夏油はうずまきを使う際、呪霊操術にて呪霊そのもので戦闘を行わない縛りに加え更に複数の縛りを追加していた。
1つ、このうずまきにより発生した全ての呪力を伏黒甚爾相手にしか使えないようにする縛り。
2つ、呪霊を呪力に変換する際に起こる術式の抽出を放棄する縛り。
そして…これが最大にして、夏油の怒りを象徴する縛り。
3つ、夏油はこれ以後、呪霊操術にて得る全ての呪力を自身の周囲に一切漏らさないという縛り。
これにより、夏油の周囲に超密度の呪力が発生する事は無くなる。
それは──これ以降、夏油傑が太れない事を意味する。
縛りとは、自らに課す誓約。
その効果は本人にとってその縛りがどれだけ大きいかによって決定する面もある。
他者からみればどれだけ苦行に見えようと、本人が気にしていなければその効果は低く…他者からみればどれだけくだらなかろうとも、本人にとってソレが身を切るように辛ければその効果は高くなる。
元々の縛りも合わせ計4つの縛りから成る極ノ番は、平時に比べ200%の出力で発動した。
「ごっ…!?」
甚爾の顎が跳ね上がる。
その勢いは大木の幹のように太く、筋肉質な身体が軽く数メートル程浮かびあがる程である。
「てめぇ…なんだソレは……っ!!」
「聞こえないな、もっと近くで喋ってくれ」
再び、甚爾の身体が弾かれたように吹き飛ぶ。
(どうなってる…!?あの黒い玉の効果か?
極ノ番とはいえ呪霊操術の術式効果からかけ離れた事はできないはず…っ!)
甚爾は空中で体勢を整えると壁に着地する。
そのあまりの勢いと衝撃に着地した石造りの壁面がクレーターのように抉れるも甚爾はすぐさま夏油の方へ向き直る。
しかし
「っ!?どこに行った…あのガキ!!」
先程まで夏油がいた場所にはチリ1つ無い。
「悪いね、コレを使うのは2度目なんだが…加減が効かない
弱い者いじめをする気はなかったんだ…本当に、ごめんね」
甚爾のすぐ隣、同じく壁に立つ夏油は心底申し訳無さそうに苦笑するとそのまま甚爾を殴り飛ばした。
「まさか…っ!呪力による身体強化か!?ありえねぇ…こんな上昇率、まず肉体がブッ壊れるはず…!」
「貧相なのは身体だけじゃないようだね…目の前で起きてる事を否定してなんの意味があるんだい?」
再び、衝撃。
甚爾はピンボールのように弾け飛びながらも思考を高速で回し続ける。
(考えろ…何かタネがある……怪しいのはやっぱりあの玉だ
攻撃自体は徒手空拳、ならあの玉は何に使う…?)
「……色々考えてるとこ悪いけど、意味ないよ!」
夏油が甚爾の視界から消え…衝撃。
吹き飛んだ甚爾が薨星宮に乱立する建物の一つに激突する。
奇しくも、先程の焼き直しとなる構図であった。
「君の敗因は…最初の一撃で私を殺さなかった事、かな」
「随分と玉っコロが減ったじゃねぇか」
瓦礫の上で大の字に寝転がる甚爾は夏油を見もせずに話す。
「玉遊びは俺も好きでね…つい何玉あるか数えちまった」
よっ、と身体を起こすと甚爾は夏油に向き直る。
「お前の高速移動はその玉から呪力をジェット機みてぇに
「………やれやれ、わかったところでなにかあるのかい?
私の動きが目で追えない事実はちっとも変わってないよ」
「敗因がどうだの言ってたな?
なら──お前の敗因は練度不足だ、
甚爾は大きく足を広げると深く腰を落とし両腕を構える。
『不知火型』防御を棄てた、攻撃の構えである。
「男抱く趣味はねぇが、仕方ねぇ
来いよ──VIP待遇だ」
瞬間、再び夏油の姿が消える──衝撃。
「がっ…!?」
顔面を強打され、吹き飛ぶ──夏油。
「馬鹿な…!」
「どんだけ速かろうが直線でしかねぇなら怖かねぇ
五感も強化されてるって言ったろ、目で追えなくても五感で追えばタイミング掴むくらい訳ねぇよ」
顔面を打ち抜かれた夏油は先の負傷も含め全身から血を噴き出す。
「夏油!!大丈…誰じゃ貴様ぁ!!」
血塗れで膝をつく夏油に天内が駆け寄る。
………激ヤセの結果別人と思われてファイティングポーズをとられているのは言わぬが花である。
「ありゃあ星漿体のガキか?
ようやく運が回ってきたな…後はあのガキ
甚爾は瓦礫の山から抜け出すとゆっくり二人へと歩を進める。
「理子ちゃん…離れるんだ……」
天内は夏油の前に立つと向かってくる甚爾を睨みつける。
「ゲスめ!妾を殺したくば、まずは貴様から死んでみせよ!」
震える身体に震えた声で…揺るがぬ信念と共に叫ぶ。
「違うよ、理子ちゃん…危ないから離れて欲しいんだ
そこだと巻き込まれる──加減が効かないヤツだからね」
天内の震える肩を掴むと夏油は自分の後ろにひょいと移動させる。
「巻き込まれ……?」
「もう忘れたのかい?言ったろ」
夏油はスッと上を見ると、たっぷりと溜めて…胸を張る。
爆発音と共に甚爾の背後にあった建造物が爆ぜる。
まるで、隕石でも落ちてきたかのように。
「傑、ちょっと痩せた?」
白髪に、空を写したように美しい瞳。
そして──ギリシア彫刻のように均整のとれた玉体。
特級術師五条悟が戦場に降り立った。
「ウケんだけど」
「ウケないよ…というか
「ご、五条が……性格の悪いドラえもんから性格の悪いイケメンになっておる!!」
「天内、お前後でマジビンタな」
3人がわいわいと騒ぐ中、甚爾はゆっくりと目を閉じていた。
「反転術式か…」
「
キレ気味に叫ぶ五条。
反転術式は頭で回す、極限状態での限界を超えた脳の使用と出血多量によるリソース不足。
それに加え、修得したての反転術式で治す為範囲は限界まで絞る必要があった。
五条は涙と共に自分の脂肪を捨てる覚悟を決めていた。
五条がスッと構える。
反転術式により生まれた正の呪力を自身の術式に流し込む。
構える五条を見て夏油もまた構える。
自身の周囲に浮かぶ呪力の塊を1つの大きな球に変え撃ち出す極ノ番の正道。
「術式反転『赫』」
「こんな化物相手なんて割に合わねぇ」
いつもの俺ならそう言ってトンズラこいた。
だが、直前に五条家の秘蔵っ子を…現代最強の呪術師を倒していた。
だから…否定したくなった、捻じ伏せてみたくなった。
俺を否定した禪院家、呪術界…その頂点達を。
自分を肯定するために
いつもの自分を曲げちまった
その時点で負けていた
「
最強の挟撃が天与の暴君を撃ち抜いた。
「そんな…可哀そうに、こんなに痩せちゃって……っ!」
家入硝子は震える手で五条と夏油の顎を触る。
男性らしく突出した喉仏と、鍛えている事が一目でわかる逞しい筋肉質な触り心地。
「私のタプタプーーーーーッ!!」
「ごめんよ硝子」
「つーか、俺らが謝る必要あんの?」
「なに私の許可なく痩せてんのこのイケメン共!
タプタプモチモチの癒しボディから一山幾らのイケメンに成り下ってさ…!」
「うっせぇな!!俺だって太ろうとずっと食ってんだよ!!
でも太れねぇの!!」
ポカポカと胸を叩いてくる家入に五条がキレ気味に返す。
「悟、痩せ細る前…体重はどうだった?」
「は?………3桁超えてたけど」
「そういう意味じゃないよ、恐らくだが…ずっと横ばいじゃなかったかい?」
夏油はシュッとした顎にしなやかな指をあてて話す。
「コレは仮説だが、私達は摂取したカロリーと消費するカロリーが釣り合っていたんじゃないかな…?
だからアレ以上に太りも痩せもしなかった…だが、なんの因果か私達は二人共こうして痩せ細ってしまった」
五条は夏油のセリフに顔を青ざめると震えた声でたずねる。
「じゃ、じゃあなにか…?俺達はもう……ずっとこのままなのか…?」
「嘘よ……嘘って言ってよ夏油!!」
震える親友達に縋りつかれるも、夏油は目を固く瞑り首を振る。
「…………何見せられてんだコレ」
そして、そんな3人の少し後ろ。
呪術高専東京校の教室の片隅で伏黒甚爾は鎖や紐でグルグル巻きにされて席に座らされていた。
「どうしたんだい?今日からクラスメイトになるんだ…もっと輪に入ってきても良いんだよ?」
「ふざけるのも大概にしろ、俺は呪術師になんざなる気はねぇ」
そもそも呪力もねぇしな、と言いながら甚爾は机に突っ伏す。
「自分を否定した呪術界や禪院家を、見返してやりたくないかい?
呪力の無い君が1級以上にでもなってみな…吠え面をかく筈だよ」
「………自尊心だのは捨てたんだ、今さらそんなモンどうだって──」
「良いじゃないか」
「あ゛ぁ?」
「別に、1度捨てた物を拾っては駄目だなんて法は無いだろう?
今日から拾いなおしてやりなよ」
軽く言い切る夏油に甚爾は苦々しく顔を歪める。
「この…クソガキが」
その言葉は、夏油だけに向けていないような響きだった。
最悪だ、最悪の万が一が出た!
『素晴らしい…鏖殺だ』
全身に特徴的な紋様が浮かぶ男は心底嬉しそうに叫ぶ。
「恵、これはどういう状況かな?」
そのすぐ隣に、いつの間にか黒い長髪を後ろに纏めた美丈夫が立っていた。
「夏油先生っ!なんでここに…?」
「大事な生徒が悟の無茶振りで大変だって伊地知から聞いてね
さっさと任務を片付けて来たのさ」
『まったく、いつの時代でも厄介なものだな呪術師は』
傷付いた伏黒を気遣う夏油のすぐ後ろに呪いの王『両面宿儺』は迫っていた。
「先生、後ろ…!!」
伏黒が焦ったように叫ぶも、夏油はまるで気にせずゆっくりとした動作で立ち上がる。
「大丈夫だよ、恵も知ってるだろ?」
「私達は───」
宿儺の手が夏油に肉薄した瞬間、宿儺の身体が床に叩き付けられた。
「傑、今どういう状況?」
問題教師二人。
ただし───最強。
本編が続くとしたら何が読みたいですか?
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虎杖編(少年院〜幼魚と逆罰)
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伏黒編(京都姉妹校交流会──殲滅戦)
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九相図編(起首雷同〜宵祭り)
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人外魔境新宿決戦