お姫様にも大団円を   作:ふぃのん

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#3 無事を祈って

「まあ冗談はともかくだ。ティーパーティー側としてもミカの復帰は揺るがないって事で、いいんだな?」

 

「そうですね、ミカさんの覚悟も見せてもらいましたし…今更断る理由はありませんから。私たちはただ、信じましょう」

 

「ああ…再びこの三人で歩を進めることが出来ること、素直に喜ばしく思うよ。何せ私たちには互いのために言葉を交わす、可能な限り多くの時間が必要だ。そうだろう?」

 

「だな。何事もなく、3人が、いや皆がちゃんとお互いのことを理解できるように、祈ろうか」

 

 ナギサとセイアが微笑みかけながら、ミカに手を伸ばす。彼女は差し出されたその手を取って、二人と同じように立ち上がった。

 

「うん…ナギちゃん、セイアちゃんっ、先生も……私、頑張るねっ…!」

 

 今日一番、満点の笑顔のミカの頬に、一雫だけ涙が零れる。見兼ねたナギサが優しく頬に手を添え、セイアも控えめだが手を握って少しだけ励ましの言葉をかけている。

 そんな優しさに満ち溢れた空間で、ただ今だけは、大事なことも口に出さずとも分かるとでも言うように、暫し互いに言葉を交わさぬ時間が流れて──

 

 

「二人ともありがと!私もう、大丈夫…!」

 

 ミカの顔からはもう、迷いや憂いは消え去っていた。ほんの微かに残った、色白な肌に吸い込まれて今にも消えてしまいそうな塩の跡だけが、先程まではあったそれの存在を証明していた。

 

「ではミカさん…ひと段落つきましたし、そろそろ…“アレ“をする時間ですね?」

 

「あぁ、私もつい先刻まで忘れていたが…ミカ、君が此処に戻ってきた以上、初めに為さねばならぬ事がある。そうだろう?」

 

 二人が俺とミカを交互に眺めながら、何やらニヤついている。気になってミカの方に視点を動かすと、少し頬を染めて俯きながら小声で何かを呟いていた。その様子に、思わずこちらまで気恥ずかしくなってしまう。

 

「ミ、ミカ…どうした?何かあったか…?」

 

 気まずさからミカに声をかけると、先程までの様子はどこへやら、彼女の肩がビクンッと跳ね、途端に慌てだす。いつになく頓珍漢な動きをしながら、目線がナギサとセイアと俺の間をぐるぐると回っている。

 

「えっ!?あー、その…先生にお願い事があるんだけど…だめ、かな…?」

 

「まあ、俺が出来る範囲でいいなら…なんでもするぞ?」

 

「え、いいの…?じゃあ…はい、これっ」

 

 ミカが手のひらに乗せて差し出してきた、円盤状の物を受け取る。例えるならば、マカロンより2回りくらい大きいサイズで、表にはティーパーティーのロゴが描き込まれ裏には留め具が付いていた。どうやらバッヂらしい。

 

「えっと…先生、ここに付けてくれる…?」

 

 ミカは上着の襟の部分を恥ずかしそうに指し示している。よく見ると、昔つけていたバッヂは外されていて、うっすらとその痕跡だけが残っていた。

 

「ち、違うの!もちろん自分でも出来るんだけど…ティーパーティー就任の時は、身近でお世話になった人に、これを付けてもらうのが通例になってて…先生には、数えきれないくらい助けてもらったから…」

 

「そんな事でいいなら、喜んで。じゃ、ちょっと失礼…」

 

 受け取ったバッヂを付けるため、それを持ってミカに近づくと、ミカはとうとう目を瞑ってしまった。そこまでされるとこちらも少し意識してしまう。ミカからふわっと香るほんのり甘い匂いがそれを増長させる。

 

「ほ、ほら…これでいいか?」

 

「う、うんっ…!ありがと、先生っ!」

 

 ミカの背後にいるナギサとセイアの生温かい視線がこちらに向けられる。若干気まずくソワソワしていると、外の方からドタドタと誰かが近づいてくる足音がした。その音は扉の前で急停止すると、先程ミカが入ってきた時と同じくらいの爆音を立てて開かれた。

 

「ミカ様っ!ティーパーティーに再就任されたと聞いて飛んできました!おめでとうござ…あっ…!」

 

「おや、スイじゃないか。久しいね。息災なようで、何よりだ」

 

「あらスイさん、お疲れ様です。いつもミカさんの警護、ありがとうございますね?」

 

 息も切れ切れに、興奮した面持ちでやってきたスイは、一拍遅れて状況に気付いたらしい。顔に火でもついたかのように、一気に真っ赤に染まる。

 

「ナギサ様、セイア様、先生も…正義実現委員ともあろう者が、このような粗相を…本当に申し訳ございません…!」

 

「そうだよスイちゃん!いくら私のことが好きだからって、さすがに立場とか場面とかは弁えn…「ミカ様だけには言われたくありません!」

 

「えっ、ちょ…スイちゃん!?」

 

 スイが半ベソをかきながらミカをポカポカ殴っている。あたふたしながら宥めるミカと、それを楽しそうに眺めるナギサとやれやれ顔のセイア。そんな微笑ましい光景がしばらく続いた──

 

 

「す、スイちゃん…?気は済んだ…?」

 

「は、はい…ミカ様…もう大丈夫、です…」

 

 口ではそう言うがスイの顔は未だに真っ赤で、ミカの方もつられたのか頬を桃色に染めている。喧嘩後のはずが絶妙に甘ったるい空気に包まれ、ピンク色の背景に大輪の百合の花が咲いているようにさえ錯覚する。

 

「あら、もうこんな時間ですか…私はお先に失礼しますね?まだ今日のタスクが山積みですから…」

 

「ああ、今日はもうお開きとしよう。生憎私の方も、派閥の方で会議の予定があってね」

 

 一連のやり取りを外野から眺めていた二人が、不意に立ち上がった。ちらっと腕時計を確認すると、既に正午を回っている。皆、定期的に菓子と紅茶を口に運んでいたせいか、あまり空腹ではなかったので気付かなかったようだ。

 

「ではミカさん…また明日、ですね?」

 

「先生、スイ。また、釘を刺すようだが…ミカのことを、頼んだよ」

 

「うんっ…ナギちゃん、セイアちゃん!また明日ねっ!」

 

「ああ…二人ともお疲れ様、頑張ってな」

 

 別れの挨拶だけ残して、テラスから去る二人の姿が扉の向こう側に消えるまで見送ってから、手持ち無沙汰になってしまった俺たちは、三人で顔を見合わせた。

 

「さて…二人とも、この後どうする?特に用事がないなら俺はシャーレに戻るが…」

 

「私は、上からミカ様の護衛任務の継続が通達されたので…何もないなら呼び出しがあるまで本部に戻りますし、何か用事があるなら今まで通り護衛をこなすだけですね」

 

「えっと、それじゃあ…その、三人で行きたいところがあるんだけど、だめかな…?」

 

 ミカが少しおどおどしながら聞いてくる。そんな様子についドキッとしてしまった。視界の端に入ったスイも、同じような反応をしている。

 

「まぁ…断る理由もないしな。これからミカもうんと忙しくなるだろうし、今日くらいはいいだろ…」

 

「はい、もちろん!私はどこまでもミカ様にお供するだけですからね?」

 

「二人とも…ありがとうっ!それじゃ早速、行こっか!」

 

「あっ、ミカ様!待ってください〜!」

 

 ミカが楽しそうに駆け足で扉を潜り、スイが慌てて追いかけていった。なんとも微笑ましい光景だ。

 

「せんせ〜い!早く早く〜!置いていっちゃうよ!」

 

「ああ、今行く!」

 

 あっという間に廊下の奥まで辿り着いたミカたちにに手招きされながら、俺はティーパーティーのテラスを後にした────

 

 

 

「なぁミカ、ティーパーティー再就任祝いがここでよかったのか?これくらいならいつでも行ける気が…」

 

「ううん、いいの!前からずっと、みんなでこういうところ来てみたかったし!」

 

「なんというか…すごくミカ様らしいですね…」

 

 俺たちは、トリニティ市街地にあるスイーツバイキングの列に並んでいた。ミカの持っていた雑誌に載っている情報によれば、格安で良質なスイーツが食べ放題の、特に学生に絶大な人気を誇る有名店らしい。

 

「まあミカが構わないならいいんだが…この調子だとまだかかりそうだな…」

 

「私は特段何事もないので問題ありませんが…先生はお時間大丈夫ですか?」

 

「あっ…先生、もしかしなくても忙しかったよね…私、またワガママ言って…」

 

「はぁ…ミカ?俺さっき言ったろ?今日くらいはいいって。それに、もうここまで来たんだし、どっちにしろ今更スイーツ気分からは逃れられないさ…だから今日くらいは楽しもうぜ?」

 

「そうですよミカ様!ミカ様の護衛なんて大時間泥棒な仕事を受ける先生のことですから、きっと予定スカスカで暇してるに決まってます!」

 

「…スイさん?」

 

 落ち込んで表情を曇らせるミカを、慌てて元気づけようと二人で早口で捲し立てる。スイ方面から何やら聞き捨てならない言葉も聞こえた気がするが。根は真面目というファーストインプレッションは、改める必要があるかもしれない。

 

「二人とも…そうだよねっ、うんっ!」

 

 あっという間に普段通りの元気を取り戻したミカを横目に、お姫様のご機嫌取りも大変だな、などとぼやきつつスイと目を合わせてほっと一息つく。

 忙しなくそんなやりとりをしている間に列の先頭まで来ていた。列の後ろに誰もいないのを見るに、どうやら当たりの時間帯だったらしい。まもなく接客用のロボットが店頭に出てきて、こちらに向かってきた。

 

「お客様は三名様でよろしいですか?」

 

「あ、はい。3人でs「すみません、四名です」

 

 突如後ろから割り込みで意味不明な訂正をされ、全員で頭に疑問符を浮かべながら振り返ると、そこには見覚えのある姿が聳え立っていた。

 

「先生、ミカ様。ご無沙汰しております。それにスイも、お疲れ様です」

 

「ハ、ハスミ先輩!お疲れ様です!」

 

「なんだ、ハスミか…驚かさないでくれ…」

 

「すみません、そこを歩いていたら見かけましたのでつい…スイ?そんなに肩肘張らなくても構いませんよ」

 

「わーお。スイちゃん、こんな時まで真面目だねぇ…」

 

 まるで彫刻かのように敬礼したまま固まってしまったスイをハスミがほぐし、その様子をミカが少し羨ましげに眺めている。

 

「あ、あの…お客様方…?」

 

「「「「あっ」」」」

 

 完全に放置されて困惑している店員の視線が突き刺さって痛い。会話に夢中で当然のように忘れていた。

 

「えっと…先生、私もご一緒してよろしいでしょうか?」

 

「俺は全く構わないが…二人はどうだ?」

 

「んー、私はハスミちゃんならおっけーだよ!

 

「勿論です!ハスミ先輩のことを除け者にする理由が存在しません!」

 

「あー、じゃあ決まりだな。すみません、4人でお願いします」

 

「よ、四名様ですね…かしこまりました。お席はこちらになります」

 

 接客ロボに案内されて店内に入る。評判通りと言うべきか、席には制服姿の女子高生がびっしりだった。その多くはトリニティの制服を着ていたが、中には明らかに他学園と分かる生徒もちらほらいて、その人気の高さを窺わせていた。

 通路を進むにつれて、周囲の目も集まってきてしまう。まあ、ティーパーティーの一角と正義実現委員が二人、それも片方は副委員長ともなれば、必然的にそうなってしまうだろう。まあ正実二人を相手取ろうと思う人は少ないだろうが、万が一もある。何も問題が起きないことを祈るしかない。

 

 通されたボックス席に座り4人でメニューを眺める。ケーキからアイス、マカロンやカップケーキのような定番物から、もはや全く名前も聞いたことがないようなものまで、とにかくたくさんの種類があるようだ。そしてその裏には、大々的にスイーツ食べ放題の宣伝がされていた。説明書きと店内の様子を見る限り、バイキング形式で好きなものを取っていくようだ。

 

「なるほど…こりゃ人気になる訳だな…」

 

「ね、先生!すごいでしょ!」

 

「なるほど、これが全て食べ放題と…期待で胸が膨らみますね」

 

「ハスミ先輩…?この間ダイエットするって宣言されたばっかりじゃないですか…」

 

「スイ…正義実現委員には、罠だと分かっていても前に進まなくてはならない時があるんですよ」

 

「それは間違いなく今ではありません!」

 

「ま、まあまあ…話は食べながらでも出来るし、一旦取りに行かないか?」

 

「じゃあ私、先に行ってくるねっ!」

 

「おう。ハスミとスイも先行っていいぞ。俺は荷物番でもしておくからな」

 

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて…」

 

「お先に失礼します!すぐ戻りますから!」

 

「スイ、あんま急がなくていいからな?」

 

 椅子に座ったまま二人を見送り、話に夢中になっている間にウェイトレスがいつの間にか置いていったであろう水を流し込みながら寛いでいると、皿いっぱいに菓子を乗せたミカが戻ってきた。

 

「先生、ただいまっ!荷物番代わるよ!」

 

「おかえり、ミカ。じゃあ俺もちょっくら行ってくるな?」

 

「はーい、先生、行ってらっしゃい!」

 

 今度は俺がミカに見送られながらバイキング会場へと向かうと、そこはまさに戦場と化していた。勢いが特売に並ぶ主婦くらいのそれだ。女子高生のスイーツに対する執念を甘く見ていたらしい。まあここまできた以上、生徒相手だろうと手を抜くつもりはないが。

 

「さて、いっちょやったりますか…!」

 

 深呼吸して心を整え、気合を入れて、目の前の戦場を見据える。それから、俺は過激な争奪戦へと足を踏み入れた──

 

 

 一通りスイーツを回収してテーブルに戻ると、ハスミとスイも既に戻ってきていてミカと何やらワイワイと話し込んでいる。すごく夢中で気付いてないようなので、お盆を置きながら話しかける。

 

「よ、戻ったぞ。何の話してるんだ?」

 

「あ、先生!おかえ…えっ…?!」

 

「ま、まさか…遂に正気を失われたのですか!?」

 

「流石の私でもそこまでは…先生…」

 

 こちらに気付いた3人は、俺のお盆の上の皿を見て固まってしまった。まあ無理もないだろう。そこには、大量の皿にみっちりと詰められたスイーツの山があるのだから。

 

「ああ、これか?全種類コンプしようとしたらこうなってたんだよな」

 

「え、え〜…大丈夫なの?そんなに食べきれる…?」

 

「俺を誰だと思ってる?この程度すら食べられなきゃ、シャーレの先生の名が廃るさ…」

 

「先生は自分の職場を何だと思われているのですか…!」

 

「…私が間違っていたのかもしれません。やはり、他人の目など気にせず自分の意志を貫けば…」

 

「先輩は先輩でおかしな納得の仕方をしないでくださいっ!」

 

「まあまあ、そんなことはいいじゃないか…それで、さっきは随分楽しそうだったが…俺には教えてくれないのか?」

 

「あ、そうそう!スイちゃんが私のこと大好きって話をしてたの!」

 

「ち、違いますからっ!そこまでは言ってませんっ!」

 

「そ、そうだよね…スイちゃんみたいないい子が私のこと好きなんて…そんなわけ…ごめんねっ…」

 

 照れ隠しからか慌てて否定するスイの言葉に、ミカがしなしなと萎んでしまう。

 

「も、もうミカ様っ!嫌いとは言ってないです!そこまで凹まれるとこっちが悪いみたいじゃないですか!」

 

「スイちゃん…ほ、ほんと…?」

 

「ミカ様は私の恩人ですよ?嫌いになるわけないじゃないですか…」

 

「そうですね…要人警護は特に負担の大きい仕事ですから、先生がついてくれるこの機会にしばらく休むように伝えても『ミカ様は私の大切な人だから』と言って聞かない程ですから…スイがミカ様のことを悪く思っていることはないでしょう」

 

「ハスミ先輩っ…それは内緒にするって言ったじゃないですか…!」

 

「そっかぁ…大切な人かぁ、えへへ…スイちゃんもわざわざ隠さなくていいのになぁ…」

 

「み、ミカ様っ!」

 

 ハスミの一言で、しょげていたミカが一瞬にしていつもの調子を取り戻したようで、頬が緩んでいる。派閥会議の前のやり取りではミカがスイに対して何か特別視しているようには見えなかったが、なんだかんだで気にかけているらしい。

 

「なるほど…両想いってとこか。二人ともよかったな」

 

「せ、先生までっ…もうやめてください…///」

 

「ちょっスイちゃん?!翼で殴るのやめっ…いたいよ〜!」

 

 真っ赤になったスイが両手で顔を隠してしまった。羽も落ち着かない様子でバタバタ動いて、隣に座るミカをバシバシ殴っていた。なんとも微笑ましい光景だ。

 

「色々と心配事もありましたが…どうやら杞憂だったようですね。偶然とはいえ、収穫もありましたし…」

 

 ハスミがスイーツを食べながらそっと胸を撫で下ろし、二人の様子を見てくすりと笑う。いつの間にか彼女の皿の上はもう更地になっていた。

 

「ところで先生、あまり食が進んでいないようですが…手伝いましょうか?」

 

「いや、これくらいなら…余裕だ…昼飯も食べてないからな…」

 

 意地は張ってみたものの、正直に言えば絶妙なところだ。持ってきた分の約9割は消費しきったが口の中が甘ったるく、いくら甘党とはいえ体調を崩しそうな域まで来ていた。

 

「そうですか…なら、いいのですが」

 

 俺の返事に何故か少し不満げに答えるハスミをよそに、ラストスパートの体制へ移る。食欲はほんの僅かに残っている。体を代償に捧げれば不可能ではない…はすだ。

 

「あっ先生、もう少しじゃん!頑張って!」

 

 ミカがこっちを振り向いて声をかけてくれた。その瞬間、一気にやる気に火が灯り、視界が広がり、もはや何でもできるような気さえする。気づけば、皿は空になっていた。

 

「は、はぁ…これで…コンプだっ!見たか…これが大人の…先生の威厳ってやつよ…じゃ、そろそろ会計…するか…」

 

「せ、先生…本当に大丈夫なんですか…無理してカッコつけなくても…」

 

「だ、大丈夫だ…問題ない…」

 

 完食をしたと理解した途端、安心からか一気に反動が込み上げてくる。なんとかそれを抑え込んで席を立って、心配そうなミカたちを横目にレジへと向かった。

 

「会計お願いします。あ、3人は先外出てていいぞ、ここは俺の奢りだからな」

 

「はい、少々お待ちください…食べ放題四名で、12000クレジットになります」

 

「あ、あー…じゃあカードで…」

 

「はい、カードですね。お預かりします…はい、お支払い手続き完了しました。では、またお越しください」

 

 カードを受け取って外へと向かう。一瞬表示された残高が5桁を切っていたような気がする。しばらくもやし生活が続く予感がして、自分の体がおかしくならないことを祈ることしか出来なかった。

 

 外に出ると3人は談笑しながら律儀に待ってくれていた。ミカが最初に気づいて駆け寄ってくる。

 

「先生!私のワガママに付き合ってくれてありがとね!」

 

「いいんだよ…今日は特別な日、だからな」

 

 無意識に近くにミカの頭を撫でそうになって、慌てて止めた。食べ過ぎと糖分の取りすぎで正常な思考すらできなくなってしまったようだ。おかしなことをしそうになったからか、ミカに怪訝な表情で見られてか、それともただ体調が良くないだけなのか、心拍も早くなってきた。

 

「先生、私もご馳走になってよかったのでしょうか…なんだか申し訳ない気が…」

 

「先生が生徒に金を払わせるのもおかしな話だろ?あんまりそういうのは気にしなくていいんだよ」

 

「はい、ではここはお言葉に甘えて…もうこんな時間ですか。すみません、私は仕事が残っていますので…お先に失礼します」

 

「ハスミ、またな。何かあったら、いつでも呼んでくれていいからな?」

 

「ハスミ先輩、お疲れ様です!」

 

 ハスミの姿が道の向こうに消えるまで3人で見送る。スイは律儀に敬礼までしていた。あの高身長と巨大な羽が見えなくなるまでには、随分と時間がかかったが。

 

「じゃ、俺たちも学園に戻るか。まぁ、することは無いけどな…」

 

「うん、そうしよっか!あそこが一番落ち着くし!」

 

「では…しっかり護衛しますね!先生はすみません、逆サイドをお願いします」

 

「了解っと。じゃ、帰ろうか」

 

 スイに言われた通り二人でミカを挟む形で横並びになって、俺たちは談笑しながら元来た道を辿ってティーパーティーのテラスへと帰るのだった。

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