ラスボスが増えてるブルーアーカイブ   作:シフィ

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セイアちゃんの予知夢

 

 

 


 

 

⭐︎ミカちゃん⭐︎

 

 

 

既読
ミカちゃん

既読
今日、セイアちゃんは学校休むって

既読
他のティーパーティの人にも伝えておいてくれるかな

 

え!? 

セイアちゃんに何かあったの!? 

大丈夫そ? 

 

既読
いや

既読
デートだよ♡

 

わーお⭐︎ 

それって 

ウルトちゃんと 

セイアちゃんが 

だよね? 

どこ行くの?

既読
ごめん、嘘。

え? 

もー何それ! 

既読
ほんとはいつもの体調不良だから

既読
またお見舞いに来てあげて

あー 

突然休む事あったけど

それ? 

既読
うん

わかった⭐︎ 

みんなに伝えとくから

お大事に⭐︎

 

 

 

 

 

 

 

 セイアちゃんの身体を拭いたり、部屋着からシマエナガの描かれたもこもこパジャマ*1に着替えさせたりしているうちに、半日ほど経ち日が登った。

 

 私はなんか寝なくて大丈夫なので寝ていない。

 いつもはティエちゃんとかみんなと生活リズム合わせるために寝ているけどね。

 

 セイアちゃんについては学校と、ティーパーティには今日は休むことを伝えてある。

 私はハナコちゃんとウイちゃん、それとティーパーティにだけ連絡しておくくらいか。

 

 セイアちゃんの分はもう既に連絡してあるので、私の分をスマホをいじり、連絡していく。

 

 確か今日はテストがあったけど、そんなものどうでもいいので無視しておく。

 無断欠席じゃなければ再テストは受けれるし、大丈夫。

 

 ……やることがなくなってきたので、セイアちゃんの頭を膝に乗せて狐耳をくにくにといじり回す。

 いつもは触らせてくれないし、こういう時の役得だよね。

 

 くに、くに。

 

 ちょん、ちょん。

 

 セイアちゃんの狐耳で遊んでいると、セイアちゃんのペットのシマエナガくんが飛んできた。

 

 

「さっきご飯はあげたでしょ?」

 

 

 ベッドに止まったシマエナガくんの頭をちょんちょんと小突く。

 それを嫌がるようにシマエナガくんはまた空を飛び……

 

 セイアちゃんの鼻の上に止まった。

 

 

「んふっ」

 

 

 いけない、笑って膝の上に乗せているセイアちゃんの頭が揺れれば、またどこかに飛んでいってしまうかもしれない。

 

 

「ちょ、ちょっとだけ。ふふ……待ってね。」

 

 

 スマホのカメラを起動する。

 シャッター音が鳴らないように動画モードにして撮影。

 

 笑ってはいけない。となるとなぜか笑いが込み上げてくる現象と必死に戦いながらカメラを回す。

 

 シマエナガくんは立ち位置が定まらないのか、度々ジャンプするため、セイアちゃんの小さな鼻がぷにぷにと揺れている。

 

 

「ふふっ……っ」

 

 

 永久保存版だ。

 誰の顔の上でシマエナガくんが跳ねているのかしっかりわかるように、セイアちゃんの顔全体も撮っておく。

 

 ミカちゃんと、サンクトゥスの先輩にも共有しないと。

 

 シマエナガくんの勇姿をカメラに収めていると、不意にヘイローが現れた。

 

 残念、ここまでのようだ。シマエナガくんは何事もなかったかのように空を飛び、自分の鳥籠の中に入っていった。

 あの大きさの割に意外と賢い。何事もなかったかのようにシマエナガくんは平然としていた。

 

 

「ん……ふぁ……」

「おはよう。お姫様。早めのお目覚めだね。」

 

 

 寝起きのぽや〜っとした金色の瞳が私のことを写す。

 ……何かを探すように伸ばしている手を掴む。

 

 

「……ああ、ん……おはよう。起きてすぐ、君の顔を見るというのは、気が滅入るというか……安心するね」

「えぇー? 気が滅入ると、安心するって。それ真逆じゃない?」

「ふふ。言葉の綾、というものだよ」

「……さてはセイアちゃん。頭回ってないね?」

 

 

 セイアちゃんのおでこを指先でぐりぐりと押す。

 

 

「一体、何をするんだい。やめたまえ……」

 

 

 へにゃへにゃの小動物すら止められないような力で私の指を止めようとするが、私のパワーはライオンの数百倍だ。

 指先でおでこに肉の字を書き続ける。

 

 ぐりぐり。

 

 おでこにちょっと赤い跡が残り、セイアちゃんが諦めてされるがままになった頃合いで。

 

 

「……良い夢は見れた?」

 

 

 問いかけると同時に指を止め、ちょっかいをかけるのをやめた。

 セイアちゃんは寝起きに比べると幾分かはっきりした瞳で私を見つめ返す。

 

 ジトっとした目で私のことを見つめた後、ため息をついてから語り出した。

 

「……酷い夢だったよ、救い難く、憎悪や疑念を抱き合う、陰惨な未来。私の矮小な力ではどうしようもない、理不尽な夢」

「……」

「けれど、君なら、きっとこんな悪夢も喜劇に変わってしまうのだろうね」

「うん。私がなんとかしてみせるよ。」

 

 かなり悪い夢だったようだ。

 お漏らしは……してなさそう。

 もし漏らしてたら体拭いてる時に気付くけど、起きる瞬間に漏らしてるかもだし、一応ね。

 

 セイアちゃんが私の膝の上から起き上がった。

 モコモコパジャマから真っ白な背中が丸見えになる。

 ほんと、なんでセイアちゃんの服は背中が丸見えの服しかないんだろうか。こうも見せつけられると背筋を指でなぞりたくなる。

 

 

「寝起きだし、紅茶でも飲む?」

「ああ、そうだね。カモミールを……いや、やはりコーヒーにしようかな。頼めるかい?」

「わかった、でも珍しいね。コーヒーなんて。」

「私にだってそういう日もあるさ。それに、夢の内容を語るにはカモミールでは少し、甘すぎる」

 

 

 なんかカッコつけてるけど、セイアちゃんは砂糖を3本も入れちゃわないと飲めないお子様舌だ。

 

 っていうか、セイアちゃんの家にコーヒーミル、それにコーヒー豆ってあったっけ? 

 自宅まで取りに行くのも面倒だし、ウルトイーツでコーヒーの取り寄せしちゃおうかな。

 

 

 

 


 

 

 

 

 コーヒーの取り寄せしたり、私の分の食事を手配してからセイアちゃんの部屋(セイアちゃんは自室と寝室を分けている)に戻ってきた。

 

 寝室のシマエナガだらけでファンシーだったお部屋とは異なり、セイアちゃんの自室は神秘的な部屋だ。

 一階にある自室の壁一面がそのままバルコニーとなっており、中庭が一望できる。

 

 一面に張られたガラスはシャッターのように動かすことが可能で、かなり大掛かりな部屋になっている。

 ちなみにセイアちゃんの要望を受けて私が作った。

 日差しはお肌の天敵なので、セイアちゃんの丸出しの背中が焼けないようにUVカットのフィルターをガラスの中に仕込んでいる。

 

 白を基調とした部屋の中央には人を招く事もあるからか、ティーパーティーの机、ほどではないが、かなり巨大なテーブルが置かれている。

 私たちが2人きりの時はそのテーブルは使わずに、少し壁際にある丸いテーブルを使うことが多い。

 セイアちゃんはその近くで、チマっと座っていた。

 

 

「……なんで制服に着替えてるの? もしかして……。」

「ウルトが想定しているような事は考えていないよ。君はこと私の健康に関しては五月蝿いからね。もしも()()()()()()。その他の生徒が見舞いに来てくれた時に部屋着では格好がつかないだろう?」

 

 

 それなら、まあ。いいか。

 予知夢を見た後のセイアちゃんは体力を消耗するのか、そのままいつも通りの生活を続けさせると、今度は熱などで寝込んでしまうことがある。

 病弱ケモ耳娘なのだから、自分の健康にはもっと気を遣ってほしいものだ。

 今日のこの様子だと大丈夫そうだけど。

 

 ……ナギサちゃんか。

 ティーパーティに寄った時に一言二言挨拶をした事はあるが、どういった子なのかセイアちゃんとミカちゃんの言伝でしか知らない子だ。

 色んなところで動いている(暗躍している)のは知っているし、エデン条約の賛成派である事も知っている。

 

 セイアちゃんファンクラブ、みたいなサンクトゥス分派と、

 ミカちゃんが所属している、反ゲヘナで武闘派な側面があるパテル分派。

 ナギサちゃんの所属している、フィリウス分派は穏健派で、何かと苦労しているイメージが強い。

 

 ナギサちゃんはからかうと面白そうなタイプだなあと、話を聞いていて思うが、今の所話す機会が取れていない。

 

 

「それなら、いいか。空調とか大丈夫そう? 暑くない?」

「大丈夫だよ、ウルト」

 

 

 スマホに通知、ウルトイーツからまもなく注文いただいた商品が届くという内容だ。

 アプリを起動し、配達ドローンの到着地点を指定する。*2

 中庭でいいか、一番近いし。

 

 バルコニーのガラスの扉を開き、ドローンから商品を受け取る。

 コーヒーはブルーマウンテンにした。

 あんまり苦くないし、今回のお供にするチーズケーキとも相性がいい。

 後は主食だが、私がちょっと前に流行らせた高級生食パン*3が屋敷の厨房にあったのでそれを持ってきた。

 

 音を立てないようにしつつ、食事の準備を整える。

 

 

「……君が給仕している姿を見ると、中等部の頃を思い出すよ」

「あの頃はセイアちゃんにべったりだったもんね。今は他の子がやってくれてるんでしょ?」

 

 

 サンクトゥス中等部の頃はセイアちゃん以外は私たちに媚を売ってくるような生徒ばかりだったので、常にセイアちゃんと一緒にいた。

 あの頃はスケバン狩りもやってたっけ、覇王とか呼ばれてたのもあの頃だ。

 

 

「体面上、あまり頼るわけにもいかないのだよ」

 

 

 ふーん?

 にやにやとしながら尋ねる。

 

 

「セイアちゃん、私がいなくて寂しいの?」

「何を言い出すのかと思えば、面白くない冗談だね。私を子供扱いしているようだが、子供なのは君だろう?

 以前に自宅に温泉に入りたいからと言ってゲヘナの生徒*4をトリニティに連れ込んだことがあったね。

 君たちが観光名所でもあった塔を丸ごと爆破してしまうものだからあの事件の揉み消しには手を焼かされた。

 ……今思い返しても実に不合理だ。他にも幾つか温泉を掘っていたようだが、なぜあの塔を壊したんだい?」

「そこに温泉があるから。」

 

 

 寂しいか聞いたら顔赤くして反論してきた。私もセイアちゃんの弱みを大量に握っているとはいえ、好き放題してきた分、セイアちゃんには様々な借りがある。

 

 その観光名所の塔の下には良さげな温泉が眠っているとカスミちゃん*5が言うものだから、あたりの土地全部買い上げて解体したのだ。

 お金は払っていたので、政治的にそこまで問題になることはなかったが、その場所が好きだった人たちからかなりのクレームが来た。全部黙らせたが。

 

 ちなみにその観光名所跡地には今の私が住んでいるホテルが建っている。

 文句の付けようがない五つ星ホテルにしたので、今では以前の古びた塔より私のホテルの方が良い。という市民の方が多い。

 

 

「君の思考について行けない時は度々あるが、その食とお風呂に関する情熱だけは理解し難いよ」

「美味しいもの食べて、良いお風呂に入れた方が楽しいでしょ?」

「……はあ、まったく」

 

 

 一口大に切り分けられたパンを食べ、コーヒーを飲む。

 セイアちゃんのちっちゃい口がむぐむぐしている。

 私の一口の3分の1くらいしか食べれていない。

 

 セイアちゃんは見た目の通り食が細いので、毎日必ず食事を摂らせるようにしないといけない。

 たまに食事を摂らずに寝ようとしたり、学校に来たりするのでそこらへんもウェアラブルデバイスで管理しておく必要がある。

 

 おかげで出会った頃には浮いていたアバラ骨も、すっかり見えなくなった。

 お腹は相変わらずイカ腹のままで幼児体型なのは変わらない。

 

 ついでにおっぱいもちっちゃい。あらゆる面で私の勝ちだ。

 

 あ、そうだ。クラウンから貰った睡眠導入剤渡さないと。

 それと……セイアちゃんにクラウンの事話してなかったけど、この機会に話しちゃおうかな。

 アレは無害でしょ、きっと。

 

 

「セイアちゃん、はい。これ。」

「……何だい、これは? 薬?」

「ちょっと特殊な睡眠導入剤みたいなもので、セイアちゃんの予知夢を制御しやすくする薬なんだって。」

「そんな夢のようなものがあれば苦労しないのだが……まさか、本当に?」

 

 

 これまで色々と試してきたし、疑う気持ちもわかる。

 普通の睡眠導入剤や睡眠薬を試したことはあったけど、何の意味もなかった。

 

 睡眠導入のミュージックとか、ASMR、アロマキャンドルなんかも試したっけ。

 アロマキャンドルは気に入ったみたいだけど、それ以外はあまり使っているところを見ない。

 

 そういえば冗談で作った私の囁きASMRまだ持ってるのかな?

 

 

「飲むと8時間寝て、その後10時間ちょっとは目が冴えた状態になるんだって。」

「そのような効能で予知夢が抑制できるとは到底思えないのだが、なぜ制御しやすくなるとウルトは……いや、その口調だと人伝にこの薬の効能を知った。という口ぶりだね? 一体誰から……?」

「未来の私から貰ったんだよ。」

「いつもの事だが……また、突拍子もないことを。つまり君は、未来人から薬を受け取り、効能の説明を受けたと言いたいのかい」

「うん。」

 

 

 セイアちゃんに説明するんだったらクラウンも連れてくればよかった。

 あの外宇宙からの侵略者、みたいなヤバい私がいるのと、いないのとでは説明の説得力が違う。

 

 クラウンに連絡すればいいのだけど、

 モモトークでメッセージを送っても、既読はつくが全然反応が返ってこないのだ。

 質問をすれば一応答えは返ってくるけど。

 

 

「未来の私、今はクラウンって名乗ってるけど、そいつから貰ったんだ。」

「……未来の君、とやらが本当なら有り得そうな話だね。君ならばいつかこの難題を解決してくれるのだろう」

 

 

 私への信頼度が高ぁい。

 しかし、未来の私というのは信じていないみたいだ。

 私のいつもの冗談、と受け取っているのではなく、クラウンのことを疑っている。

 

 スマホでクラウンと私のツーショットを見せたが、それでも足りないみたいだ。

 この写真のクラウンは宇宙みたいな肌隠しちゃってるし、ただのちっこい私にしか見えないから無理もないけど。

 

 

「その、クラウンという存在が、本当に自分の未来の姿だと証明できるのかい? 例えば私のように未来を知ることができ、それに合わせた言動をしているだけの可能性。自分の未来の姿だと信じるに足る情報を持っただけの赤の他人。という可能性もあるね」

「……。」

「未来の自分を名乗る存在が、果たして自分の未来の姿だと証明できるのか。……そうだね、似たような問い掛けが存在する。7()()()()()、その五つ目の質問だ。君も知っているだろう。楽園の存在に関する問い掛けだ」

 

「楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか」

 

「楽園に辿り着いた者がいるとするのなら、楽園の外に出ることはなく、観測されることはない。もし、楽園に辿り着いた。と名乗る者が楽園の外で観測されてしまうのであれば、そこは真の楽園足り得ることはない。であるのなら真の楽園とは存在するのだろうか。そんな問いだ」

 

 

 お、お話が長い。

 先ほどまでパンをむぐむぐしていたちっちゃいお口からペラペラと言葉が流れ続ける。

 

 なんか引用し出してくるとそれについて延々と語り続けるから、ティーパーティの部活説明会でもとんでもなく長い時間喋り続けていた。

 目を輝かせている生徒が数名いたとはいえ、アレのせいでかなりの時間が部活説明会で浪費されていた。

 

 未だに五つ目の古則についてペラを回しているセイアちゃんに割って入る。

 

 

「つまり、悪魔の証明だ。って言いたいんだよね。」

「……そうだね、そう言い換える事もできる。で、あるならばウルトはどうやってそのクラウンとやらが自分の未来の姿であると証明する気だい?」

 

 

 まあクラウンがとんでもない超次元の存在で、私の立場を何らかの目的で利用している可能性はあるが……

 

 

「クラウンが私の未来の姿なんて証明する方法は思いつかないし、あんなのに私はなる気は無い。それに過去や未来で言うなら未来から干渉されてしまった時点でこの世界の私、ウルトと未来の世界の私、クラウンは違ってしまっている。」

「なるほど。つまり君は……クラウンが未来の姿であると証明する必要はない。というんだね」

「まあ、あんな謎技術持っちゃってるヤバいのに成り代わられるなら、私じゃどうしようもないしね。」

 

 

 無論抵抗はするが、戦っても勝てない相手にどうやって対抗すればいいのか……

 

 

「……そんなに強いのかい? 君が諦める相手なんて、私は想像した事もなかったが」

諦めてないが????? 

 

 

 セイアちゃんの耳がピンと伸び、毛が少し逆立つ。声が大きくなってしまった。

 

 諦めるとかこの私が一番大嫌いな方法だ。だからあいつのあの悲しい、諦めたような目が嫌いなのであって……

 今の所どうすればいいのか思いつかないだけで何とかして勝つんだよ。

 どうして負けているのかの分析してるだけで、勝つことを諦めたわけではない。

 

 少し話が脱線しすぎた。それもこれもクラウンが訳わかんねーやつなのが悪い。

 私はわかりやすくて良いやつなので勝ちだ。

 

 

「あいつにはそのうち勝つ。うん。よし、話を薬に戻そっか。」

「……ああ、そうだね。いつも通りの君で安心したよ」

「私は変わらないよ。それはともかく、このお薬は睡眠導入剤だから毎晩寝る前に飲んでね。」

 

 

 セイアちゃん用の予知夢制御薬の話に戻した。

 私の司会能力が高すぎて辛い。セイアちゃんいる状態のティーパーティの会議とか、全く話進まなさそうだよね。

 ミカちゃんから「セイアちゃんのこと抑えてて⭐︎」って呼ばれる日も近い。

 

 

「話を戻してしまうことになるが、この薬の保証はあるのかい?」

「戻さないで。薬の保証は、クラウン、未来の世界にいたセイアちゃんで保証済みらしいよ。」

「君の未来の人物がいるのなら、私の未来の人物もいる。という訳か。道理だが……これは少々、筆舌にし難い気持ちだね。自己同一性というわけではないが、自分の何か根幹となるものを揺るがされた気分だ……」

 

 私はもう慣れてしまったが、自分だけが経験したはずの出来事に共感されたり、助言されるのは微妙な気持ちになる。

 お姉ちゃんがいるというのはこういう気分なんだろうか。

 

 あ、そうだ。これ言っちゃおう。

 

 

「クラウンが言うには、私たち、未来で()()するらしいよ。」

「????」

 

 

 セイアちゃんの使っていたフォークの先からチーズケーキがポロリと落ちる。

 皿を手に取り、セイアちゃんの制服の上にチーズケーキが落ちるまでの一瞬で元の位置にケーキを戻した。

 

 

「何故??」

「さあ、今日の夢で見てない?」

()()()()()()()()()()()()から問いかけているのだよ。君の未来について知ったのは今日が初めてだ」

 

 

 セイアちゃんの夢に私は映らないらしい。そのお陰でここまで仲良くなれた節もあるので嬉しい事だけど。

 セイアちゃんが理解できないものに関しては夢の精度が下がるというのは聞いているけど、こんなにわかりやすく可愛い私の事が見えないのは一体なぜなのか。

 

 

「何で同棲することになるのかは、聞いてない。知らない方が楽しそうだし。」

「……ふむ。ならば今日の夢の話は不要かい?」

「それは聞く。っていうかセイアちゃんが聞いてほしいでしょ。」

「……まあ、否定はしないが」

 

 

 私は夢に現れないからか、セイアちゃんの見た予知夢に干渉ができる。

 それとも私が存在する未来を予知できないだけなのかはわからないが……

 

 少なくともこのおかげでセイアちゃんは救われているのだ。

 だから予知夢を見た後は、私に相談する。というのがルーティーンになっている。

 

 

「そういえば、今日の夢は悪い夢だったんだよね。」

「ああ、君に出会う以前の私であれば()()()()()()()()()()()()ような、酷く陰惨な夢」

 

 

()()()()()()()()()……それは穏やかじゃない。

 なかなか巫山戯た夢を見たようだ。

 この私がいる以上、そんな夢は実現するはずがない。させるはずがないというのに。

 

 空気がピリつき、中庭にいた鳥たちが一斉に飛び去る。

 

 

「そう怖い顔をしないでくれたまえ。あくまでも以前の私ならば、という話だ。君がいるのだからそんな未来は存在しないという事はわかっているよ。常のように、何とかしてくれるのだろう?」

「……うん。」

 

 

 あの頃の何の目的もなく、溢れ出る才覚と、宇宙を操れるなんていう意味のわからない力のせいで、全能感から無茶苦茶をやっていた私に目的をくれたのはセイアちゃんだ。

 

 あの時の小指一本で倒せてしまいそうなほどにか弱い、未来を諦念してしまっていた女の子が、

 化け物のような私の前に希望を抱いて現れたときから決めていること。

 

 

「何から話そうか……ウルトはアリウス。について知っているかい?」

 

 

 アリウス……確かトリニティ設立に強硬に反対し、滅ぼされた分派だったはず。

 

 そいつらがセイアちゃんに酷い事をしたのか?

 生きるのを諦めてしまうような……

 

 

「ちょっとは。」

「ふむ。そうか……あまり睨まないでくれたまえよ、喋りづらいじゃないか」

「ごめん。」

 

 

 ブンブンと頭を振り、いつもの表情に戻す。

 セイアちゃんを怖がらせるわけにはいかない。

 

 セイアちゃんが縁起でもない事を言ったせいで気が張ってしまっている。

 

 

「……ふう、少しアリウスについて説明しようか。アリウスはトリニティ設立前までは当時のパテル分派や、ユスティナのように存在していた派閥だった」

 

「しかし、今のトリニティでアリウスの名を見かけることはない。

 その原因は第一公会議、トリニティ設立時の公会議にある。

 アリウスはトリニティの設立にたった1人、強硬に反対していた。

 されどその意見が今日(こんにち)のトリニティに繋がる事はなく、封殺され、排斥された」

 

「そして当時のシスターフッドであるユスティナ聖徒会は

 今のような無干渉主義、秘密主義の集団ではなく、酷く暴力的な、今の価値観であれば悍ましい。と表現されるような手段を厭わない戒律に忠実な集団だった」

 

「以上のことから、想像はつくだろうか。

 第一公会議で制定された戒律。これらに強硬に反対した異端の集団であるアリウスの末路が」

 

「設立したばかりのトリニティ、その膨れ上がった力を試すのにアリウスは十分な標的だったのだろうね。

 ともかく、トリニティ、いや、キヴォトス上から彼女らの居場所はなくなり、消えてしまった」

 

「……以上がアリウスの背景だ。ついてこれたかい?」

 

 

 お話はやっぱり長いが、とりあえず頷く。

 

 

「ふむ、よろしい。では結論から言おうか。

 アリウスはまだ存在している。

 夢で見た限りでは地下のどこか、トリニティ上ではあると思うが詳しい地理までは把握できなかった」

 

「今のアリウスは、前提で話した通り、自らを排斥したトリニティを恨んでいる。

 其の復讐の為に今尚地下深くで牙を研いでいる。というわけだ」

 

 

 復讐、トリニティを壊すならティーパーティー、それでセイアちゃんに手を出したのか?

 

 

「……そのアリウスがセイアちゃんに手ぇ出したの?」

 

「……死、という概念はキヴォトスでもわかりにくい概念だ。

 私達にはヘイローがあるし、日常的に銃器を扱ってるといっても死に触れる機会というのは極めて少ない。

 しかし、私たちが生きている以上、死というのは不可逆で身近な物でもある。

 明確に私のヘイローが壊されるシーンを見た訳ではないが……恐らくそれに近い状況に陥るのだろうね」

 

 

 話が長い。それに私の質問に答えてくれていない。

 私が聞きたいのは……

 

 

「セイアちゃんに怪我させたのは誰?」

「そう結論を急ぐべきではないよ、ウルト。何事にも背景というものが存在する」

 

 

 ……? ここまでの長ったらしいアリウスに関する話はもしかして、怪我をさせたやつのことを庇っているのか? 

 私にアリウスを同情させるために。

 私が極端な行動(殺人)を取らないように。

 

 もしかすると、もっと落ち着いた方がいいのかもしれない。

 

 言葉を発する時以外は止めている呼吸を、意識的にする。

 

 深呼吸をすると落ち着く、というのを本で読んだ事がある。

 果たして、酸素の要らない脳にこの行為が意味があるのかわからないが、少しだけ落ち着いた気がする。

 

 

「……ごめん、ちょっとピリピリしてたかも。」

「ああ、君はいつも通り大雑把で、気楽で、自己中心的で……巫山戯た事ばかりしている方が似合っている」

「かなりバカにしてない?」

 

 

 良い方に取れるの気楽くらいなんですけど。

 セイアちゃんが()()()()()()()()()なんて私の大嫌いな言葉ナンバー1を言っちゃうせいで、頭に血が昇ってしまった。

 

 

「まあ、いいや。続きをどうぞ。」

「ふむ、どうやら落ち着けたようだね。常の通り能天気な顔だ。さて、どこまで話したか……ああ、そうだ。アリウスがまだ残っている事は説明したね。そして今アリウスがやろうとしている事はエデン条約調印の妨害。その為にティーパーティの役員……この私を襲撃しようとしている」

「……? エデン条約を主導してるのと、調印時のホストってナギサちゃんだよね? なんでセイアちゃんが……ああ、そうか。」

 

 

 セイアちゃんには私がついている前提で考えていたけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 で、あるならば私がいない世界のセイアちゃんの未来を予知しているんだろう。

 私という盾がいないのであれば、身体の弱いセイアちゃんを真っ先に狙う理由はわかる。

 

 果たして、この私がいるこの世界でもセイアちゃんが狙われるのか不明だが、用心はしておくべきだろう。

 

 

「恐らく、君が今思いついた道理であっているだろう。話を続けようか」

「うん。」

「私が見た場面では攻撃を受ける瞬間は見えていなかったが、白い髪と白い羽の生徒、()()()()()が私の前に現れたのを見た」

「現れた? 襲ってきたんでしょ?」

「いや、内容までは読み取れなかったが、あれは恐らく……私に助言を求めに来たのだろう」

 

 

 助言……セイアちゃんにそういうのはあまり向いていないように思えるが、実際、セイアちゃんに助言を求める人は多い。

 小難しいこと言われて追い返されるだけだと思うんだけど。

 

 私が明日着ていく服でどっちがいいか聞いても、自分の意思がうんたらかんたらと煙に巻いてくるし。

 

 

「つまりだ。()()()()()は己のしようとしていること、()()という行為に迷いを感じている。そんな彼女が私のヘイローを破壊するとは思い難い。私が伏せっている場面も見えたが、恐らくあれは別の原因だろう」

 

 

 なるほど。会った事も見た事もないけど、そのアズサってこの事気になってきたぞ。

 

 つまりは、アリウスという派閥が復讐の為に動いているのに、

 セイアちゃんの前にまで現れることのできたその白洲アズサって子は自らの侵そうとしている行為(殺人)と向き合ったのだ。

 

 指示に盲目的に従う事は簡単だけれど、疑問を持ち、その手前で立ち止まり、自分で考えるって行為はなかなかできる事じゃない。

 

 ちょっと前までぶっ殺そうと思ってたけど、気になってきた……

 

 

「その、アズサちゃんって、ちっちゃい? 可愛い?」

は? 

 

 

 心底バカを見るような目で見られた。

 時間が経つごとに視線の温度が下がっていく。

 

 だって、気になるじゃんね。

 今のところ、白いっていう情報しかないから想像がつかない。

 

 

「そうかそうか、君は会った事もない、人伝に、それも夢で見ただけの生徒に対し、粉をかけようということかね」

「粉って……そんなのじゃないけど、もしどこかで会った時に容姿がわからないから判断できないし。」

 

 

 純粋に気になっただけなのに、変な誤解をされた。

 

 

「はぁ、全く。以上で夢の話は終わり。この夢の対応については君に任せるよ」

「わかった。」

 

 

 アズサちゃんについてはわからなかったが……帰ったらクラウンに聞いてみようか。

 私の事だし、未来で会ってるでしょ。

 

 

 

 その後は、学校休んじゃったし、暇だったのでセイアちゃんのご機嫌取りも兼ねて2人でショッピングに行った。

 

 後ほど、ミカちゃんからお見舞いに行っても良いか聞かれたので、デート中だと答えた。

 ……ちょっと怒られた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 自宅に帰ると、クラウンがリビングで銃の手入れをしていた。

 

 クラウンの使っている銃はSCAR-hという弾が大きめのアサルトライフルだ。

 

 ちなみに私の使ってる銃は芸術品で実戦的な銃ではない。リボルバーのくせにシリンダーが空転するから玉詰まりするし、撃鉄が変な形なせいで、弾がまともに撃てない。

 さらには撃てたとしてもライフリングに意匠を凝らしているせいで、銃弾があらぬ方向へ飛んでいく。控えめに言ってゴミだ。

 

 買い替えるならめちゃめちゃに凝ったアタッチメント盛り盛りのすんごい銃にしようと考えているうちに今日に至る。

 戦う時は撃たずに殴ればいいし、撃ちたいなら武器を拾うことにしている。

 

 クラウンは銃を分解清掃しているようだが、外装のボロさに比べて機関部は新品同然に見える。

 歴戦の品。といった雰囲気だ。

 

 暇そうだし、折角なのでアズサちゃんについて聞いてみよう。

 

 聞いて、もしも諦めたような目をされるとキツいが、白い髪に白い翼の子。

 では襲撃があった際にセイアちゃんの部屋に通して大丈夫な子なのかどうか判断がつかない。

 アズサちゃん以外にも白い髪に白い翼の子がいるかもしれないし容姿の情報だけでも仕入れておきたい。

 

 

「クラウン、白洲アズサって子。知ってる?」

『……セイアちゃんから聞いたんだね。』

 

 

 お、諦めたような目にはならなかった。

 根掘り葉掘り聞いてもよさそうだが、掘り返すとどんな地雷が転がっているかわからない。

 

 

「どんな子なの?」

『……とても、すごい子だよ。()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

は????? 

 

 

 こ、この私が? この私が自分を()()しただと? 

 あり得ない。世界が滅んだってそんなことあっちゃならない。

 

 ふざけているのか? 冗談……ではなさそうだ。

 ……では気でも狂ったか? 

 

 自分の耳がおかしくなったのかと思い、自分の芸術品リボルバーを右耳に突きつけ、発砲する。

 

 カチン。

 

 全弾入っているはずなのに弾が出なかった。いや、撃鉄が銃弾に当たらなかった。

 

 

『……何してんの?』

「あ、いや、大丈夫。気にしないで。」

 

 

 私はアズサちゃんのことめっちゃ気になるが。私が真似できないってなに? 

 

 

「容姿がどんなのかわからなくて、見かけた時に判断しづらいし、聞こうと思って。」

『ふーん? 口頭でいい? それとも全身像をARで投映しようか?』

「口頭でいいよ。」

 

 

 実際に見るのはその時でいい。セイアちゃんから引き出しきれなかった情報を知りたいだけだし。

 

 

『えっとね、モモフレンズの……ああそっか、今は違うよね。んー……アリウスの頃のアズサちゃんはよく知らないから、身長とか体型くらいしか教えられないけどいい?』

「うん。」

 

 

 なんか軽率にネタバレ喰らってない? モモフレンズ*6好きになるの? アリウスの頃って事はどっか別の所属になるの? 

 聞く相手を間違えた気がする。

 

 いや、ネタバレに配慮して知り合いを説明しろとか意味わからんけども。

 

 

『身長は149cm、体重は〜〜kg、まあ体重から想定できるだろうけど、スリーサイズは〜〜〜。色白の少女体型だよ。アバラはちょっと浮いてたかな。』

 

 

 え、キモっ。

 

 思ってたより詳細な数字を並べ立てられてキモかった。

 いつ測ったのか聞きたかったけど、私も記憶だけで身長とかスリーサイズ、肉付きやらパッと見で体重測定できたわ。

 

 我ながらすごいけど、キモいな。

 

 会った事もない人が体重なり何なり全部把握してるのってヤバくない? 

 

 

『このくらいでよかった?』

「あ、うん。」

 

 

 とりあえずわかったし、何だか怖かったのでお暇することにした。

 

 

「ありがと、参考になった。」

『……ああ、それと。』

 

 

 ……何だ? 

 ゴミみたいなリボルバーを懐にしまいつつ振り返る。

 

 

『アズサちゃんのこと、……ううん。アズサちゃんの身の回りの子達。そしてその家族。みんなを守ってあげてね。私にはできなかった事だから。』

 

 

 やっぱり地雷埋まってたよ、聞かなきゃよかった。

 ……でもまあ、頼まれたからにはやらなくちゃならない。

 私はこいつの様になりたくないのだ。

 

「……わかったよ。」

 

 こいつがアズサちゃんの周りの子を守りきれなかった。というなら私は全部守り通してみせる。

 

 

 

 

 

*1
セイアのモコモコパジャマ もちろん背中は空いている。モコモコしているのに背中だけ寒い。

*2
ウルトイーツの配達サービスでは配達専用のドローンが商品を運ぶ。到着間近になると注文者に通知し、配達地点を詳細に設定できる仕組み。指定がない場合、スマホのGPSから配達地点を自動設定する。移動さえしていなければヘリコプターにも輸送できるのが売り

*3
高級生食パン バター、クリームなどを大量に混ぜ込んだ食パン。甘めでもちもちとした食感が売り 現実では白いたい焼きなどと同じように一瞬で流行り、廃れて行った。 残されたフランチャイズ店は赤字に苦しんでいるものが多いとか。

*4
温泉開発部 ゲヘナの部活動の一つ。その名の通り温泉を開発する部活だが、温泉を開発するためであれば倫理や時制、その他諸々の制約を全部爆破してあらゆる地域で温泉開発という名のテロ行為を行っている。

*5
カスミ 温泉開発部の部長 温泉を探し当てる能力があり、ゲヘナ屈指のやべー集団である温泉開発部をまとめる傑物。 あの無法集団を維持できる経営能力もあり、キヴォトスの中でもかなり有能な人物の1人

*6
モモフレンズ モモグループが出しているキャラクター その中でもペロロ様は凄まじい数のグッズがあり、トリニティ生に凄まじく熱狂的なファンが存在する。





エデン条約編を見直しましたが、アリウスの成り立ちについて間違っていること(ユスティナ聖徒会がアリウスを助けた以外で)や、その他の過去の内容で間違っていそうなものがあれば、感想で知らせてくれると幸いです。

後は、今回書いててガールズラブのタグがいるか迷いましたが、相互に激重感情があるだけなのでOKとしました。
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