ラスボスが増えてるブルーアーカイブ   作:シフィ

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万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)襲撃! その8

 Side.冠ウルト

 

 攻める。攻める。攻める。

 

 銃弾をサイドステップで避け、リボルバーで撃ち、足元に転がっている瓦礫を蹴り飛ばしてヒナちゃんの行動を阻害する。

 反転するように回って踵で銃を狙う。

 飛び退くようなステップで避けられる。

 

 マシンガンが火を吹き、薙ぐように紫閃が走る。

 半身になって踏み込み、チリチリと音をたてて弾幕の中を滑る。

 避けきれなかった弾が1発足首に直撃する。

 

 銃口がこちらに向き直る前に更に一歩。

 腰を入れて、姿勢を整え、拳を握る。

 

 

「ふっ!」

 

 

 ドッ、という音と共にヒナちゃんが吹き飛ぶ。

 

 正中線を拳で打ち抜いた。が、浅い。

 神秘を抜いた感触がなかったし、足が浮いてたせいで衝撃が伝わりきっていない。

 

 殴った衝撃を利用され、距離を離された。

 

 かれこれ5合は打ち合っているが、近づくのは毎回賭けだ。

 ターン制バトルのように攻守、逃げと追いが繰り返されている。

 

 

「私が追うばっかじゃなくてさー! ヒナちゃんからも来てよ。カムカム*1とか読んだことない? 

 積極性に欠ける女の子は全然彼氏できないんだよ!」

 

「あいにく、そんな暇はないから。それに……がっつきすぎるのもどうなの」

 

 

 .500S&W弾を3発づつ掴んでシリンダーに突っ込みリロード。

 煙幕に効果はないことはわかっているけど、少しでもリスクを減らすためにやれることはやらなくてはいけない。

 

 足裏を地面につけ、押し込み、引いて、ひねって捻じ切る。

 

 弾痕まみれのセメントに数えきれないほどのヒビが入り、炸裂。

 直感だとか経験則で粉々に破砕した地面で姿を消し、ヒナちゃんへ近づく。

 

 行く手を阻むように紫色が砂煙を晴らし、身体を掠めた。

 

 予測でしか撃ててないはずなのに、精度が変わらないのキツいのよ。

 光じゃなくて熱見てたりしない? 私も光が無くても何となく周囲がわかるし、透視みたいなこともできるから他の生徒ができてても不思議じゃないんだよね。

 

 

「恋愛は情熱らしいよ? バーニングラブがどうとか。」

「……ああ、そう」

「むぅ、つれない。」

 

 

 塩対応だ。それじゃあファンは付かないぞヒナちゃん。

 ……いや、私がスケバンとかヘルメット団けしかけて多忙で寝かせてないから対応が雑いのか? 

 お肌の健康に悪いし、寝てほしいけど、騒動を起こした本人がそんなこと気にしてもなあ……

 

 これ終わった後も大変だろうし、むむむ。

 

 恋を患った少女のようにヒナちゃんの未来を想い、情熱的に追い縋る。

 

 ステップ、ステップ。

 スロー、スロー、クイック、クイック、スロー。

 

 ヒナちゃんが退いて撃ち、私が追って殴る。

 ひどく暴力的だが、ダンスのようでなんだか素敵だ。

 

 ……そして、追いついた。今回の被弾はMG1発、SMG4発。ハイスコア更新だ。

 やり合う内にどんどんと癖がわかってくる。弾幕ゲーをやりこんでる気分。

 

 ヒナちゃんのことは全然どんな食べ物が好きだとか、趣味だとか何も知らないのに、

 ただ戦い方や逃げる癖、視線の動きからどんなフェイントを入れてくるのか、私がどう避けると思って、どう対処してくるのかそんな知識ばかりがついていく。

 

 ほとんど喋ったこともないわたしたちだけれど、私たちは拳を通じて互いを理解しはじめている。

 

 7つの古則にも似たようなのがあった。

 “理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか”だっけ。

 

 その問いに対する答えはよくわからなかったけど、今わかった。()()()()()()()()()

 

 

「なーっはっはっは! 全部終わったら一緒に温泉入ろっか!!」

 

「…………?どういう事?」

 

「裸の付き合いってやつだよ、仲良くしよ? それに、その可愛い顔に土をつけることになるから洗わないとね。」

 

「……仲良くするつもりがあるのなら、もっと穏当な手段を使って欲しいわね」

 

 

 バックステップしながら放たれた銃弾を避け、さらに一歩。

 言葉を交わしながら、撃ち合い、私の手足が届く距離に入り込む。

 

 浮かび上がるように左脚を後ろに下げ、構える。

 

 

「雑誌はあまり読まないみたいだけど、漫画は? ストリートオブヤンキーって不良漫画は読んだ事ある?

 殴り合いの中で芽生えた友情、こいつになら背中を任せられるって期待と信頼。

 ……戦いから始まる友人関係もあっていいでしょ?」

 

「言おうとしてることはわかったけど……!」

 

「それは良かった。だから……これはお近づきの品、贈り物ですよ、ご友人。」

 

 

 後ろに下げていた脚がブレる。

 衝撃波が真空の刃となり、地面が裂けた。

 

 こちらに向けられていたサブマシンガンが2つに分たれ、チャンバーの銃弾が暴発。

 

 加減せず、骨を折るつもりで振り上げた足は、腕で滑り、赤い一文字を刻み、制服に血が滲む。

 

 び、微妙、骨折ったら30分は腕使えないだろうと思ってめっちゃ気合い入れて蹴ったのに、浅い切り傷だけって。

 もう手加減とか考えてないんだけど、やっぱり勝てないか。

 

 サブマシンガン……MP40は切り飛ばしたけど、風紀委員会の標準兵装っぽいし、そこら辺に武器転がってるし、大した成果はあげられなかった。

 

 ずーっと距離取ろうとしてくるせいで直撃しないってのもあるけど、神秘を貫通し切れない。

 こっちの消耗は4割くらい来てるのに、ヒナちゃんの消耗は1割いったかどうかだ。

 

 戦っているうちに多少は慣れてきたとはいえ、足に結構な弾数くらってるから追いつくのにかかる時間が増えてきている。

 このままでは敗色は濃厚だ。

 

 美食研究会+便利屋68+私の6対1なら勝てそうなんだけど、そんな機会はもう来ない。

 

 例え、倒すことはできなくても耐え続ける。好機を待ち、未来に賭ける。

 残す勝利条件はみんなで逃げること。ヒナちゃんの撃破はサブターゲットに過ぎない。

 私が抑え続けなければ。

 

 

「さあさあ! 祭りの最後は踊りで締めるもの! 楽しい楽しいダンスにしようか!」

 

「(……蹴られた手は動く。直撃は危険だけど、受けたとしても数発は耐えれそう。

 足を狙って機動力を削いで時間をかければ勝てる相手。

 温泉開発部の相手を考えるとここで消耗するわけにはいかない。確実に勝たないと……)」

 

 

 

 

 

 


 

 

 Side.天雨アコ

 

 

 

 まさか、ヒナ委員長があそこまで苦戦するなんて。

 

 冠ウルトの足が地面に叩きつけられ、余波が私のいる万魔殿内の仮拠点にまで伝わってくる。

 

 怪獣め……厄介すぎます。

 委員長以外の攻撃を意に介さない耐久力。

 同じ生徒だとは思えないほどの怪力。

 さらには音速を超えかねないほどの機動力。

 

 委員長が冠ウルトに掛かり切りになっているせいで美食研究会の制圧に時間がかかっていますが……時間の問題です。

 

 こちらを終わらせれば委員長の手助けをできますし、勝利は確実。

 

「覇王だなんだと、もてはやされてはいましたが、大したことありませんでしたね。

 周到な事前準備と、大部隊での襲撃ですが……問題はありません」

 

「なるほど! あの電気、ガス、および様々な資源を一手に引き受け、極めて低価格で提供したことによりキヴォトスの経済を一変させた、食の王。

 しかしその王といえどゲヘナにとっては塵芥も同然、あんなのに手こずったトリニティはゲヘナ以下、マジ弱すぎ、と!」

 

「そ、そこまで言ってません!?」

 

 

 すぐ近くで構えられたカメラのレンズに私の顔が写る。

 

 クロノススクールの川流シノン、でしたか。

 いつの間にやらゲヘナに入り込んでいたようであちこちでクロノスの撮影用ドローンが飛んでいる始末。

 首を突っ込まれると後が面倒なのですが……

 追い返そうとすると、事実を隠蔽するなだの、報道の自由だの……対応に割く人手がないからって好き勝手に振る舞って……! 

 

 

「撮影の許可は仕方なく出しましたがっ! 作戦の邪魔をしていいとまでは言ってません! 利敵行為とみなして今ここで拘束してもいいんですよ!」

 

「なっ……聞きましたか! 皆さん! 

 ですが、クロノス報道部は我々の知る権利を妨害し、言論の自由を奪おうとする組織には決して屈しません! 

 この危険な環境でいち早く皆さまに情報を提供できるのはクロノススクールの報道部だけ! 今後の動向が気になる方は是非概要欄下にあるチャンネル登録ボタンと高評価をお願いいたします!」

 

「こ、この……!」

「わ、わぁー!? 落ち着いてください行政官!? これライブ配信されてますから! ()()()1()0()()()()()ですよ!? 暴力はまずいです!」

 

「……ふぅ、すみません。少し取り乱しました」

 

 

 配信……10万人? 平日の昼間だというのに暇な人も多いですね。私たちは多忙で満足に食事も取れていないというのに。

 人の目を気にするのは面倒ですが、ティーパーティーの桐藤ナギサのように切り抜かれて、ネットのおもちゃにされるのは避けたいですからね……

 

 ペラペラと現場についての説明や、あの怪獣についての解説をしているリポーターを無視して席を外す。

 連絡をとっている最中に介入されてはやりにくくて仕方がありません。

 

 

「イオリと連絡を取ります。あのリポーターが後を追ってこないように相手をお願いします」

「はい!」

 

 

 温泉開発部の妨害を行っているイオリに連絡を取る。

 

 

《……あれ、アコちゃん?》

《今は行政官と呼んでください。イオリ、そちらの戦況は?》

《全然ダメ、こっちの火器じゃ爆撃機が落とせないし、巻き込まれないようにするので手一杯。数も多いからこんな少人数じゃ制圧なんて無理だし……》

 

《わかりました。温泉開発部の相手は観測員だけ残してこちらに戻ってきてください。

 冠ウルトの制圧は時間の問題だとはいえ、早く終わるに越したことはありません》

 

《え? 委員長、それに万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の奴らもいるのに? そんな強いのか冠ウルトって》

 

《強い、というより厄介ですね。ヒナ委員長以外の攻撃が一切通っていません。

 しかし、私の見立てではイオリの攻撃であれば多少の手傷を負わせることが可能です》

 

《おお……もしかして今、頼られてる?》

 

《ええ、ですから早急に、単身でも構わないので万魔殿まで走ってください》

 

《了解、帰投する》

 

「つまり、温泉開発部の所業は見て見ぬふりをする、ということでしょうか! 

 ゲヘナ学園のすぐそばに巨大な温泉郷が建設されるのも時間の問題のようです、次回の放送は温泉リポートになるかもしれませんね!」

 

「…………」

 

 

 先ほどこのリポーターの対応を頼んでおいた情報部の生徒をジロリと睨みつける。

 

 頭を下げていますが、元より不可能だと思って頼んだことです。1人が諌めたところで止まるとは思えませんでしたし。

 

 

「いいえ、効率よく物事を片付けるためのテクニックです。

 こちらの騒動を片付けてから、温泉開発部に注力する。委員長の手が空けば簡単に片付く事件ですから」

 

「多分無理じゃないですかね? もう03-02区画どころか03-01や03-03、かなりの範囲の建造物が跡形もなく破壊されているとのことですが」

 

「委員長さえいれば可能なんです!」

 

「うーん、どうやらアコ行政官は少々夢見がちなようです。現実の見えていない上司というのはどこにいてもめんどくさいですね!」

 

 

 は? 

 

 

「……連れていきなさい」

「了解しました!」

 

 

 周りにいた風紀委員がクロノス報道部のリポーターを取り囲む。

 私に対する侮辱のみであれば聞き流してあげましたが、今のはヒナ委員長に対する侮辱でもあります。

 

 

「わ、我々は暴力には屈しませ……ああっ! マイクが! り、リポーターとしての命を奪うなんて! 返してください!」

「こちらでお返ししますから、穏便にお願いします……」

 

 

 ……ふぅ、これで少しは静かになりましたね……。

 乳の下半分を丸出しにして色気で視聴者を釣ろうとする下品な記者に遠慮をする必要なんてありませんでした。

 

 あとは冠ウルトと美食研究会を制圧さえすればひと段落、とはいかないですよね。

 あちこち壊して、こんなに騒動を大きくして……後始末をする私たちの身にもなってほしいものです。

 

 各方面へ連絡を取り、制圧の準備を進める中……通信が入った。

 

 これは、カヨコさんの回線。

 万魔殿の次期議長、あのサルを取り返しに向かったのでしたね。

 袋の鼠となった聞き覚えのない無名の生徒が2名、カヨコさんの敵ではありません。

 

 これで完全に詰み。チェックメイトです。

 

 無線機から音声が発される。

 

 

《こちら第4中隊、万魔殿次期議長の奪還に失敗した。目標はヘリに乗って逃走中》

「……えっ? 失敗? ヘリ? そんなものどこにも……」

 

「あ、あれです! 行政官!」

 

 

 窓から顔を出し、指をさされた方面を見上げるが、何も見えない。

 遙か上空を飛んでいる? 

 

 そうだとしたら、もう追うことは……

 

 

「あのシュークリームみたいな雲が歪んでいるところです! 見えますか!?」

「歪み……っ!?」

 

 

 それを見つけると同時に白い筒状のものが発射された。

 

 美食研究会の付近に展開していた戦車に突き刺さり、爆散。

 

 

「本当にあそこにいるのですか!? 対空兵器が破壊されたとはいえ、センサーは故障していなかったはず。

 非常時であったとはいえ見落とすはずがありません!」

 

「そ、それが、今も反応がありません。何らかの手段で光学的にも、電磁的にも隠蔽されているとしか……」

「出鱈目な女ですね……!」

 

 

 あの怪獣の会社がミレニアムも越える技術力を持つという噂も嘘ではないようです。

 それだけの力がありながらわざわざ真正面から挑んできた理由も目的も理解できませんが、本当に、本当に面倒な……! 

 

 

《ウルト及び美食研究会を回収しにくるはず。ここを逃せばもうチャンスはない》

 

 

 通信が切れる。

 

 カヨコさんの言った通り、対応が遅れれば敗北は必至。

 通信を聞いていた生徒たちが慌ただしく動き始める。

 

 

「兵站部は対空兵装の手配を! センサー類のあの様子では誘導弾も効果がありません。航空機に効果があれば何でも構いませんから早く配備を!」

 

「わ、わかりました!」

 

「情報部は敵機の位置情報を確定させてください。

 今見えている空の歪みも本物か判別がつきません。センサー、カメラ、目視あらゆる手段を用いて得た情報を各員に通達をしてください!」

 

「そして……」

 

 

 私がクロノスの下乳を丸出しにしているリポーターの相手をしている時からずっと読書に耽っている万魔殿の生徒に目をやる。

 

 次期議長のサルが乗っていた戦車の運転手ということで連れてきましたが、まともに情報も得れませんでしたし……

 

 

「私達にばかり働かせてないで、あなたも少しは動いたらどうなんですか! 仮にも自分たちのトップの危機でしょう!」

 

「なんですか鬱陶しい。そもそも私は今日非番なんです。この時間帯は1人で、ゆっくりと、ゴロゴロするのがライフワークだというのに……

 邪魔をしないでください。風紀委員会の行政官であるあなたに万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)へ命令を下す権利はないはずです」

 

「それは、そう、ですが、それでいいんですか……?」

 

「ええ、まあ。まずこういった事態に対応するのは風紀委員会の仕事でしょう? 私はマコト先輩に連れ出されただけですから」

 

 

 人望がないのか、この生徒が特例なのか……

 少なくともこんなのがトップだとは思いたくないですね。

 

 一体何のために私達は戦っているのでしょうか……

 

 

 

 

*1
カムカム 生徒に人気のファッション誌。他にも恋の駆け引きについてや、付き合った後の倦怠期の対処法なども載っている






ウルトは身体能力がお化けなので百鬼夜行で忍者しててもいいんですよね。
イズナの師匠やって、影分身とか螺旋丸(隕石)とか撃って、ミチルっちチャンネルの登録者爆増です。
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