でもセイアちゃん死んだことになってるせいでゲヘナ生とあんまり話せません。悲しいね。
セイアのゲヘナ旅行 その1
ゲヘナ学園 給食部前
「……
君は確か、観光、とそう言っていたね?」
昼食へ向かう黒い制服の集団の中で、ある異様な光景が広がっていた。
トリニティとゲヘナの仲について少しでも知っていれば、その組み合わせはないと断言できる衣装ゆえか、
はたまたキヴォトス屈指のやべーやつという名声ゆえか、
その魅惑的な超高性能長身ボディから溢れ出さんばかりの強者のオーラゆえか、
人がトリニティの経典に記載されている“海割りの奇跡”のように2分され、その空白地帯を白のセーターとベージュのマフラーをした金髪の小さな少女と、ティーパーティーの制服に万魔殿のコートを羽織った白い髪の少女が手を繋ぎ、共に連れ立って歩いている。
「うん。」
簡素な返答に居心地が悪そうに歩いていた金髪の少女の歩みが一段と遅くなる。
幸せが逃げてしまいそうなほど大きなため息。咎めるような可愛らしい視線を同行者に浴びせ、口を開く。
「君ほどここに詳しい人物を私は他に知らない、ともすればゲヘナの中では常識とも言える事実なのかもしれないが。
……観光と称して出かけ、最初の目的地という大役を任せるには、学園の食堂では荷が勝つのではないかい?」
「
ゲヘナにあってトリニティにない観光資源なんて、火山*1と温泉と犯罪者くらいしかないんだよ!
温泉巡りも最高、最高なんだけど、ほんと温泉しかないから。最初から一番の楽しみを取っちゃうと後の楽しみがなくなるんだよ。」
身も蓋もないことを公共の場で叫ぶ。
周囲からは「わかるわー」など「面白そうなのができても爆発するしな……」などの同意の声が上がる。
火山は観光するには過酷すぎるし、温泉は温泉開発部……つまり、キヴォトスにおける最大規模のテロリスト集団が運営する場所だ。それと犯罪者はどう間違っても観光するものではない。
ゲヘナ自治区の治安の悪さはキヴォトスの全学区……約1000学区のなかでもトップであり、ゲヘナ内で熟成された犯罪者が輸出され別の学区で暴れ回るという事件が絶えない。
もしもこの学区で事業を起こそうと思い立ってしまった場合、事前に強盗や爆破などによる修繕費を勘定に入れなければならない。
ここを誰も開拓していないブルーオーシャンだと見誤ってはいけない。そこは人喰いサメが共食いしあうような地獄。店を出せば初日の営業開始前に潰れる覚悟もしておく必要がある。
参考までに、1軒のコンビニで発生する1日あたりの犯罪件数は平均3件である。風紀委員会は過労で死ぬ。
最低でも風紀委員会の巡回ルートに店を構え、自力で店を守れるように用心棒を雇う必要があるだろう。
「つまり、学園の食堂でさえも重要な観光資源。
確かに、考えてみればゲヘナの治安では仮に遊園地や水族館などの場所があったとしても安全面は地の底。
管理もまともにできるとは到底思えない。リスクを鑑みればまともな企業がこの土地に根を伸ばそうとしないというわけだ」
「そうそう、ここはカイザーも手を出さない魔境だよ。
ゲヘナで活動してるの
治安が悪いという欠点にはさまざまな問題がついてくる。
暴動が起きれば対処にかかる人件費や補修費、確実に銃撃戦になるから弾薬費もかかる。お金の代わりに銃弾で会計をする生徒が多いから経済が成り立たない。
ゲヘナ大温泉郷建設の際にカスミちゃんに潰されちゃったけど、ウルトモールという大規模商業施設では、かなりの額を売り上げていた。
だけど、それを上回りかねないほどに用心棒用の人件費と、襲撃による雑損失が大きい。
売上の半分近くはその2つの費用に吸われている。
みんながお買い物を楽しめて、ご飯が食べれるようにって思ってたから赤字でも構わなかった。
このカスみたいな治安に慣れている私でさえもこの調子なのだから他の企業に見放されるのも無理はない。
唯一見放していないモモグループは神的に良い企業なので。
「自業自得とはいえ、哀れだね。
トリニティの暗躍や暗闘を面倒だと感じることもあったが、ゲヘナの生まれでなくて心から良かったと思えるよ」
「でも温泉あるよ?」
「……温泉という存在は免罪符足り得ないと識るべきだね、君は……」
食堂に到着したは良いものの、内部では銃撃戦が繰り広げられていた。
「スッゾゴラァ! 」
「ヤリャッタナ! テメー! 」
食事を楽しむ声や、笑い声は聞こえず、食事をする場とは思えない汚い罵声や、銃声、爆発音が響き、気を失った生徒がゴロゴロと転がっている。
風紀委員が事態の鎮圧を試みているが、食事を摂りにきた生徒のほとんどが暴徒と化しているため人手が全く足りていない。
風紀委員長であるヒナちゃんの姿も、切り込み隊長であるイオリちゃんの姿も見えないため、解決には時間がかかりそうだ。
せっかくゲヘナに来たんだからフウカちゃんのご飯を食べて欲しかったんだけど、この状況じゃ無理だね。
バリケードにされていた机と転がっていた椅子を1つ。それに給湯器。
懐からティーセットとパウンドケーキ、硝煙の匂いにも負けない強い香りのタージリンのセカンドフラッシュ*3を取り出す。
机を拭いて、
「ま、待ちたまえ。
いったい君は何をしているんだ。まさかとは思うがこの惨状で茶会でも開くつもりじゃないだろうね!?」
「だって、食堂まで来たのに何も食べずに帰るのは嫌じゃん。」
ティーポットにお湯を注ぎ、一度捨てる。器を温めてから茶葉を入れ、湯を勢いよく注ぐ。
茶葉がポットの中で浮き上がってはまた沈んでいく。美しいジャンピングだ。
適当なお湯で淹れたにしては良い出来になりそう。
飛んできた流れ弾を手で弾き落とし、席に着く。
未だに突っ立っているセイアちゃんを手招きするが、膝の上にやって来ない。
「そんなところで立ってると流れ弾に当たっちゃうよ? ほら、私の膝。先着1名様限定。セイアちゃんのお名前で予約済みだよ。」
金色の瞳でぱちぱちと瞬きし、現実感のないふわふわとした足取りで私の膝に座った。
大体恥ずかしがって嫌がるのに今回は素直。
しかしこれで何があっても確実に守れる。私の膝の上は世界で一番安全な場所だという自負がある。
「……すまないが、頬を引っ張ってくれるかい? 君がそこにいる以上夢でないことは確かだが、それを認めたくなくてね」
えっ、ご褒美すぎる。
もしやデレ期?
ぷにぷにの頬に手を伸ばし、むにゅっと摘み、みょーんと引っ張る。
う、うおお……これが私より1歳年上の頬か? もはや赤ちゃんのほっぺただよ。
毎日一緒にお風呂に入ってる身だけど、公衆の面前でこんな……や、やばい、DVとかで訴えられないかな。
セイアちゃんのほっぺたを摘んだ罪で死刑もあり得る。
「大丈夫? これ公序良俗に反してない? それか公然猥褻とか。」
「
頬を摘んでいる手をぺちぺちと叩かれたので名残惜しくも指を離す。
足元に手榴弾が転がってきたので遠くに蹴り飛ばしておく。
私は今この瞬間に一体どれだけのものを得て、どれだけのものを失ったんだ……?
誰もが羨むであろうセイアちゃんの頬を公衆の面前で摘んでも良いという権利。
空を知らなければ鳥籠の中を窮屈と思わないのと同じで、その優越感を知ってしまったが故の物足りなさ。
「グワー!? 」
爆風でぶっ飛んできた生徒を片手で受け止め、その辺に転がす。
次に手を伸ばすべきはやはり狐耳……?
長年の付き合いでブラッシングは習慣となってしまったが、モフるためだけに耳を触らせてもらったことはない。
私の腹部で落ち着かなさそうに動いている尻尾も良い。大きな音がするたびにびくりと跳ねるのがわかりやすくてとても良い。
セイアちゃんは子供扱いすると怒る節がある。頭を撫で回すことになる狐耳より尻尾の方がハードルが低いんじゃないか?
丹念なブラッシングと香油による手入れで輝く黄金の尻尾。冬毛でちょっとふっくらしているところもチャームポイント。
……ちなみにサンクトゥス分派の子の間では密かに抜け毛を収集し、セイアちゃんのぬいぐるみを作るという常軌を逸した趣味が流行っている。換毛期に入るとみんなソワソワし出すから怖い。
抜け毛1g、100万で売ってくれって言われた時はこの私をしても正気を疑ったね。正面から頼む気概を気に入って売ってしまったが。
「随分と騒がしいが、安全地帯にいると識ってしまえば意外と慣れるものだね。
前線に立ったことはないが乱戦において視界だけでなく聴覚も重要視される理由を体感できる。
……うん、楽しめていると言ってもいい。
それと、紅茶も良い頃合いと思うが……ウルト?」
「
「……は?」
言い間違えた。
ぴこぴこ動く耳と尻尾にしか意識がいってなかった。
膝の上の小さな体が呆れた、と力を抜いてもたれかかってくる。
狐耳の柔らかな毛先が顎を掠めた。
み、耳が近い。誘惑してくる。
「いつにも増して静かだと思えば、人の耳を見て何を企んでいるのやら。
第一、毎晩ブラッシングと称して卑猥な手つきで撫で回しているだろう」
卑猥……? 修行僧もかくやと言わんばかりに煩悩を捨て、涅槃からこっちにやって来そうなくらいに欲を滅しているというのに……?
あれで卑猥なら、ちょっとやる気出しただけでドスケベだよ。
「卑猥じゃないよ。卑猥だと思うのは
「私はえっちではない。全く、人が勇気を出して
わざとらしく狐耳を動かし、触れるものなら触ってみろと煽ってくる。
当の本人は膝の上で何が面白いのかニヤついてるし。
触ってやろうじゃねえかと気合を入れたところに、空気の読めない流れ弾が飛んできた。
軽くはたき落とすが、その隙を突いてセイアちゃんが膝の上から降りてしまう。
「ほら、早く他の場所に連れて行きたまえ、騒がしいのは君だけで間に合っているからね」
「むう……わかった。ここに居ても仕方ないもんね。」
弄ばれた気がするが、気を取り直し、ポットの中の紅茶をコップに移し替えてセイアちゃんに手渡す。
食べ歩きしながらゲヘナ観光というのも悪くない。
食堂の件は残念だけど、フウカちゃんのご飯は食べてほしいな。
どうせ美食研究会に誘拐されたとかだろうけど、ここを出る前に軽く情報は仕入れておきたい。
辺りを軽く見渡し……丁度よく知り合いがいた。
気絶した生徒を片手で2人ずつ引き摺りながら運ぶ救急医学部の部長。
ついでに負傷者の救助を手伝っとこうかな。近場の配膳台に転がっている生徒たちを載せながら近づく。
私の行為に驚きながらも護衛しやすい位置にセイアちゃんがいてくれるからありがたい。
「セナちゃーん、死体の運搬中?」
「はい……ん? いえ、違います。死体ではなく負傷者です。ウルトさんも給食のためにここに?」
「ま、そうだね。何があったか知ってる?」
「給食部の部長が美食研究会に攫われると共に、本日の給食に付属していたプリンを巡り銃撃戦が始まったと聞いています」
やっぱり攫われてた。
しかしプリンか、持ってくるおやつパウンドケーキじゃなくてプリンにしてもよかったな。食べたくなってきちゃった。
「……プリンが原因でこれほどの事態になるのかい?」
「ゲヘナだからよくある事だよ、揚げパンの時も似たようなことやってたらしいし。
でもプリン争奪戦ってスコア制のバトルロイヤルみたいで楽しそうだね。」
「……そちらの死た、負傷者を預かってもよろしいですか?」
「ついでだし運ぶよ、これだけ倒れてると大変でしょ。」
ありがとうございます、という感謝の言葉に別に良いよ〜と軽く返し、食堂のすぐそばに止めてあった救急車へ向かう。
トリニティの救護騎士団もそうだけど、ゲヘナの救急医学部も大変だなあ。
感想評価ここすき等励みになります。
今書いてる最中ですが、合計3話になりそうです。
原作開始後も既に書いてるけど、先生の口調とか他の子の口調がわかんない。文章力が欲しい。
書こうかと思ってる間話について 原作開始時点まで話を飛ばすので気になるものがあれば感想かアンケートをポチってください
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