肥満児二人。ただし最強。   作:悲しいなぁ@silvie

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葦を尊ぶ

昔から、上手いこといかん人生やった

甚爾君や五条君、夏油君達に追いつこう思て必死に…死ぬ気で鍛錬積んで

そんで、強くなればなるほど…わかった

僕は、あっち側には死んでも立てへん

強くなればなるほどに、僕とあの人達との差を嫌になるぐらい思い知らされる

影を踏むどころか…背中すら見えん

遠くにおるんなら追いつきたいってはしゃげる

けど…わかってもうた

あの人達は……俺は、周回遅れなんやって

 

 


 

「七海、灰原背負って行けや…ここは僕が残る」

 

「何を…!何を馬鹿な事を言うんですか!直哉、君も一緒に…」

 

「行け言うとんねん!!おどれ等みたいな足手まとい居るだけ邪魔やねん!」

 

灰原は…もう戦えん、七海も一杯一杯や

でも…二人にはまだやる事がある

僕には、そんなもんあらへん

 

「ふざけるな!!私と灰原が…仲間を見捨てて生き延びたいなんて言うと思うか!?」

 

知っとるわ、そんくらい

何年一緒やと思てんねん

やから……知っとるやろ

 

「行けや…行ってくれ」

 

呪術師なんぞ消耗品や

命の軽さで右に出るもんは中々ない

やから皆…腐ったドブみたいな目ぇしとる

灰原、お前のその無駄にキラキラした目…鬱陶しいけど嫌いやなかった

七海、いっつも忙しそうで目に隈作ってたけど…お前の目も中々悪くなかったで

必要なんは、二人みたいな人間や

僕みたいなんはこれからに必要ない

 

「直哉…っ!!」

 

「はよ行けや…僕が無駄死にしたら呪ったるで」

 

すまんな七海…また隈増やしてまう

でも…僕にはこんな事しかできへん

僕は……あっち側とちゃうから

 

「逃がすと思うかい?」

 

「眼の前の僕無視して二人狙いかいな…傷つくわ」

 

頭に縫い目のある女

間違いない、傑君が言っとった…コイツが羂索

本気の傑君とやり合って逃げ切った、間違いなくあっち側

僕の勝ち目は……無い

 

「投射呪法か…呪術の近代化で生まれた術式

でも、あまり唆られないな」

 

眼の前に立っとるだけ…やのに全身から汗が噴き出す

ホンマに正直な体や…勝ち目なんぞ無いから逃げろって全身が叫んどる

 

「逃げたとこで……何処に行くねん」

 

甚爾君…会ったらなんて言うやろか

何死んどんねんって怒られる?

ようやったって褒めてくれたり…それは夢見過ぎか

 

「何の為に…こんな事するんや

呪霊と手ぇ組んで、大昔の術師まで呼び出して…何考えとんねん!!」

 

「何の為に…?……私はね、ただ興味があるのさ人間という生き物の行き着く先にね

猿から進化した人間はこの数千年でどれだけ進化した?

答えは…全くだ、腕は変わらず2本!足も同じ!

尻尾が無くなって…代わりに何かが生える訳でも無く、背中だって羽の一つも出来やしない!!

数千年経って…変わったのは呪いを覚えた事だけさ

だから、ここから更に先を見るにはもっと時間が掛かる

でも…そんなもの、待っていられない」

 

「小難しいことガタガタぬかすなや…僕は何がしたいか聞いとんねん!」

 

「呪力の最適化だよ

この国の人間達と天元を同化させ1つの生命体へと昇華させる

天元は今、人間というより呪霊に近い…よって、天元との同化はこの国の全人口

一億人の呪力を孕んだ呪霊になると私は踏んでいる」

 

「一億人の…呪霊……っ!」

 

「その為に、夏油君の持つ呪霊操術が必要だ

フフフ、私は今…初めて恋をした少女のような心持ちだ

柔軟な思考、術式と縛りへの理解、そして…強さへの執念

夏油傑、彼は私が出会ってきた術師の中で最高の術師と言っていい

そんな彼を超えて見る景色…さぞ面白い筈だ!」

 

「それで……お前に何の得があんねん」

 

「得?……おかしな事を聞くね

そんなもの、やってみないとわからない

もし一億人から出来る呪霊が抱腹絶倒の面白顔だったりしたら…中々面白いだろう?」

 

「……人の心とかないんか?」

 

「それ、呪術師に必要かい?むしろ邪魔なだけだと思うけど」

 

もうええ…話しとったらこっちがおかしなる

人間と話しとる気にならん

戦力差は絶望的……でも、僕の術式は格上相手にもワンチャン狙える……!

最高速まで加速して…一撃で仕留める!

 

「まだ話の途中だったのに…仕方ない

領域展開─胎蔵遍野

単純な速度特化の術式…術式自体の可能性こそ薄いが戦う上では煙たいからね」

 

領域…っ!こんな簡単に……クソっ!!

 

「ナメんなや!!」

 

「落花の情、御三家秘伝の領域対策か…彌虚葛籠や簡易領域と違って領域の中和を行わず自動的に呪力で攻撃を弾くプログラム

メリットとしては領域の押し合いが発生しないから格上相手でも有効なこと

デメリットは…複雑な術式の前では無力な事と──間断無い攻撃の前では術者の呪力が保たない事」

 

ぐっ…!!コイツの領域は──重力!!

全身がブッ壊れそうな力が常時掛かっとる…一瞬でも落花の情が解ければ──死ぬ

 

「動けないだろ?早く諦めてくれるかい…私も暇じゃないんだ」

 

クソ…っ!戦闘中に欠伸かい…それとも、僕とじゃ戦闘にもなっとらんってか

 

「時間稼ぎに熱心なところ悪いけど…五条悟も夏油君も間に合わないよ

二人は今、宿儺との怪獣大決戦の真っ只中…暫くは勝手に動けそうだ」

 

「時間稼ぎやと…っ!誰が…そんなもん、するか…!」

 

「だから…意味ないって」

 

ぐっ…!更に重力が強く…!!

 

「真人の成長は私の想像を遥かに超えた…呪霊を捕食する夏油君という天敵が、本来…人が感じる事のない捕食への恐怖が進化圧となり真人の成長を促したのさ

嬉しい誤算だよ、もしかすれば呪霊操術の獲得を待たずとも死滅回遊を始められるかもしれない

……だから、さっさと死んでくれないかな?」

 

アカン…意識が……

 

 

──ホント、一山幾らの木端イケメンって感じ

五条と夏油と伏黒とアンタ…4人並んだら消えるんじゃない?

 

──直哉、一人称は私…もしくは僕にしなさい

今からそんなだと苦労するよ?

 

──強くなる方法?そんなん俺が知るかよ

……死ぬ気で食って太りゃ良いんじゃね?

 

──手前(テメェ)の為に命賭けれるヤツは居ねぇ

だから…命賭けても良いようなモン作れれば、お前もちっとはマシになれるかもな

 

──二人を連れて出ていく?

……一体全体、どういう風の吹き回しだ?

 

──私はどうなっても良いから…お姉ちゃんだけは助けてあげて!!

言いそびれてたけど…あの時は……その……ありがとね

 

──真依になんかしてみろ…ブッ殺してやるからな!!

なんで、なんで置いてくんだよ!私だって…私だって呪術師なんだ!!

 

 

「……なんで最後に見んのがお前やねん、そこは甚爾君やろ」

 

全く…こんなん、死んでも死にきれんわ

最期に見んのがブスの泣き顔やなんて…そんなん、お断りや

おいコラ、なに見下してくれとんねん……!

 

「そこに立つんは、俺や!!」

領域展開─時胞月宮殿

 

「領域展開…死の間際に会得したのか

死の瞬間には脳が変異し非術師ですら呪霊を認識できる程の負荷が掛かる

非術師でそれならば…術師なら尚更だ

しかし…ソレ、意味あるの?

領域展開は魔法じゃない、君の負傷は消えないし…私の領域と押し合いになる以上、領域の必中効果だって…」

 

えらい悠長に喋っとるやんけ

誰が初めて使う領域なんぞに頼るなんて言うた?

 

瞬間、羂索の肩を禪院直哉の手が叩いた。

投射呪法…1秒を24分割しその中で動きを作る事で桁外れの速度と精密性を獲得する術式。

欠点はあらかじめ作った動きしか出来ない事と、過度に物理法則を無視した動きを作った場合術者がフリーズする事。

その法則は──術者が触れた対象にも強制される。

 

「──ッ!!?」

 

直哉はこの渋谷で、一度も自身以外に投射呪法を使用していない。

故に、この一手は……確実に成功する。

 

羂索、1秒間の行動停止(フリーズ)

 

「お゛お゛ッ!!」

 

呪術を極めることは引き算を極めること。

呪詩、掌印など術式を構成あるいは発動させるまでの手順をいかに省略することができるかで術師の腕は決まる。

最速の術師と呼ばれる禪院直哉、その速さは術式によるものだけでは無い。

投射呪法の術式そのものを限界まで簡略化し、可能な限り特化させている。

直哉は1秒を24分割し、更にその分割された時を分割する。

羂索のフリーズからコンマ8秒、直哉はトップスピードに至る。

その速さは音を超え、その精神は肉体の反射速度と同列となる。

 

ソレは打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。

限界まで加速した直哉の打撃は、呪力と同時に炸裂する。

 

黒い火花は、葦を尊ぶ。

 

黒閃

 

勝てる!!会うんや…もう一度、みんなに…!!

勝って、みんなに…!!

 

領域を囮にした奇策。

しかしソレは──既に、夏油傑が見せている。

 

「中々やるじゃないか…最近の術師にしては」

 

ゴボ、と血を吐き捨てながら羂索は首を鳴らす。

 

「なんで…」

 

投射呪法のペナルティは肉体の停止のみ。

思考は…呪力操作は阻害しない。

 

羂索は投射呪法による1秒間のフリーズ中、即座に領域の対内条件を変更していた。

羂索の領域、胎蔵遍野は結界の外縁を閉じない。

結界の出入りを自由にするという縛りにより領域の効果範囲を底上げしている。

その効果範囲は、直哉の領域外殻を完全に包み込んでいる。

羂索は直哉が領域効果を使用しない事を逆手に取り、領域間の必中効果の奪い合いを放棄した上で直哉の領域を破壊するために全ての呪力を領域外殻にぶつけた。

領域は結界術の先にある技術、その本質は対象を閉じ込めること。

内から外への衝撃には無類の強さを誇る反面──外からの衝撃には、脆い。

 

直哉の領域は破壊され、再び──直哉を胎蔵遍野の超重力が襲う。

領域展開で呪力を使い果たした直哉に落花の情を使用する呪力は…残されていない。

 

「直哉ぁ!!!」

 

偶然とは、常に…都合の悪い場合に起こる。

偶然、宿儺と最強達の戦場から逃げた先だった。

偶然、素の身体能力の高い彼女が先行した結果…その場面に1人だけ間に合った──間に合ってしまった。

禪院真希は、禪院直哉の最期に出逢った。

直哉の眼が真希を捉える。

 

確信、次の一言が自身の最期に発する言葉になるという絶対的死の確信。

 

最初は、甚爾君が言っとった事を確かめる為だけやった

死んでもどうなっても構わんようなのを選んで…適当にやるだけのつもりやった

………やったのになぁ…

 

 

──なんで…なんで私が待機なんだよ!ふざけんな!私だって呪術師なんだ…もう!アンタに守られてたガキじゃねぇ!!

 

うるさいねん、黙って僕の三歩後ろ歩いとれ

………遠く行ったら、護ったれへんやろ

でも…もう付いて来んでええ

地獄(これ)は僕が独り占めや…お前みたいなブスに死んでまで会いたないわ

せやから…お前らはこっち来んなや

 

「真希ちゃん…みんなに言うといてや

中々、悪くなかった」

 

不快な水音と噎せ返る程の血の匂い。

禪院真希は、自身を地獄から連れ出してくれた…兄のように慕う男の血と臓物と脳漿の混じった液体を全身に浴びた。




どこかに夏油傑、一か八か─0.2秒の糖質制限というネタを入れようとして忘れました

本編が続くとしたら何が読みたいですか?

  • 虎杖編(少年院〜幼魚と逆罰)
  • 伏黒編(京都姉妹校交流会──殲滅戦)
  • 九相図編(起首雷同〜宵祭り)
  • 人外魔境新宿決戦

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