肥満児二人。ただし最強。   作:悲しいなぁ@silvie

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オマケ
オマケ


「ぐ…っ!!なんで両手の私が右手一本相手に負けんだよ!」

 

真希は訓練用の薙刀を振り回しながら甚爾を狙う。

 

「おいおい、俺がガキ共相手にそんな酷ぇことするかよ」

 

ギュウ、と甚爾の腕が一回り程膨れると荒縄の如く浮き上がる筋繊維がその破滅的な腕力を否が応にもわからせる。

 

「サービスだ、指3本で良いぜ…勝てたら焼き肉奢ってやるよ」

 

五条がな、と付け加え悪い笑みを浮かべながらちょいちょいと手をこまねく。

 

「〜〜〜ッ!!上ッ等ッッ!!パンダ!棘っ!全員でやんぞ!」

 

「ムリだって真希、指3本でも甚爾に勝てたら1級だぞ」

 

「おかか…」

 

パンダと狗巻はげんなりしながら首を振るも真希は青筋を立てながら薙刀を振りかぶる。

 

「くたばれアル中教師!!!」

 

真希の人間離れした腕力と長い薙刀の遠心力も相まってその先端速度は刃が付いていないにも関わらず致命的なソレとなる。

 

「ほい」

 

甚爾は手を狐の影絵のようにして力を込め、バチン!とデコピンを放つ。

 

「〜〜〜〜ッんで!デコピン一発で圧し折れんだよ!!」

 

地団駄を踏む真希をカラカラと笑う甚爾。

 

「鍛え方が足りねぇな…ガキ共」

 

再び悪い顔で笑う甚爾…しかし、唐突に彼のポケットから電子音が響く。

 

「あ?」

 

甚爾がポケットから携帯を取り出しその画面を見ると…スッと笑みが消えその額に一筋の汗が流れた。

 

「………今日はここまで、後はテキトーに自習とかしとけ」

 

「はぁ!?逃げんのかよ!!」

 

「おいおい甚爾、体育で自習とか聞いたことないぞ」

 

「しゃけ!」

 

3人からのブーイングに軽く舌打ちをすると甚爾は焦ったように周囲を見渡し、とある人影を見付け大声で呼びかける。

 

「オイ、()()!」

 

甚爾のその声を聞いた瞬間、それまで天与の暴君ですら目を凝らさなければ見えない距離にいた米粒程の人影が甚爾達の目の前に現れた。

 

「はーい!どしたん甚爾君!」

 

直哉はニコニコと心底嬉しそうに笑いながら甚爾に話しかける。

 

「丁度いい…お前このガキ共に稽古つけてやれ」

 

「何や、そんぐらい勿論ええよ!」 

 

ニコーっと笑いながら答える直哉。

 

「あと、ついでに金貸せ」

 

甚爾はそんな直哉に手を差し出しのたまう。

しかし───

 

「うん!幾らぐらい要るやろ──」

 

直哉が言いながら財布を出すと甚爾はソレを奪い盗り札を全て抜き取ると投げ返す。

 

「っし、じゃあな」

 

おおよそ数十万程の札束を乱雑にポケットに捩じ込むと凄まじい速度で甚爾は走り去って行った。

 

「別に返さんでもエエからねー!!」

 

そんな甚爾の背中に叫ぶと直哉はゆっくりと真希達の方へ振り返る。

 

「…チッ、しょーもな…なんで僕がガキの面倒見やなアカンの?」

 

「お前情緒どうなってんだ」

 

直哉は露骨に嫌そうな顔で真希達を見るとしっしっ、と手を払う。

 

「ほな、僕今から任務やから適当に遊んどいてや」

 

そう言って背を向ける直哉。

 

「あーあ、甚爾はちゃんと組み手してくれんのになぁ」

 

「ツナマヨ」

 

「……………あ゛?」

 

そんな直哉に真希と狗巻のクソデカ独り言が響く。

 

「仕方ないだろ真希、直哉は任務で忙しいんだってよ

……………まぁ、甚爾は特級呪霊祓う前に俺達と組み手してから行ってたけどな」

 

「…………ちょお待ってや、それやとまるで僕が君らガキ共と組み手してたら任務に支障出るみたいに聞こえるんやけど…?」

 

「おぉ?そりゃ悪かった…俺はパンダだから人間の言葉が難しいんだ」

 

「やめとけパンダ、こんな口だけのクズ煽ってその気にでもさせてみろ

任務失敗して死んだコイツの回収で私らまで手間掛けさせられんぞ」

 

「上等じゃボケェェ!!!組み手でもなんでもしたるわぁ!!」

 

顔面にミミズが這ったような極太の青筋を立てて吠える直哉。

禪院直哉、その煽り耐性は皆無であった。

 

「でもなぁ…甚爾は指3本で相手して勝てたら焼き肉って言ってたのになぁ…」

 

「仕方ないって真希、直哉は1級だろ?

甚爾も同じ1級だけど…実力だけなら特級だもんな」

 

「スパム」

 

三人は小馬鹿にした顔で更に直哉から譲歩を狙う。

しかし

 

「指3本…?ええで…なんならもっとハンデあげよか

指一本でも僕に触れたら、焼き肉でもなんでも連れてったるわ」

 

瞳孔がガン開きになった眼で静かに言う直哉。

禪院直哉、その器は寿司パックの醤油差しよりも小さい。

 

直哉の言葉に口角を吊り上げた3人はでも、と続ける。

 

「無理すんなよ…煽って悪かったって、流石の私も禪院家の次期当主サマの財布に追い打ちかませねぇよ…なぁパンダ」

 

「おう、俺達ちょっと悪ノリが過ぎたよな

悪かった直哉、任務の前だし軽く稽古つけてくれりゃあそれで良いぞ…なぁ棘」

 

動くな

 

狗巻は瞬時に口元を覆う布をズラし呪言を使う。

直哉の身体が硬直したのを見て、パンダと真希が走る。

 

「死ね直哉ァー!!!」

 

「焼き肉ゲットォォォ!!」

 

完全なる不意打ち、しかし──

 

「ホンマ…傷付くわ」

 

パン、と軽い手拍子が響く。

それと同時に、直哉が3人の視界から…消えた。

 

「狗巻君、呪言師は基本的に1人で戦う事は少ないけど…

それでも近寄られた時用に近接は鍛えなあかんよ?」

 

狗巻の後ろから響く声、咄嗟に再び布をズラし呪言を使う。

 

吹っ飛ッ!!?」

 

パァン!と狗巻の目の前で直哉が大きく手を叩き合わせる。

まるで相撲の猫騙しのようなソレは込められた呪力も相まって一瞬、狗巻の喉を詰まらせる。

 

「蛇の目に牙の紋様…ちょっと詳しかったらすぐに呪言を疑うで?

そんで、呪言師なら…喋る前に潰してもうたらええ」

 

直哉は狗巻の足を蹴り上げるとそのまま頭を掴んで地面に叩きつける。

 

「ーーーーーッ!!」

 

肺の空気が無理矢理押し出されのたうつ狗巻を視線から外し再び直哉の姿が消えた。

 

「パンダ君はもうちょい手数が欲しいとこやね

近接しか出来へんにしても式神用意するとか…もうちょい頭使おか」

 

「ぬおりゃ!!」

 

パンダは背後に立つ直哉へ裏拳を振るうも当たらない。

 

「呪力操作もお粗末や…頭で考えてから呪力を移動させてもうてる

呪力操作は身体に呪力を追いつかすんやなくて、身体と呪力が一つになるようにするんやで?」

 

「べちゃくちゃうるせぇよ!!」

 

真希が訓練用の木刀を振るうもそれをあえて紙一重で避けていく直哉。

 

「真希ちゃんは…アカン、もう全部(ぜーんぶ)ダメや

お母ちゃんの子宮ん中からやり直した方がええんとちがう?」

 

クスクス、と笑う直哉に木刀を振り下ろし続ける真希。

その威力は避けた直哉の代わりに抉られた地面が証明していた。

 

「直哉…お前、パンダを舐め過ぎだぜ?」

 

真希の横薙ぎにしゃがんで回避した直哉はその視線の先にパンダを捉える。

だが、パンダはもう…パンダじゃない!

 

激震掌(ドラミングビート)!」

 

ゴリラとなったパンダが思い切り地面を叩く。

呪力とその腕力が合わさったソレは地面を激しく揺らし、直哉の姿勢を崩す…筈だった。

 

形態変化(ソレ)も見た目が変わり過ぎやわ

最初の奇襲ぐらいには使えてもそれが通じんかったらジリ貧やで?もっと、手だけ変化させるとか使う直前に変化するとかせんとな」

 

直哉はゴリラになったパンダの姿を見た瞬間、両手で地面を叩き身体を浮かせることで振動を回避していた。

そして、浮き上がったその勢いのままに真希の顎をサマーソルトキックの要領で蹴り上げる。

 

「ぐっ…!!」

 

「ホンマ…弱過ぎて慣らしにもならんわ」

 

蹴りの威力で仰向けに倒れた真希を見下ろしながら鼻で笑う直哉。

 

「いつも言うてるやろ真希ちゃん、僕の3歩後ろ歩けって

そしたら弱っちい真希ちゃんと真依ちゃんはちゃぁんと強い僕が守ったるわ」

 

クスクスと笑う直哉。

 

「フンッ!!」

「おがぁっ!??」

 

そんな直哉のスネに真希渾身の蹴りが入った。

 

「おっ、おぐっ、おっ…っ!!?」

 

スネを抑えながら転がる直哉、その額には脂汗が浮かんでいた。

 

「へっ、ザマァ」

 

真希は悪い笑みと共によっ、と起き上がる。

 

「焼き肉ゲット!私を褒め称えろ野郎共!!」

 

「おう!良くやった真希!………滅茶苦茶卑怯だったけど」

 

「焼き肉!」

 

キャッキャッとはしゃぐ3人にようやく痛みが落ち着いてきた直哉が立ち上がる。

 

「待てや…!触ったらって言うたやろ…何処の世界にその条件でスネ蹴り飛ばす阿呆がおんねん…!」

 

「あ〜?足にも指はついてんだろうがよみっともねぇ

素直に油断して負けましたって言えや」

 

「〜〜っ!!こんのブス!!人が手加減したったら調子に乗りおって!」

 

「やんのかウンコクズがよ!!」

 

ギャーギャーと小学生以下の悪口合戦を始めた直哉と真希。

そして、その二人を少し離れた所から見る二人がいた。

 

「ちょっと…止めてきなさいよ乙骨」

 

「あはは…ちょっと難しいかな」

 

特級術師乙骨優太と真希の妹禪院真依の二人である。

 

「難しいとかそんなの聞いてないわよ

今日はお姉ちゃんとタコパする予定なんだから早く止めてきなさい」

 

「えぇ…?でも…良いじゃないですか、なんだかんだ楽しそうだし」

 

互いの髪を引っ張り合いながら悪口を吠え合う二人は…どこか、歳の近い兄妹のように見えた。

 

「早く行かないとアンタがお姉ちゃんに惚れてる事バラすわよ」

 

「行ってきます!!」

 

血相を変えて走っていく乙骨を見ながら真依は一人呟いた。

 

「ホント…男って馬鹿ばっかりね」

 

 


 

「遅ぇぞクソ親父!」

 

恵は眉間にシワを寄せながら玄関ドアを開ける。

 

「……」

 

甚爾はバツが悪そうに黙ったまま家に上がると真っ直ぐリビングへ向かう。

 

「おい!聞いてんのかよ」

 

「恵、そんなに怒らないの!

パパもお仕事だったんだから…ね?」

 

「………ん」

 

津美紀が吠える恵をどうどうと抑えていると、甚爾がリビングのテーブルに幾つかの袋を置く。

 

「……なんだよその袋」

 

不服そうな恵をよそに津美紀が袋に書かれた店名を見て声を上げる。

 

「コレ…人気のケーキ屋さんのじゃない!

どうしたの?」

 

「別に……貰いもんだ、甘いモンは好きじゃねぇ…やるよ」

 

甚爾はぶっきらぼうに言うと居間の畳に寝転がった。

 

「っ!!お前…今日は津美紀の誕生日だぞ!?

それを貰いもんでどうにかしようって」

 

「恵」

 

甚爾に掴み掛かろうとする恵を津美紀が手で制す。

 

「どけ津美紀!コイツは一回殴ってやらなきゃ…」

 

「そうじゃなくて…コレ、見て」

 

津美紀は箱を開け中のケーキを見せる。

 

誕生日おめでとう

 

フルーツをたっぷりつかったタルトケーキの上にはチョコプレートにメッセージが書かれていた。

店員が書いたにしてはやけにガタガタで、歪な文字で。

 

津美紀はニコニコとしながら包丁と取皿を用意する。

 

「パパも食べるわよね?」

 

「……なら最初っからそう言えよ」

 

嬉しそうな津美紀と不貞腐れる恵。

そして、耳まで真っ赤になった甚爾は暫く二人の方へ振り向けないままでいた。

本編が続くとしたら何が読みたいですか?

  • 虎杖編(少年院〜幼魚と逆罰)
  • 伏黒編(京都姉妹校交流会──殲滅戦)
  • 九相図編(起首雷同〜宵祭り)
  • 人外魔境新宿決戦

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