肥満児二人。ただし最強。   作:悲しいなぁ@silvie

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支援絵を貰う度に続きを書く乞食とは私の事です


葦巣の悔い

あれから、直哉は変わった。

 

私達によく話し掛けてくるようになったけど、他の奴らと同じ…あくまで生徒として接してくる。

全身に残った火傷の跡は、「勲章って奴やな」って笑ってた。

 

あれから、真依は変わった。

よく笑うようになった。

直哉の事でずっと悩んでたのは私もよく知ってる…関係が改善して安心したんだろう。

放課後には直哉を誘って三人で飯に行ったり、休みの日には買い物に出掛ける事も増えた。

 

あれから、私だけが変わってない。

直哉との関係も、向こうが一方的に変わっただけだ。

直哉に意地張って、家出てったあの日から…私だけが変わってねぇ。

 

 


 

「真希ちゃんと真依ちゃんは留守番や

四級の出番なんぞあらへんで」

 

10月31日、渋谷で大規模な帳が降ろされた…らしい。

直哉は私達にそう言いながら家を出る。

 

「…っ!待てよ、私も連れてけ!!」

 

「………はぁ、そのちっこい頭ん中はおが屑でも詰まっとるん?

今言うたやろ、付いてくんな…邪魔や」

 

突き離すような冷たい声色で直哉は睨みつけてくる。

 

「なんで…なんで私が待機なんだよ!ふざけんな!私だって呪術師なんだ…もう!アンタに守られてたガキじゃねぇ!!」

 

 

だから…そうやって背を向けるなよ

こっちを──私の方を向けよ

私を見ろよ!直哉!!

 

 

「うっさいわ、お前らは僕の三歩後ろ歩いとればええねん」

 

直哉はそう言うと私達を残して駆けて行く。

一瞬で砂粒ぐらいに小さくなった背中を見ながら、真依がぎゅっと指が蒼くなるぐらいに手を握り合わせて祈ってる。

昔みたいに肩を震わせながら、目尻に涙まで貯めて、必死に祈ってる。

……………最悪だ

それを見て、思っちまった

真依を心配するよりも、真依に寄り添うよりも先に──

直哉(アイツ)を追いかける理由が出来たって、思っちまった

 

なぁ…直哉、責任とれよ

お前のせいで私はこんな…クズになっちまった

 

 


 

真依に絶対着いて来ないように言い聞かせて飛び出してきた私は運良くパンダと日下部さんに合流してなんとか今の渋谷の状況を把握出来た。

非術師の出入りを阻害する帳、術師の出入りを阻害する帳…そして、夏油傑と五条悟…両面宿儺の3人以外の出入りを阻害する帳。

その三種類が今の渋谷に有るらしい。

日下部さん達はその帳を維持してる呪具の破壊と呪詛師の捕縛、そして巻き込まれた一般人の救助に動いてる。

……本当なら、私も手伝うべきだ───でも

 

「アイツは…直哉は何処に居るんですか?」

 

口から出たのは、自分勝手な──本音

 

「直哉は…わからねぇ

アイツは俺達よりも先に渋谷に来てたからな」

 

首を振る日下部さんに頭を下げて駆け出す。

アイツの性格的に考えて、ちまちま人助けなんてしてない筈だ

多分、直哉なら……元凶を狙ってる筈。

 

走る

とにかく、地下へ

下へ下へ下へ…走る

 

吐き気がする程の血と死臭を振り切って

夥しい数の人骨と遺体を見ないふりして

とにかく、地下へ

 

途中、気絶した虎杖を抱えた脹相達とすれ違った。

 

「逃げろ!先は地獄だぞ!」

「真希さん、この先で宿儺と夏油さん達がやり合っています!

もし行くなら出来るだけ迂回を!」

「兄者!ゆうじが起きないよぉ〜!!?」

 

確か、九相図の三人は全員が1級術師相当なんだったっけ

………正直、私一人でこれ以上進むのは限界だ

どうにか……

 

「……頼む、一緒に来てくれ」

 

交渉にすらなってねぇ、ただの我儘

それに対して声を上げようとする壊相と血塗を脹相が手で制した。

 

「何故だ、先には地獄しかない…何処へ行く気だ」

 

「…………直哉の所へ

私達の───────私の、兄貴の所へ」

 

「そうか」

 

短い返答と共に、脹相は目を閉じてゆっくりと愛する三人の弟達へ向き直る。

 

「壊相、血塗…行くぞ」

 

「……っ!頼むっ!私一人じゃ」

 

「勘違いするな…俺達は、お前と共に行くと言っている」

 

…へ?と、呆気にとられる真希に脹相は首を傾げる。

 

「自分から同行を提案しておいて…了承された事に不満でもあるのか?」

 

「い、いやっ!違う……けど…なんでだ…?

どうして私と来てくれるんだ…?」

 

「知れた事──俺が、お兄ちゃんだからだ」

 

「……………………………は?」

 

本当なら、こんな命懸けの場面で協力してくれるって言ってくる相手に向けるような顔でも声音でも無かった

無かったけど…仕方ねぇだろ

マジで意味わかんねぇ…

 

「俺は九相図達の…そして悠仁のお兄ちゃんだ

誇るべき、最高の弟達のお兄ちゃんだぞ?ならば俺は、常にそんな最高の弟達の為に最高のお兄ちゃんで在らねばならん

そんな俺が…兄の為に命を懸けるお前を見過ごして、ここで逃げ帰っては───俺は、そんな俺をお兄ちゃんと認めないだろう」

 

私の困惑を見た脹相が胸を張ってそう答えた。

…………言われても意味わかんねぇ

わかんねぇ…けど、これでようやく──直哉の所へ、行ける

 

 

 


 

 

嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!

うそだ………

 

下へ向かう途中、七海さんが灰原さんと言い合いをしている場面に出会した。

普段は、性格が正反対みたいな二人なのに互いに信頼しあって意見が割れるのすら珍しい二人が…だ。

 

「離せよ七海!直哉が…僕のせいで!!」

「行ってどうする!!足手纏いが増えるだけだ!」

「そんなの…っ!じゃあ、どうすれば良いんだよ!?」

 

二人共、ボロボロの身体で取っ組み合いをしている

けど……私の意識は、もうそんな事を認識できてなかった

 

「直哉…直哉は何処に居るんですか」

 

二人に掴み掛からなかったのは奇跡に近い

身体と声が震えて、理由もなく涙が流れる

 

二人は私達を見ると苦しむような、哀しむような顔で…指差した。

私を止める脹相達の声を振り切って、私は走った。

 

 

 

「直哉ぁ!!!」

 

 

視線の先には、血塗れでボロボロになった直哉が居た。

綺麗な金髪が血糊でべったりと顔に貼り付いて、何度もマメが潰れてゴツゴツになった手がひしゃげてて

頭が真っ白になる

言いたいことがあったのに

なんで置いてったんだって言いたいのに

喉が握り締められてるみたいに

息が詰まって

違う

違う…私は、私は強くなったんだ

あの時の、震えて泣いてただけの子供(ガキ)じゃ…

 

「真希ちゃん…みんなに言うといてや

中々、悪くなかった」

 

ずっと、好きだったのに

礼の一つも言ってないのに

 

護るって言ったのに

嘘つき

 

「中々楽しかったよ、バイバイ」

 

噎せ返るような血の匂い

そして、直哉が抱き締めてくれた時の体温が…身体を包んで

ブラウンの綺麗な瞳が、足元に転がって

 

「ゔ、おぇぇぇ…っ!」 

 

あんなに動かなかった口から、止め処なく胃液が出ていく

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い

頭が、どうにかなりそうで

 

「伏せろっ!」

 

だから、その声にも反応出来たってより崩れ落ちたってのが正しい。

 

「………今、結構気分が良いんだけど

後口を汚さないでくれない?」

 

脹相の放った血の一閃、赤血操術が誇る最速の一撃【穿血】を軽く躱すとため息と共に羂索が(のたま)う。

 

「壊相!血塗!」

 

脹相の声より先に駆け出した二人が崩れ落ちた真希へ手を伸ばす。

 

「あのさぁ…」

 

壊相が翅王による攻撃を仕掛けながら、血塗が吐血により面制圧をかける。

回避をするにしろ、術式で払うにしろ、確実に生まれる隙で真希を助ける…兄弟の無言のシンパシーによる即興の策。

しかし…

 

「確かに、今の私は術式が焼き切れて反転術式のせいで呪力も低減している」

 

羂索は、二人の攻撃にあえて()()()()()()()()()()

 

「なっ!?くっ…蝕爛腐術『朽』」

 

羂索の猛進に虚を突かれるも、壊相はすぐさま切り替えて『朽』によるダメージと苦痛により隙を作ろうと──

 

「その上、彼から貰った黒閃で内臓の幾つかが潰れて動きも鈍っている──でもさ」

 

そんな考えは、飛び膝蹴りを加えられ苦痛に呻く血塗の姿に掻き消えた。

 

「血ッ塗ゥウウウウウ!!」

 

叫ぶ壊相の意識はここで途切れる。

最後に見たのは、頭に縫い目のある女のつまらなそうな顔と拳だった。

 

()()()()で埋まる差だと思ってたの?

君達の頭まで空っぽにした覚えは無いんだがね」

 

背後から来る穿血を見もせずに躱しながら唯一立っている脹相へ向き直る。

 

「脹相、君達の前に居るのは──千年以上生きた呪術師だ」

 

「加茂憲倫…っ!!」

 

そこからは、よく覚えてない

後から聞いた話じゃ、夏油先生が助けに来てくれてなんとかなったみたいだ

九相図の三人も、虎杖も、私も…多少の怪我で済んだ

よく、覚えてない

 

「夏油くん…君は呪術師に向いてないよ

精神構造が非術師のソレから変わっていない」

「怖いなぁ、そんな顔をしないでおくれよ…かわいい生徒が私の間合いだよ」

 

「ありがとう、君みたいな足手纏いが居てくれたお陰で助かったよ

取れなくて残念だったね、仇」

 

覚えて……ない…

 

 


 

 

あの日から、真依はおかしくなった

今度、直哉と一緒に出掛けるんだって服を選んでる

私は…何も言えなかった

直哉はもう死んでるなんて、どの口で言うんだ

私のせいだ…私が、もっと強かったら

直哉は……直哉は

震える手で、首から下げた()()()の中身を見る

大丈夫、わかってるよ

目を合わせて、そう言ってから軽く唇を這わせる

それだけで、少しだけ気が楽になった

 

憂太から無理矢理聞き出した…羂索(アイツ)は死滅回遊ってのを始めたらしい

行かないと

じゃねぇと、私は───ただの足手纏いだ

 

 

 

甘かった

全部、全部が

私は、自分が思ってるよりもずっと弱くて

私は、自分が思ってるよりもずっと…護られてたんだ

 

仙台のコロニーに着いてすぐに、恵の奴が一人で行っちまった。

それだけなら良かった…でも、その後すぐに一緒に来てた万って術師まで居なくなった。

夏油先生から特級に近いって言われて、コイツが付いていくなら問題無いって言われてたのに…

私が一人でどうにかしないと…

側には、真依が居る

今の真依を一人には出来なかった…でも、ただでさえ無理言って迷惑掛けてる私が真依の事まで頼める訳がない

真依だけは…私が、護ってやらねぇと

 

「食傷気味だな…こう味気ないモンばっかだとガツンと濃い奴をヤリてぇんだけどな」

 

後ろから、リーゼントの男がゆっくりと歩いて来てる。

脚が動かねぇ…たった一発、それも掠っただけでコレだ

本当に…泣けてくる

 

『呪術師向いてへんで』

 

ああ、そうだったよ…やっぱり、直哉の言う通りだった

私は、弱くて…護られてばっかだった

認めるよ…認めるからさ……

真依だけは、真依だけは助けてくれよ…

私がトチッて死ぬ分には納得いくからさ…真依は、違うだろ?

真依は私に巻き込まれただけなんだ…だから、頼むよ

 

『お姉ちゃん』

 

その声に、すぐに後ろを振り向く

でも、真依は私が持たせた御守りを握り締めて震えてる

じゃあ…この声は、誰の──

顔を上げた先に、真依が立っていた

 

『随分前に…直哉から聞いたのよ、何で呪術師にとって双子が凶兆か

一卵性双生児は呪術では同一人物だって見なされるから…お姉ちゃんは私で私はお姉ちゃんなの

私がいる限りお姉ちゃんは一生半端者なの』

 

「何…言って……」

 

『全部、捨てなさい』

 

真依が私の手を掴んで、震える真依の首に──

 

『私はもう、駄目よ…わかるでしょ?

だから──最期は、アンタがして

呪力もなにもかも私が持っていってあげるから』

 

真依の首に、手がかかる

 

「お姉ちゃん…何、するの…?」

『一つだけ約束して』

 

「いや…嫌ァァァ!!やめて!なにするの!?」

『全部、壊して』

 

「お姉ちゃんはおかしくなったのよ!」

『全部だからね』

 

暴れる真依の爪が顔や腕に切り傷を創る

私は…私は

 

 

「出来ないよ…真依…っ」

 

痕が残るくらいに絞めた手を離す

真依が咳き込みながら蹲る

私は…私は……

駄目だ、頭ん中、ぐちゃぐちゃで

 

 

「嘘つき…護るって、言ったのに」

 

 

「助けてよ…直哉」

 

 

リーゼントの男から感じる呪力が膨れ上がる

せめて、最期は…真依と一緒に

 

 

「全く…取柄のお顔がグズグズやんか」

 

 

そっと、優しく目元を拭われた

誰かなんて、聞くまでもない…この世で一番聞いてきた声だ

誰かなんて、見るまでもない…この世で一番見てきた格好だ

なんでとか、どうやってとか…聞くことなんて山程あるのに

声が…全然出なくて

 

「ほら、真依ちゃんも泣き止み

…しゃあないな、今度どっか連れてったげるから」

 

私達の側にしゃがみ込んで、後から後から溢れ出る涙を…優しく拭いながら

そう、笑った

 

相変わらず、火傷の跡が残ってて

相変わらず、困ったような笑顔で

相変わらず、私達に甘いままの──私達が好きな人

 

「ほら、真希ちゃんもとっとと立ちや」

 

「た、立つって…なんで…」

 

駄目だ…まだ、碌に喋れねぇ

 

「はぁ…?まさか、俺に一人でやれって言うん?

とっとと立てや──背中は任せたで、呪術師なんやろ」

 

グッと引っ張り起こされる

ゴツゴツで、硬いのに…優しい手

あぁ、本当に…単純だ

こんな一言で、全部…

 

「───ッ!応!!」

 

「可愛い家族が見とるんや、カッコつけさせてもらうで」

 

 

 

 


 

禪院直哉

この後、二人の【御守り】の中身を見て大層曇った

 

禪院真希、禪院真依

一度折り目がついた紙はどんなに綺麗に広げても、決して折り目が消える事はない

本編が続くとしたら何が読みたいですか?

  • 虎杖編(少年院〜幼魚と逆罰)
  • 伏黒編(京都姉妹校交流会──殲滅戦)
  • 九相図編(起首雷同〜宵祭り)
  • 人外魔境新宿決戦
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