ラスボスが増えてるブルーアーカイブ   作:シフィ

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今回は前編、後編に分けています。
後編の方がかなり文量が多いですが、セイアのせいです。


セイアちゃんのお見舞い

 

 ガタン

 

 

「わ。ちょっと、姉ちゃん邪魔! 何なの、急に立ち上がって、無駄にでっかいせいでテレビ見えないじゃん」

「無駄に大きくない。有効に、大きい。」

「は? 何いってんの?」

 

 

 自宅でティエちゃんと一緒に映画を見ていた時。事件が起きた。

 

 

「セイアちゃんが倒れちゃったみたいだから、行ってくるね。」

「え? 何でそんなこと……そういえば激重ストーカーみたいなことしてたっけ」

「むぅ。お姉ちゃんに向かって失礼。」

 

 

 帰ったらじっくりとお話しする必要があるな、と思いつつ準備を整える。

 セイアちゃんの体調は私のスマホに常に送られている。

 最新のウェアラブルデバイス*1のおかげで、セイアちゃんの脈拍も血圧も丸わかりだ。

 

 このウェアラブルデバイスをプレゼントした時は「君が私を気遣う気持ちはとても嬉しく感じるが、これは……。……そんな顔をしないでくれたまえ、有難く着けさせてもらおうと思うが、もしも君の負担になるようであれば直ぐに外させてもらうよ」

 なんて事を言い出したので四六時中着けっぱなしにするように何日も言い聞かせた。

 

 ……私の知らないところで倒れられる方が大変なんだよ。

 

 さて、セイアちゃんのところに行く準備だが、持っていっても仕方ないけど、とりあえず銃と、看護道具はあっちに置いてあるから、あとは何だろう。寝起きに食べるご飯? 

 ……私、いつもご飯の準備してるな。

 

 

「ティエちゃん、今日はお姉ちゃん一緒に食べれないから、1人でホールに行くんだよ?」

「バカにすんなー! そのくらいできるよ!」

「後は、クラウンにも声かけてあげてね。」

「うえっ……わかった」

 

 

 多少はクラウンと打ち解けたみたいだけど、クラウンがティエちゃんとあまり関わろうとしないせいで外向けのティエちゃんにも、今のティエちゃんにもなり切れていない微妙な状態で止まってしまっている。

 一緒に住んでいるんだから、仲良くなってほしい。

 

 クラウンは未来の私なのに、なぜ妹のティエちゃんを可愛がろうとしないのかが不思議だ。

 

 

『ウルト。』

「うわっ!?」

「……どうしたの?」

 

 

 ティエちゃんが飛び上がってソファーの裏に隠れる。

 ちっこいので全く見えなくなった。

 

 そして私の隣にはいつの間にかクラウンが立っていた。

 この私の超鋭敏ウルトちゃんセンサーを潜り抜けて隣に立つんだから、すごい気配の隠し方だ。

 いや、私はビビってないが。

 

 

 

『これ、セイアちゃんに飲ませてあげて。』

「……?」

 

 

 クラウンが今のセイアちゃんの状況について知っているってことは、私のことを盗聴しているか、セイアちゃんのウェアラブルデバイスをハッキングしたかで情報を抜き取ったのだろう。

 今更クラウンが何をしていても驚くつもりはないけど。

 

 そしてクラウンの腕が伸びてきて、私に何かの袋を手渡す。

 中身は……錠剤? 成分などは書いていない。

 

 

「これは?」

『睡眠導入剤のようなもの。セイアちゃんの予知夢を制御しやすくするための薬だよ。』

 

 

 予知夢を制御しやすくする……なるほど、そんなものがあればセイアちゃんの体調不良の原因はほとんどが解決する。

 

 セイアちゃんの体調不良は予知夢、つまりは正夢と現実の区別がつかなくなることと、予知夢を見ることの精神的な負担が主な原因だ。

 それと、起きている最中に予知夢が発生してしまったせいでいきなり倒れてしまう事もある。

 いわゆるナルコレプシー、のような症状が出る事もあり危険だ。

 

 こんなものを持っていた理由はクラウンが未来の私であるから、で説明はつくが、一応確認はしておこう。

 

 

「この薬の副作用は? どうしてこんな薬を持ってるの?」

『副作用、というか作用になるけど。これを飲んじゃうと8時間は眠ることになる。その後10時間くらいは目が冴えた状態になる。つまりは夢と現実の区別をつけ易くする薬だよ。』

 

 

 起きると目が冴える睡眠薬。かなり理想的な薬だ。どうやって調合しているんだろうか。

 

 

『そしてこの薬は……セイアちゃんと()()してた時にあった方が遊びやすいなって。』

「「同棲?????」」

 

 

 びっくりしてティエちゃんもソファーの裏から出てきた。

 同棲って、一緒に住んでたって事だよね。

 

 仲が良い自信はあるけど、一緒に暮らすほどかと言われると、若干迷う。

 私はともかく、セイアちゃんは他の生徒との付き合いもあるし、私も一緒に暮らす、となるとティエちゃんの居場所がなくなる。

 

 私とセイアちゃんはティーパーティのサンクトゥス分派所属だけど、ティエちゃんはシスターフッド所属だ。

 私とティエちゃんは姉妹だし、シスターフッドとの癒着、だとかそういった目線はなくもないが結構少ない。

 しかし、そこにセイアちゃんが加わるのは、立場上、かなり難しいものがある。

 

 私とセイアちゃんだけなら大丈夫なんだけど。

 

 

「そ、それってクラウンさんと、えっと、クラウンさんの世界のセイアさんが一緒に暮らしてたって事ですよね?」

『うん。あとは()()()()()もいたけどね。』

「せ、先生!? いや、アトラって誰だ……? 先生とも一緒に暮らしてたんですか!?」

「……?」

 

 

 ティエちゃんは知ってるみたいだけど、先生って誰だ? 

 額面通りに受け取るなら、トリニティの教職員……いや、あれは先生ではなく、教員だし、あんな無愛想なオートマタと一緒に暮らすとは思えない。

 

 アトラは前にも出てきた。

 ウイちゃんに送ったスマートテーブルのAIがなんかで、アトラちゃんの力に対抗するためにあのDivi:sionとかいうAIが必要なんだとか。

 

 そしてなぜかティエちゃんの名前が出てこなかった。一緒に住んでなかったのかな。

 私が妹から離れるとは思い難いが、クラウンとティエちゃんの関係を見るに、あっちの世界では姉妹仲が悪かったとか?

 

 

『……そう。先生のこと知ってるんだね。でもアトラちゃんのことは知らないと。』

「あ、いや、えーっと。ちょ、ちょっとお腹痛くなってきたから、トイレ行ってくる……」

 

 

 ティエちゃんが逃げた。明らかに何かを隠している。……まあ、私からは問いたださないでおこう。

 私はお姉ちゃんだから妹のことは見守っておく役目があるのだ。

 

 

『先生とアトラちゃんについては、そのうち会うことになるだろうから今は気にしなくて良いよ。』

「わかった。ネタバレはあんまり好きじゃないから、それで良いよ。」

 

 

 多分、重要なことだったら、クラウンの方から打ち明けてくれるだろう。

 未来について知ったって、あんまり楽しいものじゃないってセイアちゃんから教わったからね。

 

 

『他に質問はある?』

「今の所はないかな。あ、いや。一個だけあった。」

『何?』

「セイアちゃん。それと先生、とアトラちゃんだっけ。その子たちと暮らしてて楽しかった?」

 

 

 答えはわかっている。クラウンがとても楽しそうに話していたから。

 だから、未来の私が、凄惨で救いのない滅びを歩んだだけじゃなくて、何か救いがあったんだと知りたいだけなんだ。

 

 

『うん。とっても。』

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 準備を整えてセイアちゃんの住んでいる屋敷までやってきた。

 相変わらずデカい屋敷。

 セイアちゃん以外にも、ミカちゃんとか他のティーパーティの重役はみんなトリニティの大きな屋敷に1人で住んでいる。

 

 屋敷の管理のために獣人の執事とかオートマタはいるけど、1人でこーんなに大きな屋敷にいるのは寂しそうだ。

 私はティエちゃんと、今はクラウンとも住んでいるから全然寂しくないが。

 

 

「おまちしておりましたぁ」

「こんばんは、セイアちゃんは大丈夫そう?」

「はいぃ、いつものしょうじょうですのでぇ」

「そっか。」

 

 

 出迎えてくれたのは羊の獣人さん。

 モコモコしていてとってもキュートだ。

 

 セイアちゃんの事だし、顔採用なのだろう。

 

 中等部の頃、一度体操服でセイアちゃんが登校してきたことがあった。話を聞いてみると、「私の屋敷で執事をしてくれている人が制服を全部濡らしてしまってね。幸い、体操服は濡らされずに残っていたからそれを着てきた。という訳さ」と説明してくれた。

 

 誰が濡らしたかは聞いていないが、この羊さんの立ち振る舞いを見るに、ドジっ子っぽいというか、仕事でミスしそうな雰囲気があるのでこの人がセイアちゃんの制服を濡らしたのだろう。

 それでクビになっていないという事はやはり顔採用であろうとしか思えない。

 

 

 

 

 

 

 セイアちゃんの寝室に着いた。

 大きな屋敷だけあって、扉がデカい。

 

 セイアちゃんの身長だと、おでこ辺りにドアノブが来る高さだ。

 

 毎回腕を振り上げて扉を開けているのだろう。不便そうだが、かなり可愛い。

 

 

「それではぁ、しつれいいたしますぅ」

『うん、ありがと。後は任せて。』

 

 

 音を立てないように、静かに扉を開く。

 

 月明かりがシマエナガグッズの置かれた室内を照らす。

 

 狐耳のお姫様は白い天蓋付きのベッドで静かに眠っている。

 ウェアラブルデバイスを確認したところ、体温や、血圧などは大丈夫そうだ。

 

 空調を汗のかき具合を見て、調節する。

 

 今の時間帯なら、まだ体を拭く必要はないだろうし、倒れた時間から考えても、点滴は必要ない。

 

 私にできる事は、このお姫様が悪い夢を見ないように一緒にいてあげることだけだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

side.ティエ

 

 

「(……き、気まずい)」

 

 

 姉ちゃんがセイアさんのところに行ってから、言われた通りクラウンさんを食事に誘った。

 

 今日の食事は昨日から楽しみにしていたビーフシチュー、キラキラとお肉が光っててとても美味しい、美味しいんだけど……

 

 

『…………。』

 

 

 すっごい見られてる!

 

 シチューにスプーンを入れる瞬間、口を開いた瞬間、口元にスプーンを持っていった瞬間。その全てを見られている気がする!

 

 怖い。

 幼少期の姉ちゃんもとんでもない事ばかりして気が落ち着かなかったけど、セイアさんと会ってから随分マシになった。

 でも、クラウンさんは何ていうか、見た目のヤバさも相まってタガが外れている感じがする。

 

 緊張で視野が狭まってきた。あんなに楽しみにしていたシチューの味もわからない。

 と、とりあえずお水を……

 

 

『あなたは、』

うっひゃい!?

 

 

 大声を出してしまった。

 

 ホールにいた他のお客さんの視線が集まって顔が赤くなる。

 だ、ダメだ。外行きモードにならないと耐えられない。

 

 シスターフッドの制服に着替えたつもりになり、気を落ち着かせる。

 

 私は無口でカッコいいシスターフッドの盾……私は無口で素敵なシスターフッドの騎士……

 

 ……落ち着いた。

 

 周りにお辞儀をし、席に座る。

 

 

『……大丈夫?』

「ああ、大丈夫だ」

『そっか。』

 

 

 黙々と食事を続ける。

 今も味がわからないが、何も問題はない。

 

 

『……シスターフッドでのあなたの様子を見てたけど。』

 

 

 ガチャン!

 

 スプーンをシチューの中に落としてしまった。

 それにすぐ気づいたスタッフの方が新しいスプーンを用意してくれる。

 

 えっ?何?めっちゃ怖い。

 見られてた?

 

 だ、ダメだ、怖すぎる。私はこの反転した姉ちゃんに()()()()()()()()()()()()んだ。

 

 もはや、今生に希望はない。やはり全てはばにばに(vanitas vanitatum)なのだ。

 

 折角ブルアカの世界に生まれて、おっぱいのデカい姉ちゃんの妹になったというのに、アリスちゃんにもケイちゃんにも会えずに死んじゃうんだ。

 来世はアリスちゃんの妹に産まれたい……

 ケイちゃんのことをママって呼びたいなあ……

 

 でもマリーちゃんの覚悟衣装見れてないし、死にたくないなあ……

 

 

『……ほんとに大丈夫?』

「何も問題はない」

『じゃあ、続けるね。……シスターフッドでの口調と立ち振る舞い。今の口調もだけど。誰かの真似?』

「……なぜ、そんな事を?」

『気になっただけだよ。』

 

 

 く、口調?そんな事……

 でも外と内、姉ちゃんの前での口調が違いすぎるし、気になったのかな……

 

 ガチャガチャと震えるスプーンをお皿に置き、ビーフシチュー塗れになった手を頑張って握る。

 長年の経験で口だけは何とか回る。

 

 

「カッコいいと思ったから……」

 

 

 は、恥ずかし!?

 答えないと()()()()()()()()()()()とはいえ、あまりに恥ずかしい。

 

 姉ちゃんがニコニコ見てくるのも恥ずかしかったけど、姉ちゃんも覇王とか呼ばれて喜んでる厨二病だし。

 でもこっちのヤバい姉ちゃんはほんとにヤバい。

 姉ちゃんから優しさを抜いてヤバさを詰め込みましたって感じでもう怖い。

 

 

『……そう。わかった。』

 

 

 ヤバい姉ちゃんは音も立てずに椅子をずらし、立ち上がった。

 

 姉ちゃんよりちっちゃくて可愛いけど、怖い。

 実はニャルラトホテプでした!とか言われて雑に殺されそうで怖い。

 なんか宇宙っぽいし……

 

 

『緊張してるみたいだし、私は違う席に行くね。』

 

 

 そう言って、ヤバい姉ちゃんは立ち去った。

 

 ……もしかして、生きてる?

 

 ふと気づくと、テーブルの上が私が溢したビーフシチューの黒い液体でびちゃびちゃになっていた。

 

 

「わ、私のビーフシチューぅぅうう!!??」

 

 

 

 その後、スタッフさんがシチューのおかわりをくれた。

 優しい。

 

*1
ウェアラブルデバイス Appleウォッチなどの常に身につけておき体調を監視する等の目的で利用するデバイス






ミカとナギサが10年来の幼馴染なら、セイアにも幼馴染がいてもいいという理論
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