『なぁ早川、腹減ってねぇか?』
『言われてみれば結構空いてるかも...』
『お前焼き鳥好きだったよな?俺の奢りで行かねぇか?』
『マジすか!?ごちです!』
『早川、何で俺のことをずっと先輩って読んでくれるんだ?今のお前は俺よりも階級が上だろ?』
『う~ん...確かにそうなんですけどそういう問題じゃないんすよ』
『というと?』
『俺が呼びたくて先輩って言ってるんですよ。だから階級なんて関係ないです!仮に
『...そうかよ!そいつは嬉しいな!なら俺も早くお前に追い付かないとな!』
『常中もあと少しで物にできそうなんだし直ぐに追い付きますよ。それに早く追い付いてください!』
『言ってくれるな生意気な後輩め!ほらもっと好きなの頼んでいいぞ!』
『やりぃ!じゃ一番高いやつ10本追加で!』
『おい!そこまで良いとは言ってないぞ!?』
『先輩って何で鬼殺隊に入ったんですか?』
『まだ言ってなかったか?そうだなぁ...』
『ちなみに俺はというと...』
『言わなくていいって。どうせ童貞卒業とかだろ?』
『何故わかった!?もしや超能力!?』
『お前のことだから少し考えればわかるさ。それで俺はだな...まず俺の両親は鬼に殺されちまってな...』
『...すみません嫌なことを思い出させましたよね』
『いやいいんだ。その後は鬼殺隊の隊士に助けられたんだがな?正直言って俺は鬼に復讐するとかは考えてなかったんだ...』
『なんでですか?恨みまくってもおかしくないのに...』
『恥ずかしいことに憎悪よりも恐怖の方が勝っちまってな...。
そこから暫くは塞ぎこんじまったんだよな...だけどなこのままじゃ駄目だって思ってな。そんな臆病で弱気な俺を変えるために鬼殺隊に入ったんだ』
『そうだったんすね...』
『だが実際のところ入隊したそこそこ経っちまったから鬼に対する恐怖も無くなってきてな!だから今は目標がねぇんだよな』
『...なら俺と競争しましょ!』
『何をだよ?』
『どっちが先に童貞卒業できるか勝負しましょう!どうせ先輩もまだ卒業できてないでしょ?』
『うるっせぇな!事実ではあるがよ...』
『なら決まりですね!勝敗がつくまでお互い死なない!約束ですよ?』
『馬鹿げてるけどお前らしいよ...いいぜ乗った!』
『このことは今度前田氏にも言いましょ!』
『アイツの性格じゃ一生無理だから勝負にならんだろ!w』
『それは間違いないっすわ!w』
「早川まだこっちに来るなよ?」
首を切った下弦の肆が自爆をするつもりらしい。
早川は相変わらず俺のことも守ろうとしていて逃げるのに遅れているようだ。
ありがたい話ではあるがこの出血量だ。
どうせ助かりはしないだろう...なら俺のとるべき行動は一つ。
『早川の盾になってコイツを生かしてやること』これだけだ。
その代わり俺は間違いなく死ぬだろうなぁ...
別に死ぬのは怖くないが一つだけ心残りがある。
それは早川との『約束』を守れないことだ...
ごめんな早川。俺はお前との約束を破ることになってしまう。
だがコイツはまだこんなところで死ぬべきじゃない。
お前や前田に会えなくなるのは寂しいしもっと馬鹿をしたかったがこの選択に悔いはない。
なぁ早川。
俺はお前みたいな後輩を持てて幸せだったよ...
そして凄まじい衝撃に襲われたことで俺の生涯は幕を閉じた...
「...キロ.....ロ...」
...誰の声だ?何か言っているが聞こえない...
「...オ...ロ...キロ...」
折角寝ていたのに邪魔をしないで欲しい...
「...オキロ!...オキロ!...起きろ早川!!」
「えっ?全員!?」
声の正体は先輩だった。それよりも聞かなければならないことがある!
「先輩!下弦の肆は!?どうなったんですか!倒したんですよね!?」
先輩と協力して首を切った後のことが思い出せない。
あれからどうなったのだろうか...?
「...早川」
「何ですか先輩...?」
すると先輩が寂しそうに笑ってこう言った...
「お前の土産話楽しみにしてる。それに童貞卒業の感想も教えろよな?」
「...は?何言って...」
そして真っ暗闇だったこの場所に光が舞い込んできた...
「じゃ、達者でな」
「先輩!待って!行かないで!!」
俺は何故か後ろを向いて去っていく先輩を必死に呼び止めた。
ここで止めなかったら二度と会えなくなってしまいそうな気がしたのだ...
「待って!!」
「うわぁ!?」
俺がそう叫ぶと何者かが非常に驚いた反応をしていた。
というか声の主って...
「...前田氏?」
「早川殿!目を覚ましましたか!?」
辺りを見回すと周囲には他にもベッドが並べられていた。
だが見たことのある場所...蝶屋敷か!!
「俺は一体...ウグッ!」
「無理に起き上がらないでください!」
起き上がろうとしたが体に激痛が走って倒れ込んでしまった。
「早川殿...貴方数えられないくらい骨が折れていてしかも内蔵にも傷がついていたのですよ!?お願いですから安静にしていてください!」
そう言って前田氏は部屋を走り去っていった。
おそらく誰かを呼びに言ったのだろう...
それよりも今の痛みで思い出した。
下弦の爆発を喰らう前に先輩が俺の前に出ていた...よな?
ちょっと待て!先輩は無事なのか!?
後ろにいた俺でこの怪我なのに!!
そのことに冷や汗をかいていると前田氏がカナエちゃんとしのぶちゃんを連れて戻ってきた。
「早川くん...よく戻ってきてくれたわ...」
「早川さん!貴方一ヶ月も眠っていたのよ!?」
「嘘...ってそれより!先輩は!?先輩も俺と一緒にいたよね!?無事なの!?」
「ッ...早川殿...」
「「......」」
俺がそう聞くと三人とも苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた...
「...え?何だよその顔...」
俺が困惑を隠せないでいるとカナエちゃんが口を開いた...
「...早川くん貴方が下弦の肆の最後の血鬼術に巻き込まれたことは覚えている...?」
「覚えてるよ!その時に先輩が前にいたんだ!!一体どれだけの怪我をして『田中さんは亡くなったわ』
俺は一瞬その言葉の意味を理解できなかった...
「え?カナエちゃん?嘘...だよね?」
「残念だけどこれは事実よ...」
「...早川殿」 「早川さん...」
「...貴方も本当は気付いているのでしょう?あの爆発に巻き込まれて後ろにいた貴方ですらこの状態なのだから...」
「...そんな...嘘だ...だって先輩...死なないって約束して...」
そうだ。カナエちゃんの言うとおり俺は分かっていたんだ。おそらく先輩がもうこの世にはいないということに。でも気付いていない振りをしていたんだ...
「あ...あぁっ...」
だがこの事実を認めてしまった...
つまり先輩は...もう...
「うあぁぁぁぁっ!!!!!」
もう先輩と猥談をしたり一緒に飯を食いにいくことも...そして二度と会うこともできない...!!
それを認めてしまった俺は声を張り上げて泣き叫んだ。
体に激痛が走るがそんなことは関係なかった...俺は先輩を助けれなかった...しかも先輩は腕を失っていて動けない筈だったのに...
それなのに守られてしまった...!!
この世界に転生してからここまで泣いたのは初めてだった...
止めようとしても涙が溢れて止まることはなかった...
そして数分経って落ち着いたころ俺はあることを尋ねる。
「...先輩の遺体は...どうなった...?まだ会えるのか...?」
まだ間に合うなら先輩の顔を見て送ってやりたかった。
だが現実は非情でその願いすらも叶わない...
「早川殿...私が一番に現場に辿り着いたのですが爆心地から大きく離れた所に貴方達はいました...ですが田中殿の身体の損傷が激しくとても貴方に見せられるものではありませんでした...」
「...そんな」
「ですがこれは無事に残っていました...」
そう言って前田氏が差し出したのは『俺のサインが書かれた』手拭いだった。
「...これって」
『早川!悔しいけどお前の書く小説は好きだ!!』
『お?ありがとうございます!新規のファン獲得ですね!』
『だからよ!お前のサインが欲しくてな!何かに書いてくれないか?できれば持ち歩けるヤツでよ!』
『ふむ、持ち歩けるもの...か?』
『なら手拭いなんかどうでしょう?流石に刀や隊服に書くわけにもいかないですし』
『それいいな前田!ならビシッと頼むぜ!!』
『わかりましたよ。俺がサインを書くのは先輩が初めてですからね?前田氏もいる?』
『でしたら私もお願いします!』
『これでよしっと...』
『ありがとな早川!』
『但しそれ死ぬまで無くさないでくださいよ?』
『当たり前だ!有名作家のサインなんて貴重だからな!』
『私も無くしませんよ!』
『なら宜しい!これからもご愛読していただけると何よりです!』
「...あの時のか」
「...彼はこれだけは本当に死ぬまで持っててくれていました。なのでこの先は貴方が持っててあげてください...!」
やっぱ先輩すげぇよ。
何でこの手拭いだけ汚れが一切ないんだよ?
あの爆発に巻き込まれたんだぞ?普通は無理だろうが。
「田中さんが盾になったおかげで貴方は助かったわ。勿論意識を失っても常中をしていたことで出血が抑えられていたというのもあるけどね」
「本当ですよ...あの状態から助かったのもほぼ奇跡だというのに」
しのぶちゃんがこう言うってことは治療はほぼ彼女が請け負ってくれたのだろう。
今まで何回も怒らせていたのに助けてくれるなんて彼女には頭が上がらないな...
「ありがとなしのぶちゃん...それと今までごめんな」
「フンッ!お礼を言われる筋合いはありません!当然のことをしたまでですから!」
「でもやめるつもりはないけどね」
「どうしてここでそういうことを言うんですか!?」
よかった。いつも通りのしのぶちゃんだ。
これからは敬意を持ってイジるとしよう!
「それだけ元気ならもう大丈夫ですね!くれぐれも無理はしないように!!」
そう言うとしのぶちゃんは怒りながら出ていってしまった。
それでも心配はしてくれるんだね。
「全くしのぶも素直じゃないんだから...」
「まあまあカナエさま、喧嘩するほど仲がいいと言うやつですよ」
「カナエちゃんも前田氏も心配かけてごめんね...。それにいつまでもメソメソしてられないもんね」
折角先輩が俺のことを生かしてくれたんだ。
それならいつまでもへこんでないで前を向かなきゃな!
それじゃないと先輩が化けて出てくるかもしれないしな!
「それなら良かったわ!さっきしのぶも言ったけれどあまり無理はしないようにね!」
そう言うとカナエちゃんも部屋を出ていき俺と前田氏の二人だけが残された。
「なぁ前田氏...」
「どうしました早川殿?」
「俺さ先輩と約束してたんだよ...どっちかが童貞卒業するまでお互いに死なないって」
「待ってくださいそれ初耳なんですけど?何で私も入れてくれないのですか??」
「だって前田氏が童貞卒業するなんてどうせ無理でしょ?」
「キィーーーッ!!出来るかもしれないじゃないですか!億が一の確率でも出来るかもしれないじゃないですかっ!!」
「悪かったって!それでさこれからの俺の目標というか夢なんだけどね?」
「...夢ですか?」
「あぁ、先輩の分まで生きて『立派に童貞を卒業する!』これが俺の夢だ!」
前までは『あわよくば』と言ってたが妥協するのは今日でやめだ。先輩に恥じないように生きないとな。
「そうですか...なら私が言うことはもう何もありません」
「ありがと。でも変態会議はしばらく二人きりかぁ...」
「ですねぇ...」
先輩、見ててくれるか?これからも俺は俺のやりたいように生きるからさ!そっちで期待して待ってて欲しい。
早川瞬が鬼殺隊をやめると決めるまであと一ヶ月...