あれから、クラウンがウルトホスピタルという名の医療法人を立ち上げ、
ティーパーティーの先輩方に面倒くさい挨拶回りを終えた頃に。
……やっと見つけた。
「見つけた。何故か隠れてたみたいだけど、私の情報網からは逃れられない。」
浦和ハナコ。この私を差し置いて、入試首席になった女。
政治がらみか何なのか知らないけど、新入生代表の挨拶は譲られたし、すっごい負けた気分だ。
聞いたところ全問正解のこれまでのトリニティの歴史でも数少ない満点合格者だとか。
「あら? あなたは……」
「入試
「……はい。あなたは、冠ウルトさん。ですね」
「入試次席合格者の、だけどね。」
セイアちゃんには「全く、君は相変わらず無駄な事に執着するね。元はといえば君は驕った結果首席を逃してしまったのだろう? それは自らの過ちであり、その浦和ハナコくんを見つけたところで〜」などと無茶苦茶言われたけど、私がこう、スカッと負けるのは滅多にないことだ。
私が驕らずに数学の証明問題だとか、国語の文章問題を要点だけ雑に抜き出して回答しなければ入試で満点を取れたかと言われると少し怪しい。
第一公会議*1の文面を翻訳し、要約せよ。なんて問題、勉強してなかったから解けなかったし。
つまるところ、私は浦和ハナコに勉学で完膚なきまでに負けたのだ。
当然だが、この私が負けるとか許せんので、リベンジをすることにした。
「あなたに決闘を申し込む。勉学だろうと、殴り合いだろうと
周りで私たちを眺めていた生徒が騒つく。
勉学だけの女に負けた、ならば特化型に万能最強型である私が負けたということになるので、ちょっとだけ許せるけど、
もしもこれで殴り合って負けたなら私のアイデンティティのピンチだ。
かといって勉学以外で決闘だ! なんて言っちゃうのは凄まじくダサいのでこんな言い方になったが、できれば勉学以外で勝負したい。
「ええっと、決闘ですか? 私などでは様々な分野で成功なさっているウルトさんとは……」
「ダメ、勝負。私が負けたのは事実だから今度は勝つ。」
「……なるほど。わかりました。ここで話すには少々人目がありますので、席を変えましょうか」
「りょ。」
浦和ハナコが立ち上がる。
……乳でっか。え? まさかこの私が色気でも負けると?
いや、あれだから。私は高身長バツグンボディの天才最強美少女だが、スポーティーなタイプだし、こういった蠱惑的なタイプとは違うだけだから。
「それでは、参りましょうか」
そして私たちは今。体育倉庫にいる。
いや、人気はないだろうけどなんで?
「ねえ、何で体育倉庫? 空き教室とか道中にあったよ?」
「空き教室でも良かったのですが……やはり、密室で、二人っきりとなると体育倉庫ではないでしょうか」
「??」
密室で、二人っきり、なるほど。
空き教室などより狭く、かつ人気がないという観点からすると体育倉庫はおあつらえ向きともいえる。
しかし体育倉庫で何を? 殴り合うには狭すぎるし……跳び箱で飛べる段数勝負とか?
そういえばティーパーティーに寄せられていた要望書の中にある体育倉庫の扉の建て付けが悪いとかいう話があったような。
「では、決闘の内容ですが」
浦和ハナコは喋りながら自らの制服に手をかけた。
春、とはいえ密閉空間であり常に日差しが直撃する立地。
気温は他の場所よりも高く、制服を緩めるのも理解できる。
首元を緩めると同時に一滴の汗が体育マットの上に落ちる。
花を煮詰めたような女性特有のフェロモン、およそ色気、といったものが狭い体育倉庫の中に広がる。
「んっ♡」
そのまま制服を持ち上げ、スラリとした腹部が
「待って。何してんの?」
「……ふふっ、何だと思います……?」
雰囲気がエロいのよ。単純に答えるなら服を脱いでる、とか暑いから、だろうけど。
もう、
ちなみに私は溶岩で水泳できるくらいに暑さに強い。
「◼︎ ◼︎ ◼︎ ◼︎の準備してる? いや正確には◼︎ ◼︎ ◼︎ ◼︎ ◼︎ ◼︎か。」
「……あら? 何だか思ったより」
「そういうことなら、わかった。初めてだけど何事も経験だしね。」
自分の制服に手をかけ、グイッと一思いに脱ぎ去る。
まさか、初対面の子、ハナコちゃんとそういうことをすることになるとは。
そういうことするわけだし、もうちゃん付けでいいよね。
しかし、憧れがあった〜とかそういうのではないけど、高校生ってすごいなって思った。
えっと、服がシワにならないように、そこのマットの上でいいか。
「あ、あぁ〜これは、少しふざける相手を間違えてしまったような……」
「ハナコちゃんは脱がないの?」
「えっと、少し暑いので服を」
ガタン!
体育倉庫の扉から何かに乗り上げたような、物が突っかかってしまったような音が聞こえた。
何か話そうとしていたハナコちゃんの手を取り、口を塞ぎにかかる。
「あれ? っかしーな。この倉庫の扉開かないんだけど〜」
「鍵は?」
「掛かってなかったはず……」
「逆に回してもダメ?」
ガチャン!
……鍵のかかる音がした。
下着姿で見つかるのはヤバいのでハナコちゃんの口を手で閉じて、跳び箱の中に二人で隠れている。
やることやるなら理想的な展開になってきた。
ここまで想定してハナコちゃんは私を体育倉庫に連れ込んだのか?
だとすると末恐ろしい。何人の女子がハナコちゃんの手にかかってきたのか……
しかし、私は百戦錬磨、女泣かせのハナコちゃんに初戦で勝つ女になってみせる。
というか◼︎ ◼︎ ◼︎ ◼︎ってつまりはスポーツでしょ? なら私が負ける道理はないんだよね。
ハナコちゃんの身体を掴んだ感じでは、身体を動かすことにそれほど慣れている様子ではなかった。
となるとこれまではその
なかなか燃えてきた。
「んーやっぱダメだわ。バスケットボール使いたかったんだけどな」
「ま、しゃーない。教室戻ろ?」
遠ざかっていく足音、扉の前にいた生徒はどこかに行ったようだ。
ハナコちゃんから手を外し、入っていた跳び箱を持ち上げて外に出る。
「……さて。」
声を出した瞬間、ハナコちゃんの肩がビクッとした。
私は汗を一滴もかいていないが、ハナコちゃんは既に全身が濡れている。暑さだけが原因ではないだろう。
……緊張している?
私の身のこなしと、この磨き抜かれたスーパーボディに触れたことで臆してしまったのかもしれない。
しかし、これは決闘である。
やると決めたなら最後までやっちまうのが女ってものだ。
自分のブラジャーのホックに手をかける。
「待ってください!」
「?」
「その、私も初めてですから。こういったことは一歩づつしたい……と言いますか」
「???」
ハナコちゃんが初めて? 決闘と称して体育倉庫に連れ込み、服を脱いでるハナコちゃんが?
情報を撹乱しようとしているわけではなさそうだ。
汗の感じと視線の動き方が焦っているか、緊張している時のパターンに似ている。
「初めてで、こんな場所でエッチなことを?」
「……すみません。説明しますね」
説明するということなので、それぞれ服を整え直した。
「つまり、からかおうとしたら、私が思っていたより本気で受け取ってしまったと。」
「そうです」
ううん、これはまた。
恐らく私に口を塞がれて跳び箱に入れられた時は気が気じゃなかっただろうな、ということは想像がつくが……
「そしてこの閉じ込められている状況も想定外、と。」
「はい、ウルトさんのおっしゃった体育倉庫に関するティーパーティーへの要望書、というのも初耳です」
「そっかぁ……」
ハナコちゃんのあまりの色気に
「ハナコちゃん、からかう相手はちょっと、選ぼうね? 私はかなりの特例だと思うけれど。」
「そうですね、もう少しだけからかう相手は選ぶことにします……」
相手を選べばからかっていいのかは、まあいいんじゃないだろうか。
私も効き目がありそうな相手ならやりかねないし。
「……」
「……」
先程までムワッとした色気を感じていた空間は、ただただ暑いだけの場所になってしまった。
ハナコちゃんも汗かいてるし、早く出た方がいいね。
扉の歪み、施錠で二重にロックされた体育倉庫の扉に手をつける。
厚さは大体10cmで鉄製の横開き、このくらいならぶん殴っても何とかなる厚さだけど、後のことも考えて普通に開けようか。
「扉は施錠されてますし、助けは呼ぶしかなさそうですね……」
「んや、このくらいなら……んしょ。」
めきめきっと、金属が歪む音がし、少しだけ外の光が覗く。
扉の上下が完全に壊れてしまったようだが、力づくで最後まで開け切ってしまおう。
ぎゃりぎゃりと耳障りな金属音を発するが、無視して奥まで押し込む。
「あら……♡すごい力ですね」
「このくらいならミカちゃんだってできるし、普通だよ、普通。」
「普通、ですか」
久しぶりの娑婆の空気はうまい。
まさか決闘しに行ってエロいことをしそうになるとは思いもよらなかったけど、終わってみれば良かったんじゃないだろうか。
「決闘は私の勝ちでいいよね?」
「決闘……そういえばそのためにここに来たんでしたね。ええ、構いませんよ。私の負けです♡」
ま、そうなるよね。
「さて……敗者の私はどんな言うことも聞かなくてはなりませんね♡それこそ、な、ん、で、も♡」
「……なんていうか、冗談だってわかってると安心感があるよ。」
「ふふっ♡」
しかし、お願いか。決闘を決めたときにはそんなことは言ってなかった気がするけど、何でも命令していいって聞くとなんかしたくなる。
あ、そうだ。
「じゃあ、一つお願いしようかな。」
| 浦和ハナコに勝ったよ |
| 勉強でかい? |
| いや違うけど~ |
| 説明するのはお子様なセイアちゃんにはまだ早いかなあ~ |
| 待ちたまえ |
| 先ずは私がお子様だという評価に物申したいが |
| 私に説明できないとはどういうことだい? |
| 以前から君には隠し事をしないように告げていたつもりだが |
| あー。あー。聞こえない~ |
| ちなみにこれ、勝った時の証拠写真ね |
| ウルトとハナコがキスしてるように見える画像 |
| なんだいこの画像は? |
| 君にそちらの趣味があったとして私は驚きはしないが |
| その画像をどういうつもりで送ってきているのか少々問い詰めたいね |
| 君は私にどういう反応を期待して送ったのかな? |
| それによっては君との付き合い方を考える必要も |
| 待ちたまえ |
| よく見れば口づけしていないじゃないか |
| であるならばやはりどういった反応を期待して私に送ったのか問いただす必要があるね |
| ところで |
| 先ほどから既読がつかないが聞いているのかい? |
凄まじい数のメッセージがセイアちゃんから届いていたが未読無視し、学校に行くとセイアちゃんにめっちゃ怒られた。
「ふふっ♡」
ウルトさんに頼まれて撮った幾つかの写真を眺める。
2人で肩を組んでいる写真。
ウルトさんが私のことをお姫様抱っこして、キメ顔をしている写真。
私とウルトさんがキスをしているように見える写真。
私がウルトさんに顎クイをしている写真。
ウルトさんが壁ドンをしている写真……
「今日一日で、私のたくさんの初めてを奪われてしまいました♡」
そういえば、こうして友達とふざけ合うのも初めての体験でしたね。
「中学の頃と何も変わらない……陰謀や打算に塗れたつまらない毎日が続くのだと諦めてしまっていましたが……」
……私もウルトさんのように自由に過ごしても良いのでしょうか。
今のハナコはトリニティに絶望する前のハナコですが、中学のころから似たような状況に悩まされていると思いますので、水着散歩する素養は現時点でも秘められていることにします。