ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
宝石の実がなる樹を探すという、なんともメルヘンチックな追加依頼を承諾し、いざ出発となれば依頼した本人であるシャクティさんは同行せずに、捜索隊の指揮はハシャーナさんが執り行うことになった。
「ハシャーナさんって、以前どこかで会いませんでしたっけ? 初めてって感じがしませんね」
私は出発し始めて少ししたところで、話題作りがてらに話しかけてみた。
「俺か? いや……記憶がねぇな」
「ですよねぇ。勘違いかなぁ?」
「お嬢様、この方は私達が初めてオラリオに入市した際に検問を行っていた方です」
私が首をひねっていると、エルティナが答えを言ってくれた。エルティナならいつどこで誰と出会ったかは全部記録しているだろうから、こういうときには大変助かる。何せ私は今まで食べたパンの枚数を覚えてないほど記憶力がないのだ。
「ああ、そうか。あのときはお世話になりました」
「そういやぁ、妙な二人組がいると気になった覚えがあるな。まさか、本当に冒険者になるとは思わなかったぜ。しかも、最速記録だろう? たいしたもんだ」
世間は狭いものだと思いつつも、ガネーシャファミリアは秩序を維持する仕事を主としているので、入市管理とかはまさにか。だけど、そういうのはギルドの仕事なんじゃないかなぁ? ギルドって、一応この街の行政府みたいなものだと思っていたけど、思った以上に権限が低いように思えてならないんだよね。
というか、ファミリアの権力が高すぎるだけかもねこれは。上級のファミリアにもなるとギルドでも口出ししにくいなんてことはよく聞くし。
「あ、そうだ。私、グリーンドラゴンについて殆ど何も知らないんです。どういうモンスターなんですか?」
「そうか。お前達は遭遇したことがなかったか。グリーンドラゴンってのは24階層最強のモンスターで、殆ど階層主とやりあうと思った方がいいな。大樹に擬態できるから木竜って呼ばれることもあるな。とにかくどこに潜んでるかも分からないから奇襲に気をつけろよ」
「擬態とか怖いですね。毒のブレスとか吐くんですか?」
「森の中で想像できることは何でも出来ると思った方がいいな。ともかくお前達は自分たちの身を守ることを最優先だ」
「なんか、すごいですね。それじゃあ、私はとにかくエルティナとアミッドさんを守ります。エルティナは、とにかく前戦で状態異常の解除に専念した方がいいかもね」
体力を回復しても状態異常が続けばじり貧だから、とにかく毒や痺れみたいなのは速攻解除して回った方が戦線維持に貢献できるだろう。
おそらくこれがエルティナとアミッドさんの初めての連携プレイになるだろう。初めての共同作業と言えば聞こえはいいけど、多分そこまで上手くはいかないだろうから、私がいかにフォローできるかが勝負だね。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
しばらく24階層をうろつくことになったが、一向に目的地にたどり着く様子がないのでハシャーナさんに聞いてみると、どうやらグリーンドラゴンと宝石樹が出現する場所は特定の場所ではなく結構ランダム性が高いらしい。
なるほど。特定の場所となってしまえば狩り場の独占みたいなことが発生してしまうだろうから、よいバランス調整だと思う(ゲーム脳)。
「ひょっとして、最悪エンカウントしないまま撤収とかあります?」
「十分あるな。他のチームは手堅い冒険者クエスト担当で、俺たちは一攫千金狙いのギャンブルみたいなもんだ。団長もそれは認識してるからそうなったところで気にせんでいいぞ」
ギャンブルとか嫌いなんだけどね。OL時代に職場でやたらパチンコや競馬の話をしているおじさん達を見て何が楽しいのかと同僚とささやき合っていたものだ。
「うーん、なんだかなぁ……ねえ、エルティナ。エルティナの探索で何とかならない?」
「範囲を広げすぎますと逆に探知される対象が増えすぎますので特定は難しいかと」
「そのなかでも一番驚異度の高そうな対象だけ潰していけばいずれは一番ヤバイやつに当たるかもしれないよ」
少なくともしらみつぶしに動き回るよりはマシだ。
「お嬢様の指示には従いますが、それをどのように皆様に説明するのでしょうか?」
「それは……あれだ、エルティナの魔法って言っときゃいいんじゃない?」(浅はか)
困ったときの魔法頼りはあると思います。
「お嬢様がそれでよろしいのでしたら私からは何も言うことはありません」
エルティナとしては無茶苦茶不本意ということだろう。ゴメンねエルティナ。
「すみませんハシャーナさん。このままじゃらちがあかないのでエルティナが広範囲に索敵の魔法を使いますので、そのなかで一番強そうやつを順番に倒していくって感じでどうですか? しらみつぶしよりもずっと効率がいいと思います!」
ダラダラとピクニックみたいにだべり合っていたハシャーナさんに向かってちょっと声を張り上げて挙手をした私に全員の視線が集まった。よしよし、注目して貰えたな。
「敵を探す魔法ですか? それは、ずいぶんと消耗が激しそうに思えるのですが……」
私達の少し後方を歩いていたアミッドさんが心配そうにエルティナを見るが、
「問題ございません。消費する
まあ、単純に言えば指向性の高いフォトンをぐるりと一週回して跳ね返ってきた反応を検知するだけだから、むしろ帰ってきた反応を有用な情報に処理する方がリソース取られるまであるな。
ちなみに、エルティナはサポートパートナーとしてアークスよりも高精度のセンサーと広範囲のレーダーを装備しているので、私がやるよりもずっといいのだ。アークスは基本的に索敵などの広域探査はキャンプシップのレーダーやセンサーを使用するので、基本装備だけでは最低限の機能しか備わっていない。そんなものにリソースを喰うぐらいなら攻撃力を高めるのがアークスのやることだ。
「試しにやって貰ってもいいんじゃねぇの?」
ハシャーナさんの隣を歩いていたモブっぽい男の人がそう言うと、ハシャーナさんも少し考えると、
「分かった。それならお願いしよう」
「承知いたしました」
エルティナはその場に立ち止まり、しゃがみ込んで地面にウォンドを突き立てるようにして深く集中した。
『どうしたの? エルティナ。探索だけだったら歩きながらでも出来るでしょう?』
『私が使うのはあくまでも魔法ですので。そのように振る舞う必要がありますので』
『なるほど?』
この惑星では魔法の行使にはいろいろ制約があるから、それっぽく偽装するって事か。エルティナらしい完璧主義だけど、他のテクニックは超短文詠唱(速攻魔法?)ですでに行使しちゃってるから今更じゃないかな?
「悪しき者よ眼前に示せ……エリアサーチ」
瞬間的にエルティナの周囲に青白い光が舞い上がり粒子となって空中を駆け抜けて消えていく。もちろん、フォトンを利用したただの光の演出で特に意味はない。
『きたきた……結構多いね』
『フィルタリングを行います』
私のHUDの広域マップにエルティナが索敵した対象が赤い光点として次々と出現していく。その数はまさに星の数ほどだ。ここはダンジョンなんだから、無条件にエネミーを探索したらそれこそ馬鹿げた数が出現するわけだが、エルティナが自身のデータベースから驚異度の低い対象を次々と削除していくと、数秒もしないうちに残された光点は片手で数える程度になった。
『これのどれかって事かな』
『少なくとも、私のデータベースには存在しない反応です』
エルティナはそう言って立ち上がるとハシャーナさんに向き直って、
「どなたか地図を扱える方はおられますか?」
と問いかけた。
「それならアタシが」
若い獣人の女性が手を上げてエルティナのところに駆け寄った。
「索敵結果を教えます。まず、現在位置ですが……」
「うん。今いるのはここ……で、方角はこうで……縮尺は……」
獣人の女性は背の低いエルティナに視線を合わせるように跪いてエルティナに地図を見せながらエルティナが索敵した対象の位置に印を付けていく。
「で? どうする?」
ハシャーナさんはモブっぽい男の人からどうするか聞かれていた。まあ、エルティナを疑うわけじゃないけど、決断するには材料が少ないってところだろう。アミッドさんは特に意見は言わず静観するみたいだね。
『もうちょっと材料提供してみる?』
私はエルティナに通信で聞いてみるが、
『具体的に何を?』
『いや、思いつかないけど』
『そうですか』
うむぅ……マスターとしての威厳が……元々ないか。
「適当にぶらつくよりは目標があった方がモチベも保てるか。よし、
これで上手くいけばエルティナの株も上がるだろう。もっとも、索敵した対象の中にグリーンドラゴンがいる保証はないけどね。いるといいなぁ……。
「よし、出発だ。モブーカとパルヴァは先行しろ。残りは全周警戒」
「モダーカです!」
なんかよく分からないけど、さっきのモブっぽい男の人とマップを持っていた獣人の女の人(たぶん、パルヴァって人)が水先案内人みたいになるのだろう。
私達はアミッドさんと一緒に後詰めだ。
さてさて、面白くなってきたね。
演出は大切