ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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戦いにくいなぁ……

 

 虚空跳躍(ネクストジャンプ)による疾駆によって流れる景色の先で、多くの光点がじっとこちらを眺めながら揺らぎ、あるいは散開していく。システムが光量を調整し、より深い暗闇に適応し始めたところでそれらはようやく輪郭を表しだした。

 

 赤い鱗のリザードマン。その後ろにはセイレーン、ハーピィ、蜘蛛脚の美女――アラクネと、さらに岩石めいた翼を広げるガーゴイルに、一階層ではよく見るゴブリンまでいるね。

 

 なんか、階層ごちゃ混ぜでカオスな集団だね。それに、なんとなくだけどそれぞれが目を見合わせてアイコンタクトして連携しようとしているみたいに思える。

 

 向こうもこちらを警戒しているようだったが、どうやら先手はこちらが取れたらしい。

 赤いリザードマンがようやく腰から剣を抜いて迎撃態勢を取りつつあるが、行動がずいぶん早い。

 

 待てよ、武器を持ってるってことは……

 

 よく見るとアーマーも金属製。完全にどこからか拾ってきたであろう冒険者装備に違いない。たぶん、私のお小遣いじゃ買えないぐらいじゃないかな?

 

「あちゃー、リザさんのお仲間か……」

 

 私の口からは思わず声が漏れてしまったが、すでに攻撃を止めることもできず、私は可能な限りブレーキをかけつつも、心の中では「ごめんなさい」とつぶやきながら巨剣を振り下ろした。

 

 私の巨剣とリザードマンの人の剣が重なり合い、剣同士の強度の差を感じ取ったのか、うまいことを力を受け流されてしまい、私は少し上体を崩さざるを得なかった。

 

「ちびっ子のくせにやたら重い攻撃しやがるぜ、こいつ」

 

 赤いリザードマンが私に聞こえない程度のつぶやきを漏らすが、残念ながら私のシステムはその声を逃すことなく私の耳に伝える。言葉を操り、しかも冷静な判断ができるモンスターとなれば間違いない。

 

『エルティナ、気をつけて。あの人たち、リザさんのお仲間だと思う』

 

 リザードマンはそのまま私に背を向けたかと思うと、太い尻尾をムチのようにしならせ、私の脇腹へ向かって強力な一撃を打ち込んできた。

 

『そのようですが、状況的に、今は話し合いは難しいかと。双方の安全確保を優先しましょう』

 

「だよねぇ……」

 

 巨剣をそらされてしまい、とっさには受けられないことを悟って、私は反対側の肘を曲げ膝を畳むようにして脇腹を守り衝撃に備えた。

 

「大丈夫? リド」

 

 側にいたセイレーンの美人さんがリザードマンの人を心配そうに問いかける。

 

「ああ、どうってことねぇぜレイ。つっても、油断は出来ねぇな」

 

 なるほど、リドさんとレイさんか、良い名前だね。誰につけてもらったんだろう?

 

 そう思いつつ、吹き飛ばされる勢いのまま一旦宙返りし、虚空跳躍(ネクストジャンプ)で速度を落としながら地面に軟着陸した。

 

「レスタ!」

 

 すでに着地した場所にはエルティナのタリスが展開されていて、それを基点に発動した回復テクニック(レスタ)の光が私を包み込み、若干変な方向に曲がってしまった腕や足を正常な位置に戻してくれた。

 

「ごめん、エルティナ」

 

「いえ、しかし、状況は不利です」

 

「おい、逃げた方が良いんじゃねぇか……って、囲まれちまってら、ちくしょうめ!!」

 

 現状ではリドさんの実力は、冒険者である私以上で、驚異度はリザさん級となると、まともに戦える相手じゃないし、ましてやお互いの安全を確保しつつ状況を落ち着かせるなんてやった日には、命がいくつあっても足りない。

 

「仕方ないか……」

 

 私は一旦頭上で巨剣を大きく回転させ、ひるんだリドさん達を尻目に、勢いはそのままに地面に突き刺した。

 

「なんのつもりだ」

 

 頭上で虎視眈々とこちらを狙っているガーゴイルの人は、私の奇行を計りかねているのだろう。

 

「エルティナはスィデロさんのサポートをしてあげて、撤退を第一に行動してね」

 

「承知いたしました。やむを得ませんね」

 

 エルティナは針忍冬(リバレイトタリス)からサミットムーン(リバレイトウォンド)に持ち替えて、私の背中合わせになるように退路へと身体を向けた。

 

 それを確認した私はすぐさまフルクシオタラッサを起動し、ユニットやマグなどの装備を全て有効化し、通常戦闘モードへと移行した。

 

「おい、猫又(ツインテールキャット)、そんな細っこい剣なんてどこから出したんだ? そんなんで、こいつらとやれるのかよ」

 

 たぶんだけど、スィデロさんは私の武器(フェリシテエーデル)の見た目があまりにも煌びやかで戦闘向きではないことを言っているのだろう。

 

「大丈夫です。スィデロさんは私が絶対に無事に戻して見せます」

 

 それまで非戦闘状態だったフォトンの出力を戦闘状態へと移行し、武器を何度か素振りすることでラスターのクラススキルも問題なく有効化されていることを確認した。

 

 さてと、今度は鬼が出るか蛇が出るか分からないけど、強敵と戦うことを楽しみにしてしまう私は本質的に戦闘民族(アークス)なんだろう。

 

「じゃ、行くよ!」

 

 と、私はわざわざリドさんとレイさんに宣言して、PA:フレシェット/ムーブアーツを発動し、高速移動でリドさんの懐へ飛び込んでいった。

 

「――っちぃ!!」

 

 と、リドさんは一瞬遅れて反応しつつ瞬時に剣を振って斬撃を合わせてくるのは流石だと思った。

 

「挟み撃ちにするわ!」

 

 と、今度は頭上のレイさんが私の頭越しに飛び越えて背後へと回っていった。うーん、二人の絆は素晴らしいと思うけど、心の内でちょっとごめんなさいと言っておこう。

 

 私はそのままステップでPAをキャンセルしつつリドさんの攻撃をキャンセルしてリドさんの攻撃を《すり抜けて》背後へ回り込み、さっきまで私の背中に向かっていたレイさんとの同士討ちを狙ってみた。

 

「うぉ!!」

 

「危ない!!」

 

 二人は何とか衝突の寸前で回避して周辺を見回して私の姿を探した。

 

「おい、嬢ちゃん……今の動き、なんだ?」

 

「リド、下がって! あれは危険よ!」

 

 同士討ちを回避するために天井付近まで飛び上がったレイさんが、ツバサを大きく開いて威嚇するようにこちらに鋭い視線を向けてきた。

 

 これが普通のエネミーなら、ステップ回避からのカウンターで大ダメージを狙っていくところだけど、相手はリザさんのお仲間だから、大きな負傷を与えるわけにはいかないのが辛いところだ。

 

『戦いにくい相手だね、本当に』

 

『何かあったのか?』

 

『どうかした?』

 

 私の心のつぶやきが通信機に乗ってしまったようで、遠くのリザさんと地上のワカヒルメ様が心配そうに声をかけてくれた。

 

『うーん。説明がちょっとややこしいので、今は一旦通信を切りますね。ごめんなさい、終わったらちゃんと説明しますので』

 

『承知した』

 

『分かったよ。気をつけて』

 

『通信を終了いたします』

 

 エルティナが私の考えに従って、通信回線を調整してリザさんとワカヒルメ様への音声が行かないようにしてくれた。向こうからの音声は緊急時にはちゃんと届くようになっているから安心はしている。

 

「させない! 私だって!!」

 

 その声が降ってきたと思うと、先ほどまで隅にいて動かなかった対象が高速で私の頭上にやってきて、体当たりじみた爪攻撃を仕掛けてきた。種族は多分ハーピィだろうね。24階層ではよくお世話になったやつで、ある程度空中戦ができる私にとっては、割と組みやすい相手でもあったね。

 

「おっと、ゴメンね、ちょっとおとなしくしててね」

 

 私は回避と同時に、ラスターステップスライドを続けて発動し、後進のついでに追尾弾を数発放ち、スタンを取って地上へ落とした。

 ステップ回避からのカウンターまでは乗っていないので、攻撃力は最小限のはずで、地上に墜落したハーピィの彼女も、まだ生体反応はしっかりと残っているから一安心だ。

 

「フィア!? よくも……!」

 

 上半身が美女で下半身が蜘蛛という、なんともマニアックな(誹謗中傷)アラクネの人が激昂し、蜘蛛の糸を放ってくる。中層では割とお世話になった、厄介なやつで、蜘蛛の糸で拘束されたあげくに毒の爪で引っかかれると、耐性のない冒険者では致命的になる。

 

「うわっ、ちょっ……!」

 

一瞬の硬直で避けきれず、私はベタベタの蜘蛛の糸に絡められ一瞬行動を制限された。その間にアラクネの美人さんはハーピィの彼女を連れて戦闘領域から離脱していった。どうやら、仲間思いの姐御のようだ。

 

「アンティ」

 

 私がもがく前にエルティナのタリスが飛来し、状態異常解除のテクニック(アンティ)が展開され、あっという間に私を拘束する蜘蛛の糸が消滅した。

 

「ありがと、エルティナ。シャワーを浴びなくて済んだ」

 

 流石に髪が蜘蛛の糸でベトベトな状態で拠点に戻るのは嫌だったからね。

 

「まずは後衛を潰す……!」

 

 天井付近で攻撃のタイミングを見計らっていたガーゴイルの人が低く唸り、エルティナへと狙いをつけたようだ。

 

「やれ、レット」

「了解ですよ、グロス」

 

 しばらく視界の中にいなかった赤帽子を被ったゴブリンのレットさんが、ナイフを取り出してエルティナに投げつけたようだ。

 

 エルティナは針忍冬(リバレイトタリス)の本体で心臓付近に飛んでくるナイフから身を守り、そのスキに頭上から襲いかかるガーゴイルのグロスさんの攻撃に備えた。エルティナなら、テクターの固有アクションのミラージュエスケープを使って簡単に回避はできるだろうが、そうすると背後のスィデロさんが完全に無防備になってしまうからそれはできないのだろう。すぐにサミットムーン(リバレイトウォンド)に持ち替えて、PA:ヘビーハンマーを発動すればスーパーアーマーと吹っ飛ばしで何とか距離を取ることもできるだろうけど、今は難しいかもしれない。

 

「やらせるかよ! この野郎!!」

 

 損傷を覚悟して構えていたエルティナだが、その背後から裂帛の気勢を放ってディオクレスディガーを思い切り振りかぶるスィデロさんが、襲いかかるグロスさんの巨体からエルティナを守るように立ち塞がった。

 

「邪魔だ! 木っ端が!!」

 

 エルティナの撃退を焦っていたのか、グロスさんは余裕のなさそうに言い捨てると、スィデロさんの攻撃をよけることもなく正面からぶちあたり、一瞬だけその進行が阻害される。

 

「うぉぉぉ!!!」

 

 スィデロさんはさらに力を込めてハンマーを押し出そうとするが、それでも非戦闘員のレベル1では深層を活動領域にする人達には敵うはずもなく、あっけなく吹き飛ばされて堅い岩壁に、受け身を取る暇もなく強く全身をたたきつけられた。

 

「エルティナ!」

 

「お任せください」

 

 スィデロさんのバイタル反応が一気にレッドアラートに陥ったのを見て、私はエルティナに素早く指示を出そうとし、エルティナはすでに承知していたようで、すぐさまアイテムパックからエリクサーを出現させ、地面に衝突して真っ赤な池を作り始めたスィデロさんへと正確に投擲した。

 

「ぐぅ……!! がぁ……」

 

 急速に体組織が再生し始める反動で、強烈な苦痛に奥歯をかみしめるスィデロさんだが、耐えてもらうしかない。

 

「ちくしょう! すまねぇ、助かった!!」

 

 アミッドさん謹製の最高級のエリクサーは値段がバカ高いだけあって、効果は最高だ。先ほどまで瀕死に近かったスィデロさんが、数秒もしないうちに完全回復して戦線復帰になった。

 

 エルティナはすぐにスィデロの元に向かい、武器をサミットムーン(リバレイトウォンド)に持ち替えて、再度攻撃を仕掛けるかどうかタイミングを計るグロスさんへその戦端を向けた。

 

『マスター。攻撃許可を』

 

『いいよ。ただし、最小出力で』

 

『…………了解』

 

 エルティナの要請に私は応える。エルティナとしては甘い判断だと思うだろうが、ここはどうか耐えてほしい。

 

 そして、私達全員が次の行動を決めかねるその一瞬、不気味な静寂がその場を支配し、そして、暗闇の雫がしたたり落ちる不気味な響きに皆が背筋を震わせた。

 

 

 

 

 








異端児(ゼノス)達のキャラがいまいちつかみ切れていないので、その辺はご容赦を。

年末年始も忙しいので、休暇が取れるよう頑張ってます。

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