ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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未踏領域ってロマンだよね!

 

 今度は私が先頭に立って、エルティナが穿ってくれた狭い小道を四つん這いで進んでいく。

 

「おい、大丈夫なんだろうな?」

 

 私よりも少し背の高いスィデロさんは殆ど匍匐前進みたいになって私の後ろを行くが、やはり辛そうだ。

 

「今のところは大丈夫ですよ。あんまりスカートの中のぞかないでくださいね」

 

 件のエルフ姉さんがうるさいので、仕方なくスカートの下に短めのスパッツを穿くことになってしまったけど、一応ね。

 

「暗くて見えねぇよ! 本当に大丈夫なんだろうな!?」

 

 ああ、そういえばそうか。私とエルティナはHUDを暗視モードにしているので、常に地上にいる程度の視界が確保されているが、スィデロさんにとってはかなり暗いトンネルを這いずっていることになるのだろうから、心配になるのは当然か。

 

「もう半分は過ぎているはずですので、ご辛抱を、スィデロ様」

 

 小人族に近いエルティナは軽く屈む程度で進むことが出来るようなので、こういうときは便利で良いよね。

 

「ねえ、エルティナ。通信はまだ出来る?」

 

「確認します」

 

 エルティナは背負った百科事典並みの通信機からのびる通話用のハンドセットを腰から取り上げて通話のスイッチを押した。

 

「こちらエルティナ。通信テストです、どうぞ」

 

「こちらシャクティだ、聞こえているぞ……どうぞ」

 

 エルティナがもつハンドセットからシャクティさんのきれいな声が届いた。

 将来的なことを考えて通信方式をアナログではなくデジタルで行っているから音声がクリアに鳴っているとのことだ。その処理のために本体が大型化してしまったらしいけど、そういうことはよく分からないのでエルティナに全部任せることにしている。

 

「こちらエルティナ。承知いたしました。以上」

 

 通信機は軽量化のために双方向は諦めて通話スイッチを押して話し、離して聞くのを交互に行う方式になっている。地球での一般的なトランシーバーと同じだね。

 

「うん。いい感じだね。もっと小型化できれば良いんだけど」

 

「そのためには新たな素材の確保が必要となります」

 

「そうだよねぇ」

 

 今回のお手伝いの報酬の一部を深層の素材でもらうってのもありか。まあ、交渉は終わってからでいいでしょ。今回、団長のシャクティさんに使ってもらってるから、いい感じのプレゼンになるんじゃないかって思う。

 

 その後もダラダラと雑談しながら歩く以下の速さでトンネルを進んでいき、やっと隔壁の向こう側にたどり着くことが出来た。

 

「うーん。膝が砂だらけになっちゃった」

 

 ようやく二本の足で立ち上がり、思いっきり背伸びをして深呼吸した。

 

「やっとか……ちょっと休憩させてくれ」

 

 スィデロさんはそう言ってそのまま立ち上がらずその場に座り込んでしまっている。

 

「そんなこと言わずにさっさと終わらせて帰りましょうよ」

 

 土がついてしまった膝をパンパンと叩いて汚れを払いつつ、スィデロさんに手を伸ばして立ち上がらせようとする。

 

「お嬢様。こちらは準備が完了しました」

 

 エルティナは後ろからロープで引きずっていたリュックをトンネルから引きずり出して一旦スィデロさんの隣に置いた。

 サポーター御用達のでっかいリュック(小人族(パルゥム)比)はこういうことも考慮に入れられているようで、引きずったりしても殆ど損傷しないようになっているらしい。エルティナも独自で補強を施したみたいなのでなお安心だ。

 ちょっとお高かったらしいけど、こういうのにはしっかりと投資していきたいよね。

 

「うん、ありがとうエルティナ。通信はどうかな?」

 

「隔壁がかなりの障壁となっているようです。念のため、中継器を置いておきます」

 

「そんなのも作ってたんだ」

 

「まだまだ距離が稼げませんので。ただし、これを含めて3本のみです」

 

「うん、分かった。それじゃ、私が先頭でスィデロさんが真ん中でエルティナは殿をお願いね」

 

「お、おう……」

 

「承知いたしました」

 

 エルティナはリュックからビールのロング缶ぐらいの大きさの中継器を取り出すフリをしてアイテムパックから取り出してスイッチを入れると、トンネルの中にそれを設置した。

 

「こちらエルティナ。トンネルを抜けました。これより通常探索に入ります。どうぞ」

 

「こちらシャクティだ。了解した。無理はするな。以上」

 

 シャクティさんにも報告できたのでこちらも出発しよう。

 

 スィデロさんもエルティナから託されたリュックの肩紐の長さを調整して背負い立ち上がった。

 

「それじゃ、エルティナ。ナビはお願いね」

 

「承知いたしました。しばらくは右の壁側に沿うように進んでください」

 

「分かった、スィデロさんも大丈夫ですか?」

 

「ああ、戦闘は期待しないでくれ」

 

 トンネルを抜けて魔力灯(ランタン)をつけたおかげか、スィデロさんも若干は落ち着いたようだ。ツルハシもちゃんと腰に下げているようなのでいつでも採掘可能だ。

 

「よーし、ガンガン掘りましょうね!」

 

 戦闘だけじゃなくて、こういう素材採集のイベントが挟まった方がモチベーションが上がりやすいってものだ(ゲーム脳)。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

 しばらくはエルティナのナビゲーションで道を進み、途中で中継器を一つ設置して先を進むと行き止まりにたどり着いてしまった。

 

「行き止まりだけど、ここでいいの?」

 

「地図にはそのようになっておりますが、確認します」

 

 エルティナはハンディカムを取り上げてシャクティさんに確認の連絡を始めた。

 

「ねえ、スィデロさん。ここは出そうですか?」

 

 私はその辺の岩肌をピッケルでつつきながらスィデロさんに聞いてみた。

 

「掘らねぇと分からねえよ」

 

 スィデロさんはすでにリュックを下ろしてツルハシの素振りを始めていてやる気満々だ。

 

「掘るのは得意なんですか?」

 

「ああ、こっち(オラリオ)に来る前は鉱山で働いてたからな」

 

「おー、ドワーフのイメージそのものですね。やっぱり、鉱山の街ってタタラ場とかあるんですか?」

 

「そりゃあ、それがねぇと鉄にならねえだろ。そんなたいしたもんでもなかったけどな」

 

「そうなんですか。一度行ってみたいですね」

 

「あんなド田舎、行く価値もねぇよ。何も変わらねぇ、誰も変わろうとしねえくだらねぇ場所だ」

 

「あらま、そうなんですか。だからオラリオに来たってことですか?」

 

「まあ、そうだな。俺はな、鍬や鎌みたいな農具よりも剣や槍みたいな武器を打ちたかったんだよ。俺が打った武器を英雄が使うんだ。最高だろう?」

 

「うん、いいと思います。カッコイイですよ」

 

 といっても、高品質な農具があるからこそ私達は美味しいご飯を食べることができる訳だから、上とか下とかはないとは思うんだけどね。

 

 だけど、スィデロさんはまだ若い(と思う)から、若いうちにやりたいことにどんどん挑戦したら良いと思う。守りに入るのはもっと年を取ってからでも良いだろう。ランクアップしたら老けにくくなるらしいし、なおさらオラリオに来たのは正解じゃないかなと思う、最後は故郷に錦を飾れれば良いよね(偉そう)。

 

「確認が取れました。この場所で間違いないとのことです」

 

 エルティナがようやく通信を終えて私達にゴーサインを出してきたので、早速作業に取りかかることになった。

 

 といっても、この場所にはギャザリングポイントが発生していないので、残念ながら通常の採掘をするしかないのだけどね。

 

「よっしゃ、初めっか」

 

 スィデロさんが肩を回してツルハシを何度か握り直して構える。

 

「私はどこを掘れば良いですか?」

 

「まあ、適当にやれ。当たったら音が変わるから教えな」

 

「分かりました。じゃあ、こっちの方を掘りますね。エルティナ。こっちは安全そう?」

 

「問題ありません」

 

「じゃあ、開始しましょう」

 

 私は改めてピッケルを構え少し突き出た岩肌に最初の一撃をお見舞いした。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

「出ませんねー」

 

 もう何発目かのピッケルを岩壁にたたきつけたのか数えるのを止めてしばらくたったころ。すでに私はめげそうになっていた。

 

 身体はフォトンで強化しているので疲れを感じることはほぼないが、先の見えない無限単純作業に心がやられそうになる。

 

「バカヤロウ、素人が適当に掘っただけで出るほど甘くねぇんだ」

 

 スィデロさんはすでに指先程度の大きさのアダマンタイトを掘り当てているので、いちおうの面目は立っているのだろうけど、必要分には明らかに足りないだろう。

 

「うへぇ、スィデロさんの職人魂が爆発してら……」

 

 実際私は単純作業は苦にならないタイプだ。しかし、それはあくまで成果が目に見えているような作業に限定されていたようで、今回みたいに果たして見返りがあるかどうかもわからない作業は苦手なのかもしれないと気がついた。

 

「お嬢様。少し右側に移動してください。行き過ぎです……そのあたりでお願いします」

 

 エルティナはというと、採掘作業には参加せず、時々フォトンのソナーを発して採掘している岩壁の構造解析をリアルタイムに行い、作業の安全を確保してくれている。スィデロさんもエルティナの指示にはしきりに頷いたり「たいしたもんだな」とつぶやいているところから、スィデロさんにもエルティナぐらいの解析能力があるということなのだろう。

 

 やっぱり、職人さんはすごい。

 

「さてと、少し掃除するか」

 

 スィデロさんは一旦作業を止めて、掘って出た細かい石塊を脇に退かしていく。

 

「お、こいつは黒銀鋼(ノスティール)だな。さすが深層だと品質もいいぜ」

 

 スィデロさんはその中から黒光りする鉱石の破片を取り出して壁につるしてあるランタンにかざしてみている。

 

「へぇ、結構奇麗ですね。黒曜石みたい」

 

「下層ぐらいならこいつでも行けるんだけどな。深層になるとちょっと心許ねぇか」

 

 スィデロさんはそれを上着のポケットに入れて作業を開始した。

 

「あっ、ネコババだ。ずるい」

 

「バカヤロウ。こういうのは――役得って言うんだよ」

 

 帰ったら椿さんに告げ口してやろうと私は心に決めた(陰湿)。

 

「お嬢様、スィデロ様。少し相談があります」

 

 私も何か得るものはないかと思って、目を皿にして石塊を眺めているとエルティナが手を上げて提案を投げてきた。

 

「うん? どうしたの、何かあった?」

 

「この岩壁の向こう側に広い空間が広がっているように思えるのですが、スィデロ様の意見をいただけますか?」

 

「ん? こいつが実は隔壁だったって事か?」

 

 スィデロさんはそう言うと一応持ってきていたハンマーを取り出して岩壁を叩き始める。

 

「うーん。私にはよく分からないけど……スィデロさんはどうですか?」

 

 分からないとは言っているが、エルティナから共有されたスキャンデータをHUDに表示してもらうと、確かに壁の向こうには何らかの空間が広がっていることが分かった。

 

「んー……言われてみれば確かに音がおかしいな。世界最速小人族(レコードホルダー)の言うとおりかもしれん。よく気づけたな」

 

 スィデロさんも気がついてくれたようだ。さて、どうしようか?

 

「どうします? 向こうにいい感じの採掘ポイントがあることにかけてみますか?」

 

「あんまりギャンブルはしたくねぇんだがな。下手したら大規模崩落で生き埋めだぜ?」

 

「いえ、どうやらこの洞窟はこの隔壁に強度を依存していない様子ですので、隔壁のみを掘り進めることにはそれほどの危険性はないと判断できます」

 

「それを信じるかどうかだな」

 

「私はエルティナを信じますよ」

 

 というか、エルティナを信じられないということはおおよその知能を信用できないということだからなかなか勇気のあることなのだ。

 それぐらいオラクル船団のAI技術は発展しているということだね。私の前世ではようやく実用化するかどうか程度でしかなかったのに、技術の進化というのは本当にすごい。

 

「だがよ、ガネーシャファミリアの地図に載ってねぇってことは、この先は未踏領域って事だぜ。俺たちだけで行けるのか?」

 

「未踏領域ってなんだかロマンですよね。なんか、ワクワクしませんか? 冒険ですよ」

 

 私はエルティナをチラッと見る。

 

「念のため象神の杖(アンクーシャ)様に確認いたしましょうか?」

 

「うーん。そうだね、一応報告だけしてみようか」

 

 シャクティさんがロマンが分かる人だといいんだけどね。冒険者なんて所詮冒険してなんぼだ。そうしないとランクアップはおろか経験値すらまともに貰えない――つまり、私みたいなことになる。もちろん、無謀なことをするのはいけないけどね。

 

 スィデロさんにとっても、自分がどの程度のリスクがとれるのかを把握するいい機会になるだろう。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

 結局キズィアさんも含めて割と激しい意見の応酬となり、スィデロさんの「結局このまま掘り続けてもじり貧だぜ。現にこれだけ掘っても小指の先ぐれぇのやつしか見つからねぇ」という意見と、「安全階層だからまだリスクは取りやすいと思われます」というエルティナの分析からシャクティさんが「少しでも異常を感じ次第撤収しろ」を厳命として私達は未知の領域へ足を進めることとなった。

 

「それで、どこを掘れば一番効率が良いかはもう解析できてるんでしょう?」

 

 早速私はピッケルをブンブン素振りをしてエルティナに訪ねた。

 

「お嬢様が立っている場所より右に三歩ほどずれた目線高さ箇所が最適と思われます」

 

「うん、ありがとう。スィデロさんはどうですか?」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 スィデロさんはハンマーを取り出して隔壁の何カ所かを叩いては耳を澄ませて時々壁に耳を押しつけたりもして、「うーむ……」と難しい声を上げつつエルティナに向き直った。

 

「なあ、世界最速小人族(レコードホルダー)。お前、いったい何者だ? とても鉱山で働いたようには見えねぇが、なんでそこまで完璧な判断ができる?」

 

 つまり、スィデロさんもエルティナと同じ判断をしたと言うことなのだろう。むしろ、エルティナと同じ判断が出来るということの方がすごいと私には思えるが、事情の知らないスィデロさんは困惑しきりだろう。

 

「ふふん、エルティナはすごいでしょう? ぶっちゃけエルティナがいなかったら、今頃私はここまでこれなかったと思いますね」

 

「――今はそういうことにしといてやる、時間もねぇしな――下がってろ最速記録の片割れ(ベターハーフ)。ここは俺がやる」

 

 スィデロさんに私は場所を譲り、念のためモンスターの襲撃に備えてピッケルを腰にもどして、代わりに巨剣を手に取って構えた。

 

「こっちはいつでも良いですよ」

 

 スィデロさんはそれを聞き、大きく息を吸い込んで止めたと思うと「おらぁ!!!」と一息の裂帛を持ってツルハシを振り落とし、私とエルティナのHUDに表示されたインパクトポイントを1ミリの狂いもなく打ち込んだ。

 

 鋭い金属の鳴動の後、一瞬の静寂が訪れたかと思えばすぐにそれは始まり、隔壁は内部へと崩落を開始した。

 

「うわぁ……岩が向こう側に向かって崩れるんだ。すごいね――」

 

 てっきりこっち側に崩れて来るかもと思い、すぐにスィデロさんを助けに行けるよう準備はしていたけどそのかいはなくてホッとした。

 

「それじゃ、一番乗りはいただきますね」

 

「お、おい。気をつけろって言われただろうが」

 

 スィデロさんはそう言うが、すぐにでもモンスターの襲撃を受ける可能性もあるからいちいち確認なんてしてられないのだ。

 

『エネミー反応です。ご注意を』

 

 エルティナが通信機越しにそう警告を放ち、すぐにHUDに示されたミニマップには無数の敵対性質のある赤いマーカーが出現し、それに呼応するように暗闇から不気味な輝きの双眸が次々と出現し始める。

 

「エルティナはスィデロさんをお願い。戦闘開始です!」

 

 私はそう短く鋭く声を投げつけ、同時に虚空跳躍(ネクストジャンプ)を起動して相手が反応する前に最大の攻撃をたたきつけんと疾駆する。

 

 未だに闇の中で色とりどりに輝く双眸達(かれら)(まばた)きは星々の(またたき)にも思えるほど美しく思えた。

 

 









果たしてスィデロさんを活躍させられるのか、作者ですらまだ分かっておりません(汗




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