ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
アミッドさんの魔力が、絶望に凍りついていたフロアを端から塗りつぶしていく。肌を刺すような冷気は消え、そこにあるのは、記憶の底に眠る母と二人で歩いた桜並木のような、どこか懐かしくて温かな風だった。
「よかった。成功したんだね、エルティナ」
『マスター。作戦は成功。地形効果はすべて解除されています』
『うん……! ありがと。これなら、戦える!』
私は生命維持装置へ回していたリソースを、全て攻撃エネルギーへと叩き込んだ。
自分の土俵を奪われて困惑するアムス・クヴァリスの隙を見逃すほど、この街の冒険者たちは甘くない。
「全員、反撃開始だ!
シャクティさんの鋭い一喝が響き、さっきまで凍えそうだったみんなが、息を吹き返したようにアムスへ殺到した。アミッドさんの光に包まれている限り、どんな深い傷だって一瞬で消えていく。その様はまるで、終わらない夢を見ているみたいな「不屈の軍勢」のようだった。
『ねえ、エルティナ。アミッドさんの魔法にフォトンの反応が混じってる気がするけど、どう?』
『そのようです』
『フォトンに晒された
だけど、これだけの大魔法だと消費する精神力も莫大な物になるだろう。良いところ、あと一分ぐらいか。
私のフォトンも、もう後一発の大技が限界だ。武器を炎属性の『フルクシオタラッサ』から光属性の『リンザータラッサ』へ。スタイルをフォメルからバーランへとシフトし、私はまっすぐに切っ先を突き出した。
「それじゃ、そろそろ終わりにしようか、
【エンハンスシュート――チャージ開始】
全身のフォトンが切っ先に集束し、右肩に展開された光の翼が、私の決意をなぞるように肥大していく。
【出力、最大】
「!! 全員離脱! 急げ!」
シャクティさんの叫びと共に、みんなが血相を変えて舞台を空けてくれた。これなら、巻き込む心配はない。
「バイバイ」
引き金を引くと同時に、私の世界は白一色に染まった。地上に出現した太陽のような奔流が、膝をつくアムス・クヴァリスを飲み込む。怪物の輪郭が空間ごと歪み、最期は真っ赤な十字架の爆発となって、霧のように消え去った。
「はぁ――……いや、マジで、死ぬかと思った……」
私は発射の反動にあえて逆らわず、そのまま大の字になって、ゴツゴツした地面に倒れ込んだ。
「ご無事ですか、マスター?」
「ありがと、エルティナ……。身体は大丈夫だけど、心が削られた気がするよ」
ぼーっと見上げた天井の先には、アミッドさんの魔法が作り出した輝きが、まるで星空のようなに満ちあふれるようだった。流星群のように降り注ぐその光が地面に触れるたび、そこから眩いばかりの花々が咲き誇っていく。
「あはは……ダンジョンにお花畑ができちゃった。すごいね、奇跡だね、エルティナ……」
私がかつて調査した、あの滅びた未来のオラリオ。あそこには、花一輪すら咲いていなかった。けれど、今、私の目の前には、あのアミッドさんが、みんなが守り抜いた「今」という名の花畑が広がっている。
遠征はまだ終わっていないし、課題も山積みだ。
でも、今だけはいいよね。私は聖華の香りに包まれながら、心地よい微睡みのなかへと、ゆっくりと意識を沈めていった。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
目を開くと、アミッドさんが私を慈悲深い眼差しで見守ってくれていた。
「おはようございます。お疲れ様でした、
「アミッドさん、おはようございます。魔法、すごかったですね」
「いえ、あなたたちのおかげです。本当にありがとうございました」
アミッドさんもその場に腰を下ろし、自分の魔法によって出現した光の花を愛でるように撫でつけている。
「身体は大丈夫ですか? 反動とかは?」
「いえ、不思議と疲れていないんですよ。あれだけの魔法ですと、精神力が枯渇してもおかしくないと思っていましたが」
「そうなんですね。よかった」
私は、彼女がフォトンを取り込んでエネルギー変換していたから、魔力の消費自体が少なかったのかな、なんてエルティナと通信しながら考えていた。
「そういえば、杖はどうしたんですか? いつも持ってましたよね」
「ああ、それは――あの魔法に耐えきれなかったのか、砕けてしまいまして」
見せられたのは、かつて杖だった無惨な残骸。フォトンと魔力が混ざり合ったあの瞬間の負荷に、並の素材では耐えきれなかったんだろう。いや、オラリオ最高の
「そうだったんですか。残念ですね」
あるいは、アミッドさんの身を挺してその杖が代わりに砕けてくれたんだろうか。都合の良い考えかもしれない。けれど、今はそう思わせてほしかった。
「いえ、命には代えられません。また、新しいものを新調すれば良いので」
そんな和気藹々とした空気の中、エルティナがやってきて階層主のドロップ品を見てほしいと言ってきた。アミッドさんと一緒に向かうと、そこにはPSO2ではお馴染みの、赤いクリスタルのようなボスドロップ・コンテナが浮かんでいた。
シャクティさんをはじめ、ガネーシャ・ファミリアの団員たちが、見たこともない異質な「魔石」のようなそれを困惑した表情で取り囲んでいる。
「魔石……ですか? これほどの大きさのものは初めて見ます」
「なぜか運び出すことができないんだ。少し見てくれないか」
シャクティさんに促され、アミッドさんが戸惑いながらもそのクリスタルにそっと触れる。瞬間、赤い結晶は音もなく崩れ、中から一本の美しい杖が姿を現した。
「これは、杖……ですか? 見事な造形ですね」
「まさか、階層主からこのようなものがドロップするとはな」
鑑定するまでもない。それは私の知る星13の短杖(ウォンド)、『ゼイネシスセプター』だった。周囲の生命を活性化させ、戦う者の意志を底上げする力をもつウォンドは、今、新しい「主」を見つけたかのようにアミッドさんの手の中で静かに脈動していた。
「さっき、アミッドさんの杖が壊れたらしいので、これを持ってもらったら良いんじゃないですか?」
「それもそうだな。
シャクティさんは特に悩まずにアミッドさんに確認した。
「え? ええ、それは――ありがたいのですが……よろしいのですか?
私達はあくまで遠征のお手伝い要員として呼ばれただけなので、基本的に拾ったものの権利はガネーシャファミリアに帰属して、帰ってから改めて報酬をいただくことになっているから、アミッドさんの困惑も妥当ではあるのだ。
「お前にはかなりの無理を強いた。そのお詫び……礼だと思ってほしい」
まあ、装備品の補填と報酬の一部と考えればそれが一番合理的とも言えるね。
「分かりました。では、一旦お預かりいたします」
アミッドさんは地上に戻ったら返却するつもりなのだろうか? だが、残念でした。星13以上の武器は一度装備したらオーナー登録されて、他の人は装備できなくなるのです――計画通りだね(暗黒微笑)。
アミッドさんが手にしたゼイネシスセプターは、大樹をモチーフにした黄金のフレームに、鮮やかな緑の刻印が巡る複雑な造形だ。聖女としての彼女の立ち姿に、その神秘的な輝きが驚くほどよく似合っている。
「うん、よく似合いますよ。綺麗です」
「あ、ありがとうございます……」
少し照れたように杖を掲げるアミッドさん。その様子を見ていたイルタさんが、シャクティさんに報告に来た。
「姐御、全員の準備は整った。いつでもいける」
「よし、では全員進軍だ。50階層に入る!」
シャクティさんの号令に、割れんばかりの歓声が上がる。私とエルティナ、そして新しい杖を携えたアミッドさんは、誇らしげな冒険者たちの列に加わり、ついに第50階層へと足を踏み入れた。
今日で休暇は終わり……ツラい……
ベルディナの今後の二つ名は?
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猛猫(キティホーク)
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九尾の猫(ナインライブズ)
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猛女(おうじょ)
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征女(アレクサンドラ
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雷霆(ハーキュリア)
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救世(セイヴィア)
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天姫命(アメノヒメノミコト)
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聖誕(キティラ)
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守護者(タロス)
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勝者(イルニナ)
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代行者(ディミオス)
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神越(ラグナロク)
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来生(タターガタ)
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黄金宮(ヴィンゴルヴ)
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戦乙女(ワルキューレ)
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おまかせ