ゲヘナ自治区 廃工場
「「ヒィヤアアアアア!?」」
化け物でも見たかのように、スケバン達は悲鳴をあげて逃げる。
その背後にはゲヘナ最強と謳われる風紀委員長の小さな影。
体躯に見合わぬ巨大な機関銃を軽々と構え、マズルフラッシュが光り、影を溶かす。
「ぐえっ!?」
「ぎゃっ!?」
工場を揺らすほどの銃声の中に幾つかの悲鳴が混じる。
紫色の神秘を纏った銃弾が乱れ飛び、残されたクレーンや廃材が崩れて逃げ遅れた生徒を下敷きにする。
もうすぐ1年が終わるというのに、何もできていないと一緒に嘆いていた仲間達が次々と倒れていく。
いったい何が悪かったんだろうか。
悪い子なあたし達にサンタはこねえと、街を飾っていたトナカイをヴィジュアル系に改造した時?
それともカップル専用メニューという存在にキレて店を襲った時?
はたまた、ティーパーティーとゲヘナの両方を襲撃した上、あの風紀委員会に打ち勝った
走馬灯めいた思い出が駆けめぐり、建物の軋む音と、鳴り響く銃声、悲鳴、自分の粗い息遣いだけが頭を占める。
無我夢中で走って、走って、……気づけば、廃工場の仄暗い灯りではなく暖かな陽射しが辺りを照らしていた。
「おめでとー、最後の1人だ。一番くじならラストワン賞だね。
ヒナちゃんに追われてここまで耐えるなんてすごい。
それと、今にも死にそうな顔してるけど大丈夫? マスク外してちゃんと息吸った方がいいよ?」
「ひぇ? 」
動画と配信で何度も何度も聞いた声。それが自分に向けられている。
酸欠で暗くぼやけた視界に、夜空に似たヘイローと白い立ち姿が映る。
「お、おうさま……? 」
「……臣民? *1」
急速に現実味が薄れていく感覚。
あっ、これ夢だ。悪い子のあたしにもサンタさんがやってきた。
張り詰めていた緊張が解け、崩れ落ちそうになり、優しく支えられた。
あったか。お花の良い匂い。
夢ならば、都合の良い自分勝手な要求をしたって許されるはず。
柔らかな感触に縋りつきながら懸命に言葉を発する。
「サインください……! 」
「うん、良いよ。だから後はゆっくりおやすみ。ヘイローが点滅してるし、無理しない方がいいよ。」
こちらを気遣う優しいその言葉に安心して、あたしは目を瞑った。
最初は悪夢だったけど、最後に推しの夢を見れるとか。神様ありがとう……
美食研究会を捕らえ、フウカちゃんを取り戻すための旅。
その入り口でついでとばかりにいくつかの事件をヒナちゃんと一緒に踏み潰していた。
セイアちゃんという護衛対象がいるので私が前に突っ込んで蹴散らすわけにもいかず、ヒナちゃんが削って、残りを足の速い私が処理するって感じに役割を分担している。
隕石降らせれば遠距離範囲アタッカーになれるんだけど、建物へのダメージが深刻すぎて使い勝手が悪いのがなんとも。
廃工場から飛び出してきた私のリスナーに色紙を持たせて、救急医学部の担架に寝かせ後のことを任せる。
「これで此処は解決。D.U間鉄橋で給食部のトラックを目撃したという情報があった。次はそっちに」
「ちょっと待って。」
「……?」
私たちについて来ていた風紀委員は不良生徒の護送でいなくなり、救急医学部も荒い運転で立ち去って丁度よく人払いができた。
お姫様抱っこしながら走り回ったせいで酔ったのか、若干顔色が悪いセイアちゃんを前へと押し出す。
最初のうちは遊園地のアトラクションを楽しむかのように尻尾をパタパタさせていたのに、今では狐耳を垂らし、尻尾は萎れている。
私のせいなんだけど、実質的な初対面になるっていうのに元気のない姿を見せるのは勿体無いなあ……
「ででん、第一問。今この場にいるのは何人でしょうか。」
「……? 3人? いったい何の話を……」
「ぴんぽーん、正解。これはわかるんだよね。
じゃあここにいるのは、私、冠ウルトと、風紀委員長の空崎ヒナちゃん。最後の1人は誰でしょうか?」
「それは…………」
ヒナちゃんの目が今にも吐きそうな金髪狐耳のちびっ子に向けられる。
紫色の瞳が上から下、下から上へ。舐め回すかのように動いた後、悩み……自分の認識が信じられない様子で静かに口を開く。
「
……あなたが連れているということはあなたの友人であるように思えるし、ここにいるのだから風紀委員のようにも思える。
それに騒動に参加した不良生徒のようにも見えるし、無関係の生徒、いえ、大人のようにも……。
私の思いつく全てのものと合致する、だけどそんなことはあり得ない。
目の前にいるなら、わからないはずがないのに」
ヒナちゃんでもダメか。
クラウンが解除する以外に認識阻害を解く方法か、突破する方法がないかと模索してるけど今のところ見つかっていない。それも
2人の小さな手を取って、繋がせる。
怯えたかのように腕が跳ねるが、もう少しだけ我慢してほしい。
見えない箱の中身を探るように恐る恐る触れ、それが人の手であることを確かめるように小さな手と手が重なる。
なんか楽しそう。
セイアちゃんのもう一方の手を取って遊ぼうとすると、無言で脛を蹴られた。
「……人の手。私と大きさは同じか、少し大きい。
それがわかったのに、頭の中では未だに子供か大人かの区別さえつけられない。
いったい何者なの?」
「触れても、それが何であるか判別することさえできないと。
……この言葉が耳に届くことはないのだろうけど、自己紹介をさせてもらおう。
君には
「駄目……聞き取れなかった。いえ、理解できなかった……?」
やっぱりダメっぽい。
見てもダメ、触ってもダメ、聞いてもダメとなると残りは匂いと味になるが、それだけわかったところで正体を特定するには不十分すぎる。
ヒナちゃんがセイアちゃんをペロペロする絵面とクンクンする姿に興味はあるけど、そろそろネタバラシの時間にしよう。
それとセイア吸いは私の特権だし。
モモトークでクラウンに向けてペロロ博士*2のスタンプを連打する。
ずっと私のチャット画面を見ていたのだろうか。一瞬で全てのペロロ博士に既読が付き、ペロロジラがビームを吐くスタンプが送られてきた後、ブロックされた。
初手ブロックは禁じ手、つまり私の勝ちだな!
「……!?」
手を取り合っていちゃいちゃしていたヒナちゃんが目を見開いた。
それは驚きというよりも気づき。
吹き出しが頭の上に浮かぶとしたら感嘆符ではなく電球が点き、
私の視点では何も変わったように見えなかったけど、そこには明らかな違いがあったのであろう。
「百合園セイア、ウルトの様子からして無事だろうとは思っていたけれど、何故、あなたがこんな場所に……?」
「あれが言うには観光らしい。その様子だと私の状況は既に知っているようだね」
「…………観光。……そうね、ゲヘナ襲撃の日の夜、あなたが襲撃を受けて爆発に巻き込まれたと聞いた」
「だけどセイアちゃんはここにいる。
原因は内紛みたいなものだし、ゲヘナに面倒ごとを持ってくるつもりもない。
ここに連れてきたのは2人を会わせたかったから。……でも恋人繋ぎするような仲になるなんて私はびっくりだよ。」
スキンシップに慣れていないヒナちゃんの顔が赤くなり、謝罪の言葉とともに仲良く繋いでいた手を離す。
ちょっと勿体無い。
頬に冷たい雪の結晶が触れる。
瞬く間に空を覆い出した白い雲を見上げ、午後の天気は吹雪くところもあるという天気予報を思い出す。
空に意識を傾け、星の視点からキヴォトスを見下ろすと確かに大きな雪雲がこちらに迫りつつあるのがわかった。
身体の弱っちいお姫様を吹雪の中に放っておいたらほんとに風邪をひいてしまう。
少々急ぐ必要がありそうだ。
「照れてないで美食研追いかけるよ。雪も降ってきたし、さっさと終わらせてお風呂いこ。」
「良いけど……
「私の側より安全な場所はないからね。
あと、ヘリで迎えを呼んだから忘れ物しないように。
お姫様抱っこジェットコースターの次はスカイダイビングだよ。」
「スカイダイビング……空から落ちる夢は何度も見たことがあるが、総じてあまり心地よくはない夢だ。あと寒いし……私は行かなくても良いのではないかい?」
若干の疲れを感じさせる顔で呟く。
ここで離脱して温泉で合流っていうのも悪くはないけど、これさえ終われば本日のイベントは終了だ。
残すは温泉郷でフウカちゃんのご飯を食べてゆっくり過ごすだけ。
ほんのちょっとだけ頑張ってもらおう。
「昨日遊んでたゼルナの伝説と似たような経験ができるんだよ? 落っこちる夢より断然壮大だし、気持ちいい。パラシュートなしでも私がいれば無傷で着地できるし、寒いならくっついてればいいじゃん。」
「……仕方あるまい。想像するだけで寒くて、苦しくて、恐ろしい内容だが……知らずに恐れることは、どうしようもなくくだらない事だと先ほど知ったばかりだからね。……気乗りはしないが私も一歩踏み出すとしよう」
その言葉に思わず笑みが溢れる。
あのバンジージャンプを死ぬほど嫌がるセイアちゃんが、
2年の修学旅行でミカちゃんに無理やり落とされて2週間口聞いてくれなくなったというセイアちゃんが、自分から勇気を出してスカイダイビングに参加すると。
……修学旅行後、共有された動画には崖っぷちで20分もよく舌が回るなと思うほどにペラペラと未練がましく喋り続ける姿が映っており、
そこには「人生ゲームの最下位に課す罰ゲームとしては酷だとは思わないのかい!?」など、
じわじわとにじり寄るミカちゃんに対し、「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな!」などなど
セイアちゃんから発されたとは思えない悲鳴たっぷり情感たっぷりの罵詈雑言が数多く収められている。
修学旅行にはついて行かなかったし、直接見ることができなくて残念。でも多分いたら甘やかしちゃってこの罵詈雑言ASMRは収録されなかっただろうからついて行かなくて正解だった。
私相手だとあんまり嫌がらずに何でもさせてくれるの信頼されてる気がして、とても良いよね。
「これ終わったら温泉郷に帰って、みんなで囲炉裏囲んで鍋パだから気張っていこー!」
「少し前に口にしたピザの味がまだ舌に残っているというのに……声高々に張り切るのは構わないが私の食の細さを忘れてはいないだろうね?」
「動けばお腹も減るよ。食べて動くのが体づくりの基本、へなちょこな上、すぐ体重落ちちゃう体質なんだし多めに食べるの。」
「……君は私の母親か何かかい?」
ママよりお姉ちゃんの方が嬉しいけど、セイアちゃんにお母さん呼びされたら母性が危険な領域に到達してしまう。
気づけば連邦生徒会に養子縁組の届出を出していてもおかしくない。
年下のママとかもう意味不明だけど、そういう文化*3もあるわけだし、OKか。
私がセイアちゃんのママだった説に思考を飛ばしているとヘリの風切り音が近づいてきた。
風に揺られて舞う雪が肌に触れて雫に変わる。
少し冷たくなった2人の手を取り、ランデブーポイントへ足を進める。
「幼稚園の送迎ヘリがきたから2人とも行くよ。美味しいお鍋とあったかい温泉のために!」
「……はぁ」
「(百合園セイアも大変ね……)」
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