ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「――ということで、改めて。この場は"なかったこと"にしようって思うんですけど、どうですか?」
イバラブジンとの激闘を終え、私がリドさんたちにそう切り出した。
スィデロさんは不満たらたらで、腕を組みながら食ってかかる。
「お前なぁ……こんな異常事態を報告しねぇわけにはいかねぇだろうがよ。それに、アダマンタイトも研磨剤も手に入らずに戻ったら、キズィアのやつに何を言われるか分かったもんじゃねえよ」
スィデロさんのため息交じりの意見に、リドさんは思い出したように懐から何かを取り出して彼に見せた。
「お前ら、何か探してんだな。こんなのならあるが、どうだ?」
リドさんの手のひらにはいくつかの鉱物が乗っていた。素人の私にはよく分からないけれど、見るからに質の良さそうな代物だ。
「こういうのは、よく拾うからな。それっぽいのがあったら持ってっていいぜ」
差し出された鉱物に、スィデロさんは驚きで目を見開いていた。
「こいつはアダマンタイトじゃねぇか! しかも、かなりの深層まで行かねぇとお目にかかれねぇほどの品質だぞ……。研磨剤に、この欠片は――もしかしてオリハルコンか?」
なるほど、スィデロさんのお眼鏡にかなうものだったらしい。それを見て、リドさんはレイさんや他のお仲間にも合図を送る。すると、それぞれが所有していた鉱石を次々とスィデロさんに見せ始めた。
「どうですか? 足りそうですか?」
「ああ、これくらいあれば俺一人分の得物としては十分すぎるだろう。……本当にタダでいいんだな?」
スィデロさんは何度もリドさんたちに確認するが、そこで私はひとつ妙案を思いついた。 別に金なんていらねぇよ、と言い始めそうなリドさんの腰を突っついて、手招きをして耳元まで下ろさせる。
「せっかくなので、これを『口止め料』ってことにするといいかもしれませんよ?」
私の提案に、リドさんは面白そうににんまりと笑う。
「なるほどな、オメェも面白いこと考えるな、ちびっ子」
そう言ってリドさんは顔を上げ、スィデロさんに不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「俺たちのことを秘密にするってんなら、タダでやってもいいぜ」
豪快で大変よろしい言い草だ。スィデロさんは思いっきり肩を落としてため息をついた。
「お前らなぁ……まあ、いいぜ。あんたらは別に悪い奴らじゃなさそうだしな」
渋々ながらも、スィデロさんの了承を得ることができて一件落着だね。この機会にスィデロさんもリザさん達のことに巻き込んでしまっても良いかもしれないな。
この遠征が終わったら改めて話をしようか。
「リド、隠れ家が一つ潰された。どうする?」
私とリドさんがなんとなく握手を交わしていると、横からグロスさんが言葉を挟んできた。
「次を探せばいいだろ。ねぐらはここだけじゃねぇんだし」
「ごめんなさい。私達のせいですね」
実際、私たちが穴を空けて侵入してきた側なのだから、こればかりは平謝りするしかない。
「いいのよ。信用できる人が増えただけ儲けものだわ」
レイさんが片方の羽で、優しく私を撫でるような仕草をしてそう言ってくれた。
「そういえば、ちびっ子、リザっちの居場所とか知らねぇか? あれから探してるんだけどよ。なかなか見つからねぇんだわ、これが」
「えーっと。ちょっと待ってくださいね」
危ない、その話がまだだった。私は慌ててリザさんへの通信回線を開く。
『リザさん、聞こえますか?』
『終わったようだな。無事か?』
『はい、こちらは全く問題ありません、ありがとうございます。ところで、リザさんって今何階層におられます? ここにリザさんのお仲間の人達がいて、リザさんをずっと捜してるんですって』
『今は26階層を周回中だ。あの魚人ども、また徒党を組んで私と戦おうとし始めた。間引きをしているところだ』
『なるほど。そっちはリザさんに任せますね。それじゃ、皆さんには「25階層から27階層のどこかにいる」と伝えても大丈夫ですか?』
『問題ない。徒党を組む魚人どもを追っていけば、いずれ私に辿り着くだろう』
リザさんとのやり取りを、詳しくリドさんに教えた。通信機の予備があれば渡したいところだが、試作品はガネーシャファミリアの方々に試用してもらっているところなので、仕方ないね。
「それじゃ、皆さん。また会いましょうね」
「じゃあな、ちびっ子。今度は一緒にメシでも食おうぜ」
リドさん達は普通にご飯とか食べるのか。今度、リザさんも誘ってみよう。
ということで、私達はめでたくリドさん達と別れ、拠点へと戻ることになった。
「それじゃ、私達も行きましょうか」
リドさんたちが洞窟の闇の中へと消えていくのを見届けて、私たちはシャクティさんとギズィアさんに合流するため、出発することにした。
「また、あの道か……骨が折れるぜ」
スィデロさんはうんざりした様子だが、こればかりは我慢してもらわないとだね。
「エルティナはどう? 準備できてる?」
さっきまで少し離れた場所で何かをしていたエルティナに声をかけると、彼女は静かに振り返った。
「準備完了です。シャクティ様にも通信機で状況を説明しておりました」
「あ、そうなんだ。リドさん達の事は?」
「伝えておりません」
「そう。良かった。それじゃ戻るからナビをお願いしていい?」
「承知いたしました。ここからは私が先頭を歩きます」
「よろしく。スィデロさんはエルティナの後ろへ。私が殿を務めますから、安心してくださいね」
「お、おう! よろしく頼むぜ」
道すがら、設置していた通信機の中継器を回収しながら進む。迷いのない足取りで暗闇を進むエルティナを見て、スィデロさんが感心したように声を上げた。
「それにしても、よく道を覚えてられるよな、お前ら。マークも何にもしてねぇだろ?」
マークというと、曲がり角とか分かれ道に目印を置いておくとかいうやつかな?
「うーん。まあ、エルティナはマッピングが上手ですから。私はちょっとだけ方向音痴なので」
実際には、ここまでの道筋をシステムがすべて記録している。HUDのミニマップには地形の簡易図と現在地、目的地がばっちり表示され、カーナビのように順路が示されているのだ。よっぽどの方向音痴でもないかぎりは迷うことはないのだけどね。スィデロさんには秘密のことだから、なかなか説明がしにくいねこれは。
「ほう、じゃあ、お前は俺たちがいまどの方向に向いてるか分かるって事か?」
「はい。あちらの方向がキャンプの位置になります。シャクティ様が待っておられるのは、あちらですね」
エルティナはHUDのコンパスが指し示す方向を正確にトレースして、暗闇の先を指した。
「たいしたもんだ。ダンジョン内で正確な方角が分かるってのは、ある種の特殊技能だからな」
「そうなんですか? コンパスとかジャイロとか、そういうのってないんですか?」
「あん? なんだそりゃ?」
「あ、何でもないです」
なんか、意外だね。これだけダンジョンでの探索が盛んなら、そういう道具はとっくの昔に発明されていてもおかしくないと思うのだけど。
私は歩きながらエルティナに通信機越しに声をかけた。
『ねえ、エルティナ。クラフターでコンパスみたいなのって作れないの?』
『構造はそれほど複雑ではありませんので、作成は可能です』
『そっか。じゃあ、ちょっと試してみて。こっちの人でも使えるようなやつを』
『承知いたしました。いくつか試作を行っておきます』
方向を知ることができれば、それだけで安心感があるだろうし、冒険者の安全にもつながるだろうからね、ちょっと楽しみだ。