ラスボスが増えてるブルーアーカイブ   作:シフィ

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アフターパーティー

 

 Side.冠ウルト

 

 

「「「かんぱ〜い!」」」

 

 

 チリンとグラスの中の氷が揺れる。

 

 万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)襲撃後、それに関わった組織全てが、ゲヘナ学園の目と鼻の先に作られたゲヘナ大温泉郷の本館で一堂に会している。

 

 襲撃を企てた張本人であるこの私、冠ウルトと給食部部費向上連合の旗印である愛清フウカ。

 そして美食研究会(テロリスト)温泉開発部(テロリスト)便利屋68(テロリスト)

 

 さらには、襲撃された側である万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)に、風紀委員会。その他にも関わっていた数多くの生徒が集まっている。

 

 おまけに今回の騒動を中継し続けたクロノススクールの報道部と……実質的なゲヘナ学園そのものが今この場に集結している。

 

 グイッと丸い氷とコーヒー牛乳の入ったグラスを呷る。

 

 

「うまうま〜……骨身に沁みる……。」

 

 

 音頭をとるために上がっていた壇上から降り、多種多様な食事が並べられたテーブルへと近づく。

 

 ゲヘナ大温泉郷には巨大な座敷もあったんだけど、人数も多いし、立食形式の方が動きやすいよね。ってことで私も手伝ってでっかいコンベンションホールを作成した。

 温泉開発部とウルトユートピア社の凄まじい労働力が合わさり、1時間足らずで作成したにしては極めて豪勢な作りとなった。

 ティーパーティーの所有するホールにも負けてない。

 

 ジェノベーゼとベーコン、パプリカとチーズで彩られたピザを一切れ。

 パクッと。

 

 ん〜いいね。質の良いオリーブが香る。

 ミレニアムとウルトクラウン社のコラボ商品である保温皿に乗せられているおかげで熱々だ。

 

 真空の膜を張っているおかげで熱が逃げないんだとか。

 

 

「キキキッ、素晴らしい。見事だ、覇王よ。これほど造作もなくこの人数を収容できる建物を作るとは……それでこそ私が求める王冠だ」

 

ひょー(おー)まひょとひゃんわー(マコトちゃんだ)そひょのくひーにゅふふえ(そこのクリームブリュレ)はおふひゅへはよ(がおすすめだよ)?」

 

「……いや、食べてから話さないか?」

 

「ん。」

 

 

 飲み込む。美味いぜ。

 

 ほとんど汚してないとはいえ、一応口元を布巾で拭う。

 

 マコトちゃんを見ると、太ももの付け根まで伸びる大きなスリットの入った黒いドレスを着て、万魔殿のコートを羽織っていた。

 

 

「うん? 制服脱げば良いのに。そのままでも似合ってるよ?」

「この私のコートは万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の議長としての証だからな、脱がん!」

 

 

 そういえばマコトちゃんのコートだけ他の議員のものと違って裏地が黒いし、特別仕様だったのか。

 

 私のボロボロになった万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の制服はもう捨てちゃって、今は赤いオフショルダーのドレスを着ている。

 シャワー浴びて飯食ったし、青あざも骨も大体治ったから肌を出しても良いのだ。

 

 

「マコト先輩。例の件。話さなくて良いんですか?」

「あ、イロハちゃん。いいね、似合ってるよー。」

「当然です」

 

 

 黒と白でアシンメトリーになっているゴシックなワンピースだ。

 ちょっと派手だけど、私服にも使えそう。

 

 イロハちゃんはマコトちゃんに声をかけるだけかけて、テーブルの料理を取りに行った。

 ……おお、私とフウカちゃんで作った溶岩焼きグラタン取ってる。

 

 結構良い出来なんだよね。うちの商品として売り出すにはもう少し味を洗練しなきゃだけど。

 

 

「それで例の件って?」

「……まさか忘れたわけじゃないだろうな。キサマら何とか連合がクーデターを起こして、不服ながら、認めたくないが、ムカつくが、」

「……あっ、戦後処理? パーティーの準備で抜けちゃってたね。」

 

 

 ピクリとマコトちゃんの持っていたグラスが揺れた。

 

 コーヒー牛乳飲みきっちゃった。

 給仕ロボットを呼びつけて、ルイボスアールグレイティーを持って来させる。

 

 

「そうだね、私たちの要求は放送でも言った通り、給食部の部費の向上。それと労働環境の改善。

 できれば部員も……と思ったけどそれはフウカちゃんとの相性とかもあるし、部費と労働環境改善の2点だけだね。」

 

「……? ……ん? 他には? ゲヘナ自治領の割譲、賠償金の支払いはないのか?」

 

「戦争じゃあるまいし。いらないよそんなの。もらっても困る。」

 

「…………そうか

(む、無理だあああ! あのアルとかいう生徒にこいつについて聞いていたがやはり理解できん! 

 

 これだけの騒動を起こしておきながら、ゲヘナを完全に屈服させておきながら、

 あのトリニティの生徒がただ部費の向上を求めるだと!? 

 ストライキを起こすだけではダメだったのか!? 

 

 私にこいつを戴冠するだけの器がないというのか? 

 いや、こんなしょうもない理由でクーデターを起こされあまつさえそれを完遂されるなど、ましてや情けをかけられるなどと……!)」

 

 

 マコトちゃんが難しい顔をして汗をだばだばと流し出した。

 当社のファンデーションは汗で一切落ちないのが特徴だから化粧崩れは起きないけど、大丈夫か? 

 

 

「どうしたの? 体調悪い? 襲撃中に盾にしちゃったり、無茶なことしちゃったし、医療スタッフ呼ぼうか?」

「死体ですか?」

「わ、びっくりした。」

 

 

 襲撃の裏で、続出する負傷者を治しては戦場に送り返し続けていた救急医学部の部長、氷室セナ。

 ティーパーティー襲撃で救護騎士団に迷惑をかけたように、救急医学部も大変だっただろう。

 

 ぜひ、このゲヘナ大温泉郷で安らいでほしい。

 

 

「……失礼、死体ではなく、病人でしたね」

「いや待て、病人ではない。手を引くな、おい、聞いているのか?」

「いってらー。」

「い、いや、まだ話が、だから引っ張るな!? 多分とんでもない値段するぞこのドレス!?」

 

「病気かどうかを判断するのは当人ではなく、医師です。

 念の為であっても様々な事件が起きたあと。予想もつかぬ事態となっていてもおかしくはありません」

 

「時間はまだまだあるんだし、また今度。んじゃゆっくりしてってね。」

 

 

 マコトちゃんがセナちゃんにドナドナされていった。

 

 ドレスはうちの会社で作ったものだし、気にしなくて良いんだよね。

 ワイルドハント芸術学院で作ったオーダーメイドとかすごい値段するけど、これなら実質タダだ。

 

 次はどこに行こうか。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 Side.陸八魔アル

 

 

 ウルトさんの演説が終わって、煌びやかな会場を歩き回る。

 

 風紀委員、風紀委員……いた。

 

 

「……見つけた、カヨコ〜っ!」

「うえ、風紀委員会揃い踏みだよー? ほんとに行くのー……?」

「ふふん。私たちが勝ったんだもの。それにウルトさんの言葉を借りるなら今の私たちは敵同士ではなく、この温泉郷にお邪魔している客人同士よ!」

「ほんっと、覇王ちゃんのこと好きだねぇ」

 

 

 もちろん、ウルトさんみたいなアウトローになるために、一字一句聞き逃さずにメモを取ってあるわ。

 推しのライブに初めて来たような感じね。

 

 風紀委員会のヒナにアコ、イオリにそしてカヨコ。

 錚々たる顔ぶれね……

 全員、ウルトさんから支給されたドレスに着替えていて銃は置いてきているみたいだし、恐れる必要はないわ。

 

 1000人近くいるはずなのに、ドレスは着て帰って良いとのことだし、本当に太っ腹。

 お金に糸目をつけない宴。招かれるだけじゃなく、いつか私もこんなことができるようになりたい。

 

 

「あなた達は……!」

「……アル、それにムツキまで。わざわざ来る必要なかったのに」

「くふふ〜♪ 私の名前覚えててくれたんだ?」

「何? こいつら、知り合い?」

 

「……改めて自己紹介をする必要がありそうね」

 

 

 ヒールを鳴らし、前に進み出る。

 

 そう、これは宣戦布告よ。

 今回の襲撃では無名のダークホースとして活躍したけれど、これからはウルトさんの手下としてではなく、私たちだけで戦う必要があるもの。

 

 美食研究会と温泉開発部に並ぶ、ゲヘナの中でもとびきりのアウトローになるのっ。

 

 

 

万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)を襲撃した7人の精鋭、その内の1人、便利屋68(シックスティーエイト)の陸八魔アルよ。覚えておきなさい」

「えぇー? バレてない方が色々やりやすくない? 目をつけられちゃうよ〜?」

「こ、こういうのはコソコソしてるより堂々とした方がカッコいいからいいのーっ!」

 

「そう、あなた達が。それで、要件は? ただ自己紹介をしに来たというわけじゃないはず」

「ひょえっ!?」

 

 

 そ、空崎ヒナ。あのウルトさんを限界ギリギリのところまで追いつめたとんでもない生徒。

 

 正面から対峙してみると凄まじい気迫だわ。

 クロノスが撮っていたアーカイブを観たけど隕石をあれだけ受け続けて平気な顔をしていたし、今後はこんなのと戦う必要があるなんて。

 私たちが背後から戦車で撃ち抜いてもピンピンしてたし、ほんとに大丈夫かしら……

 

 

「ねえねえ、覇王ちゃんに戦車でどーんって潰されてたけど痛くなかった?」

「む、ムツキっ!?」

「……何が起きたのかわからないままに地面に埋められていたわ。その直前の砲撃はあなた達が?」

「そうだよ〜っ♪」

「あれがなければ万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の次期議長は誘拐されなかった。……便利屋、ね。覚えておく」

 

 

 ひ、ひええ……大丈夫かしら。

 でも、怒ってはいないみたいね? 

 

 背後にいる行政官のアコは私たちのことを睨みつけているけど。

 

 ……ヒナの視線が、続けて他のみんなの視線が私の背後へ向く。

 

 

「やっほ、なんだかいっぱいいるけど。みんな仲良くしてる?」

 

 

 白と金の瞳に映える真紅のドレスを着たウルトさんが背後に立っていた。

 隣には給仕用のロボットを引き連れて、思う存分に食を満喫している。

 

 さすが、堂に入っているわ。

 

 そのロボットの頭部って、食器を置くためのものなのね、勉強になるわ……

 

 それに武器のない状態ならヒナ相手でもウルトさんなら余裕よねっ。

 

 

「冠ウルト……あなたまで、いったい何をしに来たのですか! 私たちの姿を見て愉悦にでも浸りに来たのですか!?」

 

「愉悦には浸らないけど、一緒に温泉に浸りに来た感じ。多分、警戒して満喫できてないんじゃないかなーって思って。」

 

「……は?」

「あれが冠ウルト、だよね。生で見たの初めてだけどやっぱ大きいな……」

 

「な、何を暢気なことを言っているんですか! 

 イオリがもう少し早く合流していれば十分勝ち目はあったというのに……!」

 

「それはさっきから謝ってるじゃん!? アコちゃんに言われてから結構急いだよ!? 

 道路がめちゃくちゃだったから走るしかなかったし!」

 

「ぐぐぐ……」

 

 

 万魔殿からここに来るまでの道のりも、空路じゃないと辿り着けないような状態だった。

 

 ……明日、学校あるのかしら? 

 03区に住んでる住民には援助金が支払われて、仮の住居が用意されたらしいけど、道路の復旧はまだなのよね。

 

 まあ第二校舎での授業*1があろうとなかろうと気にしない生徒が大半なのだけど。

 

 

「ふむ……ちなみにアルちゃんとムツキちゃんは、カヨコちゃんに会いに来た感じ?」

「へっ? あ、そ、そうね。私たちが立派なアウトローになれるってことを伝えに来たの」

「それじゃあ他の風紀委員会の子は貰ってくから、後は3人で。全部無料だから満喫してね。」

 

 

 ……貰ってく? 

 

 ウルトさんがヒナの手を掴んだ。

 

 

「ウルトのゲヘナ大温泉郷満喫コースの始まり始まり。楽しみ方のわかってない美食初心者と温泉初心者は着いておいで。

 人間の三大欲求のうち2つである食欲と温泉欲をこれ以上ないほどに満たしてあげる。」

 

「ちょ、ちょっとウルト!? 私のことは構わなくていいから……!」

 

「私は約束を違えないからね。飯食って風呂入ってエステ行くよ。髪だってちゃんと洗えてないじゃん。……ほら、石くっついてる」

 

「わ、わかったから。急に引っ張らないで。1人で歩ける」

 

ヒナ委員長と一緒にお風呂!!?? そんなの、そんなの、犯罪じゃないですか!! 怪獣なんかに任せてはおけません。こうなったら私が……!」

 

「……アコちゃん。鼻血出てる。

 まあ、私もあのウルトクラウンが誇るキヴォトス1の宿泊サービス事業には興味がある。こんなところ、私の貯金じゃ来れないだろうし」

 

 

 波が引いていくように風紀委員達がウルトさんと共に消えていった。

 す、すごいわね。

 

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よとは言うけれど、別に周りをどうにかしなくても、リーダーを捕まえてしまえばなんとかなっちゃうのね。

 

 後に残されたのは私とムツキ、そしてカヨコの3人。

 ……よし。

 

 

「ほらっ、カヨコ、ムツキ。いっぱい食べるわよっ! 

 全部無料ってことだし、大仕事の後はパーっと盛大に祝わなきゃ。

 私、お昼はお菓子しか食べてないのよね」

 

「……私は負けたんだけど。でもまあ、いいか。私も付き合うよ」

「ほーんと、太っ腹だよね。……こんなに人がいるなら幾つか()()に変えてもバレないんじゃない?」

 

「そ、それだけはやめて頂戴!? 絶対、絶対に殺されるわよっ!?」

「えー? つまんないの」

 

 

 食べ物に関する悪戯はウルトさんの逆鱗。

 やってしまったが最後、ちぎってセメント漬けにされてオデュッセイアの海にポイされちゃう! 

 

 ここには美食研究会もいることだし、絶対にダメ。ほんとに殺されちゃうわ。

 

 

 

 


 

 

 

 Side.冠ウルト

 

 

 

 色んな物を食べて、楽しんで。

 

 輝きを増した星空の下で花火を打ち上げたり、普通のダンスを踊ったりして、温泉に着いた。

 

 アコちゃんが最後までヒナちゃんと一緒にお風呂に入ろうと画策していたけど、この先の湯はVIP専用だ。

 人数が多くても、まあ問題はないんだけど、同じ風紀委員会ならまた一緒に風呂に入ることもあるだろうし、今回は諦めてもらった。

 

 

「ヒナちゃん、1人でドレス脱げる?」

「えっと、多分これよね?」

 

 

 紫の目を揺らし、なんだか心配そうに背中のチャックに手をかけている。

 

 ヒナちゃんが着ていたのは薄紫で足の見えるミモレ丈でふわふわした印象のドレスだ。

 かなりお姫様っぽい。

 全種類から選ばせるとめっちゃ無難なの選びそうだったので、3択にしてアコちゃんに選んでもらった。

 

 一番可愛いの選ぶあたりヒナちゃんのことをどう思っているのか伺い知れる。

 

 

「うん、合ってる。けど、レース噛んじゃいそうだから私がやるね。」

「わかった」

 

 

 パパッと脱がせ、髪を解いて、目の荒い櫛でブラッシングする。

 ……やっぱり私の隕石くっついてるな。

 星の髪飾りとでも言えば聞こえはいいが、ただのゴミだ。

 

 溶けて固まったせいでそう簡単に落ちそうにない物もあるし、お風呂で落としたほうがいいかな。

 

 それとドレスはついてしまった臭いや汚れを取れる専用のケースにしまい、2人で温泉への扉を開けた。

 

 硫化水素の独特な匂い……は広がらず、薄いカモミールの香りが漂う。

 湯気は天に昇り、月の姿を朧にする。

 

 奥の方で声がする。

 私が呼んでおいた2人の声だ。

 

 ししおどしのカポーンと小気味のいい音。

 遠くではまだ花火が打ち上がっているし、何とも粋な空間だ。

 

 

「……1日前まで、ここが何の変哲もない道路だったとは信じられない」

 

「これが温泉開発部の力だよ。すごいよね。」

 

 

 03区に広がっていた巨大な主要道路、それを温泉開発部は爆撃機や、多種多様な重機、凄まじい数の爆薬で爆破解体していった。

 その付近に存在した高層マンションや、私の会社で経営していたショッピングモールに飲食店街、さらには駅が破壊され、

 この辺りのインフラを完膚なきまでに破壊し尽くした。

 

 電柱や地下配線も壊して、勝手に配線し直しているが、クラウンの作った電力会社*2なので何の問題もない。

 それでいて水道管だけは壊してないんだから恐ろしい物だ。

 

 多分壊した後の後処理に時間がかかるとか、効率的な問題で壊さずに進めてると思うけど。

 

 

「ええ、ただ傍迷惑な生徒達だと思っていたけれど、違った。

 こういった事業をしていることは知っていたけど、遊びの範疇だと思っていた」

 

「本気だからね。周りへの影響を考えることがないくらい。」

 

「それさえ改善してくれれば私たちも苦労せずに済むのだけど……」

 

 

 美食研究会も、温泉開発部もやりたいようにやってるだけだからね。

 

 美食研究会の方は飲食店が大体私の傘下なので大きな問題にはならないんだけど、ごくたまに水族館の魚を食べたいとかで襲うから面白い。

 

 

「なはは、ま、両方の妥協点を探せばいいんだよ。今回のこれは、みんなにとって良い方向に進むはずだから。」

 

「……本当に? これほど大規模な破壊行為をしておきながら、落とし所が見つかるとは思えないけど」

 

「まあ任せてよ。ところで、温泉に入る前のマナーは知ってる?」

 

「かけ湯? そのくらい知ってる」

 

「もう一個、お化粧してるしそれ流してから。ヒナちゃんって湯船に入る前は洗わない派?」

 

「……確か洗ってたはず。いつもシャワーで済ませてたから……何年ぶりだろう」

 

「うーん、勿体無い。……じゃあのぼせない程度にいっぱい楽しんでもらわないとね。

 ほら、こっちおいで、髪洗ってあげる。」

 

 

 タオルで前を隠しながら、素直に椅子に座る。

 嫌がりそうだったからちょっと意外だ。

 

 化粧さえ落とせば良いから温泉入った後に洗髪しても良いけど、疲れてるだろうし血行が良くなったら寝ちゃいそうだ。

 髪に着いちゃってた石が気になるってだけだから身体はまた後でも良い。

 

 柔らかいモップみたいな髪の毛をシャワーで洗い流し、サミュエラ*3のシャンプーを手に取る。

 軽く手元で泡立ててから髪につけて優しく洗う。

 

 いくら強いといえど、繊細な女の子であることに変わりはない。

 優しく、丁寧に、キューティクルを削らないように泡立てて汚れを落とす。

 

 ゲヘナ在来種のゲヘナシロモップがゲヘナアワモコモップに変態していく。

 

 私も髪長いほうだけどヒナちゃんは毛量がすごい。

 髪質が柔らかいから指が通りやすいし、めっちゃ泡立つ。

 

 

「痒いところはございませんか〜?」

 

「大丈夫、……それにしても上手。慣れてるの?」

 

「まあね、誰かとお風呂入る時って大抵洗ってるし、楽しいからね。ヒナちゃんは美容院以外で洗ってもらったことある?」

 

「合宿の時、アコに何度か」

 

「おー。私、アコちゃんより上手い?」

 

「うん。アコのは妙に入念でくすぐったいんだけど、これは気持ちいい」

 

 

 ふはは、アコちゃんから寝取ってやったぜ。寝てないけど裸だし大体一緒だ。

 シャワーで泡を流し、トリートメント、コンディショナーと一通りのヘアケアを済ませる。

 お風呂上がってからの手入れを済ませれば完璧だ。

 

 

「はい、終わり。髪も纏めたし、奥行こっか。」

 

「……ふ、ぁ……わかった」

 

 

 私の極上頭皮マッサージの影響か、既に眠そうだ。

 眼精疲労のツボも効いてたし、温泉上がったらすぐ寝かせてあげなくては。

 

 小さい子を誘導するように手を引いて温泉へと向かう。

 

 湯煙を抜けるとそこにはマスカットを摘み上げ足湯に浸かっている美食研究会の会長のハルナちゃんと、全部丸出しで腕を組み星空を眺めているカスミちゃんがいた。

 

 片方はナイトプールみたいな楽しみ方してるし、もう片方は寒そう。肌の雫に月の光が反射してちょっとカッコいいけど、痴女じゃんね。

 

 

「お待たせ、待った?」

 

「10分ほど前に来たところです。……聞いてはいましたが、本当にヒナさんを連れてこられるとは……」

 

「……美食研究会と温泉開発部の。予想はしてたけど、こんな場所で会うのは不思議な気分ね」

 

「ハーッハッハッ!全くだ。昨日までの私に伝えても信じたかどうか。

 にしても愉快愉快。風紀委員長ともあろう者がまるで(ひな)鳥じゃあないか。

 なんだなんだ?自分に比類する頼れる存在を目にして刷り込み(インプリンティング)でも受けたか?餌付けされて絆されたか?

 ヒナちゃんにも思ったより可愛らしいところがあるじゃないか」

 

「…………」

 

「とりあえず湯船浸かろ。カスミちゃんも、それだと湯冷めするよ?」

 

「んむ!風を浴びていい具合に身体も冷えた。水風呂を用意しなかったのは痛恨だな。増設せねば」

 

 

 目視で比較的ぬるめの湯を判別し、ヒナちゃんを誘導する。

 この後寝るわけだし、ぬるめの湯で副交感神経をリラックスさせてぐっすりと眠って貰おう。

 

 話の途中で寝ちゃっても別に構わないし。

 

 ヒナちゃんと2人で湯船に浸かり、もう2人は少し離れた位置で湯に浸かる。

 

 ……まあ警戒するよね。裸のヒナちゃん相手なら余裕で勝てるけど、それは私の話だ。

 私相手にある程度近接戦ができる時点で、素手でもかなり強い部類に入ってくる。

 

 ぬめりけのある乳白色の湯が身体を包んでいく。

 白い湯の花も浮かぶ濃厚な源泉に身を委ねて、息を吐く。

 

 湯を口に含もうかと考えたけど、カスミちゃんとハルナちゃんだけなら兎も角、ヒナちゃんの前で湯を飲むのはデリカシーに欠けてる。

 

 ヒナちゃんの出汁としてアコちゃん相手に売れそうだけど、今はいいや。

 

 

「……は、……ふ……」

 

 

 隣の少女から小さく声が漏れた。

 まさに極楽、といった感情が目元から伺える。

 

 その声を耳聡く聞きつけたカスミちゃんの口元が対照的に吊り上がった。

 

 めっちゃ嬉しそう。

 相手の好きなものや、頑張って作り上げたものを本心から楽しむことほど、好感度が上がる行動は他にない。

 

 温泉に連れてきて正解だね。

 

 

「ほら、良い湯でしょー?」

 

「うん……こんなにゆっくりしていていいのか不安になるくらい……」

 

「温泉郷はその為の場所、ゲヘナの風紀委員長が一晩くらい寛いだところで誰も文句は言わん。

 いつもゲヘナ中を走り回りご苦労な事だ。ハーッハッハッハ!」

 

「……この1ヶ月で起きた温泉開発部絡みの事件は24件。美食研究会は19件。大人しくしてもらえると休日を作れるのだけど」

 

「無粋な事を言うなよ、ヒナちゃ〜ん。

 今、この温泉があるのは我々の積み重ねがあってこそだと思えないか?

 成功したもの、失敗したもの。その繰り返しの中で培った妨害の中で素早く温泉を掘り当て、瞬く間に温泉郷を作り上げる技術。

 ともに磨き上げた風紀委員会と温泉開発部の努力がここで身を結んだ。

 そう考えればどうだ?これまでの日々と苦労が報われる気がするんじゃあないか?」

 

「犯罪を美化しないで。正式な手順を踏んだ開発なら私たちも文句は言わない」

 

「んむむ〜?確かにそういう手段もあるな。こいつは盲点だった。

 しかし……そうなると手が足りん。計画の立案だけでもそれなりに手間がかかるというのに。

 スポンサー殿はトリニティ生だ。これ以上ゲヘナ自治区で騒ぎを起こしてはエデン条約に支障が出るかもしれないから頼れない。

 んむむ〜っ!困った!まるで解決策が思いつかん!ゲヘナでの手続きに詳しい者がいればいいのだが!

 ……おや、ヒナ委員長は何か言いたげだな?」

 

 

 ヒナちゃんを手籠にしようと口を回している。

 

 エデン条約を言い訳にしていたが、微塵も気にしてないだろう。私もあんまり気にしてない。

 私が親ゲヘナ派なのは周知の事実だ。トリニティ自治区に美食研究会(テロリスト)とか温泉開発部(テロリスト)とか招いてるし。

 ……外患誘致に当たるのか?これ。でも私が土地買ってから爆破してたし、大丈夫だよね。

 

 

「言わせたい内容はわかるけど、テロリストに協力する気はない。自分が指名手配犯だということを忘れたの?あなたを捕縛すれば解決する話よ」

 

「まあそうなるか。だが、今は敵同士ではなく客と主。互いの立場を忘れて裸の付き合いといこうじゃあないか」

 

 

 暫くの間、静かに湯を楽しむ。

 

 

「ハルナちゃーん、マスカットちょうだい。投げていいよ。」

 

「少々、マナーが悪いですが……えいっ」

 

 

 飛んできたマスカットのうち、一つは口でキャッチし、残りは潰さないように手で優しく受け止める。

 シャインマスカットのパリッとした食感と透き通る甘さが口の中で広がる。

 

 美味い。

 もう一粒口に放り込み、ヒナちゃんの側に寄る。

 

 温泉に加え、追加の糖分で髪も頭もふわっふわにしてやる。

 

 

「あーん。」

 

「……自分で食べれる」

 

「こういう時は素直に食べるのがマナーだよ? ほれ。」

 

 

 口に突っ込む。大人しく食べてくれた。

 

 手で隠しながら口元をむぐむぐと動かしている。

 

 ……私のお姉ちゃん力がどんどんと昂ってきた。

 いつも大変だろうし、甘やかしたくなる気持ちが温泉のようにこんこんと湧き出してくる。

 

 膝枕、撫で撫で、耳掻き、マッサージ、給仕、etc……

 イロハちゃんのお世話で解消しきれなかった欲求が顔を覗かせるが、まだ早い。

 

 落ち着け、今頭を撫でるとセットが崩れる。

 ゆっくり寝かせてから、全てはヒナちゃん(All for Hina)のために。

 

 明日もあるんだ。

 ゲヘナ襲撃したといっても退学した私がトリニティに戻るわけにはいかないだろうし、以前に比べてゲヘナとの距離は格段に近くなった。

 

 ゲヘナを退学したとしてもヒナちゃんのお世話ができなくなるわけじゃない。

 イロハちゃんだっている。自由って素晴らしい。

 

 

「さて、そろそろ議題へ移ろうじゃないか。のぼせた頭では結論も出せんし、ゆっくり浸かる為の障害は一つでも少ない方がいい」

 

「あ、そうだね。」

 

 

 危ない。元々の目的を忘れて、ヒナちゃんのお世話計画を練り出すところだった。

 

 一度立ち上がり、岩へと腰を下ろす。

 

 各々の視線が素っ裸の私に集まる。

 ……湯の中で話せば良かったかな? でも見られて困るような身体してないしな。

 

 

「この場に集まってもらった目的だけど、このゲヘナ大温泉郷の取り扱いを決めるためだよ。」

 

「……この場所の?」

 

「うん。ゲヘナの計4区域を食い尽くして誕生した温泉郷。

 土地の大きさで言えば一個の街が作れる規模、ミレニアムが次回の晄輪大祭に向けて建築中のアスレチックスタジアム10個分。

 しかもゲヘナの中央に近い立地となれば、様々な問題が浮上するよね。

 その対処法を決めるためにヒナちゃんを呼んだんだ。」

 

「わかったけど……マコトは? あんなのでも一応万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)、ゲヘナの生徒会長のようなもの」

 

「そこらへんは私たちが勝っちゃったわけだし、

 マコトちゃんは賠償金とか払うつもりだったっぽいし、無理やりに押し通せば良いかなって。その方が話早そうだからね」

 

「……わかった。続けて」

 

 

 風で湯煙が晴れる。

 遠くで生徒たちの楽しむ声が聞こえる。

 

 

「議題は3つ、1つ目は都市インフラの復旧手順、2つ目に現時点で利用されていない広大な土地の活用方法、最後にゲヘナ学園としてのこの温泉郷の扱い方。

 月と温泉を肴にして、のんびりと語ろっか。」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 粛々と議題は進んでいき、結論は以下の通りとなる。

 

 1.都市インフラの復旧

  ウルトクラウン社に全面委託。破壊された駅と線路はハイランダー鉄道学園*4が管理しているため、別途連絡。

 

 2.土地の活用

  大規模な商業地区として再生予定。破壊された巨大ショッピングモール(ウルトモール)を最優先で復旧する。

 

 3.温泉郷について

  ゲヘナ学園にて管理する。維持についてはウルトクラウン社が対応。

 

 補足事項 これらの対応で発生する費用はウルトクラウン社が全額負担する。

      ショッピングモール及び温泉郷で発生する利益は非課税とする事で合意。

 

 

 連邦生徒会相手に出す時はもっとちゃんと書かないといけないけど、大体こんな感じ。

 金出してるのは私なので適当でいい。

 とても気楽だ。

 

 今は温泉から上がって、とても眠たそうなヒナちゃんを大温泉郷内の寝室に案内している最中だ。

 

 

「温泉で寝ちゃうと思ってたけど、頑張ったね?」

 

「子ども扱いしないで。それに1晩徹夜するくらい慣れてる。……まあ、酷く眠いのは確かだけど」

 

「明日は休暇にさせたし、ゆっくり寝なよ。寝不足はお肌の天敵。」

 

 

 一緒に歩いて……松、と書かれた部屋に着いた。

 1人で使うには広い部屋だけど、その分静かだ。

 

 ぐっすり眠るには丁度いい。

 

 

「じゃあ、私はこれで。……あなたの夢に聖霊の加護がありますように。ってね。」

 

「……待って」

 

 

 立ち去ろうと背を向け、呼び止められた。

 子守唄でも歌ってほしいのかな? それとも膝枕? 

 

 まあ、違うだろうけど。

 

 

「……その、色々と、ありがとう」

 

「…………にひひ、それ、襲撃犯に言うセリフ?」

 

「もう、茶化さないで。

 あなたの行動はまだ理解の追いつかない部分は多いけど、……人となりはわかったつもりだから。

 気遣ってくれてるのもわかったし……。

 じゃ……おやすみ、ウルト」

 

「うん、おやすみ。」

 

 

 部屋の中にヒナちゃんが消える。

 

 さて、まだまだ夜は始まったばかりだ。楽しまなきゃ損だよね。

 

 外へ向けて歩み出して……スマホが鳴る。

 

 基本的な通知は切ってあったはず。それなのに鳴るというのは……

 画面を確認すると、そこには未来の私、やることなすことの規模が極めてヤバい宇宙女、

 

 クラウンの名前があった。

 

 

 

*1
ゲヘナ学園では授業をまともに受ける生徒が極めて少ない。第一校舎は巨大だがまともに授業が行われておらず、数少ない真面目な生徒達は第二校舎で勉強をしている(ゲーム内のスケジュールでの情報)

*2
ウルトエレクトリック クラウンの作った電力会社、宇宙開発事業と連携しており、太陽光発電のみでキヴォトス中の電力を100億回以上賄えるとか何とか。1世帯の光熱費は平均で20円。他の電力会社は全部潰れた。

*3
サミュエラ キヴォトスの高級化粧品メーカー ミカをサミュエラのお肌を透明にするBBクリームでべっとべとにした先生は多い

*4
ハイランダー鉄道学園 Vol.4 カルバノグの兎編で名前だけ出てきた学園。そしてカスミ部長実装のイベントでも登場した。これ書いてた時はイベントの情報ない時だったので聞いた時はびっくりした。 他に駅の管理をしているのはセイントネフティスという十六夜ノノミの実家くらい。





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