……これは…そう、確かこれは小学4年生の冬頃のお話。
え?急に話が飛ぶって?……まぁ…その2年間も彼は彼らしかったというか…なんというか…。
……コホン、話が逸れそうなので元の話に戻すよ?
それだけ、これは私にとって大切な思い出だから。
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小学4年生になった私は相変わらずクラスの女子には色々とちょっかいを出される。
でも男子からのそういういじわるは減ったように感じる。
それがどうしてかなんてわたしには分からないけど。
零さんとはあれからも一緒に遊んだり、帰ったり…まぁ色々。
仲良くはなれてると思う……うん
最近はやっと彼の妹…白ちゃんから睨まれることが減ったような気がする。
…仲良くなれてるのかな?
今日は12月17日朝から雪が降っていて教室の窓から見る校庭は一面が薄らと白く色付いている。
外と中の温度差のせいか窓ガラスは白く曇っていて、それが外の寒さを物語っているように思えた。
彩葉「……はぁ」(退屈だな…)
黒板には教科書に書いてあることがほぼそのまま写されておりそれが余計に退屈さに拍車をかける。
彩葉「……あっ」(あっあれ、零さんかな?……寒い中頑張ってるなぁ…ふふっ)
先程から窓の外を眺めていたのは理由がある。
それは零さんのクラスが今日外で体育をやると言っていたからだ。
おそらく寒い!とか言ってるんだろうなっと彼のことを考えて思わず微笑んでしまいそうになる。
あっ……手を振ってる?…もしかして気づいた?
………そういうところなんというか…ずるいというか……
見えるか分からないほど小さく手を振り返していると先生に当てられてしまった。 幸い難しい内容ではなかったけれど…反省…。
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放課後になり零さんはいつも通り教室まで迎えに来る。
黒姫零「迎えに来たよ!」
いつもこんな風に楽しそうに笑顔で迎えに来る彼を見て、自然と私も口元が緩んでしまう。
彩葉「今日はちょっと遅かったですね」
黒姫零「えっ?うそっ!ごめん」
私が冗談でいじわるを言うと面白いくらいに純粋な反応で返してくれるため、思わず笑ってしまう。
彩葉「ふふっ冗談ですよ! 帰ろう?」
そんなやり取りをして一緒に帰る。とても大切な時間だ。
黒姫零「寒いし手つなご?」
帰り道に彼は唐突にこういうことを言う。
これを他の女の子とかにもしてるんだろうか……してるんだろうな…零さんはそういう人間だ。
不意にこういうことをしてくるのだからタチが悪いったらない…決して手を繋ぐのが嫌とかそういう話では…誰に弁明してるんだろ……私。
ふと…下校道の途中の橋を渡っていると前から高校生だろうか? 制服を着た人達が歩いてくる…不良の様な風貌少し怖いと思い零さんの手を握りながら目を合わせないように精一杯目線を逸らす。
「おいおいガキの癖にカップルかよ」
そんな風に高校生の1人が私たちの方を見て茶化すように何かを言っている。それをきっかけに周りも私たちの方を見て話しかける。
「仲良くおててつないで下校ですか〜?」
「最近の子はマセてまちゅね〜」
揶揄う人達に少し怯えながら零さんに手を引かれ前へと進む。
「おいおい無視とか傷ついちゃうよー?」
「あんま絡むなって笑」
高校生の1人が私たちの方に近づき絡んでくる。
黒姫零「ねぇ」
「おっやっと止まってくれたじゃん?」
突然零さんが足を止めてそのおにいさんに向けて口を開く。
黒姫零「彩葉ちゃんが怖がってるからそれ以上近寄らないで欲しいし、それに話しかけないで」
「あ?」
零さんの言葉におそらく…というか絶対に腹を立てている。
黒姫零「仲良く一緒に帰っても良いでしょ?それともおにーさんはそんなことできる仲のいい女の子いないから嫉妬してる?」
彩葉「零さん?それ以上は…」
私が喋ろうとした矢先に零さんに近寄り、怖いお兄さんは零さんに蹴りを浴びせる。
「おいおい、こっちが優しく話しかけてたら良い気になりやがってよ?思わず蹴っちまったじゃんか?」
零さんは蹴られる時に私の手を離していたみたいで橋の手すりにガンッと大きめな音を立てて叩きつけられる。
黒姫零「つっ…いたたた…小学生相手に蹴るとか本気?」
「妹から話に聞いてたけどこの天野彩葉ってやつに厄介なやつがついてるってな でもこういう口が回るやつは結局力には勝てないんだよ」
黒姫零「妹?」
「そうだ、妹はそこの天野彩葉ってやつと同じクラスでなずっと気に食わないから懲らしめてやってなんて言われたからちょっかいかけてやろうと思ったんだよ」
彩葉「それじゃ…零さんは関係ないじゃないですか!」
「関係ない? へーじゃあお前に何してもいいんだな?」
少し離れた位置からこちらが何をしているのかわかっていない高校生達が見ている。
きっと角度的に何をしているのか見えないのだろう。
黒姫零「年下の女の子に手を出したらそれこそ最低じゃない?」
「黙って寝てろって」
横顔をはたかれて零さんは倒れる、そこに駆け寄って声をかけようとすると男の人は私の大事な髪飾りを強引に奪う。
彩葉「あっ…それはお母さんがくれた…大切な」
「お母さんには遊んでたら無くしちゃいました〜って言っとけ笑」
そう言ってヒラヒラと私の髪飾りを持って笑いながら集団に戻っていく。
その男の周りの人間は笑っているだけで私たちに何かをしようとはしてくれなかった。
彩葉「……お母さんがくれた…大切なものなのに…」
久しく泣いていなかったのに思わず涙が出てしまう。
こんな理不尽があっていいものなのか…。
そう打ちひしがれてると零さんはゆっくりと起き上がる。
黒姫零「彩葉ちゃん…ごめん」
彩葉「ううん…私のせいだもん…ごめんね」
そこからは2人で無言で帰った、今にも泣き出しそうだったけど零さんにはそんな所は見せたくなかった。
黒姫零「…着いたね」
彩葉「…うん 今日はほんとにごめんね」
謝る私を零さんは抱きしめる。
彩葉「んぅ…零さん?」
黒姫零「…待っててね」
零さんの言う言葉の意味を知らないまま家の前でその日は別れた。
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黒姫零「さてと…」
"青い目をした彼女…彩葉ちゃんを送り、先程まで2人で歩いていた道を引き返す。
黒姫零「悲しい思いをさせたあいつは許さない」
どんな手を使ってでも奪い返す。
そう言って少年は陽の傾いた通学路を引き返していった。
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夜、私は髪飾りの事をおじいちゃんやおばあちゃんには上手く誤魔化していたもののずっと心は曇っていた。
そんな時、インターホンが鳴る。
(来客なんてあまりいないのに珍しいな…)
そんなことを考えているとおばあちゃんがどうやら応対しているようで話し声が聞こえる。
「あらまぁ…零ちゃんじゃないの…どうしたのかしらこんな遅くに」
おばあちゃんの言葉に思わず耳を疑う。
「え?彩葉ちゃんに渡すもの?あの子のためにわざわざ学校まで取りに行ってくれたのかい?零ちゃんは優しくていい男だねぇ」
「彩葉ちゃんや〜」
おばあちゃんの呼ぶ声を待たずに私は思わず駆け足で玄関へ向かう。
彩葉「…零さん」
玄関に着くと何故か"玄関の外"の暗がりから零さんが来たのを確認できる。
黒姫零「…彩葉ちゃん…こんばんは」
「彩葉ちゃんも隅に置けないね〜」
そんなことを言っておばあちゃんはリビングの方へと向かう。
黒姫零「あーごめんね?遅くなっちゃった」
そう言って彼はポケットから見覚えのある髪飾りを取り出す。
彩葉「……零さん…」
大切な髪飾りを取り返してくれた喜びよりも先に私は零さんの差し出していた手を掴む。
黒姫零「…っ…あのー?髪飾り、取り返したよーって」
彩葉「…なんで…こっちに来てくれないんですか?」
私は陽の落ちた外の暗がりからこちらに来ようとしない零さんに思わず意地になって腕を引っ張る
黒姫零「あだだだだ痛い痛い、わかったよ…」
渋々といった感じで近くに寄った零さんの姿を見て息を飲む。
彩葉「…酷い怪我…腕も…顔も痣だらけ…」
黒姫零「まぁ…穏便には返してくれなかったから…」
彩葉「なんで…そこまで…」
泣き出しそうな私を見て零さんは髪飾りをつけながら怪我だらけの顔でにっこりと微笑んで
黒姫零「大切な友達だからさ、悲しんで欲しくなかった」
そう言って彼は「またねっ」 なんて言っていつもの調子で帰っていってしまった。
複雑に揺れ動く私の気持ちは、淡雪の様に薄らと道に積もる雪とは裏腹に同じ時間を過ごす程、深く深く色付いていた。