Side.黒舘ハルナ
空に何かが現れて形勢が変わった。
何も見えませんが、あれが作戦前に聞いていた離脱用のヘリでしょうか。
相変わらず規格外な方ですが、これならばこの危機的な状況を脱することができます。
「マナーは悪いですが、ちゃぶ台返しといきましょう。望まない食卓につくのもこれまでです」
「では、ここからどうするんですか?」
「
ウルトさんなら風紀委員長相手でも引けを取らないと思っていましたが、
「助けられるばかりではグルメアドバイザーとして不適格。
ウルトクラウンの経営理念であるキヴォトス中の食文化を守り、相互扶助と競争によって更なる高みを目指す。
……とあるように助け合ってこそ共に真の美食を目指す同志足り得るのです」
「なんだかよくわからないけど……結局どうするの?」
「散々苦虫を噛ませて頂いたヒナさんに報復いたしますわ。準備はよろしくて?」
「わかりやすくなりましたね〜⭐️」
「はあ……もうここまで来ちゃったんだし、文句も言わないけど。
あと、私のこと庇わなくていいから。ほんっっとうに不本意だけど、足手纏いにはなりたくないし」
「うふふっ。フウカさんの覚悟も決まったようですし、参りましょうか」
混乱している風紀委員たちを撃ち倒し、遠く離れてしまったウルトさんの元へ走り出す。
食事をするなら残念会より祝勝会です。
美食とは味だけではなく環境やそこに至るまでの経緯を含めて味わうもの。
困難な課題を凌駕し、大団円で迎える食卓こそ、
Side.冠ウルト
ヒナちゃんの自爆による負傷と、追い撃ちの銃弾でボロ雑巾にされながら尚も倒れず、星を呼ぶ。
無様に転がるようにして弾を避けながら夕日に願う。
リボルバーを撃っても当たらないし、効果がない。
隙を狙っても追いつけるとは思えないから今の私にできることは宇宙に願うことだけだ。
茜に染まった空が願いに応え続け、キラキラと星にもなれずただ漂うだけだった
直撃させれば流石のヒナちゃんでも照準がブレる。何の痛痒も与えていないが、時間稼ぎにはなる。
「さあさあ、ウルト座流星群のタイムセールだよ! どんな願い事でも叶え放題、どんな夢でも叶えたい放題だ。そろそろ願い事は決まったかなー!?」
「これをやめてくれない……!?」
「なはは! 頼み方ってものがなってないね。
星を呼ぶ。星を呼ぶ。星を呼ぶ。
トリニティの三位一体のように3という数字は経典の中で重要な数字だ。
星に願うべきは自分の願いではなく他人の願い。3度願うことで魂は救済され、煉獄から救われるとか何とか。
まあ……星空は私のものなんだけどさ。
宇宙の遠くで浮かぶ、落とすには大きすぎる岩石同士をぶつけ合わせて、砕き、連ねて落とす。
人工アステロイド。全ては私の意のままだ。
宇宙から降り注ぐ石の濁流は大気と擦れて燃え上がり、輝く。
「今度は天の川! 七夕には半年も早いけど、今年は何を願ったのかな!」
「鬱陶しいわね……!」
走り回って逃げるものだから、星がカーテンのようになってヒナちゃんを追いまわす。
色味的に天の川というより炎の川だね、ミルキーウェイと呼ぶには熱そうだ。飲んだら火傷しちゃう。
しかし……こりゃいいわ。
どうせ生徒相手じゃ効かないと思って使ってなかったけど、星の弾幕で嫌がらせするのは結構心地良い。
ヒナちゃんも私のことを弾幕で虐めてた時はこんな気分だったのかな。
「鬱陶しいなんて酷い。織姫と彦星の恋路を邪魔するなんて、馬に蹴られて死んじまえ! ……あっ、もしかしてリア充への僻みだった?」
「あまり、調子に乗らないで!」
「あっ、やべ。」
星の雨に抵抗するように、紫の雨が放たれる。
足がボロボロすぎて走るのも辛いから、弾数が少ない場所に陣取って、命中しそうな弾は手で叩き落とす。
手も傷だらけになってきたが、フウカちゃんの過労で荒れまくっていた手を思えばなんてことはない。
温泉入ればそのうち治るし。
傷のない箇所なんてもう何処にもないし、骨折しすぎで骨の数が倍以上になってそうだけど、まだ私は立っている。
「私のこと虐めるから
私の武器の装弾数は星の数。口径はだいたい5mmから30億kmくらいかな!」
動かれると垂直軌道の隕石は当てづらい。
ミサイルみたいに誘導できれば良いんだけど、隕石は極めて原始的だ。
慣れと経験のおかげで上手いこと落とせてはいるが、やっていることはビルの頂上から地上にいる人に向かって目薬を落とすのと変わらない。
狙いをつけるのも面倒になってきた。大きいのは危険だし、細かめにして本当に雨のように星々を降らせる。
「なはは、なーっはっはっはっはっは!! 」
「(威力は大したことない。だけど、衝撃と地形の破壊。熱が厄介すぎる。
衝撃で姿勢が崩れるし、銃を持ち上げるのも困難。踏み止まるにも地面が融解して泥のように……!)」
星が落ちる。星が落ちる。星が落ちる。
天命は我にあり。
星々が咆哮をあげ、1人の少女を追い続ける。
遠い宇宙で星が私のために身を削り、その破片をキヴォトスへ、ゲヘナの今この場所へ落とし続けている。
「逃げてるだけじゃ願いは叶わないよ? 逃げたら一つ、進めば二つってね!」
「(直撃した隕石が溶けて剥がれない……火傷にはならないけど、重みで足取りが)」
逃げて。逃げて。逃げて。
転んだ。
転んだ女の子には手を差し伸べるべきだけど、このチャンスを逃せば勝機はない。
星が雨となり、躓いた少女を追い詰める。
私としての要素を三位一体として星を落とす。
「ははは、なーっはっはっはっは! これで終わり? アンコールとしてはそこそこの出来だったんじゃない。ヒナちゃんのご期待に添えたかな?」
声は聞こえない。星雨の中で膝をついている姿が見えるし、未だにヘイローは輝いている。
やっぱり星では致命打にならない。
星に願うのは呪いではない。人を害するために使われるべきではない。神秘によって守られた少女には星は届かない。
私を救うために星々はヒナちゃんを封じることを選んだ。
使い勝手悪いからもっと威力出して欲しいんだけど。
「……本当に終わりか。逃げずに攻めかかってくれば勝ち目はあったのに。」
圧倒的だ。
隕石って宴会芸か、希少金属降らせて資金にする時くらいしか使い道ないと思ってたのに、ヒナちゃん相手に隕石だけでここまでやれるとは思っていなかった。
直撃したら吹っ飛ぶのに、それが行動阻害にならないと思ってるのが間違いだったか。
普通の生徒相手に使っちゃうと酷い怪我になりそうだし、強い子かつ、屋外限定の必殺技だね。
このまま時間さえ過ぎれば勝ちですわ。なーっはっはっは!
「委員長に、ヒナ委員長に……なんて事してるんですか! この怪獣め! 」
「うん?」
声と共に背後の方でバシュッという音が。
ロケラン? ヒナちゃん以外の神秘の弱い攻撃なんて無視していいか。
気にせずヒナちゃん目掛けて星を降らせまくる。
星雨を止んでしまえば満身創痍の私はすぐさま倒されてしまうだろう。
ボコボコにされた仕返しでちょっと楽しいし。
「グワー!?」
無防備な背中にロケット弾が連続して複数着弾、爆発し、吹っ飛ぶ。
えっ? 結構痛いんですけど。
ヒナちゃん目掛けての隕石は止めずに、ごろんごろんと転がって、立ち上がる。
……やば、背中撃たれたせいでブラのホックが切れた。
切れただけだし、万魔殿の制服と合わせて結んでおけばなんとかなるか。
「痛たた、何? 願い事なら先着一名様で予約制だよ? こちとら誰の願いも叶えない事で有名な流れ星ちゃんだぞ。」
「ふざけた事を言ってないで、今すぐ委員長を解放してください!」
顔を上げると、横乳丸出し、カウベル付きの変態牛女が立っていた。
……セイアちゃんは服の横から手を突っ込みたくなるけど、あれは叩きたくなるな。
百鬼夜行じゃ標準的な服装だとはいえ、仮にも風紀委員としてどうかと思う服装だ。
まあ、セイアちゃんも
「だから言ったでしょ? 誰の願いも叶えないって。叶えたい願いがあるなら自分の力で叶えなよ。
それとも星じゃなくて神にでも祈る? キリエ、キリエ*1ってね」
「……っふぅ〜……ええ、元よりそのつもりです。トリニティのくだらない文化に付き合うつもりはありません。
各部隊、上空への攻撃を中止し、冠ウルトへの砲撃を開始してください」
「あっ、それはちょっとやめてほしい。」
茜色の空へ無意味なお布施をしていた生徒たちが一斉に攻撃をやめ、こちらへ向き直る。
ヒナちゃんとやり合ってる時もある程度の攻撃はあったけど、痛くも痒くもなかったから無視していた。
だけど、この数でこの負傷度合い、さらにはヒナちゃんへの星雨を止めてはいけないとなると結構面倒くさい。
この横乳さん……行政官の天雨アコだっけ? たまたまなんだけどこの状況に少しあってそうな名前の子だね。
まあ、この子の攻撃がちょっと痛かったし、倒すなら指揮官でもありそうなアコちゃんからだ。
「訳わかんないけど兎も角撃てぇ!」
「「わー!」」
私のヘリに向けられるはずだった対戦車砲やら多種多様な爆発物に、様々な口径の銃弾が迫ってくるが全部無視だ。
まともに動けない以上取捨選択が必要。
地味に痛い弾が飛んでくることもあるが、誰が撃ったのか判別つかないし無視だ無視。
アコちゃんの攻撃の方がずっと痛い。
そしてヒナちゃんの動きは止まっているし、星の制御にそこまで気を使わなくていい。
余っている隕石を適当に落として雑魚を散らす。
骨が砕けた足で溶けた地面を踏み込み、ゆっくりと迫る。
「まるで不死身の化け物ですね……ですが、私の攻撃もあなたに効くことがわかりました」
「楽観的だね。あのヒナちゃんでも倒せなかったこの私を。ただの行政官が倒せるとでも?
物語の幕を引くのは
「まるでライター気取りですね。確かに私では
ですが、
「……?」
何言ってんだこの子。
身体痛すぎて私も何言ってるかわかんなくなってきてるけど、この子もまあまあ変な子だ。
ヒナちゃんの苦労が偲ばれる。
ガチャリと本来空に向けるはずのロケットランチャー、フリーガーファウスト*2の照準が私に向けられ、放たれた。
銃弾弾ける相手に対して正面からロケットランチャーを撃つのは想定が甘い。
拡散して放たれたロケット弾にリボルバーを3連射、残りは横に避け、爆炎に紛れて一息で迫る。
「残念ながら、ヒロインの資格もなかったみたいだね? よくてペットってところ。」
「っ!?」
一発で刈る。
ロケットランチャーを撃ち終え、完全に無防備となったアコちゃんの目の前に立ち塞がり、腰元に構えた拳を顎に向けて、振りかぶり……
恐怖を誘う大きめの銃声が聞こえ、かなり痛めの弾が腰、腕、足に着弾。
「いっ……ま、また邪魔!?」
「……アコ、前に出過ぎ。向いてないから行政官になったってこと忘れた?」
「す、すみません……」
たたらを踏んで、銃声の方向を振り向くとカヨコちゃんがいた。
なんか攻撃痛そうな子だとは思ってたけど、ほんとに痛かった。
後はイオリちゃん来たら風紀委員会揃い踏みじゃん。それはやってられないんだけど。
「ですが……これで私たちの勝利が近づきました。ここで総力を結集して怪獣を倒すことができれば……!」
「できればそうあって欲しかったけど……私たちに仲間がいるように、冠ウルトも1人じゃない」
「うわーん! 置いてかないでよぉ〜! こんなヒノム火山*3より溶岩塗れのところ熱くて無理ぃー!」
「私なんて隕石が頭に直撃したんですよ? 溶岩くらいいつもなら美味しい美味しいって食べちゃうじゃないですか」
「た、確かにちょ、ちょっと美味しそうだけど……」
「美食の探求も重要ですが、それよりも今は重要なことがあります。それにこれは……食べるにはかなり覚悟の要る物ですし」
「……ねえ、何で隕石が降ってくることや、溶岩の上を普通に走れてることに疑問を抱かないの? 私がおかしいだけ?」
「あの方と付き合っていく以上、隕石は日常風景となります。フウカさんも慣れてくださいな」
耳を澄ませると福音が聞こえてきた。
おいおい、勝ったが?
私がこの辺り一帯を溶岩と隕石の荒野に変えたから上からの射線はないし、全員が無防備。
カヨコちゃんによって誘い込まれたキルゾーンではなく、風紀委員会の陣形はぐちゃぐちゃ。
戦車は私のヘリがぶっ壊したから残ってないし、単純な地力勝負だ。
私と美食研究会が力を合わせれば勝てる。
それにヒナちゃんを封じ込めた以上……あれ?
アコちゃんに気を取られて確認できていない。
背後から迫る小さな紫の弾丸。それに気づくが足がふらつき避けることができない。
腕で叩き落とす。
9mm弾のくせにアコちゃんに撃たれたロケット弾より痛い。
マシンガンの方だったらかなり危なかったが……
「……なはは、あの立派なマシンガンはどうしたのさ、小さな銃を大事そうに抱えて。全然似合わないよ?」
「……壊れた。あなたのせいで服も髪も銃もボロボロ。請求は何処にすればいい?」
……や、やってしまった。ヒナちゃんを見ると固まった溶岩とか土とか色んなもので本当にボロボロだ。
白いモップみたいな髪が茶色に見えるくらいだし、ガビガビになっている。
汚れていてわかりにくいが服も際どいところが破れてるし、放送しているクロノスのチャンネルがBANされかねない。
服装に関しては私も大概な事になっているが、腰元と胸は死守している。
「あー、ごめん。銃は直すし、服も新しいの用意して、エステとかも用意するから後でモモトーク教えて。」
「構わないけど……本気?」
「うん、ヒナちゃんに嫌われたいわけじゃないし。ちょっとやりすぎな気がするし。」
「……そう」
「い、いけません委員長!? こんな怪獣と、そんな、エステ……身体をまさぐり合おうなんて! きっと食べられてしまいます!」
「何を言ってるの?」
やっぱ変な子じゃん、一緒にご飯を食べるかもしれないが、ヒナちゃんを食べることはない。
カヨコちゃんは頭抱えてるし、よくあることっぽい。
ウルトクラウン社の社長として、全ての生徒には健やかで、女の子らしく、美味しいものを食べて笑っていてほしい。
うちの商品で着飾ったヒナちゃんを見たいってのもあるが。
「食、とあらば。
ガストロノミーを実践する者として、いつ
「やぁっとついたー……もうお腹ぺこぺこだよ! 終わったらミントソースグラタン食べたい!」
「確かに溶岩ってグラタンに似てますよね、ミントソースは不要ですが、私もお腹が空いてきました……」
「いや、あんた達さっき食べたばかりじゃないの……」
溶岩地帯を抜け、私の元に美食研究会の面々とフウカちゃんがたどり着いた。
グラタン食べたいね、チーズがグツグツと焼けてとろっとろになったやつ食べたい。
私も身体が栄養を求めている。バキバキに折れた骨も治さないといけないし、早く帰りたい。
「ふふっ、溶岩くらいいくらでも作れるし、終わったら溶岩で焼いたグラタンでも食べようか。フウカちゃん手伝ってくれる?」
「溶岩で料理なんてしたことないですが……できるんですか?」
「温度調整が全くできないし、普通の調理器具じゃ溶けちゃうけど、意外とできるものだよ。
私の作った溶岩なら神秘さえ込めれば実質的な火加減ができるし。けどまあ……」
風紀委員会を見遣る。
役者は揃った。
「こっちが先約だね。」
私の声と共に戦闘が始まる。
日は陰り、対空攻撃を迂回して回避していたヘリがやってくるまであと数分もない。
ヒナちゃんのマシンガンが壊れて弱体化している以上、殲滅も可能だとは思うけど、勝利条件は変わらず、この場からの離脱だ。
ここまで来たら勝ち切りたい気分もあるけどね。
《私がヒナちゃんを抑えて、隕石で状況をかき乱すから、美食研究会はアコちゃんとカヨコちゃんをお願い。あとできればヒナちゃんへの援護射撃もくれると嬉しい。》
《了解しましたわ》
とうとう、これで終わりだ。
私がゲヘナ学園で過ごした3日間が、その意味がここで決まる。
無意味なことなんてないし、負けたとしてもそれはそれで何事もなかったかのように日々は進むんだろう。
だけどやっぱり、勝って終わりたい。
「終幕だの、クライマックスだの言ってきたけど、これが正真正銘のラストダンス。そろそろ慣れた? 思い残しはない?」
「あなたのせいでダンスに苦手意識がつきそうな事以外には、ね」
「それは大変だ。私としては良い思い出で終わってほしいんだけど。」
私はもうほとんど動けない。
1度目のダンスはマコトちゃんとの共演で、ヒナちゃんは遠くから見ているだけのオーディエンス。
2度目のダンスは情熱的に私が追いかけ、天の川、星雨によって2人は引き裂かれた。
3度目のダンスは……ヒナちゃんに追いかけて貰わなくちゃね?
銃弾をふらふらと避け、手で弾く。
マシンガンの威力に比べれば10分の1くらいだし、まだ耐えることができる。
「冠ウルトへの対処は部隊長とヒナ委員長で行います! 他部隊員は、美食研究会を攻撃してください!」
「……なるほど、
「残飯を出すようなレストランは美食家として潰さないといけませんね〜⭐️」
「そうですわね、蛇口を閉めて差し上げる必要がありそうです」
ハルナちゃんの持っていたリモコンが操作され、様々な場所でテンポよく大爆発が発生した。
1、2、3、4、5、6、7……合計7度の爆発によって溶岩地帯にまたクレーターが刻まれた。
神秘の弱い隕石では仕留めきれなかった生徒達が爆発に巻き込まれて、ヘイローの輝きを失う。
ぱっと見で20人近く倒してる。良いねえ?
「……アコ、冠ウルトは私が倒す。先に美食研究会をお願い」
「……了解しました。委員長の役に立てるここぞという場面で邪魔をして、許しません!」
私に差し向けられるはずだった戦力が美食研究会へ矛先を変える。
アコちゃん、カヨコちゃんクラスの戦力だともう耐えれなかっただろうし、ありがたい。
「移動の間際に作成した
「ど、どこがよ! 私のところにまで破片とか溶岩が飛んできたんだけど!?」
「30は作ったんですけど……ウルトさんの隕石に巻き込まれて壊れちゃったんでしょうね」
「わーっ!? 私ばっかり前に立たせないで2人も撃ってよー!?」
不発が67%? 勿体無いことをしてしまった。
隕石落とすにしても、連携を取りつつじゃないと誤射とか色々と問題が発生するし、多用は厳禁か。
でも隕石便利なんだよね。
細かい狙いをつけるのが面倒なだけで、私の消耗は0。息をするより簡単な行為だ。
それに威力出ないけど派手でテンション上がる。
写真映えも良いし。
そして……そろそろだ。
喧騒の中で手を広げる。雲が流星で晴らされた。
「物語の
赤い斜陽は地上を離れ、後には煮立つ溶岩と、砕けた鉄と車輪。散らばった薬莢は踏みつけられて歪んでいく。
夜の闇が私たちを染めていく。
うら若き乙女達の舞台としては不適切だ。
「この星は私のものじゃないけど、この宇宙は。これからの星空は私のものだ。
土に汚れ、闇に溺れるだけじゃ勿体ない。 星に踊ろう。」
舞台のクライマックス。演者は集い、観客はこれからの結末に目を輝かせる。
足りていないのは、
日が沈む。月が煌き。星は彩る。
空の全てが今ここに揃う。
茜色の空と暗色の空。
どっちつかずの天蓋にはっきりと、プラネタリウムの中のように星が彩られる。
満天の星空。灯りの増えてしまった地上ではもう見ることのできない星々。
空というキャンバスが日の茜と、月の金、夜の闇、星の白で染まる。
私の時間だ。
私にできることは星を動かすこととその輝きを増すことだけだけど、今この瞬間が最も心地いい。
天然でありながら私の作った人工的な空。
誰も彼もが空に魅入られる。
描くならこの空がいい。全部、私の意のままだ。
『……なんかまた馬鹿なことしてるから見にきたけど、雑に太陽とか動かすと潮の満ち引きとかこの星の環境がめちゃくちゃになるから注意してほしい。こっちで今回は調整しておくけど、次から気をつけて。』
「……これは、夢のようですわね。なんて欲張りな空なんでしょうか」
「……綺麗だけど、でも違和感があって、見たことのない……」
「なにこれ、お日様沈んだのにさっきより明るい……」
「規格外だとは思ってましたけど、本当に常識にはとらわれない方ですね⭐️」
「な、何なんですか、これは。まさか災厄の前兆……?」
「……いや、多分、ウルトが引き起こした現象。あれが産まれてから何度も天文学の歴史が変わってる。このくらいできても不思議じゃない」
「そんなことが人に可能な所業なんですか……?」
「まともな存在ではないことはわかっていたでしょう。それに、怪獣じゃなかった?」
各々が空を見上げ、賛美を、畏怖を、憧憬を口ずさむ。
冬の星々。オリオン座、おおいぬ座、こいぬ座、うさぎ座、きりん座、やまねこ座。
そしてふたご座におうし座といった大御所以外にも、名もなき星が初舞台に心を躍らせ、光を放つ。
戦いの最中であることも忘れて、空へスマホを向けている生徒もいるが、この空は私たちのバックダンサーだ。
主人公じゃない。
「私の作品に見惚れるのは良いけど、これはただの演出だよ。どうせ最後なんだから、派手にいこうってだけ。
主役は空じゃなくて私たちだ。この夜の幕を引くのは私たち。
この空に負けないように、魅せてよ、泥臭くて美しい、
星が降る。空の絵画が涙を流す。
星の光が雨になる。
天を裂いて、地を穿つ。
私たちと風紀委員会じゃ数は全然違うが、この星空全てが私たちの味方だ。
キヴォトスの全ての生き物を合わせたとしても敵わない数。
神秘を持たずとも頼もしい援軍となる。
「全く、情緒の無い怪獣ですね……馬鹿の一つ覚えのように星を降らせて!
全部隊、空に見惚れている暇はありません! 一刻も早く美食研究会を制圧してください!」
銃撃戦が再開した。演出だ〜なんて言ってみたけど、自分の作ったものを見てもらえないのは寂しいものだ。
流星が滝にように地平へ降り注ぐ。
おしゃれをした空が見て欲しい〜とはしゃいでいる。
襤褸布を纏う私なんかじゃなく、綺麗に着飾った空を見ていてほしい。
「なはは、なーっはっはっはっはっは! 」
「嫌になりそうなくらい星は見た。舞台も。アンコールとは言ったけど、いい加減終わらましょう」
「良いね、本当に良い。やっぱり幕を引くならヒナちゃんだ。
……そうだね、覇王と魔王、雌雄を決そうか。」
紫の弾丸が星空に加わらんと迫る。
いつものマシンガンではない以上、脅威度は大きく落ちる。が、私も身体がもうまともに動かないというハンデを背負っている。
そしてヒナちゃんに予備のサブマシンガンという武器があるように、私にも星という武器がある。
被弾はもう防ぎきれない。だが意識さえあれば星は落とせる。
頭部への被弾だけを避け、星に願いを込めて迎撃する。
銃声と流星のセッションじゃ音が足りないな。ドラマーだけじゃ盛り上がりに欠ける。
次回までに星でピアノの練習をしておこう。
「
「……その解釈はどうなの? その歌はもっと抽象的なものに対しての敬意を示すための歌だったはず。
確かにやっていることは神のような所業だけど、唯一無二、全知全能というわけじゃない」
その通り。私は誰よりも宇宙に近いだけで、ちょっと才能豊富ってだけの生徒だ。
青あざだらけの身体を星空に晒し、星よりも白く輝く髪と瞳で泥に塗れたヒナちゃんを見つめる。
「うん、私は普通、よりちょっとだけ特別な女の子。
星に頼らないと、ヒナちゃんっていうちょっと強い普通の女の子に負けちゃいそうな元トリニティ生。」
「私が普通……?」
「隕石落とせないでしょ? じゃあ普通だ。」
「…………」
「だから、これが終わったら、また一緒に遊ぼ? 今度は普通にご飯食べにいくのもいいね。ちゃんとご飯食べてる?」
「……ふふっ、それで、話の着地点は食事について? あいにく、昼食はあなたのせいでゼリー飲料よ」
「あー、ごめん。……アフターパーティにヒナちゃんも呼ぶね。」
星と弾を撃ち合いながら談笑する。
私がしたいのは戦いという名のスポーツだ。恨み辛みを抱いた殺し合いがしたいわけじゃない。
ヒナちゃんには迷惑かけまくったし、その分のお返しをせねばキヴォトス有数の会社の社長として申し訳が立たない。
「あの大企業が開くパーティ。気にならないといえば嘘になるけど、風紀委員としてこのまま見過ごす訳にはいかない」
「それで良いよ。刻限はすぐそこだ。おいで?」
「(……もう弾がない。それにこの銃じゃ威力も足りない。落ちている銃は溶岩塗れの物ばかり。私の銃がそうだったように原型が残っていたとしても多分撃てない。となると……残ったコレに頼るしかない)」
ヒナちゃんの今の武装で私を倒しきれない以上、近づくしかない。
私から迫るんじゃなくてヒナちゃんが来るのだ。友達っていうのはそういうものだし。
走りながら放たれた9x19mmパラベラム弾を流れるように弾き落とし、飛んでくる手榴弾を手先の震えるリボルバーで撃ち落とす。
手で弾を弾きすぎた関係で、拳もまともに握れなくなっている。
ヒナちゃんの近接技能であれば、今の私相手なら勝つことが可能だろう。
足が動かない以上逃げることもできない。
ここまで星を酷使したことはないけど、私ならできるはずだ。
空に描き加えるために筆を取った。
意志を込める。
「見飽きちゃってるかもだけど、今の私にはこれしかないから許してね!」
空と地上を繋ぐように星の破片を大量に連ねて流星の壁を描き足し、私とヒナちゃんを隔てる天の川を作りあげた。
爆音と閃光が目を灼き、鼓膜を揺さぶる。
光の嵐で地面が焼け爛れ、美しい星空と対比するように地上には地獄が広がる。
神秘で守られていなければ死すら感じさせる光の奔流は止むことなく降り注ぐ。
だが……
「……真っ直ぐ突っ切ってくるか。ヒナちゃんって美術館巡り30分くらいで終わらせちゃうタイプ?
つまんない歴史の説明にも目を通そうよ。」
身一つで天の川を渡り切る。随分とフィジカルのある彦星様だ。惚れちゃいそうだね。
空が曇ったくらいで会うのを諦める甲斐性なしとは比べ物にならない。
さらには中元として銃弾が届いた。仕方なしに腕で受け止めるが、返品させてほしい。代引きで腕の骨持ってかれたし……
「近くで見ると光ってるだけでよくわからない。星は遠くから眺めるだけで十分」
「確かに、次からはそれも考慮させてもらおうかな。」
「あなたの相手はもうこりごりなのだけど……ひとまず、これでお終い」
私の彦星様が溶岩道を走り、情熱的に迫ってくる。
残り50mといったところでサブマシンガンを捨て、隠し持っていたソードオフショットガンに持ち替えた。
……おう、殴ってくると思ったらショットガンか。
めっちゃ痛そう。
絶体絶命だが……このダンスは1対1じゃない。
星に願っても、神に祈っても運命が変わらないなら、人に頼るのだ。
「ハルナちゃーん!」
「……っ!」
銃声、ハルナちゃんの銃、アイディール*4から放たれた銃弾が正確に手元を撃ち抜く。
銃は落とさなかったけど、衝撃で地面に向かってトリガーを引いてしまった。残り1発。
ヒナちゃんから来てくれたところ悪いんだけど、集団戦だ。
私が意に介していなかったとはいえ、私にバカスカと撃ち込み続けてくれた風紀委員の子達の分。
「ヒナちゃん、卑怯とは言うまいな?」
「言わないけど……! アコ! カヨコ!」
「うう、隕石さえ、怪獣さえいなければ美食研究会如きに……」
「……ごめん、負けた」
ひゅー! いいね!
私がやってたことといえば隕石をそこら中に落としまくっていただけだ。
カヨコちゃんにボコられていた時の復讐を果たした。
ヒナちゃん抜きの風紀委員会相手なら戦える、と言っていたのは嘘ではなかった。
「ウルトさんの落としていた隕石のおかげで、ターキーシュートでした。これで形勢逆転、ですわね?」
「も、もしかして……私たち、ヒナありの風紀委員会に勝てるの!?」
「これで5対1。流石の風紀委員長もこれには勝てないですよね〜」
「(勢いに任せて私も撃っちゃった……)」
「…………」
ヘリの音が近づいてくる。私以外にまだ姿は見えていないけど、私たちのすぐ上空にヘリが到着した。
《や、やっとついた。隕石に当たりそうで少し迂回しちゃったけど。便利屋68、あなた達のすぐ上空に到着したわ!》
思ってたより遅いと思ったら私のせいか。……まあ直撃したら落ちそうだよね。
「7対1、どうする? 武器さえまともならヘリを落とせたかもしれないけど、そんな銃じゃ当たったとしても装甲が抜けないし。」
「……はぁ……これ以上は無意味ね。降参するわ。マコトのことは煮るなり焼くなり好きにして」
……おお。やった。
その言葉を聞いて力が抜けるが、まだ早い。
「一時はどうなることかと思いましたが……一件落着ですわね」
「いや、一つだけ残ってるよ。」
銃を落として、ボロボロの姿で立っているヒナちゃんに骨の折れまくった足で近づく。
見た目はボロボロなんだけど、消耗は4割もいってなさそう。
私は11割くらい消耗してるんだけど。HP下限突破してるぜ。
「ヒナちゃん。」
「……何? 風紀委員会からあなたたちに差し出せるものはそう多くないけど」
「そんなんじゃないよ。はっきりとした返事は聞けなかったから、今聞くね。」
怪我の少ない、リボルバーを握っていた右手を差し出す。
「アフターパーティ、勝っちゃったから祝勝会になるのかな。風紀委員会も一緒に来ない?」
「はぁ!? 何を言って「アコ、抑えて」」
「……本気?」
「この私が冗談でこんなこと言うと思う?」
「言いそうだけど」
ううん。私はいつだって本気なんだけど。
よろめきながら、ヒナちゃんの手を取った。
……ペンだこついてる、ほんと苦労してるなあ……。
その苦労の中には私も含まれている。
贖罪というわけじゃないけど、私のやりたいことは終わったし、ヒナちゃんのためにできることをしたい。
「多分楽しいよ? 一生に一度しか経験できないかも。」
「…………」
目を閉じ、悩んで……ため息を吐かれた。
私に対してため息を吐くなんて良い度胸じゃん。
凄まじいもてなし方をして私抜きで生きていけないようにさせてやろうか?
「……わかった。参加する」
「委員長!?」
「……はあ、まあ良いか……」
「ふふふふっ、流石です。それでこそ、これでこそ食の王とまで呼ばれるウルトさんの所以。パーティがより一層楽しみになりましたわね」
よっしゃ、ヒナちゃんゲット。
風紀委員全員となるとヘリの大きさが足りないな。
今のうちに手配しよ。
携帯の電源を入れ、通知を無視してヘリの手配をする。モモトークの通知10000件はちょっと読む気にならない。
あと温泉開発部のカスミちゃんに連絡しとかないと。
《こちら冠ウルト。カスミちゃん、温泉開発はどんな感じ?》
《ハーッハッハッハッ! スポンサー殿か! んむっ!非常に喜ばしいお知らせだ。成功も成功。大成功さ!
これ以上ないほどの温泉郷が完成したぞ!
風紀委員会からの妨害がほとんどなかったが故に完璧な仕上がり、私の開発史上最大かつ最高の温泉だ!
少々予定外の地区を吹き飛ばしてしまったが……まあ構うまい。温泉があれば万事解決するからな。
……そういえばそっちはどうだった? 何も手伝えなかったが……》
《大勝利、ってとこかな。》
《なんと、それはまた痛快だな。実に喜ばしい。ヒナ委員長を相手に勝利するとは、私の予想以上だな。
上げる旗はスポンサー殿の旗で良さそうだ。
温泉開発部一同スポンサー殿の帰還を心待ちにしているが……7名で良かったか?》
《ううん、風紀委員会と多分
《…………》
《カスミちゃん?》
《は、ははは、ハーッハッハッハッハ! なるほど、なるほど。相も変わらず剛気だなスポンサー殿は!
つまりは我々の掘り当てたこの温泉は風紀委員会、そしてゲヘナの生徒会である
Win-Win、いや、それ以上。まさに最良の結果じゃないか! 誰もが幸せになれる温泉ポイントを探し求めていたが、まさかここがそうだったとはな。
今日だけでいくつ私の予想を超えた?本当に退屈せん。
……んむ!願ってもないことだ。喜んで歓迎しよう、盛大にな!!》
《よろしく。あと大人数になるから輸送機借りれない?
いくつかは用意できるんだけど、ゲヘナ自治区だとトリニティみたいに好き放題できないんだよね。》
《構わんとも。送迎も業務の一つだ。存分に戦いの疲れを癒してくれ》
通信を切る。
これで、大団円だ。
一件落着ってね。
ブルアカ世界の宇宙って何なんでしょうね。
ミレニアムの技術力があっても宇宙に行けてないみたいですし、アロナが星空を見上げてる演出は多いですし。
ただの宇宙じゃなさそうです。
空の光は全部別の世界とか運命とか、物質的じゃない、概念的な物だと思ってます。
空のヘイローとか謎。
キヴォトスの外は存在して、そこからゲマトリアや先生はやってきたようですが、外ってどこなのか。海挟んだ先から来たってわけじゃないでしょうし、概念的な壁超えてるんでしょうけど。
プロローグで電車乗ってたし、銀河鉄道でも乗ってたのかな?
そして、本作ではキヴォトス天動説を採用して、その後にウルトのせいで天動説が否定されたり、さらには地動説も否定されたりめちゃめちゃなことになってます。
あとは、アンケートの結果、「ラスボスが増えてるブルーアーカイブ」が頂点に君臨しましたので、10月からは新タイトルに変更します。
こういうので今のタイトル以外が1位になることあるんですね。
現タイトルの「色彩に全てを奪われた生徒が大好きな先生を殺すまで」は長いせいで表示しきれてなかったのも欠点でしたね。
最後に、誤字報告いつもありがとうございます。とても感謝してます。
評価とか感想を貰えるともっと嬉しい……
ここからやっと話が進むので、今後もよろしくお願いします。
……ゲヘナ襲撃ってプロットの中の1行でしかないんですよね。なんでこんなことに。