猛き兵共、冬草で   作:黒宮怜狐

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これは、タユウグロの始まりの話。
そして、彼女達の開戦の狼煙であるーーー




タユウグロは机に臥せっていた。若干の大柄な体格のせいで机から少しはみ出し頭を垂れる。長い黒の髪は顔を覆い隠す様に前に集まりその様子はまるで枝垂れ桜の様であった。その理由は主に模擬レースの結果が理由であり最も直近のレースの結果は8人中8位。それも7位と大差というなんとも無惨な結果であった。

 

「妾にはれぇすの才が無いのかのう」

 

 ため息をついてはそう呟くのが既に日課となってしまっていた。が、そんな時には人生の転機が訪れるという物でタユウグロも例外ではなかった。

 

「あのぅ。大丈夫ですか。どこか体調が悪いとか」

 

「大丈夫じゃ。いつもの事よ。すまぬな。心配をかけて」

 

 そういってその声の主を確認しようと顔を上げる。そこに居たのは黒に近い焦げ茶のような髪色に真ん中に白の流星のあるウマ娘であった。

 

「お主は確か……誰だったかのぅ。何処かで会った気がするのじゃが」

 

「えっと、先週編入してきたスペシャルウィークです! よろしくお願いします!」

 

「すぺしゃるうぃいくと言うのか。…………あぁ! 思い出したぞ」

 

 タユウグロは少し悩むように腕を組むで考えると人差し指を天井突きだすような少し古い仕草をするとスペシャルウィークに向けて言う。

 

「お主、りぎるの模擬れぇすに居た子じゃの? 日の本一のウマ娘になると言うておった。お主はとても速かったのう。アレで一位を取れんのだかられぇすとはわからん物じゃ」

 

「えへへ。ありがとうございます。負けちゃいましたけど、皆さんとても速くてビックリしちゃいました。リギルには入ることは出来なかったですけどあの後誘拐されてスズカさんがいるチームスピカに入ることになったんです!」

 

「何か今聞き捨てならない言葉を聞いたような気がするが。まぁ良い。そのスズカさんとは仲が良いのかの?」

 

「仲がいいと言うか…………スズカさんは憧れの人なんです」

 

「ほっほっほ。憧れの人かね。主がそう言うのであればその『スズカさん』はとても速いのじゃろう」

 

 タユウグロにはその憧れを孕んだ瞳が羨ましく見えた。『スズカさん』という方はそれだけ魅了される走りをするのだろうと。そして、同時に知りたくなった。『スズカさん』の走りを。

 

「して、すぴかと言うたかの? 初めて聞いたのじゃが。どういうちぃむなのじゃ?」

 

 タユウグロが聞いたのはある意味必然だったと言えよう。初めて聞く名前のチーム。そしてスペシャルウィークの憧れの的である『スズカさん』の存在。どれだけの力を持つかは不明だがスペシャルウィークの持つ憧れの強さがその強さを指し示すと言っていいだろう。少なくともタユウグロはそう考えていた。

 

「うーん。一言で表すのは難しいんですけど…………」

 

 スペシャルウィークがその言葉の後を続けようとしたところで急に横から白い髪が視界を遮る。髪から香るソースの匂いと驚きで飲み込んだ唾で少し噎せそうに…………。

 

「おぉい! スペ! 私と一緒にゴルゴル星に里帰りがてら宇宙旅行といかねぇか?」

 

 否、その意味不明な発言から思いっきり噎せた。ゴホゴホと噎せるタユウグロ。それを慌てふためきながら心配するスペシャルウィーク。そして、「なんだ? 風邪か? このゴルゴル星特製喉飴舐めるか?」などと更に意味不明な事を言い出す白髪の子と場は混沌を極めた。

 

 

 

 

 

「へぇ。じゃあアンタはスピカにキョーミがあるって事でいいか?」

 

 混沌が収まるとスペシャルウィークと白髪の子と共に帰る為に夕暮れの道路を正門に向けて歩いていた。

 

「うむ、そうじゃ。妾はちぃむに所属をしていなければ担当のとれぇなぁもいない。じゃから兎に角ちぃむに入ることを最優先に考えて動いておったのじゃが。結果は散々でのぉ」

 

「へぇそっかぁ」

 

 そう白髪の子が言うとグラサンに不織布のマスクをつけた隣を並んで歩いていた白髪とスペシャルウィークが目の前に回り込んでくる。

 

「スペ! やっておしまい!」

 

「はい! ゴールドシップさん!」

 

「な、なんじゃ? 何を。ヤメヨ! ヤメルのじゃ! ヤメヨというのが分からんのか! うわぁぁぁぁぁ!」

 

 少しの抵抗も許されないほどの速度で手際良く麻袋に積められるとタユウグロは信じられない速度で肩に担がれ連れられていった。

 この時タユウグロは早まったかもしれぬと強く思ったと言う。

 

 

 

 タユウグロの視界に光が生まれた時にはタユウグロは部室のような部屋に立たされていた。スペシャルウィークが言っていた誘拐という不穏な単語がまさか本当だったとはと思い一抹の不安を覚える。

 周りの見渡すと作戦を立てるためと思われるホワイトボードやスピカと描かれた旗が壁に付けられている。よくあるような普通の部室。ただ、スペシャルウィークは途中で別れたようでこの場にはいなかった。

 

「此処は何処じゃ? 妾は、どこに連れられてきたのじゃ?」

 

「ここはスピカの部室だぜ。まだトレーナーは来てないけどスペと一緒に直ぐにくるだろ。あぁ。アタシの自己紹介してなかったなアタシはゴールドシップ様だぁ! あ、焼きそば食う?」

 

「要らぬ。誘拐犯に施しを受けるほど落ちぶれては居らぬわ。…………ただ、縄にもかけぬと戸の前に立たせるとはまさかとは思うが妾を舐めておるまいな?」

 

「誘拐犯って、そんな言い方をすんなよぉ〜。たぁだ、ゴルシちゃんはアンタをスピカの部室にご招待しただけなんだからよぉ〜。あと、アンタを飴ちゃん見たいにぺろぺろ舐めてる訳でも無いぜ。それは、アンタはさっきチームに入ってないし担当もいないって言っていたからだぜ。……言いたいことはわかるよな?」

 

 まるで悪人の雰囲気を漂わせながらケラケラと笑うゴールドシップはこの状況をただ楽しんでいるようでそれ以上のことをしようとしなかった。

 タユウグロはこの時、無理やり契約を交わされ、ボロ雑巾のように使い潰されることも最悪の事態として考えていたのだが考え損であると直ぐにその考えを棄てた。ただ、そんなチームに入ってでもこの学校に残ろうとする自分の可笑しさには呼吸に少し苦笑が混じってしまうのも決しておかしなことでは無かっただろう。

 

「ここ、りぎるのとれぇなぁはどんな人なのじゃ?」

 

「変な野郎だぜぇ〜。いや、変態な野郎って言った方がいいかもなぁ〜。まっ、会って見たらわかるよ。あ、トレーナーが変なことやってきたら思いっきり蹴っちまって良いぜ。トレーナー丈夫だから死にはしないだろうしな。いいお灸になるだろうしな〜。っと噂をしてたら来たみたいだぜ」

 

 そう言われると同時に自身の後ろの扉が開く。と、同時に自身の脚にとてつもなく不快な感覚が響く。

 

「ふーむ、決して悪くは無いトモなんだがちょっと硬すぎるかもな。だがパワーと生命力を感じる良い脚だ。それに…………」

 

「ヒィァァァァァァッ!」

 

 脚にかかった男の声の振動と群がるアリのような感触が不快感を増幅させる。その感覚を振り払おうとその感触のする方の脚を振り回しその元凶と思われる気配の少し右を()()()()()()()蹴る。

 

「うォォォォォッ?!?!」

 

「な、な、な、ななな何をするのじゃ! この、破廉恥男め!」

 

 後ろを振り返ると黄色のジャンパーを羽織り、棒付きの飴を舐める男がそこだけ時が止まったように固まっていた。

 タユウグロはやっぱり早まっていたことを強く後悔し、最悪の最悪を引き当てたと脳内は悲しみに満ち溢れた。ただ、その脳内にある卑猥な考えは圧倒的に勘違いなのは言うまでもないが。

 

「オイオイ、そのまま顔面にクリティカルヒットさせてよかったのによぉ〜」

 

 それを見ていたゴールドシップは笑っていた。

 

 

「で、オタクさんは?」

 

 その後にぞろぞろと入ってきたスペシャルウィーク以下三名とついでと言わんばかりにゴールドシップがトレーナーだと名乗った男をボコボコ(1人は立っているだけだったが)にして少したったあとまるで定位置だと言わんばかりに六対一に並び、トレーナーが話しかける。

 

「話さぬ! そうやって名前を聞いて、妾にあんなことやそんなことをするつもりじゃろ!」

 

「お、おい、まさかトレーナー。この為にオレたちを……」

 

 そう言いながら彼女は傍から見ても演技とわかるほど大袈裟に水を払う犬のようにブルブルと震える。

 

「しねぇーよ! つーかウオッカ、俺がそんな奴に」

 

「「「「「見える(ます)」」」」」

 

「マジか……聞いてもねぇのに満場一致じゃねぇかよ……」

 

「なら、日頃の行いを省みることね。アナタに対しての初対面の印象、大体最悪だから」

 

「いや、理解してはいるが」と言わんばかりに動いた口からは声は出ず、上半身の紐を離されたパペットの様に頭を垂れる。

 

「ま、こんな野郎だけどさ。悪い奴ではねぇからよ。そうだ、まだこっちの自己紹介がまだだったな! 俺はウオッカ宜しくな!」

 

「私はダイワスカーレットよ。よろしくお願いするわ」

 

「サイレンススズカです。よろしくお願いします」

 

「えっと、さっきも言ったと思いますけど、スペシャルウィークです! よろしくお願いします!」

 

「あ? これ、私も自己紹介した方がいい感じか? じゃ、ゴールドシップってことでよろしく〜」

 

「これはご丁寧に。妾はタユウグロと申す者。この日ノ本一のウマ娘になるためにここにいるのじゃ。宜しくお頼み申す」

 

「…………え」

 

 トレーナー(仮)が何か言おうと声を上げるが少し悩んだ挙句に頭を掻きむしり口に出そうとしたものを引っ込めて言う。

 

「あ〜、俺はここじゃトレーナーって呼ばれている。ここの担当トレーナーだ。よろしく。あ〜……とりあえず体操服に着替えてくれ」

 

「む。お、お主はそういう……」

 

「ちっげーよ! 身体能力の測定がしたいんだ。上がり三ハロンのタイムとかな」

 

「ええー! トレーナーさん! 私にはそんなことしなかったじゃないですか!」

 

「スペはリギルの模擬レースで見てたからな。後はだいたい普段の練習風景で分かる。だが、タユウグロは分からねぇんだ。だからやる。って言う訳で、今日練習無し! お前ら計測手伝え!」

 

「「「「えぇ〜!」」」」




勝者と敗者の違いはたいていの場合、やめないことである。
~ウォルト・ディズニー~
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