ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
勝利の咆哮が、階層の隅々まで震わせていた。魔眼を潰され、満身創痍となったバロール。その巨躯が膝をつき、冒険者たちがトドメの一撃を加えようと殺到している。
私は、ようやく自分の仕事が終わったと安堵のため息をつき、巨剣を握る腕からわずかに力を抜いた。
【コードD発令:空間許容限界を突破】
――ピシッ――
私のHUDにトラウマ級の警告サインが表示された次の瞬間、分厚い氷床に亀裂が走るような、あるいは巨木の幹が割れるような乾いた音が、静かに、だが致命的な響きで戦場を駆け巡った。
「……勘弁してよ」
私は崩れ落ちそうになる膝を叩き、次に起こるであろう「事象」に備えて身構えた。
『マスター、報告いたします。周辺のダーカー反応に極めて深刻な異常値を検出。エネルギー反応が上限値に達しようとしています』
側に駆け寄ったエルティナが、通信機越しに報告を告げてくれた。エネルギーがカンストしかけているということは、最悪、ダークファルス級のやつが出現する可能性すらあるわけだ。
『それは、
思い出すのは、下層ジャングルで遭遇した
『すでに
また新しいイレギュラーか、と憂鬱になる。だけど、これから現れる対象はアークスが対処すべき領域の存在だ。私はエルティナにガネーシャ・ファミリアへの支援を優先するよう命じると、アークス装備を完全有効化し、フォトン出力のリミッターを解除した。
もう、裏方を気取る余裕はない。シャクティさんへの言い訳は後で考えよう。
直後、バロールの足元から漆黒の「茨」が噴出した。それは生き物のようにのたうち、無防備な階層主の巨体を、逃さぬよう一瞬で幾重にも絡め取っていく。
「……なんだ、あれは。何が起こってやがる……ッ!」
ハシャーナさんの当惑した声が耳朶を打った。しかし、それはやがて戦慄へと変わり、無意識の後ずさりとなった。
絡みついた茨の先端が、槍のような鋭さでバロールの肉へと突き立てられたのだ。数十、数百の茨がバロールを「収穫」するかのように全方位から貫いていく。
「ギ、……ア…………ッ」
バロールが上げたのは、もはや悲鳴ですらなかった。肉を、骨を、そして魔力そのものを啜り上げられる、おぞましい咀嚼音が静まり返った戦場に響き渡る。
「キモ……」
瞬く間にバロールの姿は消滅し、茨の塊は脈動する繭のような肉塊へと変貌した。
ドクン、と繭が大きく脈打つように鳴動し、それに呼応するかのように49階層全体を激しい地鳴りが襲った。空間そのものが悲鳴を上げ、天井の岩の一部が崩落を開始する。
「総員退避! バロールから離れろ!」
シャクティさんの絶叫が皆に行き渡り、混乱が波のように広がっていく。その声に呼応するように、いつの間にか真っ白に染まった繭に亀裂が入り、そこから大気すら凍らせるほどの極寒が、蒸気のように吹き出してきた。
【警告:極寒環境】
システムが立て続けに警告を発する。繭からもたらされる絶対零度の噴出は、やがて49階層全域を覆い尽くす猛吹雪となり、すべてを凍てつかせていく。これではまるで、レイヨルド峡江みたいだと私は思った。
「ちくしょう、前が見えねぇ! 何が起こってやがる!」
【地形効果:継続ダメージ・回復半減】
吹雪に視界を遮られ、雪の欠片による乱反射が視力さえも奪う。
「総員撤退だ! 48階層まで後退する!」
シャクティさんの必死の指令も虚しく、退路を確保していた部隊から絶望の報告が上がった。
「だめだ! 入り口が凍り付いて通れない!! 誰か、火炎の魔法を打ち込んでくれ。火炎石でも何でもいい何とかしてくれ!!」
退路が断たれた。
「エネミーが出現します。お嬢様、私はシャクティ様に追従し、部隊の撤退を支援します」
「うん、みんなをお願い。ここは、私が何とかするよ」
「命を守ることを最優先に」
私は巨剣を量子化してアイテムパックに格納し、武器スロットに『フルクシオタラッサ』を適応、掌に出現させた。武器迷彩『フェリシテエーデル』による雪のレイピアが、吹雪の中で真っ白に輝く。
「戦闘システム、極限環境戦闘に移行。生命維持装置出力最大」
フォトンの出力を生命維持に回した分、攻撃へ回すはずのフォトンの出力を下げざるを得ない。だけど、そのおかげで継続ダメージは消失し、真冬の夜に半袖で外に出る程度の寒さにまで抑えることができている。まだ寒いけど、我慢できる程度の寒さだ。
私のフォトンがピークに達すると同時に繭が崩壊し、中から巨漢の人型エネミーが出現し、こちらを睨み付ける。すでに茨の様相は微塵も感じられない。繭の中で階層主を溶かし、喰らい、一つとなって全く新しい存在へと生まれ変わったのだ。
「行くよ、遠世のアムス・クヴァリス。エンシェントエネミーなんて、本当に久しぶりだ」
私はそう言うと身体をぎゅっと前に突き出して後ろ足で地面を蹴り飛ばし、
「!! 消えた!」
冒険者の驚きの声。私の攻撃が届く刹那、アムス・クヴァリスがテレポートで消滅した。
「開幕でこれとか、聞いてないよ……」
次に来る攻撃を私はよく知っていた。アムス・クヴァリスの大技の一つに、テレポートを駆使した極大波動攻撃が存在するが、それは本来なら戦闘中盤以降に発動されるもののはずだった。
HUDのミニマップの、若干離れた場所にマーカーが出現し、私の周囲を覆うように巨大な円環の予兆が伸びる。その円環の向こうには、逃げ遅れた冒険者たちがいた。
流石にあれを喰らったらチリも残らないかもしれない。貴重な
やることはシンプルだ。逃げ遅れた人たちを「蹴り飛ばして」範囲外へ出す。
「お腹に力を込めてください!」 「ごめんなさい、蹴ります!」 「文句は生き延びた後で!」
都合三名に詫びを入れながら遠方へ蹴り飛ばし、アミッドさんの回復魔法の光へと押し込んだ。
『エルティナ、私の回復もお願いね』
『命を守ることを最優先と言ったはずです』
『うん。だから、みんなの命を助けたんだよ。ごめんね』
回避は間に合わない。私はアムスの極大波動に正面から飲み込まれ、命を一つ失った。
【ラスターウィル発動】
システムログと共に、私は一瞬で息を吹き返す。
「――レスタ――」
エルティナの
だけど、攻撃は終わらない。二度目のテレポート共にさらなる波動攻撃が予兆を描く。今度は射線上に誰もいない。私はエネミーへ高速移動し、放たれる波動をステップで回避、カウンターを叩き込んだ。
「……あんまり効いてないね」
火力の低下が響いている。今の状態で、超化を果たした
私はPA:フレシェット/ステイアーツを素早く2回発動し、連続の刺突と共にアドバンス状態へ移行し、身体の周辺に赤いブレードを持つビットを複数展開させ、同時に攻撃にもひるむことがない頑強状態を形成した。
そして、エンハンスアタックを実行し、敵にジェルンの状態異常を強制的に与える槍を生成し、準備を整えた。
『エルティナ、メギバースをお願い』
『承知いたしました』
足元に突き刺さった
アムス・クヴァリスの掌底、サマーソルトの猛攻にも、私はダメージを受けつつもひるむことなく、ラスターの基本となる威力コンボ――PA:ブランドエクステンション/ステイアーツによる回転を加えた連続の切り払い攻撃にエンハンスドコンボを組み込んだ、超高速の連撃が嵐のように敵へと襲いかかる。
【ギアゲージ残り0】
システムの警告を確認し、私はコンボの終了とともにクイックシュートを挟み、スタイルパージを敢行した。武器属性を解放することで発生する莫大なエネルギーを敵へと振り向け、それと同時にPPとギアゲージを回復させる。
「ラスタータイム、発動」
私はラスタータイムを発動し、属性を火へと戻す。アムスの攻撃は熾烈だが、メギバースが私の命を繋ぐ。
【ラスタータイム終了まであとわずか】
システムの警告によりラスタータイムの終了が訪れる。私はそのまま最後のフィニッシュ攻撃を敢行し、幾重もの刺突攻撃と斬撃攻撃を台風のごとく浴びせかけ、最後に巨大な光の弾丸を撃ち込み終わりを迎えた。
しかし、光が晴れた先にいたのは、未だ余力を残したアムス・クヴァリスの姿だった。
「こいつもカンストアークスが32人でたこ殴りにしても30分かかる奴だからね……私一人じゃ、火力が足りない」
せめて、この吹雪が晴れてくれればまだ希望はあるが、そのためにはアムス・クヴァリスを倒さないといけないという無限ループに陥る。
【警告:敵増援】
アムス・クヴァリスの分身体、アムス・クローネ。 複数体の反応が、散開してガネーシャ・ファミリアへと向かっていく。
こいつらはアムス・クヴァリスの劣化コピーのようなヤツで似たような戦闘をするが、その威力や耐久は圧倒的に低い。
しかし、私は本体に集中しなければならないため、そちらの殲滅に回ることはできないのだ。
「新手か! とにかく身を守れ!」
シャクティさんの声が響く。先ほどから入り口の凍結を解除するべく様々な手段が講じられているが、未だに退路は確保できていないようだ。
『
エルティナの報告を聞いても私には何もできない。せいぜい、マインドポーションをがぶ飲みしてもらうぐらいしか考えられないのが辛いね。
『とにかく、退路が確保できるまでかな。こいつの殲滅方法は、その後に考えるしかないね』
『承知いたしました。戦線の維持に努めます』
退路が確保できるまで耐えるしかない。
ガネーシャファミリアも突如出現したアムス・クローネと果敢に戦闘するが防戦一方でまともにダメージを与えることはできていない。
エルティナが走り回って回復し、アミッドさんの魔法によって犠牲者は出ていないが、極寒によって行動が制限され、視界も悪くガネーシャファミリアの最大の利点である連携がとれない状態は致命的だ。
もしもガネーシャファミリアの中にこの猛吹雪(フィールドエフェクト)を解除できるような魔法が使える人がいれば、あるいは状況も違ったかもしれないが、そのような都合の良い魔法がすぐに生えてくるはずもない――いや、アレがあったね、そういえば。
『ねえ、エルティナ。
『理由をお聞かせください』
『これを今アミッドさんが読んだら、状況をひっくり返せる魔法が習得できるんじゃないかって思ったんだ』
『楽観的すぎます。拝読中は無防備になる上、狙った効果が出る可能性は極めて低い。再考を具申します』
『分かってる。でも、賭けたいんだ。私たちの
通信の向こう側に声を投げる。
『――うん、いいよ。ベルディナ、エルティナ。私は二人を信じる!』
『ありがとうございます、ワカヒルメ様! エルティナ、お願い!』
『……承知しました』
エルティナが戦線を離脱し、アミッドさんの元へ走る。これから何が起こるのか私は予想することはできない。だけど、運命に抗う意志があれば、フォトンは必ず応えてくれるはずだ。
――お願い、シオン、シャオ。私に力を貸して――
すみません、ここで、アンケートをさせてください。
今後、ベルディナがランクアップするとして、その際の二つ名の候補をいくつか挙げてみました。
(どの神が提案したかはあえて伏せます。)
どうか、投票をお願いします。
ベルディナの今後の二つ名は?
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猛猫(キティホーク)
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九尾の猫(ナインライブズ)
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猛女(おうじょ)
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征女(アレクサンドラ
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雷霆(ハーキュリア)
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救世(セイヴィア)
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天姫命(アメノヒメノミコト)
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聖誕(キティラ)
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守護者(タロス)
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勝者(イルニナ)
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代行者(ディミオス)
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神越(ラグナロク)
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来生(タターガタ)
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黄金宮(ヴィンゴルヴ)
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戦乙女(ワルキューレ)
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おまかせ