ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
続きがなかなか書けないので一旦番外編を挟みます。結構難航してます。
時間は少し遡って、ベルディナ達が遠征に出かける前、巨剣をメンテに出した直後まで巻き戻る。
巨剣をメンテに出したベルディナはスィデロに使ってもらう武器の選定に頭を悩ませている頃合いに、自身の工房に戻った椿は肩に乗せていた巨剣を特性の金床に乗せて一息ついていた。
「ふぅ……さすがに一人で運ぶのは辛いな。次は誰かに手伝わせるか」
腕を回しながら作業台においてある水差しを手に取るとがぶがぶと豪快に水を飲み干した。力自慢の第一級冒険者である椿でさえも、ベルディナの巨剣は重たいようだ。
本来ならスィデロが修練もかねて行うべきメンテであるが、今回ばかりはスィデロも忙しいと思い、団長である自分が責任を持ってメンテを受け持つという建前で、本音はベルディナの巨剣を一人静かにじっくりといじらせてもらおうというところだ。
「さてと、邪魔が入る前に取りかかるべきであろうな」
軽く身体をほぐしながら椿は壁面のラックに目をやった。そこには金槌や
椿がそれを眺めながら、今日はどの道具を使おうか、どの順番で使おうかと頭の中で作業の手順を思い浮かべているところに工房のドアがノックされる音が聞こえた。
「椿、居るかしら?」
返事を待たずに重苦しい音を立てて開かれた扉からは椿の主神であるヘファイストスが姿を現した。
「おお、今ほど戻ったところだ。これから作業なのだが、何か用事か?」
ウキウキとしていたところに水を差されたのか、少しばかり口をとがらせる椿にヘファイストスは苦笑をして、
「いいえ。大したことじゃないわ。団員から貴方が巨大な剣を持って工房に行ったと聞いたものだから、少しお手伝いしようかと思っただけよ」
そう言いながら、ヘファイストスは工房の中まで入り込み、巨剣のメンテナンスのために特注した特性の金床に置かれた真っ白な巨剣に目を下ろした。
「目ざといものだ。今日こそは独占できると思ったのだがな」
椿は肩をすくめながらラックから小ぶりの金槌を二つ取り上げて片方をヘファイストスに手渡した。
「ありがとう椿。やっぱりね、これだけは気になるから」
「気持ちは分かるよ。こいつは私の全財産を投じて買い取っても何も惜しくないほどだ。主神殿もそうであろう?」
「そうね。今後、あの子達が必要な装備は私が直接、無料で、無制限で提供してもいいってぐらいかしら」
「はは……それは億千万の金塊でも足らぬほどのものだな。しかし、この剣があればそれも不要ということか」
「ええ。悔しいことにね」
そう言いながら二人は小さな金槌で巨剣の表面を軽く叩き始めた。見た目は目立った傷もない、美しい金属面が見えるが内部には目に見えない亀裂が発生することも多いので、叩いて戻ってくる音でそれを確認しているということだ。
「ふむ……目立った損傷はなさそうだな」
しばらく無言で交互にたたき合って、その音をお互いに確認し合っていた二人だが、概ね全体の確認をし終わったところで椿はそうつぶやいた。
「損傷があったところで直すのは難しいけどね」
表面的な傷であれば磨けば何とかなるが、内部の亀裂になれば焼き直しやたたき直しなどの工程が発生するので、難易度は跳ね上がる。
「特にこいつは、オラリオの大門サイズのオリハルコンがこの大きさまで凝縮されておるからな。ここの炉では熱不足であるし、たたき直すにも専用の鎚と金床を作るところから始めなければならぬか」
オラリオの大門は正面通りの先にそびえる最も巨大な門扉だ、常日頃から大型の荷車が幾重にも行き交うそれは、オラリアの巨大さを内外に示す象徴的なものでもある。
「だからこそ、
「こんなことが出来るのは
「ないわね。これほどのものを忘れるはずがないでしょう?」
「そうではあるが」
通常のオリハルコンは極めて強度が高いがその加工の難易度の高さから、武器として性能を引き出すことが難しい素材だ。ましてや
武器としての性能はアダマンタイト製のものの方が優れているというのはこのためで、どうしても強度が必要、あるいは壊れない武器が必要という特殊な状態を除いてはオリハルコンが武器として使われることはない。
魔力への適応性もオリハルコンよりもミスリルの方が優れているので、魔法をメインとする冒険者もオリハルコンを重宝することはないだろう。
「手前でさえこれから修練を重ねれば、いずれは第二等級武装に達する武器が作れるかどうかだろう。神の御業としか思えんよ、これは」
その常識がこの一振りの巨剣によって打ち砕かれたのだから、鍛冶師としては平静でいられないのは当然だ。
「しかも、それほどの密度でありながら力自慢の冒険者であれば
大門の扉ほどの量のオリハルコンなど、本来ならロキファミリアの
それを、椿が一人で持ち歩いて少し疲れた程度で済んでいるのは理解不能というものだろう。
「天界で作られたものが、何かの弾みで下界に落ちてしまったということはありえんのか? それなら納得がいくが」
「ないと思いたいわね。私の武器がそんなずさんな管理をされているなんて思いたくないもの」
「そうか。なら、何も言わんよ。では、作業に入ろうか」
「そうね。手早く仕上げてあげましょう」
「そういえば、あの二人、今度のガネーシャファミリアの遠征に呼ばれておるようだったぞ」
「あら、そうなのね。大変ね。無事に戻ってきてほしいものだけど」
いろいろ噂は聞いているが、レベル2の二人を50階層まで連れて行くのは無茶が過ぎるのではないだろうかとヘファイストスは思うが、その遠征にレベル1の自分の団員を同行させようとしている自分が言えたことではないと思い直した。
「うむ。スィデロにも発破をかけておいた。未熟ではあるが……なに、あやつなら何とかするだろう。この剣に出会うほどの幸運の持ち主なのだからな」
「そうね。深層なのだから、武器ぐらいは私の方で用意した方がいいかしら?」
「なに、あやつも頼れる先輩はおるだろう。どうにもならなかったときにそうしてやれば良いよ。自分の武器は自分で用意するのも鍛冶師の役割だ」
仲間の武器を打つということは、仲間の命を預かるということ。ましてや自分の命を守れないものを用意できないのであれば鍛冶師としては二流三流だろうと椿は言外にほのめかした。
この冒険はスィデロにとってランクアップのきっかけとなるだろうと椿は確信する。ランクアップを果たし、【鍛冶】の発展アビリティを得ることでようやくヘファイストスファミリアの鍛冶師としての始まりとなるのだ。そのスタートラインを越えられない鍛冶師もまた多く、ランクアップしたとしてもさらなる高みに心を折る者も数えきれぬほどだ。
しかし、椿はスィデロはいずれ良い鍛冶師になるだろうと信じている。だからこそ、試練を課すのは自分の仕事だと確信しているのだ。
「この剣同様に、いずれ決して壊れぬ魔剣を打つ者が現れるやもしれん。楽しみでならんな」
世界は不思議で満ちあふれている。この自分など所詮オラリオという井の中の蛙に過ぎないと思わせてくれる武器が今目の前に転がっているのだ。
今ではあり得ないとされていることも、世界のどこかではすでに当たり前のこととして存在していることも十分にありうる。
「なあ、主神様よ。いつか、世界中を旅して回ってみたいものであるな。世界にはこの剣のように思いも寄らぬことに満ち満ちているかもしれんぞ」
「そうね――貴方の命が尽きるまでには、一度はそうしてみてもいいかもしれないわね」
「お? 言質は取ったぞ主神様よ。その時が来るのが待ち遠しいな」
「その前に貴方は後継者を作る事ね。後は、私を越える子が現れてくれるかどうかだわ」
「ははは……無理難題をおっしゃるな、手前らの主は。まあ、後継者であれば自前の肚で直接こさえる手もあるか……いや、相手がおらぬな」
「馬鹿なこと言ってるわね。それじゃ、始めましょう」
「ああ、楽しもうぞ」
ヘファイストスは願う。いずれは人の身でありながら自分を越える武器を造る者が現れることを。目の前の武器を誰が作ったのかは分からない。しかし、これを打ったのが人の子であるのなら、その希望は十分現実のものとなるだろう。
その日は夜遅くになっても工房の明かりが消えることはなかった。
なお、ベルディナが片手で巨剣を小枝のように振ることができる理由は、
①フォトンで重量軽減をしている
②質量までは軽減できないので、振った際の慣性はイナーシャルキャンセラー的ななにかで軽減している。
という設定にしています。あくまでも軽減しているだけなので、それに必要な筋力はフォトンで強化して何とか帳尻を合わせてます。