肥満児二人。ただし最強。   作:悲しいなぁ@silvie

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伏黒甚爾は助けない

──記録2007年9月

■■県■■市(旧■■村)

 

ガシガシと甚爾は乱雑に頭を掻きながら冷めた目で地下牢を見つめる。

 

(ま、古い村だしな…座敷牢の類なんざねぇ方が不自然…か)

 

 

任務概要

村落内での神隠し、変死

その原因と思われる呪霊の祓除

 

 

その日、甚爾はすこぶる機嫌が悪かった。

休日に家でスポーツ新聞を広げながら競馬場に置いてある簡易鉛筆片手にどの馬にするかと悩んでいた時に、流れた大型アミューズメントパークのCM。

普段なら見向きもせず、脳内に記憶として残りもしないソレをいまだに甚爾が覚えているのには当然訳がある。

 

「あっ!ここ…前に友達が行って、凄く楽しかったって言ってたわ!」

 

津美紀が、そう言ったのだ。

勿論、その言葉は甚爾に向けられたものではない。

津美紀の隣に座る恵に向けて語られている…しかし、天与の暴君の耳は数キロ先の蝶の羽音すら聴き逃さない──ましてやそれが家族の声だと言うならば尚更に。

 

津美紀は元々、ほとんどと言っていい程に我儘を言わない。

誕生日やクリスマスでも欲しい物を聞かれ、「家族みんなと幸せに暮らせたらとっても嬉しい」と笑顔で言い切ってしまう。

甚爾が給料日にパーッと使おうと好きな物を食わせてやると街に繰り出しても「みんなと一緒なら何を食べても美味しいの」と笑顔で自分と恵の食事を見る、ほつれた服を見て新しいのを買ってやると言っても「服なんて繕えばいいじゃない、それよりもそのお金で恵に何か買ってあげて」等々…多少押し付けるように買い与えなければ私物すらろくに増やそうとしない。

そんな津美紀が、言ったのだ。

 

「いつか…みんなで行けるといいな」

 

甚爾の感覚が研ぎ澄まされる。

天与呪縛のフィジカルギフテッド、御三家として得るはずだった全ての呪力と引き換えに得た…天与の肉体。

このレースは、確実に当てる。

 

伏黒甚爾という男は、競馬で当てたからパーッと使うという口実がなければ家族と遊園地に行くことすら出来ないのであった。

 

………………その後、素寒貧になるまで負けた挙句直哉から3桁万円のお小遣いを奪い取貰った事は言わぬが花…というやつだ。

 

ともかく、紆余曲折ありながらも恵と津美紀の二人と共に遊園地へ行こうと休みを調整しらしくもなく浮かれていた正に前日…

 

「おーい、甚爾さぁ…ちょっと任務代わってくんね?

天内達誘って沖縄行こうと思ってさぁ〜」

 

デブ目隠五条悟にそう絡まれた。

 

「テメェ、脳味噌まで脂肪詰まってんのか?

嫌に決まってんだろ、他あたれ」

 

直哉とか居んだろ、と絡みついてきた五条にアイアンクローをかましながら引っ剥がす。

 

残念(ざんね〜ん)!直哉達2年も誘ってるから甚爾(オマエ)しか残ってねぇよ!」

 

死ぬほどむかつく顔で煽ってくる五条。

甚爾の無言のハイキックは無限に阻まれてしまった。

 

「夜蛾センからオマエが休みだって聞いてんだよ!

ど〜せパチか馬だろ?社会貢献(こーけん)しとけって

それに…この任務、元は傑のでさ

アイツ、最近痩せ過ぎてて……心配なんだよ」

 

五条の自分勝手な話を眉間にシワを寄せながら聞いていた甚爾は五条の消え入るような言葉尻に更にシワを深くして大きく息をつく。

決して、決して五条悟の願いを聞くのではない。

 

ただ───伏黒甚爾は、夏油傑に借りがあるのだ。

少し、返しきれそうにないような…借りが。 

 

 

その結果が今の状況である。

既に3人分のチケットまで購入してしまっていた為に昔の仕事仲間である孔時雨に二人を預け、自分は一人でこんな山奥まで電車やらを乗り継いで6時間近く掛けて辿り着いて…コレだ。

 

「恵と津美紀ちゃんの事なら気にすんな…お仕事頑張れよ、パパ」

 

そう言ってニヤニヤと笑っていた孔時雨の顔が本当に腹立たしい。

 

「仕方ないわよね…パパ、気をつけてね」

 

そう言って寂しそうに、心配を掛けないように無理に笑っていた津美紀の顔が本当に腹立たしい。

 

「………クソ親父」

 

そう言って不機嫌そうに不貞腐れていた恵の顔が、本当に……本当に腹立たしい。

 

 

その日、甚爾はすこぶる機嫌が悪かった。

 

 

「おい、このガキ共…どうすんだ?」

 

後ろに控えていた村人達数人に聞くも、口々に捲し立てる。

自分でなければ騒音にしか聞こえないだろう早口で、口々に。

 

(呪力があんのか…この分だと術式持ちかもな)

 

冷めた目で、牢の中の二人を見る。

饐えた臭いに垢やフケが浮いた身体、こけた頬に痣だらけの顔。

恐らく、このままだと数ヶ月ももたないだろう。

そして、後ろの連中はそれを当然だと思っている。

 

(……任務内容は呪霊の祓除、問題の呪霊はもう祓った

態々金にもなりゃしねぇ人助けなんざ…ごめんだね)

 

冷めた頭でそう結論づけ、とっとと帰る。

それが、甚爾という男の生き方だ………普段通りであれば。

 

 

その日、甚爾はすこぶる機嫌が悪かった。

 

 

甚爾は牢の前にしゃがみ込むと二人に目線を合わせる。

 

「ガキ共、お前らは誰かに助けて欲しいのか?

それとも────助かる方法が知りてぇのか?」

 

もし、方法が知りてぇなら…

甚爾はゆっくりと牢の格子木に手を掛ける。

 

「喧嘩の仕方ぐれぇは…教えてやるよ」

 

その日、美々子と菜々子の世界は変わった。

煙草と血の匂いが染みついた、不器用な男の手で。

 

 

・担当者(高専3年 伏黒甚爾)派遣から5日後旧■■村の住人112名の入院が確認される

・全て呪霊による被害と思われたが残穢が無く、顔面の殴打痕から伏黒甚爾の暴行と断定

 

・上記を伏黒甚爾本人も認めた為、伏黒甚爾を4級術師へと降格

更に任務の不当な交代が認められた為、夏油傑・五条悟両名も同じく4級術師へ降格

監督不行き届きとして夜蛾正道1級術師も同じく4級術師へ降格処分とする

 

 


 

その頃肥満児(デブ)

 

 

「いやぁ…驚いたな

悟、君…いつ原付きの免許なんて取ったんだい?」

 

長い長い下り坂を二人乗りで爆走する夏油と五条。

満面の笑みを浮かべる夏油はついこの間まで回転寿司を何かの隠語だと思い「寿司が回るわけねぇだろ…馬鹿にしてんの?」と真顔で言っていた親友の肩を叩きながら尋ねる。

 

いや本当に…悟も同じくらい忙しかった筈だろう?

今年の夏は、ポン菓子のように呪霊が湧いた…

ついつい普通の食事を忘れて呪霊しか食べずにいたせいで不覚にも500グラムも痩せてしまったぐらいだ。

 

「おいおい傑…なに馬鹿言ってんだよ

原動機付き自転車だろ?自転車(チャリ)に免許なんて要らねーって言ったのオマエじゃん」

 

「…………ん?」

 

「ていうか傑…オマエさ、もっと言葉を選んだ方がいいんじゃないか?」

 

夏油は自分の耳が急速に腐敗したせいで聞き違えた可能性を一生懸命に信じながら冷や汗をダラダラと流し親友の顔を見る。

親友、五条悟は……その名の通り、まるで悟りを開いたかのように達観した表情で──へし折れたブレーキレバーを握っていた。

 

「今際の際だぞ」

 

「キッショ…なんで取れるんだよ」

 

 

夏油傑、五条悟──全治1週間




肥満児二人「……は?」

夜蛾「何度も言わせるな、甚爾が集落の人間を全員殴り飛ばした挙句双子の女の子を連れ帰ってお前らに育てさせろと言って帰った
後、俺も含めて全員4級に降格した」

本編が続くとしたら何が読みたいですか?

  • 虎杖編(少年院〜幼魚と逆罰)
  • 伏黒編(京都姉妹校交流会──殲滅戦)
  • 九相図編(起首雷同〜宵祭り)
  • 人外魔境新宿決戦

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