「ゆとり極まれりだな!普通命狙われてんのに
無事に星漿体である天内理子とその世話係黒井美里達と合流したはいいものの、予想外にアグレッシブな天内の要望により彼女の通う学校まで二人は来ていた。
「そう怒るなよ悟、天元様からの
スイパラや食べ歩きだってもう行けなくなるんだ」
夏油の声に五条は肉で圧迫され細くなった目を見開く。
「好きにさせよう、それが私達の任務だ」
「……でもさ、現実問題どう護衛すんの?
俺の術式知ってんだろ?離れた位置からどうこうすんならガキんちょごと吹っ飛ばす事になるけど」
「問題ないよ、私の耳は10km先の
こうやって耳を澄ましていれば──悟、今すぐ理子ちゃんの所へ」
もちもちの顔をキュッとシリアスに引き締めて五条に指示を出す夏油。
「あ゛?」
「二人…歩き方や身のこなしからして術師が敷地内に
二人と黒井は学校の廊下を駆ける。
五条と夏油がそれはそれはブルンブルンと頬肉やら喉肉を揺れ動かしつつもビデオの速送りじみた速度で走る姿は最早一種のジョークのようだなと黒井は場違いにも思った。
「天内は!?」
「この時間は音楽なので音楽室か礼拝堂に!」
「レーハイドゥ!?…傑!どっちだ!?」
「礼拝堂の方から声が聴こえる!悟は黒井さんの護衛を兼ねつつそっちへ!」
瞬時に校内の地図を頭に描きながら話す二人。
つい先程一目見ただけのソレを脳内で完璧に思い描ける優秀な頭脳と、それだけ酷使しても一っっっ切消費し切れないカロリーを摂取しているのが瞬時にわかる。
「傑は?」
「私は
ドスドスと廊下を揺らしながら走る夏油、その眼前に作務衣姿の男が現れる。
「その制服…呪術師、それも卵か」
「そっちも卵だろ、中身は腐ってそうだけどね」
禿げ上がった頭部を隠す手拭いを見ながら鼻で笑う夏油。
「
「失礼だな、ぽっちゃりだよ」
苛つきを隠しもせずに男は自身の前後に式神を配置する。
「式神遣いか…私、苦手なんだよね」
「ふっ、なら…死ね!」
手と顔面を無理矢理くっつけたような見た目の式神が跳ねるように夏油に飛びかかる。
「ほら…式神って呪霊と違って
昔、ソレ狙いで禪院の
向かって来た式神を握り潰しながら軽々と言い放つ。
「結局目当ての術式持ちすら居なかったし…もしかしたら十種影法術の式神は美味しかったりするのかな?」
贅肉でタップタプの顎に手をやりながらまだ見ぬ美食に思いを馳せる夏油に男はフルで脳味噌を回転させる。
(敵を前にしてこの余裕…そして今の体捌き、間違いなく近接系の術式!
ならばどうにかして儂に近付こうと考える…式神使いの儂に近付ければ勝ちは揺るぎ無いと思っておる
若いな…呪力量は向こうが上、しかし……圧倒的に経験値が違う)
「……色々考えてるとこ悪いけど」
瞬間、夏油が男の視界から消える。
「意味ないよ」
それが、男の最後に聞いた言葉だった。
ゴシャア!!!
「私は自分の術式が…この世の何よりも素晴らしいモノだと確信してるし、それが揺らぐ事も無いんだけど
まぁ適材適所ってヤツさ、火を着けたければライターがあるし…敵を倒したければ拳がある」
頭が廊下にめり込んだ男を見ながら呟く夏油。
呪術師界一の動ける
「さて、あと一人…さっさと片付けて理子ちゃんとオヤツタイムをしないとね」
アレは流石に痩せ過ぎだ、と言いながらグルメ情報誌を広げる夏油。
ソレには近場のステーキハウスやカレーショップのページにぎっしりと付箋が貼られていた。
「3000万…今夜は鰻かな、人を殺して食う飯は美味いんだ」
「鰻か…ナマズっぽい呪霊ならこないだ見付けてとっといたんだ、私のオヤツにするつもりだったんだが…仕方ないね」
「へっ…?モゴォア!!?」
紙袋を被った男が背後からの声に一瞬気を取られたその瞬間、悍ましい程の早業で紙袋を奪い盗られ口に玉を詰め込まれた。
成人男性の握りこぶし程もある呪霊玉を無理矢理詰め込まれた男の顎はガコン、と哀しげな音と共に外れた。
「何かをやり遂げた後の食事の美味しさは私もよく知ってるよ
だから……美味しい鰻は私が代わりに食べてしまおう、残念だけど
苦悶の表情を浮かべながら口の端に泡を垂れ流す男は出目金のように眼球が膨れ上がり、でろりと顔面からはみ出ていた。
……その生死など、態々確かめる必要もないだろう。
「「「「「キャーーーー!!!」」」」」
天内の無事を確認しに礼拝堂に急行した五条は天内のクラスメイト達に囲まれていた。
「もちもちでパンダみたい!」
「グラサンが顔の肉に埋まってて草」
「
「ヒャアもう我慢出来ねぇ!!」タプタプタプタプタプ
瞬く間に顎肉をタプタプされ始めた五条は若干苛つきながらも瞬時に抜け出し天内を担ぎ上げ外に出る。
俗に言うお米様抱っこである。
「この豚ァ!あれほどみんなの前に顔を出すなと!!」
「お前……後でマジビンタな」
青筋を立てながらもなんとか平静を保とうとする五条の上で天内はギャーギャーと喚く。
「呪詛師襲来、後は察しろ」
「…っ!」
言葉に詰まる天内に五条は一抹の罪悪感と共に確認をとる。
「……このまま高専いくぞ、友達が巻き込まれんのは嫌だろ」
「………」
俯く少女に悲しげな顔の黒井、五条は自身の判断は間違っていないと自分に言い聞かせながら飛ぶように走る。
(彼女はもう、スイパラや食べ歩きだって行けなくなるんだ)
夏油の言った言葉が何度も脳内でこだまする。
「どうしろってんだよ…クソッ!!」
「おいおい悟、そんなに怒ってどうしたんだ…腹ペコかい?」
「傑!」
3人に合流した夏油は瞬時にそれぞれの表情から事の経緯をおおよそ理解した。
そして───
「悟、理子ちゃん、黒井さん…ご飯にしよう」
「「「は?」」」
食欲を優先した。
「こっ、この状況で何を言っとるんじゃ!呪詛師が来ておるんじゃろ!?」
「あぁ、ソレね…今ざっと調べたけど呪詛師御用達の闇サイトで君の首三千万円だってさ、人気者は辛いね」
「…っ!なら!」
「だから、ご飯にする」
なんでもないと言うように話す夏油に焦れた天内が声を荒げるも、それを受け流すように笑う夏油。
「悟はそろそろ空腹で頭が回りにくくなってきてるし、何よりお腹が空くとイライラし易い
それに、理子ちゃんと黒井さんも…肩肘張り過ぎだ
まだ同化まで2日もある、そんなんじゃとてもじゃないが保たないよ」
そう言って笑う夏油に、毒気というか何かを抜かれた三人は不承不承といった風についていった。
「さあ、美味しい鰻でも食べようか」
「理子ちゃん、出会った時からずっと言いたかったんだが…君の
だから…これより『デブエット』を行う!!」
都内某所の鰻屋へ来た一行はそんな夏油の宣言に首を傾げた。
「デブエット…?」
「傑、ナニソレ?」
「ふむ…悟、君は年頃の女子達が行う蛮行──通称『
「ダイ…エッ、ト……?」
始めて言語を獲得したロボットのような喋りに天内と黒井がマジかこのデブという目を向ける。
「この世にはあろうことか食事の量を減らしたり、あまつさえ1食まるごと失くして自分から痩せ細ろうとする人種が一定数居るのさ」
何故かね、と心底理解できないという風に話す夏油。
その脂肪は豊満であった。
「マジかよ…そんな……飯減らすとか、じゃあなんの為に生きてんだよそいつら…」
心の底からショックを受けた五条は若干声を震わせながら夏油に尋ねる。
「………わからない、成長期における食事の重要性など最早語るべくもないというのにね…」
こちらも本当にわからないと目を伏せる夏油。
そんな二人を天内と黒井は動物園の動物を見るように眺めていた。
「だからこそ…!その愚かしいDIEエットの逆!
清貧なんぞクソ喰らえ、富める者こそ真に清らかなのさ」
言いながら手を挙げ店員を呼ぶ夏油。
「さて、手始めに…メニューに載ってるものを一通り
伝票を書こうとする店員にメニュー表そのものを手渡しながら、夏油は眩しい笑顔と共にサムズアップした。
本編が続くとしたら何が読みたいですか?
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虎杖編(少年院〜幼魚と逆罰)
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人外魔境新宿決戦