちゃってるし!」
わかっている。私が美食研究会と組んだとしても空崎ヒナを倒し切るのは難しいだろう。
私が正義実現委員会のツルギちゃん、ティーパーティーのミカちゃんと渡り合えたのは得意とする交戦距離が近かったのが大きい。
私は殴り合いなら誰にも負けない自信がある。
銃弾も近づいてしまえば、銃口を弾いたり回り込んだりで避けようがあったから戦えたのだ。
しかしヒナちゃんの得意とする交戦距離は2人に比べて遠い。
近づけなければ終わりである以上、1対1ではまず勝ち目がないし、ヒナちゃんの腕に対して他の生徒での肉壁は意味を成すか怪しい。
普通の生徒で受け続けてたらヘイローに関わりそうな怪我しそうだし。
さらに言えばトリニティだと流れ弾を嫌がっていたが、ゲヘナだと無視して撃ってきそうだし……
それに
総じてヒナちゃんは戦いづらい相手な訳だ。
ヒナちゃんとの戦闘は避けたいけど、どこかで戦うことにはなるだろう。
「言葉が足りなかった。ヒナちゃんの撃破が目的じゃないよ。ヒナちゃんから逃げるのとか、
「それなら私たちでも何とかなりそうですね★ ですが、他の風紀委員会の方はどうするんですか?」
「温泉開発部に陽動を頼んでる。私たちが相手をする予定なのはヒナとごく少数の風紀委員。それと
風紀委員会はいつも忙しそうだというのに……
「
そして温泉開発部、彼女たちがいるのであれば風紀委員会も手を焼く事でしょうし、実現性はありそうな計画ですわね。最後にこの計画の目的は?」
「それは、
「ふ、ふふふふふっ。フウカさんが聞いたら卒倒しそうな内容ですわね」
「わぁー! 何それ! すっごく面白そう!」
「部費の向上を求めてデモをする生徒は見たことがありますが、風紀委員会と
フウカちゃんの苦しみを
食事は大切なのだ。
生きていく上で他の何が足りなくなったとしても、食が不足した瞬間に人は終わる。
それをたった1人の女の子に背負わせて何もしない生徒会など潰してしまっても構わないだろう。
「わかりました。今の給食部、いえ、フウカさんの現状を良しとしないのは私たち美食研究会も同じ。
共に美食を志す者として
腹は決まった。
後は準備をして
アルちゃんとムツキが2年生で、2人が幼馴染っていう関係、良いですよね。
便利屋の成り立ちとか知りたい。
便利屋日誌見るとハルカが入ってる状態で、アルちゃんの部屋で作戦会議してます(アルちゃん眼鏡かけてる)
なので、連邦生徒会長失踪直前くらいに結成してる可能性もありますが、この世界では1年の頃から結成はしていたけどメンバーが集まっていなかった。ということにしています。
カヨコとアコの後輩概念とかゲヘナには気になるものが多いので、メイン更新が楽しみですね。