Side.空崎ヒナ
ウルトのクーデター予告直前。
「……ええ、はい、わかりました。あなた達は支援分隊が到着するまで待機を。
……ヒナ委員長、悪い報告が、……いえ、かなり悪い報告があります」
「……なに、アコ。もう悪い報告なら聞き飽きたのだけど」
昨日から続く、スケバンや、ヘルメット団による建物の占拠や破壊活動の対応に風紀委員会は追われていた。
徹夜には慣れているけれど、こうも立て続けに事件が起きるとシャワーを浴びる暇もない。
溜まり続ける始末書と
見ているだけで気が滅入ってくる。
「03-02区域で温泉開発部が破壊活動を行っているそうです」
「03-02? すぐそこね。規模は?」
「それが……確認しただけでも300人超、最新型の戦車に
……300人? 爆撃機?
どうやってそんなものを……
普段に比べて人数がかなり多いのも問題だけれど、武装が不良生徒の使うものじゃない。
いくらゲヘナの治安が悪いとはいえ、最新の戦車、それに爆撃機なんてもの易々と手に入らない。
誰かに支援を受けたのは確実。
あの温泉開発部に支援をするとしたら、冠ウルト*1の可能性が高い。
私達に悟られることなくこの規模の兵器を輸送するには、
以前から温泉開発部とあのティーパーティーを襲撃した大企業の社長、冠ウルトに関わりがあるとは知っていたけれど、
武器の支援をするほどだなんて思ってはいなかった。
規模も問題だけれど、冠ウルトが関わっているとなると破壊活動以外になんらかの目的があるはず。
「……恐らく陽動ね」
「よ、陽動? この規模でですか!?」
「とはいえ放置するわけにはいかない。アコ、イオリと休憩に入ってる子たちを呼び戻して。
1桁区域なら幾つか防空火器があるはず。確保を急いで」
「わかりました。ですが委員長は?」
「本命が動くまで待機するわ」
これまでの不良達による破壊活動は私たちを疲弊させるためだとすると、辻褄が合う。
冠ウルトはトリニティで起こしたクーデターや、その他の行動を見ても衝動的に動くタイプだと思っていた。
だけど、私の予想が当たっているとすれば評価を改める必要がありそう。
先ほどから各方へ連絡を取っていたカヨコが顔を上げる。
「……駄目、03区域の固定砲は
「まさかっ、昨日のヘルメット団は!?」
「……関連はあるでしょうね」
各地にある固定砲を狙った襲撃はよくある事だし、何度修理してもすぐに壊されるから費用の無駄だと思っていたけれど、この騒動に繋げるためだとすると温泉開発ではなく別の目的が?*2
個人携行できる武装だけで制圧するのは難しい。
「本命は別、主力部隊はここに残して、残りで温泉開発部を妨害した方がいい」
現時点での冠ウルトの目的がわからない以上、全戦力を割いても止めることができるかわからない温泉開発部は行動の妨害に留める。
仕方がないとはいえ、温泉開発部の蛮行は見逃すことになるから、また
「……そうね。……はあ、面倒くさい」
「(アルの言っていた大きな仕事がこの件に関わっているなら、温泉開発部側ではなく、本命側についているはず。
本当に便利屋として、学校を捨てて活動するつもりなら風紀委員会との対立は避けられない。
夢を語るなら誰にでもできる……だから、もし諦めるなら早い方がいい。……ただ、それだけ)」
美食研究会と合流してゲヘナの広い敷地内を給食部、と書かれたトラックで移動中。
追いかけてくる車は準備期間に埋めた対戦車地雷と隕石で爆散している。
道路がぐちゃぐちゃになるので支援部隊の到着も遅らせれる一石二鳥の手だ。
《こちら、便利屋68。ヒナが出てきたわ。予想通り万魔殿前の広場よ、他にも風紀委員はいるけれど数は大した事ないわね》
狙った通りの展開か。
ヒナちゃんの代わりにイオリちゃんが出てくる事も予想してたけど、それだとちょっとつまらなかった。
イオリちゃんもまあ悪くはないんだけど、ヒナちゃんに比べると数段格が落ちる。
ヒナちゃんだと美食研究会を単騎で全滅できるけど、イオリちゃんじゃハルナちゃんとのタイマンでも厳しい。
みんなと合流するまでの道中、風紀委員会の子とは放送室のある第一校舎から出るまでに出会わなかったし、来るのは力試しに来る無関係な生徒ばかりだった。
全員、新リボルバーの試射の的になってもらったが。
なかなか良い具合だった。ちゃんと撃ったら狙い通りに飛ぶし、トリガーを引いたら弾が飛ぶ。
隕石に比べて神秘の乗りが良いから数発で倒せるし、何よりカッコいい。
クラウンが作ってる宇宙船用のどデカいリニアガンとかバズーカも武器候補にはしたんだけど、日常生活の邪魔になりそうだからやめておいた。
しかし、隕石に神秘乗らないの意味わかんないんだよね。宇宙ってだけで神秘性の塊だと思うのに。
「狙い通り……ですわね?」
「ねえねえ、ほんとにヒナと戦うの? 勝てる気しないよ〜!」
私と一緒にトラックの荷台に乗っているハルナちゃんとイズミちゃんが不安そうな声を上げる。
「捨て駒使って徹夜させたし、勝率は十分にあるよ。ちょっと申し訳なかったけど。」
ここまでしたんだ。問題なく勝てるくらいじゃないと困る。
ティーパーティー襲撃では揉みくちゃになりながら何とか耐えてただけだし、ツルギちゃんとミカちゃんに勝てたわけじゃない。
私の与えたダメージより、誤射によるダメージの方が大きそうなくらいだったし。
ここら辺で一つ勝ち星を上げたいところ。
巡航ミサイルとかも用意するか迷ったけど、戦争がしたいわけじゃないから見送った。
お金を無限に使えちゃうと物量でごり押しするだけになっちゃいそうだったからある程度制限している。
まあ、温泉開発部に輸送機*3とか色々と贈ったけど、あの大人数を動かすのに今後も使えそうだったのと宿泊費の代わりだ。
「……ねぇ、何で私は縛られてるの?」
私が美食研究会と合流した時、なぜかフウカちゃんが縛られて助手席に転がされていた。
何とも言い難い顔*4で私たちを見つめている。
理由はわかる、わかるんだけど私は襲撃の現場に連れてくる気はなかった。
美食研究会にフウカちゃんを安全な場所に避難させるように頼んだはずなんだけどなあ……
「それはもちろん、
「初耳なんだけど!?」
言ってないもんね。
なんか盛り上がって放送で宣言しちゃったけど。
このままいけば、フウカちゃんは
……面白いのでいいか?
「ウルトさんが給食部の設備を整えてくれたのはすごく、すごくありがたかった。
泣いちゃいそうなほど嬉しかったのに……!
ティーパーティーを襲撃したっていう噂も何か理由があるんだと信じてたのに……!」
「
「なはは〜……ごめんね?」
フウカちゃんが嘆く。
いや、すまねえ。悪いことをしたとは思っている。
でもやりたかったし、
フウカちゃんの労働環境がカスなのは、その重要性に対して発言力がないからだと思ったし、
この騒動で給食部を蔑ろにすると私が飛んでくる。という印象を植え付ければマシになると思って……
「コイツら呼ばわりとは心外ですわね。
今のまま、ウルトさんにおんぶに抱っこでは根本的な原因は解決しないとフウカさんも感じていたのでは?」
「いや、だからって
そうかな……そうかも……
でもゲヘナじゃなく、トリニティで同じようなことがあったらティーパーティー襲う自信がある。
何なら連邦生徒会をやってもいい。負けるだろうけど。
「既に封は切られています。一度開封したものは余さず食べ切らなくては風味や食感を損なうだけではなく、腐敗して食べれなくなってしまうものです。
ですから一蓮托生と参りましょう?大勢で食べるポテトチップスは美味しいものですし」
「うん、やっちゃったものは仕方ないし、一緒に頑張ろ?」
「(私は巻き込まれただけなんだけど……)」
クロノススクールと書かれたドローンが走行中のトラックに寄ってきたのでフウカちゃんの隣でピースしておく。
私のファンサで再生数爆上げ間違いなしだ。
セイアちゃんにはゲヘナ襲撃は事前に伝えてあったけど、他の子には何も言ってないので私のスマホはさっきからブルブルと震えっぱなし。
鬱陶しいので切っておこう。
電源を切る前に通知欄を見ると大量の通知が……あっ、
自撮り送っとこ。
「目的地が見えてきましたよ〜⭐️」
給食部のトラックを運転していたアカリちゃんからまもなく到着の連絡。
万魔殿の無駄にデカい上に謎の銅像が立っている建物が見えてきた。
なんと8割近くの部屋が使われていない。
議員の数に対して広すぎるため、一部の生徒たちが肝試しと称して潜り込んでいることがある。
そのくらい汚いし、雑然としているのだ。
広場を見ると、戦車が何台も並んでいる。
歩兵も結構な数が見える。
戦車の砲身がこちらに狙いをつけた。
同時に斉射。死が降り注ぐが、アカリちゃんがハンドルを切り、すぐ側にある第三校舎の中へ飛び込む。
トラックが校舎に激突する直前で壁を爆破し、進路を開ける。
背後で凄まじい爆音が鳴り響き、校舎を揺らす。
進路になり得るであろう通路は、あらかじめ放置されていた机やら椅子を片付けておいたので走行に支障はない。
「間一髪でしたね⭐️揺れるので気をつけてくださいねー」
「うわわ! ぶつかる! あ痛っ! ……何これ、トマト缶?」
「あら? 美味しそうですわね。
この緊迫した場面で食べる缶詰は一体どのような味がするのでしょうか! 気になりますわね」
「……それ、割れてない? 赤いのがポタポタと。」
「どうせ食べるんだから、割れてたって関係ないよ! でも缶切りがないし……」
「賞味期限は大丈夫そうだけど、あ、フォークとかスプーンって持ってるよね?」
「勿論です。美食との出会いは一期一会。いついかなる時でもその心得を忘れず、常に各種食器は取り揃えています。ですが……缶切りは持ち合わせていませんわね。スプーンで代用することもできますが……」
小さなショルダーバッグの中から布巾に包まれたお皿とカトラリーセットを取り出す。
化粧品と食器とスマホで容量ギリギリじゃん。
キャッシュレス決済をほぼ完璧に普及させたとはいえ、財布も一応持っておいた方がいいと思うんだけど。
必要になったらアカリちゃんに借りるのかな?
ま、それはともかく。
「それでこそ美食研だね、私も紅茶用のティーバッグとカップ、スプーンは持ってるけど」
私の出番だ。
このスーパーパワーを持ってすれば、缶詰を開けるのに缶切りなぞ不要。
イズミちゃんからトマト缶を貰い、親指でめきょっと、蓋を摘んで引きちぎる。
トゲトゲになってしまった部分を押し潰して丸める。これで完璧だ。
中身は、ホールトマトか。スープに比べれば食べやすそうだね。
「はい。見た感じ食べても良さそう。」
「末恐ろしいほどの怪力ですわね。
……思い付きました! ウルトさん、りんごを素手で潰してジュースにすることは可能ですか?
創作物で見る表現ですが、アレは一体どのようなお味がするのか……」
「やった事あるし、いけるよ。」
「(…………帰りたい)」
ウルトが好き放題暴れ回ってる間、ミカちゃんは爆笑してますし、ナギサちゃんは頭抱えてます。
セイアちゃんはどう考えても面倒な事態に巻き込まれるため、学校をサボってます。