ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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バロールの表現については、オリジナルの部分がかなり入っています。
なんか違うなと思った方は、どうぞ感想欄へ(あからさまな誘導)








軍隊 VS 大群

 

 まずは初手で、可能な限り多くの敵を間引く。ガネーシャ・ファミリアの防衛部隊が最前線に配置され、横一列に巨大な盾を展開する様は圧巻の一言だ。

 

 鉄壁の壁を築き、その隙間から長槍を突き出す、あるいは弓を引いて矢を放ち、押し寄せる獣蛮族(フォモール)を確実に、細かく仕留めていく。

 

 そうしてそれなりの時間を稼ぐ間に、さらに後方では広域殲滅型の魔導士たちが長文の詠唱を開始し、それと同時に魔剣部隊が武器を構えて静かに時を待っている様子が私の後方モニターには映し出されている。

 

 振り向くことなく後方や左右の状況を把握できるのは、こういう集団戦でこそ真価を発揮する物だなぁと、私はオラクル船団の技術に感謝するばかりだ。

 

 エルティナと私は魔導士部隊と防衛部隊の中間に位置取り、テクニックを展開した。

 

「――シフタ――デバンド――ザンバース――」

 

 攻撃と防御の底上げに加え、追撃の法陣が前線を包む。

 後方の魔導士部隊が詠唱を終えた合図と同時に、防衛部隊が一斉に後退を開始した。入れ替わりに攻撃担当の前衛部隊が最後方から前戦へと進出を開始して。防衛部隊が魔法の射線から外れたタイミングを見計らって「撃て(ってぇー)!!!」という号令と共に、炎や氷、風と言った色とりどりの輝きがおり混ざり調和して光の津波となり荒野を飲み込んでいく。

 

 その大瀑布とも思える衝撃が通り過ぎる直前に、私はエルティナを抱っこして虚空跳躍(ネクストジャンプ)を敢行した。爆風を眼下にやり過ごしながら上空へと逃れ、一旦後方部隊に合流して仕切り直しと行こうか。今の私は、いわばエルティナの「専用輸送機」みたいなものだね。

 

 一斉攻撃により、かなりの数の獣蛮族(フォモール)を殲滅できたはずだった。けれど、眼下に広がる光景を見る限り、それはまだ氷山の一角にでしかないわけだ。

 

「……想像の10倍くらいいない?」

 

 腕の中のエルティナに、思わずこぼす。

 

「そのようですね」

 

 前衛部隊と獣蛮族(フォモール)の本隊が激突する様子を上空から眺めるが、群れの遥か向こうには、まだまだ敵が絨毯のように続いている。

 

「航空機で絨毯爆撃したくなるね、あれは」

 

「不可能という問題を除けば、最も効率的ではあります」

 

 エルティナの言うことは的確だが面白い。

 そうして短い雑談を終え、私たちは地上へ降り立つ。再び自分たちの仕事に戻る時間だ。

 

「――レスタ――」

 

 私の腕から降りると同時に、エルティナは針忍冬(リバレイトタリス)を部隊の頭上へ放った。それを起点に展開された回復テクニック(レスタ)によって大小様々な負傷を一気に癒やしていく。

 

 冒険者において治療師(ヒーラー)は希少らしく、特に前衛に追従できる者は数えるほどしかいない。基本的にはアミッドさんのように後方で待機するものだ。そのぶん彼女の回復力は圧倒的だが、連発が難しく、精神力(マインド)の消費も激しいのがネックになる。

 

 その不足を埋めるのがエルティナの役割だ。それは同時に、アミッドさんの負担を軽減する最良の手段でもあった。

 

「おい、次の魔剣をよこせ! 早くしろ!!」

 

 魔導士部隊の隣では、一人の冒険者が怒鳴り声を上げていた。砕け散った手元の武器を乱暴に投げ捨て、新しく配給された武器をキャッチするなり、隣の魔導士とタイミングを合わせて一気に振り下ろす。

 

 振り下ろされた武器に呼応するように炎の波動が斬撃と共に獣蛮族(フォモール)へと襲いかかった。

 

「あれが『魔剣』っていうの? すごいね、魔法が使えなくても同等のことができるなんて。反則じゃない?」

 

「しかし、使用回数に制限があるようですね」

 

 エルティナの言う通り、他の冒険者たちも数回発動させては剣を砕き、新しいものを受け取っている。まるで使い捨ての消耗品だ。もったいない。

 

「ここが最後の戦場だから大盤振る舞いなのかな。景気がいいね!」

 

 エルティナの攻撃支援テクニック(シフタ)はアビリティそのものに作用するが、魔剣の攻撃にまでは及ばないようだ。そのため、エルティナには魔導士部隊と前衛の攻撃隊に集中してテクニックを展開してもらっている。

 

 私たちのには、目の前には奮闘する前衛部隊。背後には、さらに強力な魔法を発動させようと詠唱を続ける魔導士たちと、彼らを守る防衛部隊。

 

 獣蛮族(フォモール)は、数こそ多いが驚異度としてはウダイオスの周辺に湧き出る骸骨兵士より少し強い程度だ。ただし突撃力とパワーは侮れない。幸い「蛮族」の名に違わず知能は低く、戦い方は武器を振り回すか、牙で噛みつくか、ヤギのような角で突き刺すかという単純明快なものだ。

 

「よっと……そんな雑な攻撃をアークスに当てられるなんて思わないでよね」

 

 前衛から漏れてきた一体の攻撃に、自分の斬撃をぶつける。攻守一体(ガードポイント)のスキルを乗せた一撃で相手の攻撃をキャンセルし、その反動で敵をノックバックさせた。レベル2のステータスでは倒し切ることはできないが、エルティナを守る壁になれればそれでいい。

 

 ちなみに今の個体は、さらにこちらへ突撃してきた別の獣蛮族(フォモール)の進行上へ上手く押し戻してやって、味方の突進をモロに食らい、体に風穴を開けられて絶命した。 自分の力で倒せなくても、この乱戦を上手く利用すれば処理は可能というわけだ。

 

「ふふん、弱者には弱者なりの戦い方があるってね。ねえエルティナ、私、かっこいい?」

 

「……追加目標が接近中です。対処を」

 

 わざとらしく鼻息を荒くした直後、野太い雄叫びが響いた。見上げれば、一体の獣蛮族(フォモール)が大きく跳躍し、棍棒を私目掛けて振り下ろそうとしている。

 

「空も飛べないのに、なんでわざわざ上から来るかなぁ」

 

 溜息をつきつつ、エルティナを抱き上げて虚空跳躍(ネクストジャンプ)を発動し、下降し始めた敵の、さらに頭上へと飛び上がる。

 

「ほらね? 空中じゃ姿勢を変えられないでしょ」

 

 私を見上げようとして無様にバランスを崩した敵。一旦、エルティナを安全な地面へ降りてもらうよう促し、私は下向きに跳躍を重ねた。重力加速に虚空跳躍(ネクストジャンプ)による跳躍力を上乗せし、巨剣の先を一点に絞る。

 

 落下スピードをすべて刺突に変え、獣蛮族(フォモール)の心臓を貫いた。

 

「なるほど。これくらいやれば、私でも倒せるわけだ」

 

 一瞬で灰になった死体に満足し、空中でくるりと回る。風圧でスカートがめくれ上がるのも構わず、虚空跳躍(ネクストジャンプ)で着地の衝撃を殺して軟着陸。……よし、10点満点の出来だ。

 

 スカートの中には、今日もちゃんとスパッツを穿いている。これなら例のエルフのお姉さんもニッコリだろう。ちなみに今朝、それを証明するために彼女の目の前でスカートを捲って見せたら、ものすごく怒られた。解せぬ。(あたりまえ)

 

 その腹いせに、明日からはもうスパッツを穿かないと心に決めた。(火に油)

 

「集中してください、お嬢様」

 

「おっと、ごめんごめん」

 

 デバンドをかけ直してくれたエルティナに謝り、私はもう一度、巨剣を構え直した。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

「膠着してるね」

 

「安定している、と考えることもできます」

 

 私のふとした呟きに、エルティナが淡々と答えを返してくれた。ガネーシャ・ファミリアはシャクティさんの指示を、私たちが持ち込んだ通信機がその情報を全軍に行き渡らせているようだ。それがまるで一つの生命体のような統制をもって、戦況をコントロールしている。

 

 ガネーシャファミリアと獣蛮族(フォモール)の大群は一進一退の攻防を繰り広げているが、敵の数は確実に減少している。

 

「敵勢力、30%の減少を確認しました」

 

 エルティナがレーダーに映る反応を分析し、戦況を告げる。

 

「ねえエルティナ。……なんか、不気味だね」

 

「空間のエネルギー準位の上昇を確認。強大個体出現の予兆と酷似」

 

 エルティナの報告と同時に、私のHUDに【CAUTION】の警告文字が浮かび上がり――同時に、奇妙な「静寂」が訪れた。

 

 耳朶を打つのは、数百の獣が上げる咆哮、魔導士たちの詠唱、肉を断つ鋼の音。今やルーチンワークになりつつあったそれらの環境音は何も変わっていないはずなのに、何かしらの重圧が足元からせり上がってくるような錯覚を覚える。

 

「なんだ……?」

 

 後方でフォモールの一群を処理していた防衛部隊の一人が、その違和感に気づいたかのように声を漏らした。波紋のように広がった戦慄は前線部隊をも侵食し、冒険者たちの動きが目に見えてぎこちなくなる。

 

 地平の先。霧がかった灰色の岩の向こう側で、巨大な影がゆっくりと、しかし確実に動き出した。

 

「――来た! 全員、衝撃に備えろッ!!」

 

 シャクティさんの鋭い警告が、通信機を通じて全軍に響き渡る。直後、大地が悲鳴を上げた。

 

「うーん。思った以上に大きいね、あれは」

 

「49階層の階層主、バロールと断定します」

 

 一歩。ただの一歩で、巨大なクレーターが荒野に刻まれる。もうもうと立ち上る砂塵が晴れた先に佇んでいたのは、この階層の真の主だった。

 

「あれが……バロール……」

 

 前衛で大剣を振るっていたハシャーナさんが、戦慄に声を震わせる。

 

 バロールは、自らの進路を塞ぐ獣蛮族(フォモール)を、まるで邪魔な塵を払うかのように巨大な腕で薙ぎ払った。同族であるはずの魔物を文字通り「消滅」させながら、その巨体はただ一点――ガネーシャ・ファミリアの主力部隊、そして私たちがいる中心部へと狙いを定めていた。

 

「あいつ、目が見えてないのかな?」

 

「ここからですと、眼窩を閉じているように観測されます」

 

 目で見ずに感覚で行動するタイプのやつか。確か、あの目からビームみたいなのを出すらしいから、視界に捉えられないよう注意しないとダメだね。

 

「お嬢様、目標周囲の魔力値が急激に上昇しています。大規模攻撃の予兆と断定。回避を推奨します」

 

 冷静なエルティナの警告。本来は戦闘システムが出すべきアラートを、エルティナのAIが直接私へ通告することで、その緊急性を強調しているように思えた。

 

 バロールの漆黒の頭部。その中央にあるはずの「眼」は、今はまだ固く閉じられたままだ。しかし、その瞼の隙間からマグマのような赤黒い魔力が漏れ出し、周囲の空気を陽炎のように歪ませている。

 

「全軍散開! 奴の視界に絶対に入るな!」

 

 シャクティさんの号令が飛び、通信機を背負った中継役の冒険者たちが、必死に声を振り絞って指示を伝達していく。

 

 しかし、指示を伝達に要する時間と、行動を変更する際にかかる一瞬の硬直が、ガネーシャ・ファミリア全体を蝕むようだった。

 

 アークスであれば、戦闘システムが全戦闘要員へ同時に情報を伝達し、生命維持装置による思考制御によって一瞬のラグもなく次の行動に移ることができる。

 

 けれ、この世界の住人にそれを期待するのはあまりに酷なことだよね。

 

 ギチ、ギギ……と、硬直した空間が割れるような響きが耳に届けられた。巨人の瞼が、ゆっくりと、しかし容赦なく開いていく。その奥に座しているのは、地獄の淵を閉じ込めたかのような、巨大な単眼だった。

 

「やっば……目が合っちゃった」

 

 絶対に視界に入るなと言われているけれど、恐慌状態に陥りかけた今のガネーシャファミリアに、あの魔眼を完全にやり過ごす余裕はないだろう。

 

「うーん……仕方ないか……。エルティナ、サポートをお願いね」

 

「承知いたしました」

 

 私は巨剣の柄を握り直し、その切っ先をバロールへと向け、両足を大きく開いて、重心を落とす。

 そして、その剣先にフォトンを集中させ、不可視の弾丸としてバロールへと撃ち出した。 それ自体に殺傷力はない。けれど、照射された違和感に気づいたバロールは、間違いなく私を「次の獲物」として認識するはずだ。

 

 さてさて、バロールよ。その魔眼の威力、存分に私へ見せつけてみなさいな。

 

 

 








今日からようやく休暇に入れます……やっとか……



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