問題児達と神殺しの簒奪者が異世界から来るそうですよ? 作:更新亀さん
"サウザンドアイズ"の門前に着いた四人を迎えたのは例の無愛想な女性店員だった。
「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」
「黒ウサギ達が来る事は承知の上、ということですか? あれだけの無礼を働いておきながらよくも"お待ちしておりました"なんて言えたものデス」
「………事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」
「早く行くぞ」
定例文にも似た言葉にまた憤慨しそうになる黒ウサギだが、店員の彼女に文句を言っても仕方がない。
カイが素早く店内に入り、黒ウサギ達が後を追う。
中で迎えたルイオスは黒ウサギを見て盛大に歓声を上げた。
「うわお、ウサギじゃん! うわー実物初めて見た! 噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった! つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな! ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」
ルイオスは地の性格を隠す素振りも無く、黒ウサギの全身を舐めまわすように視姦してはしゃぐ。
黒ウサギは嫌悪感でさっと脚を両手で隠すと、飛鳥も壁になるよう前に出た。
「これはまた………分かりやすい外道ね。先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」
「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!!」
突然の所有宣言に慌ててツッコミを入れる黒ウサギ。
そんな二人を見ながら、十六夜は呆れながらもため息をつく。
「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のものだ」
「そうですそうですこの脚はもう黙らっしゃいッ!!!」
「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で」
「売・り・ま・せ・ん! あーもう、真面目なお話をしに来たのですからいい加減にして下さい! 黒ウサギも本気で怒りますよ!!」
「馬鹿だな。怒らせてんだよ」
「お前らうるさいぞ」
"スパァーン!"とハリセン一閃。今日の黒ウサギは短気だった。
カイも煩いと言いながらも楽しそうに眺めていた。
肝心のルイオスは完全に置いてけぼりを食らっている。
五人のやり取りが終わるまで啞然と見つめ、唐突に笑いだした。
「あっはははははははは! え、何? 〝ノーネーム〟っていう芸人コミュニティなの君ら。もしそうならまとめて〝ペルセウス〟に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベッドで毎夜毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」
「お断りでございます。黒ウサギは礼節も知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありません」
嫌悪感を吐き捨てるように言うと、隣で十六夜がからかう。
「へえ? 俺はてっきり見せる為に着てるのかと思ったが?」
「ち、違いますよ! これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しすると言われて嫌々………」
「ふぅん? 嫌々そんな服を着せられてたのかよ。………おい白夜叉」
「なんだ小僧」
キッと白夜叉を睨む十六夜。両者は凄んで睨みあうと、同時に右手を掲げ、
「超グッジョブ」
「うむ」
"ビシッ!"と親指を立てて意思疎通する二人。一向に話が進まず、ガクリと項垂れてしまった黒ウサギの元に、家屋の外から店員の助け舟が出される。
「あの………御来客の方も増えましたので、よろしければ店内の客間に移りましょうか? みれば割れた食器の破片も散らかっていますし」
「そ、そうですね」
一同仕切り直す事になった一同は、"サウザンドアイズ"の客室に向かうのだった。
座敷に招かれた三人は"サウザンドアイズ"の幹部二人と向かい合う形で座る。長机の対岸に座るルイオスは舐め回す様な視線で黒ウサギを見続けていた。
黒ウサギは悪寒を感じるも、ルイオスを無視して白夜叉に事情を説明する。
「───"ペルセウス"が私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけたでしょうか?」
「う、うむ。".ペルセウス"の所有物・ヴァンパイアが身勝手に"ノーネーム"の敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」
「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。"ペルセウス"に受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと」
両コミュニティの直接対決。それが黒ウサギの狙いだった。
レティシアが敷地内で暴れ回ったというのは勿論ねつ造だ。
しかし彼女を取り戻すためにはなりふり構っていられる状況にはない。
使える手段は全て使う必要があった。
「"サウザンドアイズ"にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし〝ペルセウス〟が拒むようであれば〝主催者権限〟の名の下に」
「いやだ」 唐突にルイオスは言った。
「………はい?」「いやだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠があるの?」
「それなら彼女の石化を解いてもらえば」「駄目だね。アイツは一度逃げ出したんだ。出荷するまで石化は解けない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃないか。そうだろ? 元お仲間さん?」
嫌味ったらしく笑うルイオス。筋が通っているだけに言い返せない。
「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ? 実は盗んだんじゃないの?」
「な、何を言い出すのですかッ! そんな証拠が一体何処に」「事実、あの吸血鬼はあんたのところに居たじゃないか」
ぐっと黙りこむ。それを衝かれては言い返せない。黒ウサギの主張も、ルイオスの主張も、第三者がいないという点では同じなのだ。
ルイオスはヘラッと笑って畳み掛ける。
「まあ、どうしても決闘に持ち込みたいというならちゃんと調査しないとね。………もっとも、ちゃんと調査されて一番困るのは全く別の人だろうけど」
「そ、それは………!」 視線を白夜叉に移す。彼女の名前を出されては黒ウサギとしては手が出せない。この三年間、"ノーネーム"を存続出来たのは彼女の支援があったからだ。
今回の一件で更なる苦労をかけるのは避けたかった。
「じゃ、さっさと帰ってあの吸血鬼を外に売り払うか。愛想ない女って嫌いなんだよね、僕。特にアイツは体も殆んどガキだしねえ───だけどほら、あれも見た目は可愛いから。その手の愛好家には堪らないだろ? 気の強い女を裸体のまま鎖で繫いで組み伏せ啼かす、ってのが好きな奴もいるし? 太陽の光っていう天然の牢獄の下、永遠に玩具にされる美女ってのもエロくない?」
ルイオスは挑発半分で商談相手の人物像を口にする。 案の定、黒ウサギはウサ耳を逆立てて叫んだ。「あ、貴方という人は………!」
「しっかし可哀想な奴だよねーアイツも。箱庭から売り払われるだけじゃなく、恥知らずな仲間の所為でギフトまでも魔王に譲り渡す事になっちゃったんだもの」
(予想通りか)
「………なんですって?」 声を上げたのは飛鳥だ。
彼女はレティシアの状態を知らなかったから驚きも大きい。
黒ウサギは声を上げなかったものの、その表情にはハッキリと動揺が浮かんでいる。
ルイオスはそれを見逃さなかった。
「報われない奴だよ。"恩恵"はこの世界で生きていくのに必要不可欠な生命線。魂の一部だ。それを馬鹿で無能な仲間の無茶を止めるために捨てて、ようやく手に入れた自由も仮初めのもの。他人の所有物っていう極め付けの屈辱に耐えてまで駆け付けたってのに、その仲間はあっさり自分を見捨てやがる! 目を覚ましたこの女は一体どんな気分になるだろうね?」
「………え、な」 黒ウサギは絶句する。同時に幾つもの謎が解けた。
魔王に奪われていたはずのレティシアがこの東側に居るのも、ギフトカードに記されたネームのランクが暴落していたのも、それが理由だった。
魂を砕いてまで───レティシアは、黒ウサギ達の元に駆け付けようとしてくれたのだ。
(仲間の為に自身の魂まで渡せる、やはり欲しいな。レティシア=ドラクレア)
「ねえ、黒ウサギさん。このまま彼女を見捨てて帰ったら、コミュニティの同士として義が立たないんじゃないか?」
「………? どういうことです?」
「取引をしよう。吸血鬼を"ノーネーム"に戻してやる。代わりに、僕は君が欲しい。君は生涯、僕に隷属するんだ」
「なっ、」「一種の一目惚れって奴? それに"箱庭の貴族"という箔も惜しいし」 再度絶句する黒ウサギ。
飛鳥もこれには堪らず長机を叩いて怒鳴り声を上げた。
「外道とは思っていたけど、此処までとは思わなかったわ! もう行きましょう黒ウサギ! こんな奴の話を聞く義理は無いわ!」
「ま、待ってください飛鳥さん!」 黒ウサギの手を握って出ようとする飛鳥。だが黒ウサギは座敷を出ない。
黒ウサギの瞳は困惑している。この申し出に彼女が悩んでいる事は明白だ。 それに気づいたルイオスは厭らしい笑みで捲し立てた。
「ほらほら、君は"月の兎"だろ? 仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ? 君達にとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」
「………っ」「ねえ、どうしたの? ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ? 安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!? 箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!? ホラどうなんだよ黒ウサギ「黙りなさい!」」
ガチン!とルイオスの下顎が閉じ、困惑する。見かねた飛鳥の力が原因だ。
「っ………!?……………!!?」「貴方は不快だわ。そのまま地に頭を伏せてなさい!」 混乱するように口を押さえたルイオスは体を前のめりに歪める。
だがしかし、命令に逆らって強引に体を起こす。何が起こったのかを理解したルイオスは強引に言葉を紡いだ。
「おい、おんな。そんなのが、つうじるのは───格下だけだ、馬鹿が!!」 激怒したルイオスが取り出したギフトカードから、光と共に現れる鎌。
振り下ろされた刃を庇うように受け止めたのは、傍に控えていた十六夜だった。「な、なんだお前………!」
「十六夜様だよ色男。喧嘩なら利子付けても買うぜ? 勿論トイチだけどな」 軽薄そうに笑うと、握った柄を蹴って押し返す。
ルイオスは堪らず跳び退いた。 追撃の為に距離を取ろうとするルイオス。しかし白夜叉の扇が鎌を押さえつける。
「ええい、やめんか戯け共! 話し合いで解決出来ぬなら門前に放り出すぞ!」
「………。ちっ。けどその女が先に手を出したんだけどね?」
尚も殺気立つルイオス。黒ウサギが間に入って仲裁をした。
「ええ、分かってます。これで今日の一件は互いに不問という事にしましょう。………後、先ほどの話ですが………少しだけお時間をください」
黒ウサギの返事に驚く飛鳥は、堪らず叫んだ。
「ま、待ちなさい黒ウサギ! 貴女、この男の物になってもいいというの!?」
「………仲間に相談する為にも、どうかお時間を」
「オッケーオッケー。こっちの取引ギリギリ日程………一週間だけ待ってあげる」
にこやかに笑うルイオス。黒ウサギはそれだけ口にして座敷を出ようとした。
「勝手に決めるなよ、まだ話し合いは終わっていない」
今まで黙っていたカイが声を発する。
「カイさん、もう話し合いは終わりました。黒ウサギは皆に相談を「黙れ」ッ!」
黒ウサギが腰を降ろすと、カイが急に、
「"ペルセウス"は天才だな」
ペルセウスを褒めた。十六夜達は困惑している。
「おっ、やっぱり?そうだよね〜」
「カイ、それはどう言う」
「本当に天才だ。"俺を怒らせる"、な」
カイはギフトカードを取り出し、〈混沌の倉庫〉から闇の棺を取り出す。黒ウサギと十六夜はその棺に何が入っているかが分かった。
飛鳥、白夜叉、ルイオスはあの場に居なかった為、不思議そうに見ていた。
「棺?そんな物出して何がしたいんだい?」
「言った筈だ。"ペルセウス"は俺を怒らせる天才だと」
カイが〈
「馬鹿な!名無し風情が!?」
ルイオスは驚愕する。棺の中には、ルイオスがレティシアの回収の為に
"ノーネーム"に向かわせた部下達が入っていたのだ。
「そんなカス共で俺達をどうにか出来ると思ってたのか?」
驚愕しているルイオスを横目にカイは白夜叉に話しかけた。
「白夜叉、"ペルセウス"にギフトゲームを挑む方法を教えろ」
「ペルセウスの伝説に出てくる怪物、海魔とグライアイをギフトゲームで打倒することにより得られるギフトで挑めるぞ」
「十六夜、手伝え。二体倒しに行くぞ」
「良いぜ。何を倒せば良い?」
「まだ海魔の方が遊び相手になるだろ。そっちはお前に譲ろう、俺はグライアイの方に行く」
その言葉を聞きルイオスは歯軋りする。
カイ達がやろうとしている事が分かったからだ。
部下達をカスと言ったカイの実力なら簡単であろう事も。
「だけどこっからじゃ間に合うわけが無い。先に吸血鬼を取り返して売れば良いだけだ!」
「フッ、精々無駄なあがきをするが良い。俺達がギフトゲームを挑みに行くまで本拠地で震えていろ」
カイが出した殺気にルイオスは逃げる様に去って行った。
#
ルイオスが出て行った後白夜叉がカイに聞く
「主様、さっきの魔法はどう言う魔法なんじゃ?」
「〈
「そうじゃ」 「私も気になるわ」 「俺も」 「私もです!」
「〈
延々と死に続ける苦しみから解放されるためには、術者。つまり俺が
解除しなければ死に続ける事になる」
「そ、それはまた」
「カイ、お前中々にエグい事するな」
「そうか?そんな事より、時間がない。白夜叉、海魔とグライアイの場所を教えてくれ」
「うむ」
「レティシアを取り返すぞ」
カイの言葉に皆が頷いた。