ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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いろいろ足りないみたい

 

 朝食も終わり、歯磨きも済ませたところでやることがなくなってしまった。

 

 アミッドさんはどうやら昨日の夜遅くまで仮設診療所の経営を行っていたようで、お昼まで仮眠を取ると行ってテントに引っ込んでいった。

 

「うーん。無理に付き合わせちゃったかなぁ」

 

「いえ、何かを口にするのは良いことと思われます」

 

「そうだといいけどね。折を見て差し入れを持って行こうかな。なにか甘いものはあった?」

 

「念のためということでクッキーを一缶リストに加えてあります」

 

「さすがエルティナ」

 

 オラリオのクッキーは安いものではないが、これがあるとないとでは冒険のモチベーションがまるで違うのだ。

 

「チョコクッキーがあれば一日はご機嫌だね」

 

 特につぶつぶのチョコチップが入ったやつが一番美味しいと私は確信している。一缶の中にも数枚しか入っていない貴重なやつだから、これだけは絶対に譲るわけにはいかないのだ。

 

『おはようございます。ワカヒルメ様、リザさん。そちらの様子はいかがですか?』

 

 私は毎朝の日課でもある二人への挨拶を投げた。

 

『うん、おはようベルディナ。こっちはなにも事もなく。相変わらず店番の毎日さ』

 

 ワカヒルメ様はしっかりとバイトにいそしんでおられるようだ。

 

『そうですか、そろそろワカヒルメ様の起業のことも考えないとですね』

 

『それはそうなんだけどね。先立つものがなぁ……』

 

 アストレアファミリアからいただいた不動産を、いずれはワカヒルメファミリアの工房として利用していこうという話しはしていたが、まだまだ具体的な事業として着手できていないのが現状だ。何よりもワカヒルメ様以外に職人さんがいないのが一番のネックになっていると思う。

 

 事業計画が具体的に決まっていないので、不動産のリフォーム(リノベーション?)も止まってしまっていて、今の借家から引っ越すこともままならないということだ。なんとも、もったいない話しだよね。

 地上に戻ったらエルティナにお願いして、真剣に話し合いをしようと思っている。

 

『こちらは今27階層を回っているところだ。そちらの戻りはいつ頃になる?』

 

 リザさんも問題なくダンジョンを渡り歩いているようだ。今回はガネーシャファミリアが通過するので、なるべく見つかりにくい場所にいてもらうようにお願いしている。いずれ、リザさんの同胞の人達も含めてダンジョンでも地上でも大手を振って歩けるようになればいいと思うが、先は長そうだね。

 

『お疲れ様ですリザさん。すみません、まだ数日はかかると思います』

 

『そうか、承知した。なるべく出会わぬよう潜んでいよう』

 

 ちなみにリザさんはそろそろ37階層にチャレンジしたいと言っていたが、骸骨兵が思いのほか戦闘力が高い上にかなりの物量戦を仕掛けてくるのと、ウダイオスが想像以上に強いのもあってしばらくは自重してもらうように今度お願いしないといけない。

 

『よろしくお願いします。リザさんも同胞の方々との合流をそろそろ検討しないといけませんね』

 

『ダンジョンは広い。なかなか容易にはいかんようだ』

 

 リザさんの同胞の人達……つまりは、理性を持ったモンスター集団は常にダンジョンで活動しているようなので、合流するのもそれほど難しくないだろうと思っていたが、当てが外れてしまって少し困っている。事情を知っている様子のシャクティさんの話を聞き拾うと、その人達はダンジョン内で秘密の隠れ家をいくつか持っているらしい。リザさんも隠れ家を持つことが出来ればこちらも安心できるのだけどね。

 

『こちらが落ち着いたらお手伝いしますので、頑張りましょう。エルティナも特に変わらずです』

 

『こちらエルティナです。コンディションはグリーン。通信を終了いたします』

 

 ということで今朝の会合はお開きとなった。

 

「うーん。やることなくなったね。エルティナは何かある?」

 

「装備品の確認を行うべきと思われます」

 

「そうだね。じゃあ、一旦テントに戻ろうかな」

 

 ということで私達は自分のテントに戻って消耗品などをいろいろチェックしていたが、ここに来るまでポーション類もほぼ消費していないので、1時間もたたないうちに「問題なし」の結果を得ることが出来た。

 

「暇……」

 

 エルティナはここまでに得た情報のとりまとめを行うということで一人テントにこもっていて、私は邪魔するのもあれなのでテントから出て、折りたたみ椅子に腰掛けてダンジョンの天井を眺めるばかりだった。

 

 ここが18階層なら時間と共に移り変わる天井の水晶群を眺めているだけでも良かったが、ここは残念ながら普通のゴツゴツとした岩石の天井ばかりで何の面白みもない。

 ちょっとした湖でもあれば、水着(セルヴァレアール)に着替えてからビーチチェアに寝そべってトロピカルなジュースを飲みつつ、うたた寝を楽しむところだけど、ここにあるのは小さな水場だけだ。

 

「よー、猫又(ツインテールキャット)、暇そうじゃねぇか」

 

 そんな声に視線を地上に戻すと、向こうから手をひらひらとさせながら近づいてくるスィデロさんの姿があった。

 

「あ、スィデロさん。おはよーございます」

 

 私がそう答えるとスィデロさんは近くの岩に腰を下ろして、「ふぅ」と一息ついた。

 

「疲れてます?」

 

「あー、まあ、大したことねぇよ。俺の担当はそんなに多くないからな」

 

「そうなんですね」

 

 冒険者チームは基本的に今日は一日休みとなっているが、鍛冶師さん達は冒険者のほぼ全員分の武器のメンテを行うことになっていて、かなり忙しいらしい。

 

「んで、お前の武器もメンテするかって思ってきたんだがどうだ?」

 

「うーん。それほど消耗してないと思いますけどね。ちょっと待っててください」

 

 私は椅子から飛び降りると、いつものようにテントの前に突き刺していた巨剣を引っこ抜いてスィデロさんの前に置いた。昨晩は珍しくいたずらされなかったようで、昨日突き刺したままの状態だった。

 

「確かにそれほど大した事もなさそうだな。まあ、念のために砥石だけは当てておくか。ちょっと作業場まで持ってきてくれねぇか?」

 

「分かりました」

 

 私はそのまま巨剣を腰のマウント部に繋止してスィデロさんの後を着いていった。

 

『ごめん、エルティナ。スィデロさんの作業場に行ってるから、何かあったらそっちに来て』

 

『承知いたしました』

 

 まあ、別にマップを見れば私がどこに居るかなんて一目瞭然なんだけどね。こういうコミュニケーションも大切にしたい。

 

 スィデロさんの後ろをトコトコと着いていくと、簡易拠点の隅の方に作業台がずらりと並べられていて、そこには屈強な男女が並んで武器を叩いたり砥石を当てたり、ものによっては熱を入れたり冷やしたりと、時々罵声が飛びつつ賑やかにやっているようだった。

 

「よう、スィデロ。そいつが例の子供(ガキ)か?」

 

 筋肉隆々の偉丈夫がなれなれしく話しかけてきた。視線は私というよりは私の背中にある巨剣に向いているようだ。興味あるのかな?

 

「ああ、砥石を当てるだけだからすぐ終わるよ」

 

 スィデロさんは鬱陶しそうに、手で払いのけると、その先にある作業場を顎で指した。

 

「おいおい、水くせぇな。そんなでかいやつを一人でやるのは大変だろうから手伝ってやろうって言ってんだよ」

 

 そういうことね。確かにこの剣は普通のやつに比べるとかなり大きくて重いからスィデロさん一人じゃ大変だろう。なんだ、結構親切な人じゃないか。

 

「いらねぇよ。俺一人で十分だ」

 

「そうかよ、まあ、何かあったら声かけろや」

 

 しかし、スィデロさんはそれを断ってそのまま振り向きもせずに作業台へと向かっていった。

 

「いいんですか? 手伝ってもらった方が早く終わると思いますけどね」

 

「気にすんな。お前の剣をいじりたいってだけのやつだからな」

 

「なるほど?」(分かってない)

 

 確かに私の巨剣は珍しいと言えば珍しいか。オリハルコン製で、これだけでっかいのとなると使っている人も少なそうだし。

 

「さてと……それじゃそいつをここにのせてくれ。ゆっくりだぞ、台を壊すなよ」

 

 スィデロさんはそう言うと、ドワーフの人に合わせた高さの作業台を指さした。木製だが頑丈そうでしっかりと磨かれていてとても奇麗だ。おそらく持ち運べるように足とか取り外すことができるのだろうけど、見たところがたついている様子もない。

 

「流石にそれぐらいは気をつけますよ……よいしょ」

 

 一応、乗せるまでは重量軽減をしているから台を壊すこともないだろうけど、私の手から離れるとそれも切れてしまうので要注意だ。

 私は巨剣を作業台にのせると、それを持ったままゆっくりと重量を戻しつつ様子を見ていく。

 

「お、何とかなりそうだな」

 

 途中で作業台がギシギシ言い始めてちょっと不安だったけど。何とかバランス良く乗っけられたようで、私は安堵して手を離した。

 

「ここで見てていいですか?」

 

「ん? 別に構わねぇが。面白いもんでもないぜ?」

 

 スィデロさんは背負いの工具箱みたいなものから白い砥石を取り出して光にかざしながら様子を確かめた。平らになっているかどうか確認しているかんじかな?

 

「邪魔なら戻りますけど……」

 

「好きにしろ」

 

「分かりました」

 

 私はそのまま持ってきていた折りたたみ椅子を広げて座り、スィデロさんの作業を眺めることにした。

 

「一応面直しをしとくか……って、クソッ、研磨剤が足りねぇなこりゃ……」

 

 スィデロさんは軽く舌打ちすると振り向いて作業中の別の鍛冶師に、

 

「なあ、研磨剤の白が切れちまった。余ってねぇか?」

 

「すまねぇ。こっちもそろそろ切れそうなんだ。他を当たってくれ」

 

「そうか、ワリぃな」

 

 スィデロさんはそう言うとさらに隣、そのまた隣の鍛冶師さんに次々と声をかけていくがどの人も余裕がなさそうだった。別にスィデロさんが意地悪されている様子でもないので、本当にギリギリのところで作業をしているのだなと思う。

 

『ねえ、エルティナ。流石に研磨剤なんて持ってないよね?』

 

『ありません』

 

『だよね、ありがとう』

 

『いえ、お役に立てませんでした』

 

『いいよ。気にしないで』

 

 ダメ元でエルティナに聞いてみたが当然あるわけ無い。持ってくる意味もないからね。

 

「さてさて、ちょっと雲行きが怪しいかな?」

 

 私は立ち上がって、先ほどの筋肉モリモリマッチョマンのヒューマンと押し問答をしているスィデロさんに向かっていった。

 

「なにか、問題でもありましたか?」

 

 私はちょっと声を張り上げて二人に声を投げかけ、それを聞いたお二人は一旦口論を止めて私を見おろしてきた。

 スィデロさんはドワーフらしく、多少背が低いので話しやすいが、ヒューマンの(かた)は身長2mはありそうなぐらいだから、威圧感があってちょっと怖い。

 

「どうも研磨剤が不足してるみたいでな」

 

 とスィデロさんが本当に困った様子でお髭を撫でている。

 

「俺としたことが見積もりを誤ったぜ。思った以上に消耗が激しい」

 

 身長2mぐらいのヒューマンの(かた)が少しいらついたようにかかとを鳴らしつつ、髪を乱暴にかき上げた。

 

「そうなんですか? シャクティさんはいつもよりも消耗が少ないって言っておられましたけど」

 

 それは何度も聞いたことだから間違いではないはずだ。

 

「それは、負傷者はほとんどいなくて回復薬も魔剣も想定の倍以上の在庫って意味だ」

 

「つまり?」

 

「なんて言えばいいか分からねぇんだが、武器の消耗がハンパねぇんだわ。まるで、レベル4向けの武器をレベル5が振り回してるみたいな欠け方をしてやがる」

 

「あー、なんか分かった気がしますね」

 

 なるほど、エルティナの弊害がこんなところに出たか。アリーゼさんやリューさん、シャクティさんも言っていたけど、エルティナのステイタス強化はまるで擬似的なランクアップをしたような感じということだから、そりゃ、武器もその分消耗するよねってことだ。

 

「うーん。盲点だったなぁ」

 

「なんだ? 心当たりでもあるのか?」

 

 さて、どうしようかな。

 

 

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