Side.空崎ヒナ
「はやく! 早くしてくださいっ! 委員長が下敷きに!」
「(何が……?)」
身体に覆い被さっている重い物を押し除ける。
ガラガラと周囲が崩れ、何かが転がってくる。
「(何も見えない……砲撃を受けた後、頭に強い衝撃を受けて、……埋められた?)」
「(状況に対して怪我は酷くない。骨折、出血もしていないし、動くのに支障はない。
事前情報通り、ウルトの攻撃は見た目に対して威力が伴っていない。
私からの攻撃を受けないように立ち回っていた姿を見ると無敵だという噂は誇張表現……鎮圧は十分に可能)」
握りっぱなしになっていたデストロイヤー*1を置き、暗闇の中で膝立ちになる。
このくらいならなんとか持ち上げれそう。
全身、翼も使って立ち上がり、弾みをつけて退かす。
瓦礫の隙間から光が差した。
「委員長!? ご無事ですか!?」
「大したことない。冠ウルトは?」
アコの手を取り、戦車の下から抜け出す。
周囲を見ると私が埋まっていた場所から円形に更地になっており、幾つかの巨大な弾痕……いや、隕石と考えるべきね。その辺りのアスファルトは完全に砕け、露出した地面が融解している。
「あちらに逃げていきました。……
やはり、ヒナ委員長を陥れる策略だったに違いありません!
トリニティ、それもティーパーティの重鎮を引き込んで、襲撃の責任を私たちに押し付けるために……!」
「陰謀論が過ぎるし、論理が飛躍しているわ。
例えそうだとしてもあのマコトが身体を張るとは思えないし、
冠ウルトの目的がなんだとしても、私たちのやるべきことは変わらない」
アコが指差した方角を見ていると、万魔殿目掛けて、戦車が空を飛んだ。
……もう衝撃を受けるような光景ではないけれど、およそ現実とは思えないわね。
そのまま戦車は万魔殿の壁面に突き刺さり、内部へと侵入した。
戦車の上に白い髪の生徒が見えたし、あの戦車は冠ウルトが動かした物で間違いない。
屋内での人質救出……本当に面倒ね。イオリがこちらにいれば多少は楽だったのだけど。
「……カヨコは?」
「先行して万魔殿に向かっています。
……あのゴリラ、いえ、あの怪獣は本当に私たちと同じ生き物なんでしょうか……」
「聞いてみたら? 私も気になるし」
「委員長が興味を!? 迷惑をかけるだけでなく、興味まで……おのれトリニティめ、絶対に許せません!」
Side.冠ウルト
戦車が万魔殿に激突する直前に、私が壁を蹴り壊し、飛んできた戦車を羽を受け止めるように、ふわりとキャッチして床に下ろす。
完璧だ。
卵のコスト削減のために卵キャッチボールで衝撃の殺し方を勉強しておいた甲斐があった。
会議室の机とか椅子、プロジェクターがぶっ壊れているが、床の耐荷重には少々余裕がありそうだ。
年季の入った建物だし、ちょっと心配だったんだよね。
「到着〜。みんな無事? 点呼とるよ、アルちゃん!」
「へっ!? あ、はい!」
戦車の中から声が聞こえた。
「ムツキちゃん!」
「くふふ〜、はーい♪」
「マコトちゃん!」
「…………(戦車のハッチから下半身を出したまま動かない)」
マコトちゃんは気絶したのかな?
頭打ったのかな、戦車のハッチからパンツ丸出しでY字に足を伸ばしたまま動いてない。
折角なのでスマホの電源を入れ、写真だけ撮っておく。
通知がとんでもないことになっているが無視だ、無視。
……イロハちゃんに共有するだけじゃなく、モモスタにも上げたくなるが私のアカウントは食べ物と温泉と自撮りしか写さない健全なアカウントなのでやめておこう。
マコトちゃんのパンツで私のアカウントがBANされるのは生涯残りそうな恥だ。
「これどんな状況? 私からだとマコトちゃんのお尻しか見えない。」
「えっとね〜、アルちゃんみたいな白目剥いて、意識飛んでるよ」
「私こんな間抜けな顔しないわよ!?」
完全に伸びてる。
無茶させ過ぎたかな、ここからは慎重に扱わないと。
「引っこ抜くけど、マコトちゃんの角とか髪とか引っかかってない? 大丈夫そ?」
「梯子に角を巻き込んでるわね、切ればいいのかしら」
「うわっ、角切っちゃうの? えっぐーい、アルちゃん本物のアウトローになっちゃったんだね……」
「梯子に決まってるでしょ!? そんな痛そうなこと考えるだけで鳥肌立つわよ!?」
なるほど、上からでも取れそうだけど角削っちゃいそうだ。
どうせ戦車は乗り捨てるし、梯子壊す方向で行こうか。
戦車のハッチに近づいてテキパキと作業し、救出する。
ぐちゃぐちゃになっている会議室から離れ、近場にあるイロハちゃんの休憩スペースにお邪魔する。
使いにくい場所にあるから、クッションも埃を被っているけどそれがまた秘密基地感を出していて中々良い場所だ。
カーテンから差す光に埃がキラキラと舞っている。
マコトちゃんはそこら辺に寝かせて小休憩だ。
作業中にアルちゃんのお腹も鳴ってたし。
「言われるがままに着いてきたけれど、ここは……?」
「うーん……
「せ、先輩!?
(ウルトさんが先輩だなんて呼ぶお方……一体どんなアウトローなのかしら!
万魔殿の中にセーフハウスを持つってことは潜入のプロ? トリニティからのスパイとか?
もしかしたらこの作戦にも関わっているのかも。会ってみたいわ……)」
未開封のクッキー缶を渡す。
水道はあるけど給湯器がない。素手で火は起こせるけど火事になりそうだ。
トリニティ生の嗜みとしてティーバッグは常備していたが、お湯がなくては何もできない。
水出しには時間がかかるし……
ウェーブキャットのステッカーが貼られたキャビネットを漁っていると粉末ジュースを発見した。
メロンにパイン、イチゴなどいろんな種類のものがある。
良い趣味してるねえ、
数回しか飲んだことないけど、こういった秘密基地っぽいところで飲む粉末ジュースは美味しそうだ。
初等部の頃は友達全くいなかったからちょっと憧れがある。
孤児だったし、寄ってくるのは白い仮面つけた変な大人ばっかりだったし。
……あれ? あの大人ってどこに行ったんだろ。
「わーお、粉ジュースだ! ムツキちゃんはイチゴね!」
「……ああ、うん、飲もっか。アルちゃんは何味がいい? 枝豆味とか
「(めっちゃ不味い……ウルトさんの好意を無駄にするわけには。これは試練よ、乗り越えてこそ一人前のアウトローになれるの!) お、お願いするわ」
飲むんだ……私でも噴き出しそうになったくらい不味かったんだけど。
これが原因で粉末ジュース飲むのをやめた。
イズミちゃんが好んで飲むタイプの味だから人を選ぶだけだと思うし、アルちゃんが適合者になることを祈ろう。
「ぶっふぇあ! ゴホッ! おえっ! ま、不味っ!?」
「あはは! 噴水みたいで面白〜い!」
「一気にいったけど全部吐いちゃったね。シンクの前で飲んで良かった。服には……付いてなさそう。」
「ううう…………まだ、口の中に残ってる感じが……」
Side.黒舘ハルナ
「ほっかほかの榴弾、いきますっ!」
グレネードが飛び、追いかけてくる戦車の履帯を破壊する。
便利屋さんがウルトさんを助けに向かうのを支援して、万魔殿に向かい走り出したところまでは良かったのですが……
「まさか入り口であの、カヨコさん*2が待ち構えているとは……少々予想外でしたわね」
「最近は全然見ませんでしたし、引退したと思ってましたね」
万魔殿の入り口は封鎖され、大量の風紀委員と、ゲヘナに住む素行不良の生徒であれば誰もが知っているあの鬼のカヨコが待ち伏せしていました。
フウカさんがすぐに進路を変更してくださったおかげで何とか逃げ延びていますが、
ウルトさんという抑止力のいなくなった
この数は……温泉開発部の陽動はあまり機能していないのでしょうか。
「暢気なこと言ってる場合!? あっちもこっちも通行止めでもう逃げ場が……!」
「何でも良いけど捕まるのはいやー!」
このままではウルトさん達と合流、どころか全滅が近いですわね。
どんな料理でも焦がしてしまえば、味も風味も損なわれてしまうもの。
早め早めの対応が肝心ですが、今の
どちらに転ぶとしても早めの連絡は責任ある立場としての義務ですわね……
イヤホン型の通信機を操作し、万魔殿襲撃組のチャンネルに繋ぐ。
《こちら美食研究会、問題が発生しまして……そちらに合流するのは難しいですわ》
《こちらウルト、位置は?》
《正面入り口はバリケードで封鎖されていましたから、今は西側の地下壕前です》
《了解、救援に行く。急ぐから頑張って耐えて。》
所詮、
見捨てられてもおかしくはない立場ですが、彼女であれば、と抱いていた期待は裏切りませんわね。
ウルトさんの機動力であれば5分足らずで合流するでしょうし、ほんの少しだけこの苦境を凌ぐことができれば……
「さて……ウルトさんが来るまで耐えますわよ」
「耐えるって……逃げ場なんてないじゃない! 行けそうなのはあのシェルターだけだし!」
「わぁー! また戦車! もうお腹いっぱいだよ!」
土埃を上げて、囲い込むように万魔殿の戦車が寄ってくる。
万魔殿に繋がりそうな経路は桁並みチェコのハリネズミ*3や有刺鉄線で封鎖されており、砲弾が次々と飛んでくる。
こちらの対戦車用の武装は既に打ち切ってしまいましたし、今の武装で複数の戦車を相手取るのは困難。
フウカさんの運転でなければ、今頃仲良く捕まってましたわね。
唯一の逃げ場は地下壕。
明らかに誘い込まれてますし、その後の逃げ場がないので避けたいのですがこれ以上はどうしようも……
「ハルナぁ! どうするの!? も、もう無理、わっ!?」
機銃がタイヤに当たり、トラックが蛇行する。
「降りますわよ!」
「燻されないように注意してくださいね〜⭐️」
フウカさんを抱き上げ、トラックから飛び降りる。
緑色の煙幕が焚かれ、半ばから折れてしまっている植木の側に隠れる。
……まともな遮蔽物がありませんわね。
倒しても倒しても次々と現れますし、万事休すといったところでしょうか。
止まってしまった給食部のトラックに榴弾が撃ち込まれ、ガソリンに引火、大爆発。
鉄片が散らばり、肌を掠める。
「あぁ……3ヶ月分の部費で買ったトラックが……」
「今ならウルトさんに買っていただけるでしょう?」
「ハルナが持ち出したせいで壊れたんでしょ!?」
ああ、つい余裕がなかったばかりに、趣のないことを言ってしまいました。
1人の美食家として恥じいるばかりです。
ですが、この状況。気にしてばかりいられないのも事実です。
隠れ損ねたイズミさんが囮になってくださる間に打開手段を見つけなくては。
ウルトさんの様に隕石を降らせることができれば、撹乱もできるのですが。
……いや、良い考えですわね。
《こちら美食研究会。
《……ふふっ、こちら、いつでも、何処へでも、ウルトイーツです。
隕石セットのご注文ですね。失礼ですが、ご住所をお伺いしてもよろしいでしょうか?》
《緑の煙幕です。その近くに置き配でお願いいたします》
《承知いたしました。3秒後、お届けにあがります。》
「アカリさん、フウカさん、走る準備を。万魔殿まで駆け抜けます」
「食後の運動とは言いますが、私、作戦が始まってから何も食べていないんですよね〜……
イズミさんとハルナさんは途中で缶詰を食べていましたけど……」
「終わったらウルトさんが幾らでも奢ってくださいますから、もう少しの辛抱ですわ」
空を見上げる。
冬至が近くなったとはいえ、日の入りにはもうしばらく。
……茜色に染まりつつある空が雨に触れた水面の様に揺れる。
波紋を引き起こした幾つもの石ころは、より大きな星に惹かれるように急激に加速する。
星になることもできなかった
道を作るように隕石が落ち、大量の爆発によって阿鼻叫喚が起こる。
「今です!」
「わぁー!? 置いてかないでぇ〜!?」
「(私はただゆっくりと料理を作っていたかっただけなのに、なんで、どうしてこんな目に……!)」
この作品では神秘的な防御力、物理的な防御力があるものとしています。
神秘を貫けなければ、物理的に与える影響は軽微になるという原則です。
ゲーム的に言うと、神秘が%でダメージ軽減して、物理が固定値でダメージ軽減って感じです。
普通の生徒は物理x神秘でダメージを算出しますが、
ウルトの場合、神秘がある閾値を超えない限り、ダメージを0、干渉不可とします。ちょっと前の後書きで書いたサブスキルですね。
そのためウルトが超新星爆発に巻き込まれようが、ガンマ線バーストを受けようが、そこに神秘が介在しない限りノーダメです。
ラスボスみてーな女だな。