ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
正月三が日も仕事です(・ ཀ .)
シャクティがベルディナたちとの素材収集を終え、39階層の拠点に戻ってからすぐのこと。彼女は緊急ミーティングを行うべく、ファミリア幹部とチームリーダーを中央テントに呼び寄せた。
「全員集まったようだな。では、会議を始める」
最上席に着座するシャクティは、円卓に座ったメンバーの顔を順番に眺めて全員を確認すると胸を張って開催を宣言した。
「なんか、物資が不足してるらしいな。アダマンタイトと研磨剤だったか?」
「ああ、それが主な議題だ」
シャクティは副団長のイルタに合図を送り、資料を配付させた。
記載されているのは、武器のメンテナンスに必要な研磨剤と補強用のアダマンタイトの持ち込み総数から、これまでに使用した量に今後の使用予測を引いた数が端的に並べられていた。
「マイナスとは恐れ入ったな」
そこに記載されているのは、誰の目から見ても分かるほどに深刻な不足だ。
「一応、緊急分は確保できたんだろう? 声をかけてくれたら俺も一緒に行ってたんだがな」
何チームかが緊急で採取を行い、直ちに必要な分は確保できたものの、この先の深層を本格的に探索するには、あまりに心もとない状況であることが告げられた。
「原因は?」
「問題はそこだ」
当然の質問を受け、シャクティはエルティナから得た回答をそのまま皆に伝達する。
本来、階層主ウダイオス戦は、攻撃隊による執拗な波状攻撃を前提とした作戦だった。少なくとも三回は「攻撃と退避」を繰り返さねばならないだろう――それが、ここに集う精鋭たちの共通見解だったのだ。
しかし、実際にはわずか一回の総力戦で決着がついてしまった。
「……前線の連中はみんなビビってたぜ。いつもより攻撃が鋭くて重いだけじゃなく、なぜか自分の得物が『魔剣』みたいな挙動をしてたってな」
魔剣のような挙動とは、おそらくエルティナの風のテクニック「ザンバース」の事を言っているのだろう。あのテクニックは、攻撃大して風の刃の追撃が発生するという効果があるため、それをもって魔剣のようなと表現されたのだろう。
「それに、いくら武器を振っても疲れ知らずな上に、多少の負傷なら瞬時に塞がっていたわ」
それらすべてが、エルティナひとりが展開した支援魔法による恩恵だと聞かされ、さすがの幹部たちも揃って絶句した。
「
24階層の報告会では【
「エルフとしての自信が、こうも簡単に……。しかも、あの子、基本的にはサポーター兼
苦笑と溜息が漏れる中、シャクティが本題の提案を口にする。
「これ以上の武器の消耗を防ぐため、49階層に至るまでは、
「……まあ、仕方ないな。本番前に武器がガラクタになっちまうよりはマシだ」
「防御や回復の支援は変わらずなんだろう? なら十分すぎるほどだ」
敵を素早く倒す以上の安全策は存在しないが、それでも受けるダメージを軽減し、負傷もすぐに回復して貰えるのなら心の余裕は桁違いになる。
「だけどさ……あれ、一度知っちゃうとクセになるよね。なんか、ランクアップできたって錯覚するというか」
「分かるわ。力だけじゃなく魔力まで増幅されるなんて、理屈が分からないわよね。リヴェリア様にも、ぜひ一度体験していただきたいくらいだわ」
「異論はないな。では、夕食後に私から
「消耗を防ぐと言っても、物資不足の根本は解決したのか?」
「それについては、出来ればもう一日だけ素材回収の時間が欲しいとのことだ」
「了解。人足が必要なら声をかけてくれ」
「そうしよう。魔導士隊はどうだ? マジックポーションの在庫は」
「全然減ってないから問題なしよ。あれだけ戦闘が早く終わっちゃうとね」
呆れたような、しかし頼もしげな報告が続く中、シャクティは居住まいを正して最後の一品を目の前の床に置いた。それは、百科事典ほどの大きさの金属の箱が二つと、片手でつかめる大きさの円柱型の物体が三つだ。
「そして、もう一つ報告がある。これは、
遠征中の連携を劇的に向上させるため、シャクティがエルティナに頼み込んで借り受けたものだ。
エルティナは「試作機ですので、故障しても責任は取れませんが」と慎重だったが、ベルディナの方は「実地で使ってもらった方が、次の実験機のデータが取れるからいいんじゃない?」と、むしろ乗り気で貸し出してくれた。
送受信機を一セットと、通信範囲を広げるための中継器が三つ。
「これって……
本来なら、
そんな希少なアビリティを彼女が持つ。ということがどれほど大変なことかがよく分かるだろう。
「いや、これは
シャクティの説明に場がさらにざわつく。幹部であれば、
今でこそ、大きさは百科事典ほどであるが、高純度の素材を使い、さらに試作を重ねればいずれは手のひらサイズまで小型化できるだろうともエルティナは言っていた。おそらく、それができるのはエルティナだけだろうとベルディナが言っていたのが気になるが、大きさを問わず、機能を解明し再現できるのなら、迷宮探索の常識は根底から覆されるだろうとシャクティは思う。
最初に手をつけることができたのは幸運と言うしかないだろう。
「明日の一日で、使用方法を覚えてもらう。前線部隊と後衛部隊にそれぞれ通信係を置く。各担当は人員の選定をしておいてくれ」
「了解」
「分かったわ」
「声」が距離を越えて届く。その未知の利便性に、ガネーシャファミリアは期待と不安を抱きながら、明日の準備へと取りかかった。