問題児達と神殺しの簒奪者が異世界から来るそうですよ?   作:更新亀さん

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11話

一日後 ───二六七四五外門・"ペルセウス"本拠。  

 

白亜の宮殿の門を叩いた"ノーネーム"一同を迎え、謁見の間で両者は向かい合う。

 

 交渉の席に着いたルイオスは終始にやけた顔で黒ウサギに熱い視線を送っていたが、それを無視して黒ウサギは切り出す。

 

「我々"ノーネーム"は、"ペルセウス"に決闘を申し込みます」「何?」

 

 ルイオスの表情が変わる。予想していなかった訳ではないが、いくら何でも早すぎる。返答に眉を顰めるが、黒ウサギは続ける。

 

「決闘の方式は"ペルセウス"の所持するゲームの中で最も高難度のもので構いません」

 

「………はぁ?  何?  そんなつまらない事を言いに来たの?

決闘なんてしないって言ったじゃん。それとも挑戦権でも持って来たの?」

 

ルイオスは拍子抜けしたように声を上げた。彼は自分達が戦って負ける事などあり得ないと思っているが、それでも相手は"箱庭の貴族"と、部下達をカスと言ったカイ。 

 

うかつにゲームを受けるのは危険でしかない。

 

そもそも、"名無し"と対等な決闘をするということそのものが既に屈辱なのだ。 ルイオスは決闘を拒否し、手の平で追い払う仕草を向ける。

 

「それが用件ならとっとと帰れよ。あーマジうぜえ。」  

 

───ドサッ、っと黒ウサギは、ルイオスの眼前に巨大な大風呂敷を広げる。

 

風呂敷の中からは〝ゴーゴンの首〟の印がある紅と蒼の二つの宝玉が転がり出た。

 

 それを見て傍で控えていた"ペルセウス"の側近達は眼をひん剝いて叫び声を上げる。「こ、これは!!?」 「"ペルセウス"への挑戦権を示すギフト………!? まさか名無し風情が、海魔とグライアイを打倒したというのか!?」  「馬鹿なっ!幾ら何でも早すぎる!」

困惑する"ペルセウス"一同。

 

「あぁ、あの大タコか?確かに面白かったがあれなら蛇の方がマシだったぜ?」

 

「だな。グライアイより蛇の方がまだマシだった」

 

首をすくませる十六夜とカイ。

 

あの宝玉はペルセウスの伝説に登場する怪物達をギフトゲームで打倒すると得ることが出来るギフトだ。

 

二代目以降から無くそうとしていた矢先のこの事態だ。ルイオスの不快感は絶頂だ。

 

「挑戦権は集めた。これで逃げ場はないぞ」

 

カイがルイオスに言う。

 

「ハッ………いいさ、相手してやるよ。元々このゲームは思いあがったコミュニティに身の程を知らせてやる為のもの。二度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に………徹底的に潰してやる」  

 

華美な外套を翻して憤るルイオス。

 

それを睨み、黒ウサギは宣戦布告する。

 

「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。"ノーネーム"と"ペルセウス"、ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます」

 

《ギフトゲーム名  "FAIRYTALE in PERSEUS"

 

 ・プレイヤー一覧 逆廻  十六夜                  

          久遠  飛鳥                    

          春日部  耀  

          カイ

 

 ・"ノーネーム"ゲームマスター  ジン =ラッセル  

 ・"ペルセウス"ゲームマスター  ルイオス =ペルセウス  

 

 ・クリア条件  ホスト側のゲームマスターを打倒  

 

 ・敗北条件   プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。                 プレイヤー側のゲームマスターの失格。                プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。  

 

 ・舞台詳細・ルール    

 *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。  

 

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

 

 *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。

 

 *姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

 

 *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる。  

 

 宣誓  上記を尊重し、誇りと御旗の下、'"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。"ペルセウス"印》

 

"契約書類"に承諾した直後、五人の視界は間を置かずに光へと呑まれ、白亜の城の前に居た。

 

「姿を見られれば失格か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 

 白亜の宮殿を見上げ、胸を躍らせるような声音で十六夜が呟く。

 

その呟きにジンが応える。

 

「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だという事になりますよ。流石にそこまで甘くは無いと思いますが」

 

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」

 

今回のギフトゲームは、ギリシャ神話に出てくるペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。

 

宮殿内の最奥まで"主催者"側に気づかれず到達せねば、戦うまでもなく失格となる。

 

「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私達のゲームマスター───ジン君が最奥にたどり着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北。なら大きく分けて三つの役割分担が必要になるわ」

 

飛鳥の隣で耀が頷く。本来ならこのギフトゲームは百人、少なくても十人単位でゲームに挑み、その一握りだけがゲームマスターに辿りつけるというもの。

 

そんなゲームを、彼らは四人で挑まなければならない。役割分担は必須だった。

 

「うん。まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」

 

「春日部は鼻が利く。耳も眼もいい。不可視の敵は任せるぜ」

「十六夜、俺がジンを兜が手に入るまで魔法で隠す」

 

「お前そんな事まで出来るのか」

 

「当然だ」

 

カイの提案に黒ウサギが続く。

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。ですからゲームマスターを倒す役割は、十六夜さんかカイさんにお願いします」

 

「あら、じゃあ私は囮と露払い役なのかしら?」む、っと少し不満そうな声を漏らす飛鳥。

 

だが飛鳥のギフトがルイオスを倒すに至らない事は既に知れている事だ。

 

何より飛鳥のギフトは不特定多数を相手にする方がより力を発揮できる。しかしそれが分かっていても不満なものは不満なのだろう。

 

少し拗ねた口ぶりの飛鳥をカイと十六夜がからかった。

 

「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だけど、勝負は勝たなきゃ意味がない。あの野郎の相手はどう考えても俺とカイが適してる」

 

「適材適所だ、飛鳥」

 

「………ふん。いいわ。今回は譲ってあげる。ただし負けたら承知しないから」

 

飄々と肩を竦めるカイと十六夜。

 

だが黒ウサギはやや神妙な顔で不安を口にする。

 

「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。油断しているうちに倒せねば、非常に厳しい戦いになると思います」

 

四人の目が一斉に黒ウサギに集中する。飛鳥がやや緊張した面持ちで問う。

 

「………あの外道、それほどまでに強いの?」

 

「いえ、ルイオスさんご自身の力はさほど。問題は彼が所持しているギフトなのです。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは───」

 

「隷属させた元・魔王様」

 

「そう、元・魔王の………え?」  

 

十六夜の補足に黒ウサギは一瞬、言葉を失った。  

 

しかし素知らぬ顔で十六夜は構わず続ける。

「もしペルセウスの神話どおりなら、ゴーゴンの生首がこの世界にあるはずがない。あれは戦神に献上されているはずだからな。それにもかかわらず、奴らは石化のギフトを使っている。───星座として招かれたのが、箱庭の"ペルセウス"。ならさしずめ、奴の首にぶら下がっているのは、アルゴルの悪魔ってところか?」

 

「………アルゴルの悪魔?」  

 

十六夜の話が分からない飛鳥達は顔を見合わせ、小首を傾げる。

 

しかし黒ウサギだけは驚愕したままで固まっていた。  

 

彼女だけが、今の答えに帰結することの異常さに気が付いていたからだ。「十六夜さん………まさか、箱庭の星々の秘密に………?」

 

 黒ウサギは信じられないものを見る目で首を振りながら問いかける。

 

「まあな。このまえ星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。後は手が空いた時にアルゴルの星を観測して、答えを固めたってところだ。まあ、機材は白夜叉が貸してくれたし、難なく調べる事が出来たぜ」

 

フフンと自慢げに笑う。黒ウサギは含み笑いを滲ませて、十六夜の顔を覗き込んだ。

 

「もしかして十六夜さんってば、意外に知能派でございます?」

 

「何を今さら。俺は生粋の知能派だぞ」

 

「な訳あるか」

 

「俺はドアノブを使わず扉を開けられるぞ」

 

「…………………………………。参考までに、方法をお聞きしても?」

 

やや冷ややかな目で黒ウサギが見つめる。  

 

十六夜はそれに応えるかのようにヤハハと笑って門の前に立ち、

 

「そんなもん────こうやって開けるに決まってんだろッ!」  

 

轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破るのだった。

 

#

 

「ジン、こっちに来い」

 

カイが手招きをする。

 

「は、はい!カイさん何するんですか?」

 

カイはジンを抱き抱えると二つの魔法を使う。

 

「〈幻影擬態(ライネル)〉〈秘匿魔力(ナジラ)〉」

 

するとカイとジンの姿が消えた。

 

「……凄い。そこに居る筈なのに全く感知できない」

 

「このゲームお前なら単独でクリア出来るじゃねぇか」

 

「それでは意味がない。十六夜、耀。頼んだぞ」

 

#

 

飛鳥とニ手に分かれた十六夜達は、飛鳥と対照的に息を殺し状況を伺っていた。

 

「……飛鳥は上手くやってるみたいだね」

 

「うん、1階から水の音と男の悲鳴が聞こえる」

 

宮殿の柱陰に隠れ、耳を澄まして周囲の気配を探る耀、少しの間と共にピクリとも反応する耀。

 

「人が来る。十六夜は隠れて」

 

耀は緊張した声で警告する。いかに見えないといえど、物音と匂い迄までは消せない。

 

耀の高性能の五感は不可視のギフトに対抗する唯一の対抗手段だ。

 

獣のように腰を落とした耀は、見えない敵に奇襲を仕掛け、後頭部を強打する。

 

騎士は何故居場所がバレたのか分からずに気絶する。

 

倒れた騎士から兜が落ちる。

 

「この兜が不可視のギフトで間違いなさそう。カイ、もう魔法解いて良いよ」

 

「了解した」

 

カイが魔法を解き、カイとジンが姿を現した。

 

「ホレ、御チビ。お前が被っとけ」

 

「わっ」

 

十六夜が兜を拾い上げてジンの頭に乗せようとすると、

 

「連中が不可視のギフトを使っているのを限定しているのは安易に奪われないためだと思う。最低でもあと一つ贅沢を言えば三つ欲しいかな」

 

「なるほどな、おい、御チビ、カイ。作戦変更だ。俺と春日部で透明になっているやつを叩く。ギフトを渡せ」

 

「は、はい」

 

ジンが十六夜に手渡す。兜を付ける前に、カイが耀に確認する。

 

「前哨戦をちまちまやっていても埒が明かない。本命はルイオス唯一人。春日部とには悪いけど」

 

「気にしなくていいよ」

 

フルフルと頭を振る耀。派手に動けば不可視の敵も捕らえられるだろうが、春日部耀も失格となるだろう。

 

だがそんな事にこだわって勝機を落とす事など考えられない。

 

「悪いな、いいとこ取りみたいで。これでもお嬢様や春日部、には感謝してるんだぞ。今回のゲームなんかは、カイ以外ソロプレイで攻略出来そうにないし」

 

「すまん。非攻撃魔法を他人に使うのは余り得意ではなくてな」

 

「だから気にしなくていい。埋め合わせは必ずしてもらうから」  

 

耀は平淡な声音で、取り立てを断言する。

 

思わず哄笑を上げそうになった十六夜とカイだが、今はそんな場合ではない。

 

「カイと御チビは隠れとけ。死んでも見つかるな」「はい」「任せろ」

 

十六夜の姿が消える。二人は物陰から飛び出して白亜の宮殿を駆け回り始めた。

 

「いたぞ!  名無しの娘だ!」「これで敵の残りは三人だ!」

 

「よし、その娘を捕らえろ!  人質にして残りを炙り出せ!」

 

 耀に襲いかかる騎士達。それを姿の見えない十六夜が白亜の宮殿の外まで殴り飛ばす。

 

「邪魔だ!」  

 

殴り飛ばされた騎士達は悲鳴を上げながら壁を幾層も突き破り、揃って第三宇宙速度を維持したまま雲海の向こうまで吹き飛ばされた。

(相変わらずイカれた力だ)

 

「どうだ、春日部。分かるか?」

 

「ううん………飛鳥が暴れている音や、他の音が大きすぎてちょっと………わ!?」

 

突然、前触れなく耀が吹き飛んで壁に叩きつけられる。

 

十六夜は即座に反対方向へ蹴りを入れるが、何の手応えもない。   

 

だがそれよりおかしいのは、春日部耀の五感を以てしても接近に気が付けなかったことだ。

 

十六夜にしても、こんな近くに居る人間を感知出来ないのは不自然だ。

 

十六夜の脳裏に一つの可能性が浮上する。

(まさか………レプリカじゃなく、本物を使っている奴がいるのか………!?)  

 

そう。姿だけでなく臭気や熱量、物音までも消す、完全な気配消失を可能にするギフト。

 

耀が襲われた時、十六夜は敵の気配に全く気が付けなかった。

 

気配はおろか初期動作さえ全く気が付けないのだ。

 

"姿を見られてはいけない"のルールがある以上、最も忌避しなければならない敵だろう。

 

「おい春日部!  一度引くぞ!」  倒れた春日部耀を抱き上げる。

 

だが姿の見えない敵は、それを見計らったように十六夜を襲う。

 

姿の見えている耀を抱き上げれば、自然と十六夜の位置を把握できてしまう。

 

巨大な鈍器らしいもので横なぎに吹き飛ばされた十六夜は、兜を押さえながら痛烈に舌打ちした。

 

「あぶねえなオイ! 兜が取れるところだったぞクソッタレ!  

つ ーかカウンターでも入れてやろうかと思ったのに、ホントに感知出来ねえ。いっそ手当たり次第に殴ってみるか?」

 

幻影擬態(ライネル)〉で姿を隠したカイは雷撃を放ち、十六夜に声をかける。

 

「十六夜、伏せろ」

 

カイの声に従い伏せた直後、

 

「ぐああああああ!?」

 

背後から飛来した雷撃が、見えない騎士に直撃し、絶叫の声を上げる。

 

「今だ、十六夜」

 

声に応えた十六夜は、すかさず拳を叩きこむ。

 

拳の先に音は無くとも、鎧を砕くような強固な手応えを感じ、十六夜は虚空に騎士の存在を感じ取っていた。

 

十六夜は不可視の騎士に跳びつき、兜を剝ぐ。

 

不可視の騎士はルイオスの傍で控えていた側近の男だった。

 

十六夜はクルクルと兜を回しながら笑いかける。

 

「へえ………よく耐えられたもんだ。加減したとはいっても、空の果てまで飛ばすつもりで殴ったんだがな」

 

「………ふん。ならば、我等の鎧が優れていたのだろう」

 

側近の男の言葉は、遠まわしな称賛だった。

 

それほど十六夜の拳は重く、苛烈だったのだ。

 

数々のゲームに挑んだ歴戦の騎士が、たった一撃で敗北を認めてしまうほどに。

 

「無鉄砲な一撃で負けたのならともかく、ギフトを真正面から打ち破られての敗北だ。───見事。お前達には、ルイオス様に挑むだけの資格がある」

 

膝を突き、倒れる側近の騎士。

 

十六夜達は不可視のギフトを手に、先を急ぐのだった。

 

  




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