肥満児二人。ただし最強。   作:悲しいなぁ@silvie

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4話

「夏油!ち、血が…こんなに出て……」

 

頭部から噴出する血液は既に夏油の髪を朱く染め、黒い学ランをより濃く彩る。

 

「理子ちゃん、下がって…!」

 

「夏油…っ、でもっ!!」

 

夏油のモッチリとした手が天内の頭をポンと撫でる。

モッチリムチムチの夏油の手…手?

……………夏油の右クリームパンが天内の頭を撫でる。

 

「こんなもの、私にとっては町でアンケート取らされた位のハプニングさ…さ、行け!!」

 

天内を退避させ、襲撃者に向き直る夏油。

 

「終わったか?三文学芸会はよ」

 

首に呪霊を巻き付けた甚爾はハンドガンで肩を叩きながら夏油を睨む。

 

「………なんで、お前がここにいる」

 

「なんでって…あぁ、そういう意味ね

お友達なら死んだぜ、ブランド豚…五条豚の刺し身ってとこか」

 

「そうか」

 

夏油傑という男は、温厚で知られている。

呪術高専に入学以来一度も怒ったことがないと自他共に認めるその性格(と体型)からついたあだ名が『呪術界のトトロ』(言うまでもないが硝子考案)。

いつも笑みを絶やさず、後輩からの信頼も厚い。

五条家の秘蔵っ子、孤高の天才と呼ばれた肥満児五条悟の無二の親友とまでなった夏油傑。

そんな彼が、産まれて始めて抱いた──

 

「死ね」

 

剥き出しの、殺意。

夏油は一足で甚爾に肉薄する。

 

「はしゃぐなよ肉団子」

 

軽く振り上げた甚爾の脚が夏油の顔面を打ち抜き、そのまま蹴り飛ばした。

夏油は薨星宮に乱立する建物の一つに激突する。

 

「喜べよ、お友達と違ってお前を殺す気はねぇ

呪霊操術使いなんだってな?特級様は有名で良いな」

 

ガラガラと崩れた建材を掻き分けて立ち上がる夏油を見下ろしながら甚爾は口を止めない。

 

「俺は生まれつき呪力が全く無い特異体質、天与呪縛ぐらい知ってるだろ?

呪力が無い俺はさしずめ透明人間…結界を抜けてきたのがソレだ

呪具は物体を格納出来る呪霊に呑ませ、ソイツを俺が呑み込めば…あらゆる呪具を携帯したまま結界を素通りできる」

 

甚爾が話し続ける中、夏油は血塗れの学ランを脱ぎ捨て顔にべっとりとついた血を拭う。

 

「強化されてるのは身体能力だけじゃねぇ、五感や知覚能力も強化されてる…呪霊を飼えてるのはそういうことだ」

 

「終わったか…」

 

「あぁ?」

 

「天与呪縛…術師(わたしたち)と同様に情報の開示が能力の底上げになることは知っている

だから──腸が煮え繰り返ろうと我慢して聞いてたんだ」

 

再び、夏油が甚爾に肉薄する。

 

「お前は…完膚なきまでに叩きのめす

だから──後で泣き言を言うなよ」

 

「悪いな、豚語はさっぱりだ」

 

ガゴン、と互いの蹴りがカチ合うと金属音に似た音が響く。

蹴り足は一瞬拮抗するもすぐに均衡が崩れ甚爾の足が弾かれる。

しかし、甚爾は弾かれた勢いそのままに軸足で回転すると蹴りを振り抜いた夏油の頭頂部に両者の力で加速した踵落としを叩き込む。

 

「ぐっ…!」

 

「お前ら豚共は、俺から言わせれば我慢が足りない

自分の欲すら我慢できねぇ(ゴミ)が俺に勝てるって夢見ちまったか?」

 

床をぶち抜きそのまま下層まで落ちる夏油を見ながら、しかし甚爾は天内を探しに行こうとは動かない。

 

(どうなってる…?今までの賞金目当て(ザコ呪詛師)相手に術式を使わなかったのはまだわかる…だが、なぜ今呪霊操術を使わない?

何かを狙ってんのか…)

 

夏油は壁を蹴りながら空中を跳ねるようにして戻ってくる。

 

(さっきから馬鹿の一つ覚えに突っ込んでくんのもわからねぇ

殺さねぇって言ったから調子づいてんのか?)

 

「お゛お!!」

 

その巨体からは想像できない速度でのラッシュ…しかし、甚爾はそれらを全てかわしていく。

 

(……仕方ねぇ、死なねぇ程度に斬って黙らせるか)

 

甚爾は呪霊の口に手を突っ込むと大振りな刀を取り出す。

 

「待ってたぞ…お前が武器を取り出すのをな」

 

瞬間、夏油が更に加速した。

その目はただ1点、甚爾の首に巻き付いた呪霊のみを見ている。

 

(この豚…っ!今までのは全部ブラフか!

狙いは俺の格納呪霊…!だが、やっぱり我慢が足りねぇな

刀はまだ呪霊の口から引き抜ききってない、呪霊操術が発動するまでに天逆鉾に持ち替えるぐらい訳ねぇんだよ)

 

甚爾は瞬時に刀を呪霊の口に入れ直すと触れた術式を強制解除する特級呪具、天逆鉾を取り出し呪霊に手を伸ばす夏油を嘲笑う。

そして──

 

『■■■■■■!!!?』

 

ガチン、という音が響くと共に──武器庫呪霊の頭が()()()()()()

 

「な…っ!!」

 

瞬間、死んだ呪霊の身体を無数の呪具が突き破り周囲にばら撒かれる。

 

「悟が負けた…なら術式を無効化する呪具を持っている

そう考えるのが妥当だろう、尤も…クロマニョン人とは別の進化の途をたどった君には思いつかなかったかもね」

 

ゴクン、と齧り取った呪霊の一部を呑み下すと夏油は構える。

 

「来なよ…それとも、武器が無いと怖くて戦えないのかな?」

 

(………呪具は散らばっちまったが天逆鉾は手元にある

釈魂刀も足元…そんだけありゃあこの豚捌くぐらい問題ねぇ)

 

違和感

 

「驚いた…喋るだけじゃなくジョークも言うのか、最近の豚は」

 

甚爾は瞬時に距離を詰めると夏油の顔を蹴り飛ばす。

 

「ぐっ…!」

 

「遅ぇよ」

 

立ち上がる夏油の腹を釈魂刀で突き刺す。

釈魂刀は斬り裂いたものの魂を斬る。

故に、その斬撃は…硬度を無視した必殺となる。

腹、脚、腕、そして肩口から袈裟斬り。

夏油は瞬時に二桁に迫る斬撃を受け崩れ落ちた。

 

「これで、後は星漿体さえ()れば終わりだな」

 

まず立ち上がれない負傷だと判断した甚爾は天内を探しに動く。

 

「……クソ…これだけは、使いたくなかった……」

 

「……あぁ?」

 

耳を澄ました矢先、血の池に沈む夏油の呟きを甚爾の人間離れした聴覚が拾う。

 

「私の術式、呪霊操術は降伏した呪霊を自身に取り込み使役できる」

 

ふらふらと立ち上がる夏油、しかしその目は…まだ死んでいない。

 

「階級換算で2級以上の差があれば降伏を省きほぼ無条件で取り込める」

 

もう死の寸前まで負傷している、呪霊操術の暴走を考えれば甚爾は既に夏油に危害を与える事は出来ない。

 

違和感

 

「取り込む際には呪霊を小さな玉に纏め、それを口から食べる事で完了する

味は呪霊の階級によって変化し、基本的に階級が上がれば上がる程に美味で口当たりも良くなる」

 

「術式の…開示……」

 

違和感

 

温厚で知られる夏油傑にも、2つ…たった2つだけ()()がある。

1つは仲間、相棒である五条悟と親友と言って憚らない家入硝子に高専の後輩達や教員も含めた仲間達を傷付けられること。

もう1つは…食べ物を粗末にすること。

呪霊操術を持つ夏油の中で、呪霊は食べ物に分類される。

故に、夏油は術式を知覚した瞬間から今に至るまで…ただの1度も呪霊を使役し戦わせたことがない。

 

夏油は呪霊操術の有用性を知る上層部より1級術師として登録され、その後すぐ4級術師へと降格させられた。

 

夏油は呪術界の歴史で唯1人、自身の術式のほぼ全てを自身の意思で縛っている。

夏油は史上で唯一、僅か一週間という短期間で4級から特級へ階級を跨いだ呪術師である。

 

呪霊操術、数百年に1人とも言われる術式の術式効果…その殆どを縛るという破格の縛りは1つの非常識を生んだ。

縛りにより、夏油は呪霊を取り込むとその呪霊が持つ呪力を()()()()()()()()()()()

 

夏油は既に、4体の特級呪霊と58体の1級呪霊を含む延べ7883の呪霊をその身に取り込んでいる。

それらの膨大な呪力は夏油の身体に収まりきらず、その周囲に超超超高密度の呪力の塊として漂っている。

その超密度は、あろうことか適性の無い一般人にすら視認可能で…それどころか、()()を得るに至る。

 

「極ノ番」

 

上層部はその規格外の呪力総量をもって、夏油傑を特級術師に認定した。

夏油傑、その呪力総量は──

 

「うずまき」

 

自身を除く2人の特級術師、及び現在確認されている12体の特級呪霊の総量を優に上回る。

 

「あぁ…だから使いたく無かったんだ、コレは消耗が大きいしなにより──」

 

呪霊操術の極ノ番うずまきは術式によって使役した呪霊を呪力の塊に変換する…しかし、夏油傑が使ううずまきは──通常のソレと一線を画す。

 

夏油の周囲を黒い極小の球体が取り囲む。

夏油傑の奥の手(うずまき)は──自身の持つ呪力全てを、極小の球体として出力する。

その結果、彼の周囲に帯同する超密度の呪力すらも総動員される。

 

「少し痩せる」

 

血に塗れた美丈夫は細く、しかし逞しく引き締まった肉体で甚爾の前に立つ。




次回かその次で最終回です

本編が続くとしたら何が読みたいですか?

  • 虎杖編(少年院〜幼魚と逆罰)
  • 伏黒編(京都姉妹校交流会──殲滅戦)
  • 九相図編(起首雷同〜宵祭り)
  • 人外魔境新宿決戦

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