ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
アミッドさんのランクアップをお祝いしに行ったはずが、色々ともらって帰ってきてしまい、ワカヒルメ様からは「君は一体、何をしに行ったんだい?」と呆れられてしまった。まあ、エリクサーなんてどれだけあっても良いものだしね。半分はエルティナに、もう半分は私の手元で管理することにした。
帰り道の買い物でそば粉を見つけたので、その日も蕎麦打ちの練習に励んだ。徐々に納得のいく形になってきている。
「これなら年末までには間に合いそうですね」
「そうだね、頑張ったねベルディナ」
ワカヒルメ様に褒められて、もうひと頑張りしようと気合を入れる。……これが、概ね先週の出来事。
翌日は「18階層まで一日に何往復できるか」という企画を思いつき、エルティナに(呆れられながらも)動画を撮ってもらった。その夜は動画編集の作業に没頭してしまい、ワカヒルメ様から「早く寝なさい」と叱られてしまい、ちょっと恥ずかしい思いをした。
出来上がった動画をワカヒルメ様に見ていただくと、なんとも微妙な顔をされたが、「君が楽しそうだったから、まあ……よかったよ」と言われたので、もう少し編集技術も精進しようと思う。
ちなみに、途中で何度かパス・パレードに遭遇して対処に時間を取られ、結局四往復しかできなかった。次は五往復を目指したい。
将来的には『チャレンジ18』という名前で規格化して挑戦者を募るのも面白いかもしれない。誰かスポンサーになって賞金を用意してくれないかな(お前がやれ)。
そんな充実した一週間を越えて今日を迎え、いよいよガネーシャ・ファミリアとの会合の日がやってきた。
「一週間、お疲れ様でしたシャクティさん。大変でしたね」
『アイ・アム・ガネーシャ』という、相変わらず悪趣味の極みのような建物に招待され、応接室のソファで私、エルティナ、シャクティさんの三人が質の良いテーブルを囲んだ。まずシャクティさんのレベル6到達をお祝いすると、彼女は少し口元を綻ばせて「むしろ、礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう」と、逆に深々と頭を下げられてしまった。
場も和んだところで本題に入り、シャクティさんが一枚の書類を差し出してきた。
「これが、ガネーシャ・ファミリアからワカヒルメ・ファミリアへの報酬目録だ」
「失礼して、目を通させていただきますね」
エルティナと一緒に内容を確認する。
「ふむふむ……諸々含めて六百万ヴァリスですか。結構いただけるんですね」
アミッドさんからもらったエリクサー500万ヴァリス分を加えると、この遠征でざっと1100万ヴァリスか。……豪邸が建つね。
明細には、エルティナの支援による消耗品の温存、道中の追加報酬(
「正直なところ、今すぐ手渡せる現金がこの程度になってしまい、申し訳なく思う」
「いいえ。なんだかんだいって、消耗は激しかったでしょうし」
猛吹雪の中で破損した装備やポーションの補填には、莫大なお金と時間が必要になるはずだ。アミッドさん曰く、あの場にあったポーションは全滅したらしいし、ガネーシャ・ファミリアの台所事情も大変なのだろう。
「それともう一つ。これは明細に書くことができなかったが、例の通信機についてだ」
「そういえば、壊れていましたね、あれ」
「ああ、貴重なものを申し訳ない。それで、弁償をしたいと思うのだが……正直に言って、うちの目利きでは、これに『値段』をつけることができなかったのだ」
なるほど。似たような魔道具(マジックアイテム)は存在するが、非売品かつ数が極少で相場がないとなれば、そうなるよね。
「うーん。あれは試作品ですし、ガネーシャ・ファミリアの皆さんから貴重な運用データがもらえたので、それでトントンでいいんじゃないかなって思います」
実のところ、壊れた機体もすでに《クラフター》で素材に変換済みなので、再作成は容易だ。完全なリサイクル技術は素晴らしい。
「だが、それではファミリアの面子に関わるからな。何らかの形で補填をさせてほしいのだ」
やっぱり『面子』が出てきた。ディアンケヒト様といい、シャクティさんといい、大手の主神や団長は世間体があって大変だ。
「うーん、そういうの、私よく分からないんですよね……
「では、お嬢様。私から提案してもよろしいでしょうか?」
「そうだね。シャクティさんはそれでも良いですか?」
「構わない」
許可が出たので、私はソファの端に寄ってエルティナにバトンタッチした。
「失礼します。先ほどお話ししました通り、先の通信機は機能実証を目的とした試作品であり、実用段階からは程遠いものです。今後、さらなる小型・軽量化および高性能化を図るためには、より高度な素材が必要不可欠となります」
「なるほど、話が見えてきた。つまり、今回の遠征で入手した深層の素材を代わりに提供しろ、ということか?」
「その通りです」
「承知した。後ほど素材のリストを持ってこさせるから、好きに選んでくれて構わない。量も、そちらが必要な分をすべて持って行っていい」
「感謝いたします」
「うーん。それはちょっと、もらいすぎじゃないかな? ヴァリスもそれなりに貰ってるし、その上で希少素材を好きなだけってなると……ねぇ?」
エルティナも私の懸念は理解しているようで、「では、どういたしましょう」とシャクティさんに問いかける。
「では、それをガネーシャ・ファミリアからの『先行投資』と受け取ってもらうというのはどうだろうか。それを用いた次の試作機や実験機を、私たちが優先的に試用する権利をもらう、ということだ」
なるほど。それなら納得できる。弁済や報酬ではなく「投資」なら、今後も積極的に頼ることができそうだ。
「そうですね、それなら悪くないと思います。エルティナはどう?」
「お嬢様の判断に従います」
いつもの返答だね、知ってた。私は「それじゃ、それでお願いします」とシャクティさんに返した。
「あとは……そうだな。その機械は、設計図さえあれば誰でも作れると言っていたな? その設計図を売ってもらうことは可能か? 言い値で構わない」
「うーん……これは売り物ではないので、ちょっと難しいかもしれませんね。エルティナ、どう?」
「私からは、何も言うことはありません」
『エルティナ、クラフターで作成した物って、オラクル船団の備品扱いになるんだっけ?』
私は通信機でシャクティさんから聞こえないように問いかけた。
『その可能性が高いですが、明確な規定は存在しません。クラフター自体が試作品のようなもので、ルールが追いついていないようです』
そういえば、リュドミラさんがそんなこと言ってた気がする。あの人、早口の上、自分の言いたいことを言い終わったらすぐにどっか行っちゃうからなぁ。
『じゃあ、ちょっと考えてみようか?』
オラクル船団の希少素材を使っていないし、船団の機密情報を漏洩させるわけでもないから犯罪行為とは見なされないと思うんだよね。
『承知いたしました。過去の慣例や判例から類推し、準備しておきます』
このあたりの事はエルティナに任せれば問題ないだろう。頭の良くない私が考えるよりも正確で信頼できるはずだ。
「……ワカヒルメ様とも相談しないといけないので、少し保留にさせていただけますか?」
とりあえず、私はワカヒルメ様の名前を出してここは保留とさせてもらう。相談しないといけないのは確かだからね。相談するだけなら、今この場で通信機越しに相談できるけどさ。
「ああ、急ぐわけではない。どうか検討してみてほしい」
検討を加速させるというと、政治家的には検討しませんみたいなニュアンスがあるから言わない。
「ちなみに、いくらくらいとか、希望はありますか? こういうの、相場が分からなくて」
「そもそも、これは全く新しい技術だからな。相場などないに等しい。その設計図ともなれば、どれほどの価値があるか想像もつかないよ」
「そこまで大したものじゃないはずなんですけどねぇ」
オラクル船団からすれば古代の遺物級の技術であり、地球の技術から見ても枯れ果てた技術でもある。
とりあえずは、一旦設計図を用意すること。それを叩き台にワカヒルメ様と相談し、OKが出ればガネーシャ・ファミリアの鑑定役にも見てもらった上で改めて値段を相談する……という方向で話がまとまった。
こうして、いくつかの新しい約束を交わしつつ、今回の遠征に関するすべての後処理が無事に終了したのだった。
ベルディナの今後の二つ名は?
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猛猫(キティホーク)
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九尾の猫(ナインライブズ)
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猛女(おうじょ)
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征女(アレクサンドラ
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雷霆(ハーキュリア)
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救世(セイヴィア)
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天姫命(アメノヒメノミコト)
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聖誕(キティラ)
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守護者(タロス)
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勝者(イルニナ)
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代行者(ディミオス)
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神越(ラグナロク)
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来生(タターガタ)
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黄金宮(ヴィンゴルヴ)
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戦乙女(ワルキューレ)
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おまかせ