Side.陸八魔アル
「うわうわ、見てこれ! すんごいおっきな機関銃! 白くて丸っこいけど、弾っぽいのが私の頭より大きい!
運転手さーん? これってどうやって撃つの?」
《上部のゴーグルをつけることで操作可能です》
「へぇ〜何だかハイテクだね? よいしょっ」
「……ムツキ、よく物怖じせずに扱えるわね……その、爆発したりしない? 大丈夫?」
「くふふ〜♫ アルちゃん、おばあちゃんみたいだよ? スマホ見てピコピコが〜とか言っちゃう感じ?」
「言わないわよ!?」
私たちはウルトさんが手配したヘリに乗って移動している。
何もないところから大きな白いヘリが現れた時は驚いたけど、あの方のすることに一々驚いてちゃダメよね……
ヘリの中とは思えないほど装飾が豪勢だしかなり広い。端にあるテーブルにはアフタヌーンティーの準備がしてあって私がこれまでに行った喫茶店に比べてもトップクラスにおしゃれだわ。
ここ、喫茶店じゃなくてヘリの中なのだけど。
ヘリはヘリでも、国のトップが乗るような輸送機のようで……トリニティの生徒会、ティーパーティーはこんなヘリに乗っているのかしら。それともウルトさんだけ?
「キキ、キキキキキッ、これほどの技術。ミレニアムすら越えるという話は事実……、あいつの財力を考えれば一機で終わりではあるまい……
やはりウルトさえいれば、連邦生徒会も、そしてキヴォトスを……キキッ、キヒャヒャヒャヒャッ!」
捕縛した
「運転手、他に武装はあるのかしら?」
《ムツキ様が利用中の、Agni-9 G-1リニアガンが一門と、
先ほど発射したSoma-2 Gー1 MLT-06 ミサイルの以上、2兵装となります》
「大きさの割に少ないわね!?」
《ウルト様の意向で兵装を減らし、シャワー室を追加しております》
「えっ?」
「は?」
へ、変な場所に運転席があるとは思っていたけれど、これって……
扉を開けるとそこには何と……ユニットバスが。
小さいけれど、シャンプー、トリートメントにコンディショナー。ボディーソープもあってすごく良い香りが。
「え、えぇー……」
「……いや、おかしいだろ。何故ヘリコプターにシャワールームが……? 何の意味が……こんなもの必要なのか? 水の重量も無視できない量が必要となるはず、全く理解できん……」
横で見ていた羽沼マコトと同意見だけれど……いいえ、常人には理解できないこの拘りこそがウルトさんをあの地位にまで導いたのよね。多分……そうに違いないわ!
1人の臣民*1として何とか擁護、擁護……できるかしら……
「い、今どきの富裕層、それも最も上澄みの超エリートはヘリコプターの中であっても身だしなみを怠らないのよ? *2そんなことも知らないの?」
「な、何ぃ!? そうだったのか!?」
「そう!
「くっ……」
い、言いくるめた! 意外と私の弁舌もやるものじゃない。
「あいつが私を裏切ったのはトリニティの思惑や、百合園セイアの策略だとばかり踏んでいたが……このマコト様の器が足りなかったというのか……」
「うん? ……ええ、そうね! 何て言ったって百合園セイアは預言の大天使とも呼ばれるほどの観察眼、洞察力の持ち主。
それと比べれば随分と格が落ちるでしょうね。
ウルトさんも彼女には頭が上がらないし、噂では既に連邦生徒会も牛耳っているらしいわ……
まさに神算鬼謀、最強のアウトロー、裏世界の支配者よね! *3」
「キキキ……なるほど。だが王冠はあのチビ女ではなく、この私こそが相応しいと知らしめてやらねばな」
「無理よ」
「…………」
ウルトさんが百合園セイアを裏切るところなんて想像がつかないもの。
モモチューブでの伝説の初配信。百合園セイア可愛いところ100選のコーナーの空気感は末恐ろしいものがあった。
元々ウルトさんを追っかけていた臣民は、クロノススクールのインタビュー記事などでそういう人だってことは知っていたけれど、
ウルトクラウン社の社長の初配信と聞いてやってきた一般人の狼狽えぶりと、途中で現れたセイア本人に平謝りする姿は忘れられないわ……
「アルちゃ〜ん、喋ってる暇なんてもうないよ?」
「ええっ!?」
慌てて外を見るとランデブーポイントはもう目の前。
迂回するような航路を取っていたとはいえ、万魔殿のすぐそこ。離陸から到着まで一瞬なのは当然だったのだけど、内装に気を取られすぎたわ。
私にできることを探さないと……!
Side.冠ウルト
空の揺らぎから幾つもの弾丸が放たれ、衝撃の雨に地上は晒される。
私の隕石に引けを取らない威力。
隕石の唯一の弱点であった神秘をほとんど持たないという弱点をも克服した銃弾は破壊の限りを尽くし、阿鼻叫喚の嵐を巻き起こす。
1発1発が尋常な威力ではなく戦車を貫通した銃弾が大地を揺らし、ボーリング痕を残していく。
頑張ればヘリの銃弾だけで温泉が掘れそうな勢いだ。
このまま放っておけば広場はスポンジのように穴だらけになるだろう。
「なーっはっはっは!! 適当に選んだ武器なのにめっちゃ強いんだけど!」
「これもあなたの仕業?」
「まあ、そうなるね。でもここまで酷いとは予想してなかった。」
あの女は一体何と戦うつもりでこんな兵器を量産してるのやら。
Agni-9 G-1リニアガン、クラウンが作成した、小型宇宙船……コルベット艦の標準装備にしている艦砲を地上戦向けにダウングレードした物。
私たちが地上でGTAやってる間にあいつは宇宙でステラリスやってる。
ジャンルが違うんだよね。おかげでキヴォトスの経済はぶっ壊れて電力がほぼ無償になったのだが。
「私は知らなかった。とでも言いたげね、あなたの会社の物じゃないの? それともミレニアムの作品?」
「さて、どうだろう? ま、人は撃たないようにしてあるから許して。」
「加害者の言い訳としては随分と不適切。……私の睡眠時間を奪った責任はとってもらう」
「それはほんとにごめんなさい。」
言葉を交わし、ダンスを再開する。
空から降る災禍に最後の決闘。演目も佳境に差し迫り、この騒動の勝者を決める時間がやってきた。
これを歌劇だとするなら銃と拳ではなくレイピアでも持ってやり合いたいところだけど、今時の女の子のトレンドは5.56mm弾だ。
そこそこ軽くて撃ち合っても傷が残らない。私はデカい弾の方が好きだけど。
私とヒナちゃんの勝負の行方だけど、私の消耗が8割ってところで、両足の骨が折れてる。
痛みは我慢すれば良いけど、機動力は落ちる。
「(足に当てた弾数は20発程度。1発も貫通していないけど、骨は砕けているはず。
動きは鈍ったけど、命中率は変わっていない。
機動力に任せた強引な突破が減って繊細に……私の攻撃に慣れはじめている。……時間もかけてはいられない)」
肌が青くなっているところが露出していてセクシーさよりも痛々しさが勝る。
ご飯食べるかお風呂に入れば一瞬で治るんだけど、手持ちの食料は全部美食研究会に渡しちゃったからなあ。
お風呂は論外だし。
足を捻らないようにしつつ、紫の弾幕を揺れるように回避。
ヒナちゃんに増やされた関節を捻るとちょっと萎えるくらいの痛みが走るからあまり動きたくない。
戦うのは好きだけど、痛いのが好きってわけじゃないし。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
マシンガンのリロードタイミングを見逃さず、一つ一つのチャンスを成果に繫げる。
もう片方に持ったサブマシンガンでリロードの隙は潰してくるけど、慣れてない武装なのか、神秘が明らかに薄い。
無視はできないけど、攻めるのはこの瞬間しかない。
「さあ、攻守交代だ。人の足をバカスカ撃ってくれたお礼をしなくちゃね!」
両足は死んでいるが、腕は残っている。
重心を下げ、腰の動きで一歩踏み出す。ロケットスタート。
踏み込みで地面が陥没し、衝撃が患部に伝わって激痛が走るが関係ない。悪化しようが飯食って風呂入れば治るし。
負傷した足だけでは加速が足りないので手も使い、首筋を狙う獣のように襲いかかる。
「性懲りもなく……!」
またしても足元を狙い、銃弾が迫ってくるが狙いがわかりやすすぎる。
手で掬い上げるようにして9x19mm弾を掴み取り、投げ返してリボルバーも撃つ。
「はーっは〜! 一発は一発、右の頬をぶたれたら、左の頬を殴り返せってね!」
顔は女の子の命なので殴らないけど。
勢いのままに腕で足を刈って、体当たり。
手首を裏から叩いて銃を落とし、背後を取り関節を極める。
これまでも転かして確実に仕留めようとしてたけど、逃げるのが上手くて捕まえられなかった。
しかしまあ、今回は……
「これで舞台は終幕かな? 斯くして冠ウルトによる革命はなされ、古く腐った
「
でも革命は民意によって引き起こされるもの。あなたと美食研究会の行動はただのテロ行為にすぎない」
「なんか余裕そうだけど……ヒナちゃんの膂力じゃこれ抜けれないでしょ?」
はっきり言って私の腕力はキヴォトス1だ。2番目はミカちゃんね。
シャー芯握ってダイヤモンド作れるし、神秘の関わらない物理現象では私に太刀打ちできるものはない。
人体の弱点を押さえている今の体勢から抜け出すには、外的要因が必要だけど、他の風紀委員や
砂漠の蜃気楼のように、空の揺らぎは幻だ。
特殊な塗料と、ヘリから発生する熱を別の場所に投射する仕組みで光は屈折するし、熱源を追うミサイルは命中しない。
音は出るけど、これだけ煩いと位置の特定は難しいだろう。
さて、ヒナちゃんの動きを封じたわけだけど、ここからどうしようか。
マウントポジ取った状態で一方的に殴るのはあまりにも卑怯だし、写真写りが最悪だし、女の子としてどうかと思うのでやりたくないんだけど。
このまま拉致は無理。立ち上がるだけでも危険そうなのに、ヘリに乗せたら落とされて終わる。
「……終幕、と言ったけど」
「言ったね。アフターパーティにヒナちゃんも呼ぼうか?
美味しいもの食べて、温泉に浸かって、みんなで楽しく、ゆったりと疲れを癒す予定だよ。」
「魅力的な提案だけど、遠慮しておく。代わりに……アンコールよ」
「アン……? うげっ!」
土で汚れた風紀委員長のコートから
いつピンを抜いた? 時限信管。避……無理! 弾き飛ばす、間に合う? 否……
「ぎゃー!」
ヒナちゃんで手榴弾に蓋をしようとしたけど、ダメだった。
神秘の籠った紫色混じりの爆風に巻かれ、身体をズタズタにされる。
まさか自爆するとは。
されたことがないとは言わないが、私より格上のヒナちゃんがやってくるのは予想外だった。
あのまま距離取って撃ってるだけで勝ってただろうに、押し倒されたのも作戦のうちか?
爆発で吹き飛び、いつの間にか横たわっていた。
めっちゃボロボロなんですけど。
震える手で地面に手をつき、立ち上がる。
ヒナちゃんは……ピンピンしてるなあ。
「……まだ立つの」
「結構ギリだけどね……。にしても自爆なんてらしくないじゃん。羽沼マコト万歳! って感じ? 見上げた忠誠心だね。」
「気色が悪いからやめて、あなたをこのまま逃せば風紀委員としての面目が立たないだけ。別にアレをどうしようが興味はない」
「マコトちゃんのこと虐めたいわけじゃなくて、給食部の部費と立場を向上させたいだけなんだけどね。
……ま、アンコールって事だし。もう少しだけ踊ろうか。」
幕が引かれない以上、演者は舞台を降りることは許されない。
銃は手放していない。拳は握れる。骨が粉々だとしても立つことができている。
まだ舞える。私にとっての大団円で終わらせるために。