肥満児二人。ただし最強。   作:悲しいなぁ@silvie

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埋玉

 

愛は一つになりたいという願いである

 

──プラトン『饗宴』より

 

 


 

 

─東京メトロ明治神宮前駅B5F副都心線ホーム─

 

「お前…お前なんなんだよ!!」

 

一体の特級呪霊の咆哮が木霊する。

人の呪いから産まれた呪霊、最も人に近き呪霊は今…

人から産まれ、最も人から遠い──天与の暴君に追い詰められていた。

 

「見りゃわかんだろ、俺は呪術師(お前の敵)だ」

 

真人の精神は、既に限界を迎えていた。

自身より賢しく、強かった特級呪霊…漏瑚は変な前髪の男に喰われ

優しく、理性的だった特級呪霊…花御もまたお洒落を履き違えた前髪の男に喰われ

まだ呪霊としては弱かった特級呪霊…陀艮など散々殴られ死ぬ寸前まで痛めつけられた後、極ノ番 うますぎ(悪ふざけ)の末に生きたまま宿儺と前髪に喰われた。

 

そして──真人自身もまた夏油傑と対峙し、命からがら逃げ延びている。

否、逃げ延びていると言うのも烏滸がましい。

自分が計画に必要なのだと羂索があのお化け前髪と戦って注意を逸らさなければ…確実に喰われていた。

 

ストレス

 

真人は人が人を呪う(はら)から産まれた呪い。

大地(漏瑚)森林(花御)大海(陀艮)などは…まだわかるだろう。

だが……真人はわからない。

人の呪いである真人だけはわからない、理解できない。

自身に向けられる、食欲を。

夏油(ヒト)真人(ヒト)へ向ける食欲、それはあまりにも新鮮で…悍ましき感覚だった。

 

呪霊操術、その最大の強みは手数の多さでもまして呪霊を美味しく食べられる事でもない。

呪霊操術の最大の強み、それは──呪霊に対する絶対的有利。

夏油傑は、全ての呪霊の──天敵にあたる。

そして──

 

「無為転変ッ!!」

 

真人の手が辛うじて甚爾に掠る。

真人の生得術式、無為転変は触れた対象の魂を操作する事でその肉体すらも自由自在に変化させる。

防御方法は自身の魂を呪力でガードすることのみ、単純な呪力量で真人を圧倒しようとも魂さえ無防備なら問答無用で死に至らしめる…強力にして無法の術式。

肉体とは魂の容器に過ぎず、その魂に追従するしかない…真人にとっての厳然たる理によって作用する術式。

しかし、その(ルール)の外…理外無法の怪物が存在する。

 

「なんで……なんで効かねぇんだよ…ッ!!

確かにお前の魂に触れて、歪めたんだぞ!?」

 

生まれ付き一切の呪力が無い甚爾は当然ながら魂を保護などしていない。

故に、本来ならば真人の指先一つ掠ればそのまま死に直結する。

しかし、厳然たる事実として…甚爾は傷一つ無く生存している。

 

「今のが七海と灰原が言ってた魂への攻撃って奴か…

よく分かんねぇけど、俺の肉体は特別だからな

テメェが粘土遊びしようが俺の肉体には関係ねぇってこったろ」

 

(魂が肉体に負ける…!??そんな…そんなこと、ある筈が…)

 

あまりにも無法、甚爾の暴論とそれを裏付ける現実に真人が立ち竦んだ一瞬…その一瞬の間隙に甚爾が懐に飛び込む。

 

(この…っ!!落ち着け…コイツに無為転変(術式)が効かないように、呪力の無いコイツの攻撃も俺には効かな…)

 

ドンッ!!と、重機の駆動音が如き爆音と共に真人の腹に深々と拳が突き刺さる。

甚爾の拳には、彼の愛娘…伏黒津美紀の作った呪具であるメリケンサックがはめられていた。

 

「チッ、呪具を着けてたのか……でも無駄だよ

どれだけ肉体を破壊しようと、魂のカタチを強く保てばダメージなんて」

 

受けない…そう言おうとして、真人の口から吐瀉物と共に大量の改造人間が吐き出される。

 

「ど、どぶじッお゛ゔぇぇ!!?」

 

言葉にならない疑問。

真人の脳内を凄まじい数の疑問が駆け巡る。

 

(なんで…!?魂のカタチは強く保っていた筈…!

あの呪具の効果?

ダメージが…

痛い…ッ!!

それにしては呪力を感じない…?

まさか……)

 

「知覚しているのか…っ!?魂の輪郭を!!」

 

「あ゛ー?なんだ、最近の呪霊は宗教の勧誘まですんのか?」

 

怠そうに頭を掻く甚爾、しかし…真人は確信する。

 

(間違いない…コイツも同じだ…!宿儺の器と同じ、魂の輪郭を知覚している!!)

 

天与の暴君、全てを縛られて生まれた伏黒甚爾は何者にも縛られぬ肉体を得た。

その肉体は全てを見通す。

見えるもの、見えないもの

視えるモノ、視えないモノ

その視界に──魂如きが映らぬ道理無し。

 

(最悪だ…夏油傑だけじゃなかった……ッ!!

コイツもだ、コイツも……俺の〝天敵〟!!)

 

ストレス

 

生物の進化に於いて、重要なファクターとして『淘汰圧』と呼ばれるものが存在する。

過酷な環境、凶悪な伝染病、そして…天敵。

それらに適応、ないし克服した種のみが生き残りその他全てが淘汰される。

これにより進化が為されていく。

 

ストレス

 

かつて、七海建人と灰原雄そして虎杖悠仁の3名により死の淵まで追いやられた真人は死という生物における最大のストレスから逃れる為天敵を克服する術を──領域展開を会得した。

そして今、真人は伏黒甚爾と夏油傑を克服する為の術を編み出そうとしていた。

 

ストレス

 

困惑と恐怖に揺れていた真人の眼が、甚爾へと定められる。

ソレを、狙って出せる術師は居ない。

しかし──真人は今、確信を持って放つ。

 

黒い火花は、微笑む相手を選ばない。

 

黒閃

 

真人の拳撃と甚爾の拳撃が真正面からかち合うと真人の拳が爆砕する。

 

「このゴリラ…ッ!!でも、黒閃を経て理解した──俺の本当の…剥き出しの魂を!!」

 

真人の手が甚爾ではなく真人自身を触る。

 

「無為転変ッ!!」

 

ソレは、自身の生を脅かす天敵を克服する為に編み出されたもの

真人の、人の呪いの真の姿

 

遍殺即霊体

 

呪いは今、漸く生まれ墜ちた。

 

「おー、すげぇすげぇ…恵がガキん頃に好きだったぜ

で…、変身ヒーローの次は何やんだ?」

 

真人の変化をせせら笑いながら甚爾はその顔を蹴り飛ばす。

しかし

 

「もう効かねぇよ…!オマエを殺して…俺は更に先へ行く!」

 

真人は微動だにせず、逆に甚爾の足を掴み投げ飛ばす。

甚爾は空中で猫のように身体を捻ると難なく着地し真人を睨む。

 

「強がるなよヤセ我慢、足にきてんぞ」

 

軽口を言いつつも、甚爾は真人を蹴った足に目を遣る。

遍殺即霊体は、両肘にあるブレード以外は()()()()()という『縛り』によって爆発的に強度をあげている。

その強度は、実に平常時の倍程にもなる。

 

「それはテメェもだろマヌケ!!」

 

素早さすらも先とは別次元へと至った真人は瞬時に甚爾の視界から消えると背後からブレードによる強襲を仕掛ける。

甚爾は人間離れした反射神経で頭部に迫ったブレードを躱すも、僅かに頬が切り裂かれ血が噴き出す。

 

(勝てる…っ!!コイツは今の速度を目で追えてなかった!

攻撃も通らない、勝てる!!コイツはここで殺す!!)

 

真人の口角が吊り上がったのと、甚爾が口に手を突っ込んだのは同時だった。

 

「……?何を…」

 

「うぉぇっ……ふー…ちと遊び過ぎちまった

おい呪霊、悪いがそろそろ死んでくれ」

 

(呪霊…?体内に呪霊を飼ってたのか…?なんで今それを…)

 

甚爾の手が呪霊の口に入ると、中から一振りの刃が抜き出される。

その呪具の名は──釈魂刀、遍く全ての魂を斬り裂く特級呪具。

無機物の魂すらも知覚する、天与の暴君にしか扱えない一振り。

 

窮鼠猫を噛む…しかし、猫を噛んだ鼠はその後どうなるか?

怒り狂った猫に惨殺される他無し。

天敵とは──克服し得ないからこそ天敵と言う。

 

甚爾の一振りが、真人の腕を斬り飛ばした。

 

「ごあぁぁぁ!?」

 

声にならない叫び。

真人は全力で飛び退きながら頭を回転させる。

 

(あの刀…魂を直接斬り裂いてるのか!?

駄目だ…外側は硬く出来ても、魂自体の強度は変わらない…っ!!)

 

真人はそれでも足を止めない。

最高速度で壁を、天井を、地面を蹴って的を絞らせない。

 

「攻撃が通っても…!当たらなけりゃ一緒だろうが!!」

 

「バーカ、当てられるから構えてんだろうが」

 

真人が攻撃に転じた瞬間、今度は真人の右足が宙を舞う。

天与呪縛のフィジカルギフテッド、強化されているのは単純な筋力だけでは無い。

五感に加え、第六感とも言うべき直感すらもが超人的なのだ。

 

片腕と片足を無くした真人が無様に転げる。

甚爾は呪具の峰で肩を叩きながらゆっくりと迫る。

 

「クソ…来るな…!来るなよ!!」

 

「はいはい、お疲れさんっと」

 

トドメを刺そうと呪具を振り上げた瞬間、甚爾の背後…真人から見て正面を2つの影が通った。

 

「親父…っ!」

「パパ!」

 

伏黒恵と伏黒津美紀

二人は七海と灰原…二人の1級術師と特級術師乙骨憂太の三人と共に渋谷に同行していた。

しかし、羂索が受肉させた千年前の術師『鹿紫雲一』と『万』の襲撃を受け散り散りになった結果…偶然この場に辿り着いた。

 

甚爾の脳内が無数の思考によって埋められる。

伏黒甚爾、瞬間…一瞬の停止。

 

その一瞬を、真人は逃さない。

真人の両肘のブレードが一直線に恵と津美紀へ迫る。

 

(馬鹿かコイツ…もう振りかぶってんだぞ?

あいつらに攻撃が届くよりも、テメェが死んで消える方が速ぇんだよ!)

 

血飛沫

 

真人は人から生まれた呪い。

何よりも…人に近き呪い。

その思考は──最も、人を解する。

 

「守るよなぁ!!テメェの大事な家族を!!」

 

真人は二人を見た瞬間に理解する。

その魂のカタチ、動きから…二人が甚爾の家族だと瞬時に見抜いた。

 

故に──二人の前で串刺しになった甚爾は、真人の想定通りだった。

 

「親父…何やってんだ…!!」

「パパ!!血が…血がこんなに…!」

 

甚爾は事も無げに腹から突き出る真人のブレードを切断すると、駆け寄ってきた二人を抱き締める。

 

「心配すんな…こんなモンかすり傷の内にも入らねぇよ

恵、津美紀連れて離れとけ…アイツ祓ったら俺もすぐ追いかけるからよ」

 

優しい笑顔。

全てを壊す事しか知らなかった男の…笑顔。

恵と津美紀…家族である二人しか知らぬ笑顔。

そして……甚爾が嘘をつく時の──笑顔。

 

二人は、涙を堪えながら駆け出していた。

 

「よかった…」

 

甚爾の口から…誰にともなく、声が漏れた。

 

「あん時に、あのデブの言う事…聞いてよかった」

 

身体が、勝手に動いちまった

絶対に当たらねぇ…その確信があった

それでも……99.9999999%当たらなくても、限りなく0に近くても

あいつらに当たる可能性が、0じゃねぇと思ったら…身体が動いちまった

 

あなた───恵をお願いね
 
愛ほど歪んだ呪いはねぇよ
                                                                          

 

わかってる

いい土産話があるんだ

この俺が…娘に誕生日だってケーキ買ってやったんだ

そん時、恵のやつ…すげぇ顔してよ

ああ──お前に聞かせてやりたい話が山程あるんだ

 

わかってる

俺がお前と同じ場所になんて行けっこねぇことぐらい

でも、もし…もしもまた会えたら

そん時は────

 

 

「いい加減にしろよ化け物!!腹に穴まで空けて生きてんじゃねぇよ!」

 

魂のカタチを無理矢理変えて見かけだけ治した真人は自身に背を向ける甚爾へ飛びかかる。

 

「──ッ!!こ、コイツ…立ったまま……ッ!」

 

何者にも縛られぬ、天与の暴君

最期まで、(こうべ)は垂れず膝も着かぬ。

 

その死に顔は、満足気で──満ち足りたものであった。

 

 


 

 

死滅回遊──仙台コロニー──

 

 

「オマエの親父は呪力も無い出来損ない

そんな親父のガキなんだ…生きてても仕方ねぇだろ!」

 

真人が高笑いと共に改造人間達を放つ。

すぐに壊れてしまう弱い改造人間…それに混じって放たれる多数の魂を練り合わせ造られた幾魂異性体と呼ばれる改造人間。

 

「黙れ、確かに…アイツは俺の性別も知らねぇで恵なんて名前をつけるようなクズだ

でも…アイツの事を何も知らねぇヤツが…

親父の事を何も知らねぇお前が!俺の親父を悪く言うんじゃねぇ!!」

 

迫り来る改造人間達を始末しながら、恵は自身の左腕に右手を重ねる。

 

「布瑠部由良由良」

 

布瑠の(こと)十種神宝(とくさのかんだから)が持つ絶大な呪力を呼び覚ます言葉。

それが呼び覚ますのは、長き呪術の歴史の中で最強と呼ばれる式神。

その式神は──史上、誰も調伏成し得ていない。

 

その名を──八握剣異戒神将魔虚羅

 

(布瑠の言に法陣!間違いない、アレが羂索の言っていた魔虚羅…!)

 

「道連れ上等って訳ね、親父が呪力ならガキは脳味噌が無ぇってか!

調伏の儀式範囲外まで逃げ切れねぇとでも思ってんのかよクソガキ!!

俺が範囲外に出たら…死ぬのはテメェ1人なんだよ!」

 

真人は魂の輪郭を捻じ曲げ、自身の身体を造り変える。

それは、最早現存する生物にすら似つかない…異形。

翼を持つ獅子が如き異形は駆けるように宙を飛ぶ。

 

(思った通り…!アレから逃げ切るのはそう難しくない

元々が攻撃やらに使うモンじゃなく只の儀式、強制力も拘束力もないなら速さでちぎれば良い

そして…俺が遠くへ逃げれば、当然標的はガキに移る!)

 

真人は勝ち誇りながら下を見る。

いったいどんな挽き肉になったかと視線を下ろした──その一寸先に、巨大な剣が迫っていた。

 

「へっ…?」

 

理外の光景に呆けた真人は、昆虫標本のように魔虚羅の持つ退魔の剣に串刺しにされた。

退魔の剣…その名の由縁は──呪霊に対する殺傷能力。

退魔の剣は負の力である呪力の逆、呪霊の弱点である正の力を宿している。

瞬間、真人の身体が弾け飛んだ。

 

 

天与呪縛のフィジカルギフテッド、呪力を持たない伏黒甚爾は呪術的には存在しないものとして扱われる。

呪術の極致、領域展開ですら呪力を持たない甚爾は建物等の無機物と同じ扱いとして認識されない。

認識されない──無機物と同じ

それは、十種影法術における調伏の儀ですら例外ではない。

 

伏黒甚爾が家族へ遺した最後の想い。

伏黒恵は既に、十種影法術の式神──その全ての調伏を完了している。

 

天与の暴君、その息子は──親に与えられた想いで戦う。




どこかに
甚爾「もう禪院じゃねぇ、婿に入ったんでな…今は伏黒だ」
直哉「………け……ッ…!」
直哉「NTR(ネトラレ)やんけ〜〜!!」
硝子「寝てから言え」
というネタを入れようとして忘れました

本編が続くとしたら何が読みたいですか?

  • 虎杖編(少年院〜幼魚と逆罰)
  • 伏黒編(京都姉妹校交流会──殲滅戦)
  • 九相図編(起首雷同〜宵祭り)
  • 人外魔境新宿決戦

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