問題児達と神殺しの簒奪者が異世界から来るそうですよ? 作:更新亀さん
「カイ、ちょっと世界の果てまで行こうぜ!」
十六夜がそう声をかけたのはカイ達が黒ウサギの先導でこれから所属する予定のコミュニティに向かう途中のことだ。
(世界の果てか、面白そうだな)
カイは十六夜の誘いを
「面白そうだから行くか」
受ける。とりあえず
「飛鳥さん。俺と十六夜はちょっと世界の果てを見てくる。」
「そう、分かったわ。後私の事は飛鳥でいいわ」
「了解した。では行ってくる」
そうしてカイは十六夜のもとに行く。
「じゃあ行くか」
#
「ジン坊ちゃ〜ん、新しい方々を連れて来ましたよぉ〜!」
そう黒うさぎが呼びかけると、ダボダボのローブを着た少年がこちらにバッ!と振り向いた。
「お帰り黒うさぎ。そちらの御ニ方が?」
「はい!こちらの御四方が…」
気づいたようだ。
「…あれ?もうニ人いませんでしたっけ?目つきの悪い全身から“俺問題児!”的なオーラを放っていたお方と、銀髪に翡翠色の瞳をしたお方が」
「ああ、彼らなら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!“って言って駆け出して言ったわ、あっちの方に」
そうして指差したのは遠くの崖。
「どうして止めてくれなかったんですか!」
「”止めてくれるなよ“って言われたから」
「ならどうして教えてくれなかったんですか!」
「”黒うさぎには言うなよ“って言われたから」
「嘘ですよね!絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!?」
『うん』
黒うさぎがガクリと前のめりに倒れる。
ジン坊ちゃんと呼ばれた少年が慌てている。
「た、大変です!世界の果てにはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が!」
「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」
「冗談を言ってる場合じゃありません!」
「はあ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御ニ人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「…あ、あはは。分かったよ。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに―――"箱庭の貴族"と謡われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやりますッ!」
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくり箱庭ライフをご堪能ございませ!」
黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。
全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び上がり、あっという間にニ人の視界から消え去っていった。
巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。
「……。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが…… 」
「……じゃあ、問題無い?」
「そうね。とりあえず箱庭を案内してもらっても良いかしら?エスコートしてくれるんでしょ?」
「は、はい!」
#
「あーもう!一体何処まで行っちゃったんですか!?」
黒ウサギが十六夜とカイを探し始めて早くも半刻が過ぎようとしている。
上空4000メートルから見れば大した距離には見えなかったのだろうが、彼ら四人が落下した湖から"世界の果て"に伸びる街道は途方もない距離がある。
「あ!カイさん!見つけましたよ!」
「イメチェンか?黒ウサギ」
「短時間で非行に走るなんてある意味、尊敬するぜ黒ウサギ」
呑気に自分の髪色を指摘する二人に黒ウサギは答えず、彼らに突っかかった
「もう、一体どこまで来ているんですか!」
「"世界の果て"までですよ、っと」
十六夜は戯けたように言いながら立っていた大きめの岩から降りた。
カイの方を見ると木に寄りかかってくつろいでいた。
「十六夜さんとカイさんが無事でよかったです…神仏にギフトゲームを挑んだんじゃないかとひやひやしてたんですよ!さぁ、ご無事でしたら早く帰りましょう」
「挑んだぞ」
「…はい?」
黒ウサギに十六夜がなんでもない声で言うと、笑顔を浮かべていた彼女の表情が一瞬にして固まった。
彼女の混乱を知ってかしらずか、十六夜はダメ押しをするように続ける
「神仏にギフトゲーム」
「…は?」
瞬間、水中から重い音が響き蛇神が今一度姿を現した
[まだ…まだ試練は終っていないぞ!小僧!!]
怒り狂っているのは明白であり、その元凶である十六夜はただただ軽薄な笑みを浮かべていた
「す、水神!?って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか!?」
「なんか偉そうに試練を選べとか言われたから"俺を試せるか試させてもらった"……ん?」
刹那、ゴウッと水が暴れ出す
蛇神が操っているのだろうと十六夜は口角を上げた
[付け上がるな人間、我がこの程度の事で倒されるか!!]
水は更に激しくなり黒ウサギの焦りも頂点に達する
「十六夜さん!下がって!」
「何言ってやがる黒ウサギ、下がるのはオマエの方だろ。これは俺等が売って奴が買った喧嘩だ!」
「もう飽きたし早く終わらせろ、十六夜」
カイが呑気にそんな事を言った。
「いや、カイ。お前がやれ」
「俺が?まぁ良いが。とゆう訳だ、蛇。これから俺が相手をしてやろう」
[その心意気は買ってやる。それに免じこの一撃が凌げたら貴様らの勝利を認めてやろう]
「フッ、寝言は寝て言え、蛇風情が。貴様程度の攻撃が俺に効くか」
[フンッ、その戯言が貴様の最後だ!!]
蛇神が生み出した三つの水柱が一つになり、カイに襲いかかった。
「カイさん!危ない!」
黒ウサギが堪らず叫ぶ。
だがわそれが迫ってきても彼は一切動じることなく拳を振り抜いた
「フンッ!!!」
雄叫びと同時、水柱は跡形もなく最初からなかったかのように消し飛んだ
「嘘!?」
[馬鹿な!?]
「へえ……!」
黒ウサギと蛇神は驚愕し、十六夜は感嘆の声を上げた。
しかしそれだけではない。
瞬きの瞬間にカイの姿は先程までいた水の上から消え失せていた。
一瞬の出来事に蛇神は神格を持つ自分ですら捉えきれない速度で移動したという事実に驚いた。
『なに…!?一体どこに』
血眼になる勢いで探していた蛇神だったが、その声は
「遅すぎる」
全く見当違いの方向から聞こえた。
振り返った瞬間、脳天に拳が入り受け身を取ることのできなかった蛇神は、声を上げることなくなく崩れ落ちた。
軽く息を整え、彼が降りて来た。
「期待通りだったか?」
「……いや、それ以上だぜ」
ニヤリと笑う十六夜とハイタッチをし、カイは黒ウサギに視線を投じる。
声をかけても反応は返ってこなさそうで、どうしようかと悩んでいると十六夜が軽薄な笑みを浮かべた。
「…このままボーっとしてると、足とか胸とか揉みまくるぞ」
「十六夜、馬鹿な事をしようとするな」
「カイさんありがとうございます!十六夜さんはおバカですか!?二百年守ってきた貞操に傷をつけるつもりですか!?」
「え、なにそれ超傷つけたい」
「はぁ」
「お馬鹿!?いいえお馬鹿!!」
スパァン、と十六夜はどこから取り出したのかわからないハリセンで叩かれる。
すると黒ウサギはハッとして蛇神の元まで跳んでいき何やら話している。
少しすると大きな苗を抱えて戻ってきた。
「み、見てください!こんなに大きな"水樹の苗"を頂きましたよ!これでもう、他のコミュニティから水を買う必要もありません!みんな大助かりです!」
嬉しそうに、水樹に頬ずりをする黒ウサギを見て二人はフッと顔を見合わせて笑った
そして十六夜が徐に口を開く
「そうかいそうかい。喜びついでに1つ聞いて良いか?」
「どうぞどうぞ」
黒ウサギはなんでもどうぞ!という視線を二人に向けた。
喜色満面の彼女に、十六夜は笑みを崩さずに問いかける。
「黒ウサギ、お前……何か決定的な事をずっと隠してるよな」
ハッと黒ウサギは表情に嬉しそうな表情から一変、不味いという顔になった。
「お前はどうして俺達を呼び出す必要があったんだ?」
「そ、それは…い、十六夜さんたちにオモシロオカシク過ごしていただこうと」
「本当にそうか?俺も初めは純粋な好意、もしくは誰かの遊び心か何かだと思っていた。だがな、お前の態度は必死すぎるんだよ」
「十六夜がコミュニティに入る事を拒否した時、黒ウサギお前随分と焦っていたな」
黒ウサギは沈黙した
おそらく彼女はだらだらと冷や汗を流し、どうにかしてこの状況を打破できないかと考えているのだろう。
十六夜は確信を得るべく、言葉を重ねる。
「これは俺の勘だが、黒ウサギのコミュニティは弱小のチームかもしくは訳あって衰退したチームなんじゃねぇか?」
「……」
「図星か」
カイと十六夜からの指摘になんともいえない笑みを浮べた黒ウサギに二人は今一度顔を見合わせた。
もしかしたら、状況は想像以上に悪いのかもしれないという予感を感じながら。
黒ウサギの話を聞き終えた二人は、軽く整理をしていた。
曰く、黒ウサギのコミュニティは元々は相当な大手コミニュティだった
しかしそのコミュニティは一夜にして最悪の天災、魔王と呼ばれる者によって壊滅させられた。
曰く、魔王は"主催者権限"という特権階級を持つ修羅神仏で、挑まれたら最後、誰も断ることはできないという。
曰く、コミュニティは"名"と"旗"を奪われ"ノーネーム"と成り果てた
現在中核をなす同士は1人も残っておらず、ギフトゲームに参加できるのは現リーダーであるジンと黒ウサギのみ。残りの120人あまりは10歳以下の子供達ばかりだという。
黒ウサギはウサギの特権として"審判権限"という権限を持つ代償として縛りがあるため、ゲームへの参加はできない。
魔王とゆう単語を聞いてからカイは笑顔になった。
そして、そこまで聞いた十六夜は当然の疑問を口にした。
「そんなに酷い状況なら、いっそ潰して新しく造っちまえばいいんじゃ」
「だ、駄目です!」
水樹の苗を横に置き、立ち上がった彼女の必死の形相にカイは問う。
「何故だ?名も旗も無い場所に、箱庭の創始者の眷属殿が関わる理由なかろう。それともそうしないといけない理由でもあるのか?」
「私達は!…仲間達が帰ってくる場所を守りたいのです!そしていつの日にか、魔王から〝名〟と〝旗印〟を取り戻しコミュニティの再建を果たしたいのです!そのためには、十六夜さんたちのような強力な力を持つプレイヤーに頼るほかありません!お願いします! 私達に力を貸してください!」
「ふぅん…〝魔王〟を相手にコミュニティの再建か……」
十六夜が顎に手を当てて考える中、カイはじっと黒ウサギを見ていた。
自分とは違う形で何かを奪われた彼女に昔の弱い自分が重なる。
20年前……人間と魔族の混血が理由で親は殺された、俺達を匿っていた村も焼き払われ村の人達も死んだ。
大切な家族、友を守れずに打ち拉がれた、かつての弱い自分が黒ウサギに重なって見えた
「カイ」
名を呼ばれそちらに目を向ける。
「何だ?」
十六夜は相変わらず笑みを浮かべ、黒ウサギは縋るような眼差しを送っている。
「次はお前だ。お前はどうするんだ?」
どうやら既に十六夜は決めたらしく、黒ウサギの反応から協力するらしい。
カイは問いを投げかけた。
「黒ウサギ」
「は、はい!」
「魔王を相手にコミュニティを再建する、この言葉に嘘偽りは無いな?」
「当然です!」
少しの間を開けてからカイが答えた。
「……フッ、面白い。協力してやろう」
ぽかん、と黒ウサギは目を丸くし思考が追いついていないようで固まっていた
そして意味を理解した瞬間、パァッと笑顔になると同時に髪が桃色に変わった
「ありがとう…ございます!」
嬉しそうに笑っう黒ウサギ。
「飛鳥達と合流するか」
「はい!」
「ヤハハ、やっぱり面白ぇな。カイ」
軽口を叩き合い、三人で笑い合いながら、彼らは箱庭へと向かった。