アンチ・ヘイト「私の出番のようだな」
あれから更に1週間が経過した。
俺の容態はというとある程度動けるくらいには回復していた。
しのぶちゃんから「どうして治るのがこんなに早いのか」って聞かれたけど俺もよくわからないんだよ...
こうして復帰をするために蝶屋敷内で機能回復訓練を行っていると糞鴉こと焼き鳥が入ってきた。
「カァー!ハヤカワァー!キサツタイホンブニムカエー!オヤカタサマガオヨビダー!」
「え?本部ってマジ?」
「ハヤクジュンビヲスルノダー!」
えぇ...もしかして手鬼の件がバレたか?いやでも隊律に隊士は藤襲山に入ってはいけないなんて無かったし...
でもこれ以外に心あたりがないんだけど?
最悪の場合は土下寝をすればいけるだろう!
「という訳で私が途中まで貴方を運んでいくことになりました」
「...前田氏ってもしかして暇なの?」
「失敬な!たまたまですよ!!」
「えっ?玉玉(意味深)って…。昼から盛りすぎ…」
「そっちじゃないです!!偶然の意味の偶々です!!」
冗談はさておき前田氏が言った通り、彼は途中まで俺を運んでくれるらしい。
なぜなら鬼殺隊本部の場所は隊士にも明かされていないらしく鴉の案内の元、隠が交代交代で運んで辿り着くらしい。
面倒くせぇなこれ!?!?
「ですがその前にこれを」
「え?何々?」
「目隠しと耳栓です。必ず付けないといけないんですよ」
「えぇ~...」
「嫌なのはわかりますけど我慢してください」
嫌々だけどつけました仕方なくね!!
「それではいきますよ~」
そして俺のことを背負った前田氏が走り出した...
「到着しましたよ。此方です」
「おぉ~。すっげ~」
隠が何回か交代して運ばれること数時間後。
遂に本部へと到着した。目隠しを外されるとジィサンや天元の屋敷とは比べ物にならないくらいデカイ屋敷があったのだ。
だけど運ばれてる最中に思い出したけど鬼殺隊の長ってあのイカれた最終選別や初回任務とかに何の疑問も持ってないってことでしょ?普通おかしいって気づくやろ...
仮に意義を唱えても一般隊士の俺が言ってもなぁって感じだし。
正直言うと既に帰りたくて堪らないが帰ると後々面倒なことになりそうなので我慢するとしよう。
「それではご案内します」
「...ウッス」
隠の人にも中に入るよう言われたので渋々入ることにした。
中に案内されると既に四人の人が集まっていた。
「それでは私はここで」
「あ、お疲れ様でした!」
案内してくれた隠の人も去っていってしまった。
だが二人ほど見覚えのある人がいるな...
「おっ、来たか瞬!待ちくたびれたぞ!」
「あら、来たのね早川くん!」
そう、天元とカナエちゃんだ。ということは残りの二人も柱なのかな?というか天元よりデカイ人がいるんだけど。熊みたい。
もう一人は...もしかして酔ってる?酒柱か?
「やっぱ天元とカナエちゃんかぁ。もしかした俺が最後だった?」
「そうだけど蝶屋敷からは離れていたから仕方ないわ。私は偶然近くにいたから良かったけどね」
「そっか。ところで...」
それよりも天元には確認しなきゃいけないことがある。
なので天元を手招きして耳打ちで話しかける。
「お前手鬼のことチクったか?」
「だからんなことしねぇって言ったろうが!お前何で呼ばれたのか知らねぇのか?」
「これっぽっちも知らん」
「おいおいマジかよ...」
「え、何?知ってるの?」
「どうせすぐ分かるから『おはよう私の子どもたち』
その時、どこか妙に安心するような声が耳に入った。
声の方を向くと屋敷には黒い髪を肩まで伸ばした優男の雰囲気をした男が黒髪の子に支えられて立っていた。
なんであの子女装なんてしているんだろう?どう見ても男だよなあれ?
だが一番に気になるのは目元辺りまである紫色の痣だ。何かの病気なのだろうか?
そんなことを考えていると天元とカナエちゃんを含めた柱達が膝をついて頭を下げだしたので俺もそれに合わせた。
「お館さまにおかれましてもご壮健でなによりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」
「ありがとう行冥。今日も皆の顔を変わらずに見れて嬉しいよ。それに瞬は初めましてだね」
「...はい」
あの熊さんもよく噛まずに喋れるよなぁ...
するとお館さま(で合ってたっけ?)から声をかけられる。
「今日は瞬にお願いがあって呼び出したんだ。まだ怪我が治って間もないのにごめんね」
「いえ...それは構いませんがお願いとは一体...?」
「以前君は下弦の肆を討伐してくれたね」
「...俺だけの力じゃありません」
「そうだね。まさやの協力があってこそ討伐することができた」
「!!...先輩の名前を」
まさか先輩の下の名前を覚えてくれてたとは思わなかった。
「そこで君にお願いがあってここに呼び出したんだ」
「お願い...ですか?」
「私は君に『柱』に就任してほしいと思っているんだ」
「ほえ?柱??」
まさかそんな話が出るとは思ってもいなかったのでつい素っ頓狂な声が出てしまった。
天元の方を見ると笑いを堪えているみたいだし…。あとでシバく。
ここで柱になるための条件をおさらいしておこう。
まず柱になるためには最低でも階級が「甲」までないといけない。
更にそこから十二鬼月を一体討伐するか、計50体の鬼を討伐しなければならない。
リスクを最小限にするなら後者の方法の方がいいが仮にも鬼殺隊の最高幹部でもあるのだから
前者の方法の方が見栄えはいいだろう。
というか雑魚鬼50体狩っても柱になれるんだったら温すぎやしませんかね?
そして柱になると担当地区の周回と強力な鬼が出現した時の加勢にも呼ばれることもあるようで普段のような任務にこれが追加されるとなると正直キッツいです。
ただその反面メリットもある。それは給料が自分が望む分だけ制限なく受け取ることができ、そして屋敷が与えられるという。
完全に財の暴力ともいえる優遇っぷりに石油王もびっくりである。
とまあここまで長々と語らせていただいたが俺が柱になりたいかというと…
「………」
「「「(うわぁ…めっちゃ嫌そう…)」」」
ハッキリ言うと糞ほど面倒である。
だって現段階でも決して楽ではないのにこれ以上忙しくなるとか正気か?
別に金銭面もこれ以上望まないし住居も困ってない(というか藤の家の人に会えなくなる)し魅力が感じられないんだよなぁ…
「どうか引き受けてはくれないかな?」
「え~~…ちょっと…う~ん…」
何ていうかこの人が何考えてるかわかんないんだよなぁ…
あんな頭のおかしい試験などを許容してるんだからどんなやばい奴が出てくるかと思ったら
先輩の名前もちゃんと覚えててくれたみたいだし…隊士のことをちゃんと見て…いるのか?
なのでどういう人物が把握するためにある質問をすることにした。
「柱の件ですが正直に言うと引き受けたくはないですね…」
「…おい貴様お館さまの頼みを断るのか」
「いいよ慎寿郎。それと他にも言いたいことがありそうだね?」
「はい、おっしゃる通りお聞きしたいことがあります」
「いいよ、言ってごらん」
「なぜ貴方は鬼殺隊の長として直接的ではないですが鬼と戦い続けるのかを伺いたいです」
途中で酔っ払いが「お館さまの言うことには全て肯定しろ」みたいなちょっと意味の分からないことを言っていたが当然スルー。
俺の聞きたかったことは鬼殺隊の長である彼の信念だ。これを聞くことでどういう人間なのかも多少は見えてくると思ったからだ。
そしてお館さまは一呼吸ついてから語り始めた。
そこからは長かったのでザックリまとめさせていただこう。
まずお館さまの一族は短命の者がほとんどだったらしく昔は十歳を迎えるまえに亡くなってしまう子もいたそうだ。
何より男の子の寿命が特に短く、まるで神が一族の繁栄を拒んでいるようだったという。
そんなこともあり一族が絶えそうになったある日、とある『神主』が訪れたらしく神職の一族を妻に貰うことで子供が死ににくくなると助言を受けたそうだ。実際その通りにすると本当に寿命が延びたらしい。それでも三十歳以上になる物は現れなかったが...
その後更に神主から鬼の始祖である「鬼舞辻無惨」が同じ血筋であると伝えられる。そして『鬼舞辻無惨を倒すことで一族が絶えることはなくなるだろう』という助言もいただいたそうだ。
そこから貴族の一族であったことから『鬼殺隊』を作り出し、現在に至るまで鬼舞辻無惨を倒そうとしているらしい...
ここまでは鬼殺隊発端の理由であり現在のお館さま自身は一族の寿命の問題や今までやられた隊士たちの仇もあるだろうが
それよりも自身の一族から無惨という汚点を出してしまったことに責任を持とうとしているのである。
「以上が私達一族が鬼をいや、鬼舞辻を追い続けている理由だよ」
この話を聞いてカナエちゃんと熊さんが涙ぐんでいる。
他のものも心なしかシンミリとした雰囲気になっている。
だがこれを聞いてもいまいちピンと来なかった。
気になる点としては隊士の死を少なくとも悲しく思っているというのにあんな新人隊士をたった一人で任務に行かせたりはしないだろう。
試験の場合はまだ正式に隊士になっていないからセーフ?…いやそれもおかしいか。
あと無惨が一族の汚点だというがそれは「鬼となったこと」に対してなのか「数多の人間を殺したこと」に対してなのかも
よくわかっていない。
話していたお館さまは僅かながらその目に怒りを宿していた。それは何の怒りなのだろうか。
隊士を殺されてきた怒り?一族が早死にすることへの怒り?それとも鬼になったことへの怒り?
俺が困惑しているとそれを見かねたのかお館さまが声をかける。
「私が話せるのはここまでだね。君がどう感じたかはわからないが理解してもらえると嬉しいよ」
「…はい」
「それと君に渡さなければならないものがあってね。」
そう言って差し出してきたのは遺書だった。俺は真っ先に開いて中身を確認した。
誰の遺書かなんて聞くまでもなかったのだ。
『これを誰かが読んでいるということは俺はもうこの世にはいないのだろう。何時もなら遺書なんて書かないんだが今回は何か嫌な予感がしてな。だからこうやって残すことにしたんだ。
こうは言ったがどうせ読んでるのは早川、お前なんだろ?
だからお前に向けて書くことにするよ。
まず始めに謝らせてくれ。お前との約束を守れなくてすまなかった。こんなどうしようもない先輩を許してほしい。
それとお前や前田と馬鹿やったのも最高に楽しかった。
それこそ今までの中で一番な?
俺はあっちでのんびり待ってるからすぐに来るんじゃねぇぞ?お前の土産話を楽しみに待ってるからな。
だから、死ぬんじゃねぇぞ。俺の自慢の後輩。』
「ハハッこんなの遺書じゃねえじゃん...俺への手紙だろうが...」
「鬼殺隊の皆が遺書を書いているのは君も知っていると思うけど普段は不思議なことに遺書の内容が似通っているんだよ。
でもまさやは違った。余程君のことが大事だったんだろうね。それこそ君宛ての内容になってしまう程にね…」
「…」
「早川くん聞いて?」
するとカナエちゃんが声をかけてくる。
「貴方はお館さまを良く思っていないかもしれないけどあの方は私達のことを本当に大切に思ってくださってて亡くなった隊士達のお墓参りも毎日かかさずに行っているのよ?
それに亡くなった隊士たちの名前や生い立ちも全て覚えてくださってるの」
「...そっか」
そっか…そうなんだな…
「お館さま、最後に確認させてください。貴方はこの遺書の内容を知っていたのですか?」
「そうだね…申し訳ないが事前に見させてもらったよ」
あぁなるほど。よくわかった。この人は…
そして俺は立ち上がり正面に顔を合わせた。
先ほどまで俯いていたから気づかなかったと思うがお館さまの…いや
奴の目には俺の絶対零度の視線が突き刺さっていただろう。
「あんたがどういう奴かよくわかった。くたばれ」
「「「!!!」」」
俺は拳を振り上げ奴の顔面を殴りそうとした刹那、瞬時に反応した熊さんが間に割り込んで拳を受け止めた。
「貴様…どういうつもりだ…!!」
「どうって…この糞野郎をぶん殴ろうとしただけだが?」
「貴様ぁ!!」
「うぉっ!?」
すると熊さんが俺の拳を掴んだまま振り上げようとしたので腕力では勝てないと判断し瞬時に手の甲を蹴って手を離させて
バックステップで距離を取った。
「貴様!誰に手を出したと思っている!?」
下がった瞬間酔っ払いが激高しながら襲い掛かってくるが酔っているせいか速いが動きが単調だ。
「邪魔」
「ガッ!!?」
なのでギリギリまで引き付けて側頭部に蹴りを叩き込んで気絶させた。
流石にいくら柱だからと言って本気でやったら死にかねないから手加減はしているが。
「おい瞬!お前何やってんだよ!!」
「早川くん!?どうして…」
「…お館さまご無事ですか?」
「すまないね行冥…」
天元とカナエちゃんが声をあげるもこればかりは譲れない。
奴の顔も驚愕に染まっていた。そりゃそうだろうな。
今まで飼いならしてきた奴らに手をあげられそうになるなんてないだろうからなぁ?
そして半年に一度の柱合会議は崩壊していくこととなる…
「無惨のせいで早死にするから絶対倒す!」→まぁわかる。
「今まで部下を殺されまくった!許さん!」→まだわかる。
「一族の恥だ!殺す!」→???
「そのためなら妻子もろとも爆殺します!!」→!?!?!?
次回、なぜ早川が激怒したのか明らかに…