ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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―UNKNOWN―

 

「これで、三体目。残り一体ですか……」

 

 最後の負傷者を回復し終わったアミッドさんがそうつぶやいた。

 

 ここまでエルティナの索敵により、三度の戦闘を行い、それぞれどれも中ボス程度のモンスターとエンカウントしてそれなりの苦戦を強いられたところだ。

 

「やっぱ、24階層は面倒なのが多いな」

 

 モブっぽい男の人がぶつくさ言いながら大量にまき散らされた魔石を丁寧に拾っていく。

 

「ねえ、もう一回ぐらい索敵する?」

 

 私もエルティナと一緒に魔石やドロップアイテムを拾いながらそう聞いてみた。

 

「マスターの指示に従います」

 

「いや、おそらく時間的に次で終わりだ」

 

 私達の会話を聞かれたのか、頭上からハシャーナさんの声が降ってきた。ハシャーナさんはなかなかの巨漢なのでこうやって見上げないと視線を合わせられない。

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、まあ、こういうこともあるさ」

 

 少なくともエルティナの索敵ポイントにはそれなりの強敵がいたから、エルティナの索敵魔法()に対する信用は得られたかなと思う。

 

「そうですね。やっぱりギャンブルは外れる方が多いですしね」

 

 といっても私はギャンブルエアプだから、感覚は分からないのだけど。アークスシップのカジノはどちらかというとアークスの福利厚生のため作られた娯楽施設だから、ゲームセンターに近い。

 ゲームではSG(スタージェム)と交換するために定期的に通ったものだ、懐かしい。

 

「当たるとでかいのもギャンブルの醍醐味だぜ? お嬢ちゃん」

 

 ハシャーナさんはそう言って親指を立ててニカッと笑う。私はコツコツ積み上げる方が好きだなぁ。

 

「準備完了したみたいよ」

 

 そうパルヴァさんがハシャーナさんに報告し、ハシャーナさんは「よし!」と膝を叩いて全員をぐるりと見回し、一人一人と目を合わせてお互いにうなずき合っている。

 

「次で最後だ! 気合い入れろ!」

 

「「おう!」」

 

 私、こういうノリは嫌いじゃないよ、もちろん私も精一杯短い腕を持ち上げて拳を突き上げ、「おー!!」と叫んだ。アミットさんとエルティナはちょっとノリが悪かったね。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

 深い森に飲み込まれそうだ。木々の柱が大地を貫き、緑の天井は全てを覆い尽くして、大地に深い闇を生み出す。

 

 鬱蒼としたという表現が最も適するのだろう。

 

 夜の闇よりも深い緑の暗がりこそが、そこに何かが潜むという恐れを生み出してはそれを踏みしめる乾いた音によって打ち消されていく。

 

 ふと見上げた梢の間から差し込む陽光が夜空の星のような瞬きを私へと届けてくれる。奇麗だと思いつつも、本当なら洞窟であるはずのこの場所に太陽など存在しないことへの不気味さが同時に湧き上がってきてなんとも居心地が悪い。アークスの任務で不思議な場所はいくらでも体験したが、この惑星のダンジョンほど不思議な場所はお目にかかったことがない。

 

 まだ中層でこれほどの不思議に満ちあふれているのだ。下層、深層をくまなく探査すれば想像も出来ないほど奇妙なモノやコトに出会うことが出来るだろう。私はそれが楽しみでしかたが無い程度にはアークスであるということなのだろう。

 

『やっぱり、冒険とレアドロがアークスの醍醐味だって思わない?』

 

『それは冒険者にも当てはまると思われます』

 

 エルティナの返答に私は心の中でうなずいた。アークスとしていろいろ下駄を履かせて貰っているからこそだが、私は今、冒険者として冒険を楽しんでいることには違いない。

 

『まあ、楽しんでる場合じゃないんだろうけどね』

 

『いや、君は君の思うとおりに歩めばいいよ。その先にはきっと素敵なことが待っているだろうさ』

 

 急にワカヒルメ様の声が通信機越しに聞こえてきて少し驚いた。

 

『あ、ワカヒルメ様。ごめんなさい、つながってましたか』

 

 エルティナを見ても特になんと言うこともない表情をしていたので、これはシステムエラーではなく、単に私が設定をしていなかっただけということだ。

 

『いや、切らなくてもいいよ。君たちの会話を聞いているだけで楽しいからね』

 

『分かりました、邪魔になったらいつでも遮断してくださいね』

 

『こちらのことは気にしなくてもいいよ。たまに会話に混ざるかもしれないけど』

 

『分かりました』

 

 ダンジョンにいながら主神様と会話できるの私達(ワカヒルメファミリア)独自のことだ。私達は主におしゃべりのために使っているけど、他のファミリアならどういう風に活用するのかちょっと気になるところだ。一日一回の生存報告が出来るのは、主神様に安心を与えることができるぐらいかなぁ。

 

「本当にこのあたりなんだろうな?」

 

 私がどうでもいいことをつらつら考えていると、ハシャーナさんが立ち止まって周辺を見回しながら、エルティナに声をかけた。

 

「間違いございません」

 

 エルティナはその視線にわずかな恐れも抱くことなく、はっきりとまなこを上げて答えた。エルティナの言うとおり、私と共有されたHUDにも明らかに強敵と思われる光点が不気味な輝きを放っているのだけど、全く接触する気配がなくてちょっと退屈していたところだ。

 

「そうか……」

 

 ハシャーナさんはそう言いつつ頭上へと目をやった。あまりにも暗い。ここが地下24階層であるにもかかわらず、本来なら地上の森林と勘違いするほどに明るいはずが、その輝きの全てが頭上の緑によって遮られてしまい、わずかな木漏れ日によってようやく足下の石塊のでっぱりをうかがえる程度の事だ。

 

「地上にはいないってこと? それだと上空か、それとも地面にでも潜ってるのかな? モグラとかミミズみたいなやつ」

 

 ここに何かあるということは明らかだけど、見えないことには判断しようがない。さっさと奇襲でも何でもいいから姿を現してほしいものだ。まあ、アークスに奇襲をしたければダーカーみたいにいきなり空間上に出現する必要があるけどさ。

 

「深層ならあり得るな」

 

「じゃあ、深層のモンスターが上ってきたとかあり得ます?」

 

 仮にそれがミミズみたいなモンスターとかだったら、絶対に会いたくない類いのモノだ。芋虫も苦手。モグラは土竜だから木竜の親類みたいなものだ。

 

「そんなことになったら、このフロアを閉鎖しなくちゃならないわよ」

 

 パルヴァさんが呆れたような声を出した。つまり、あり得ないわけじゃないってことか。もしもお目にかかれたら経験値の宝箱を見つけたようなものだから、是非ともお目にかかりたいものだ。戦い甲斐もありそうだし。

 

「ねえ、エルティナ。もう一度探索してみる? ディープスキャンしたら……」

 

 HUDに表示されているのはあくまで二次元表示しかされていないので、この場で詳細に探索を行えば上空や地中、あるいは極近接の亜空間に潜んだ対象も見つけられるはずだ。

 

「いえ、来ます。皆様、備えてください」

 

 しかし、私の提案はエルティナの鋭い声によって宙に消えた。そして、エルティナは自らのサミットムーンをかぶせたリバレイトウォンドを掲げ、フォトンを収束させ始める。

 すぐさま私のHUDにもエルティナの情報が共有され、エネミーと思われる反応が次から次へと出現し始めた。

 

「囲まれちゃったね」

 

 私はとりあえずエルティナと一緒にアミッドさんの盾になるように位置を調整し、腰の繋止部から巨剣をリリースして戦闘態勢を整えた。

 

「地下か?」

 

 ハシャーナさんはエルティナの声に応じて大剣を構え、それと同時に地面がボコボコと隆起し始めてそれが地上へと姿を見せた。

 

「根っこ?」

 

 それは、巨剣を構えて迎え撃つ私達のはるか上方まで蔓を伸ばして頭上から襲いかからんとしていた。一つや二つではない、私達のHUDに表示されているのは、すでに私達をぐるりと一周するほどにまで数を増やしている。

 

「ラ・バータ」

 

 エルティナが収束させたフォトンが氷結の属性が与えられ、轟々とした吹雪となりそれらが幾重も折り重なって蔓たちに襲いかかっていく。

 

「なんだ? 世界最速小人族(レコードホルダー)の魔法か?」

 

 吹雪は確かに自分たちをも巻き込んでいるはずなのに、味方には一切の影響ももたらさずに襲い来るモンスターにのみ極寒の楔を打ち込んでいった。フォトンによるテクニックは敵味方識別機能があるので、こういう乱戦状態だと特に有用だ。

 

「モンスターが……凍っていく……」

 

 ラ・バータは氷系のテクニックの中ではきわめて高い凍結(フリーズ)特性がある。これは、エネミーを凍結させて動きを止めるという状態異常を与えるという優秀なテクニックではあるのだが、ゲームではむしろ迷惑系テクニックとして認識されたりするので多様は推奨されていなかったやつだ。

 

 まあ、実際のところあんまり気にする必要はないとは思ったけど、一応心にとどめておくぐらいでいいと思う(余談)。

 

 

「効果は一時的ですので今のうちに戦闘準備を」

 

「ありがとうエルティナ。それじゃ、戦闘開始だね」

 

 私はそう言って一番近くにそびえ立つ氷の彫像と化した巨大な蔓に全力で巨剣を振って破断させた。私はアークスとして突然ダーカーが背後に出現したりするのには慣れていたから、一足先に行動できたというわけだ。

 

「応戦しろ!」

 

 ハシャーナさんの号令に応じてようやくガネーシャの人達もようやく行動を開始する。

 

「なんだ? これがグリーンドラゴンってのか?」

 

 私の近くに位置づけたモブっぽい男の人は切り落とした端から新しく伸びてくる蔓を見上げ、思わずといった風につぶやいた。

 

「ちがうんですか?」

 

「分からん!」

 

「敵、さらに増加。頭上への警戒を厳に願います」

 

 私達の中央に立つエルティナは冷静に状況を把握して警告を飛ばしてくれている。なるほど、地中だけでなく上からも攻撃が振ってくる訳か……器用なやつだね。

 

「私がいくよ!」

 

 頭上の木々の隙間からそれらしい影が見えたところで、私は虚空跳躍(ネクストジャンプ)を使って上空に飛び上がる。空中と言えば私の独壇場と言わんばかりに襲いかかる枝を次々と刈り取っていくが、刈ったはずの枝がさらにグンッと伸びてきて巨剣を握る方の腕に巻き付いてきた。

 

「おっと」

 

 突然のことなのでバランスを崩し、虚空跳躍(ネクストジャンプ)が空振りになってしまいそのまま宙づりになりかけた。さらに隙が生まれてしまったところに、もう片方の腕にも蔓が伸びてきてぐるぐる巻きにされそうになった。

 

「あ、ヤバ……」

 

 ここまで固定されてしまうと、力の弱い私では、自力で抜け出すことは難しい。

 一旦巨剣を手放して、フルクシオを装備すれば簡単に抜け出せはするが、どうしたものかと一瞬考えるが、余った蔓が鋭い槍になって、私の心臓めがけて襲いかかってくるところ見るにあまり余裕はなさそうだった。

 

「突出しすぎ!」

 

 一瞬固まってしまった私を、パルヴァさんが鋭く咎めて、私を拘束する二本の蔓を切り払って助けてくれた。

 

「すみません、助かりました」

 

 危うく命を一つ持って行かれるところだった。フルクシオを装備してラスタースキルを有効にしていればウィルを一つ消費するだけですんだので、次は迷うことなく実行しないとダメだな。

 

『油断しすぎです、マスター』

 

『ごめん。ちょっとはしゃぎすぎた』

 

 私達の通信はワカヒルメ様の耳にも届いているはずだ。だけど、なにも反応されないということはこちらの注意を引かないようにと配慮していただいているということだろう。やはり、私達の主神様は最高だ。

 

「やばいぞ、森そのものが敵になってる」

 

 誰かがそう叫ぶように、すでに四方八方から枝のような蔓のような攻撃がひっきりなしに続いていて。一つを切り払ってもすぐにお替わりが来るような状態で終わりが見えない。

 

「撤退を考えるべきよ」

 

 全員が一カ所にまとまって円陣を組み、その中心でエルティナが回復と支援のテクニックを使い続ける。

 アミッドさんも何とか回復魔法と思われる詠唱をしようとしているが、飽和攻撃にも近い状態になっていてなかなか集中して詠唱を継続できていないようだ。

 オラリオの魔法は一度の威力や効果は凄まじいものがあるが、そこに至るまでに多くの障害を乗り越える必要があるのがネックだね。

 

「これじゃ、きりがないよ」

 

 私のつぶやきに答えてくれる人はいない。そんなことはみんな分かりきっているからだ。

 

「退路を確保するのも難しいぞこれは」

 

 というモブーカさん「モダーカだ!」。

 

「ねえ、エルティナ。イル・フォイエいける?」

 

「可能です……が、森林地帯での使用は推奨されません」

 

「ここはすでにエネミーのお腹の中なんだよ。こうやって私達はまんまと森に食べられてゆっくりと消化されてるみたいなものだと思うんだ。だから、お願い」

 

 嫌なたとえだが、この状況を説明するには最適だろう。化け物に丸呑みされた小人に許される抵抗は古今東西何も変わらない。とにかくお腹の中で暴れ回って吐き出されるのを待つのみだ。

 それが森や木になれば、一番嫌がるのはなにか。それは焼き払ってやることに違いない。これが普通の森林なら火災や環境破壊を気にしなければならないが、ここはダンジョンだ。

 

「承知しました。最大限のチャージをいたします」

 

 エルティナは私の強い要請(オーダー)にうなずき、その場に立ち止まってウォンドを掲げ深く集中してフォトンを励起させた。それに応じるように足下に【発展アビリティ:魔導】の効果による魔法陣が現れ、フォトンとは異なるエネルギーである魔力まで湧き上がってきて共に収束を開始する。

 

宇宙に満ちる輝き(フォトン)よ。全ての記憶の根源(アカシックレコード)よ。全知たる蒼き惑星(シオン)の名の下に、どうか私に力を貸してほしい」

 

 エルティナの言葉は詠唱となって世界に響き渡った。おそらくは、大技を使うことを周囲に知らしめるための演出であると思うけど、なぜかそれだけじゃない神聖さを私は感じ取っていた。

 

「皆さん、エルティナを守ってください」

 

「まってよ、治療師(ヒーラー)が攻撃魔法なんて……使ってたわね! まったく、本当にどうなってんのよアンタは!!」

 

 パルヴァさんは恐れや不安を吹き飛ばすように大声を出したかと思うと、まるで空中で舞うかのように、エルティナに集中して殺到する攻撃を全てなぎ払った。

 

「暁の時、夜の終わり。終の憎悪(シバ)はすでに希望(あなた)へと還り、深遠なる闇(かのひと)大いなる光(あなた)となり、その記憶が始まりの歴史を刻み……すでに私達はここにある――――そう、かのひと(ペルソナ)によってすでに救いは成就されているのだ」

 

 それはいったい誰の記憶なんだろう。エルティナは知らないはずだ。本来なら私達一般アークスも未だに知り得ないこと。いずれは公開されることだろうけど、シャオの口はまだ閉ざされている。

 

「凄まじい魔力です……小人族の聖女(リトル・セイント)……あなたはいったい……」

 

 アミッドさんのつぶやきに答える人はいない。誰も分かっていないからだ。おそらく私も、今のエルティナを知らない。

 

「ああ――どうか私達を許してほしい――私達は決してこれでは終わらせない。万物は新たな歴史を刻み始めたのだ。悲しみの輪回はすでに解き放たれた――願わくは、あなた(かのひと)と共に未来を歩みたかった――どうか見守っていてほしい」

 

 そこにいるのはシオンなのだろうか。シオンの願いと意思がエルティナに力を与えているのだろうか。シオンの縁者ではない私に、シオンの声が届けられたことは一度たりともない。

 

 だったら、今のエルティナ(あなた)は一体誰なの?

 

「踏ん張りどころだ! 全員、根性見せろ!!」

 

 ハシャーナさんの檄が私達の土台となって力強く支えてくれる。

 

「来たれ極炎。陽光よりも輝く火球となりて全てを焼き尽くせ……」

 

 エルティナはそうして短杖(ウォンド)を掲げ全ての力を解放した。

 

「イル・フォイエ」

 

 その瞬間、頭上に太陽が出現した。

 

「嘘でしょ……」

 

 それは誰のつぶやきだったのか分からない。そのまばゆい輝きは熱となってすでに蔓のモンスターの身を焼き始めている。

 

テクニック(フォトン)魔法(魔力)の融合か。すごいね、エルティナ」

 

 不気味なほどにゆっくりと落ちていく火球は何者にも遮られることなく着地し、その瞬間、網膜を焼くほどの輝きの極炎となって世界を包み込んだ。

 

 

 









エルティナが詠唱をしたのは、その場のノリと勢いです。後のストーリーとの整合性を取るのが大変だけど、後悔はない。

詠唱のフォントの候補を探しております。おすすめを教えてください。




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