ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
変則的ですが、感想欄で指摘があった、オラクル船団の様子を番外編で投稿します。
話の途中への差し込み投稿で申し訳ありません。
ベルディナたちがダンジョン第49階層で絶望との死闘を繰り広げていたそのころ、地上から遥か彼方、星々の海をゆくオラクル船団では、秘密裏に一つの会合が開かれていた。
「対応が遅すぎないか?」
アッシュの声が、静まり返ったアークスシップの艦橋に低く、けれど鋭く響いた。
ベルディナが調査任務中に消息を絶ち、あの惑星が完全黒体――まるでブラックホールのような闇に包まれてから、すでに40時間近くが経過している。
先の会合において、ウルク総司令とシャオの両名からベルディナ救助計画が宣言され、混乱を避けるために関係の深い信用できる人員のみに情報が共有されたのは、その翌日のことだった。
「おい、相棒。心配なのは分かるけどさ。流石にそれは無理筋だろう? あの星の周りは時空ごとねじ切れてるんだぜ」
アフィンが浮遊椅子の上で、焦る「相棒」を宥めるように肩をすくめる。
『焦りは禁物だよ。とにかくこちらはあっちのことがまるで不明なんだ。シャオですら上手く情報の糸口を掴めないとくれば、なおさらさ』
シャオとシエラの手によって、宇宙一セキュリティの高い回線で繋がれた通信越しに、マリアがアッシュへ苦言を呈した。
「マリアの言う通りだ。あの惑星は今、星自らが『夢』を見ているような状態だということは説明はしたね? その結果、光波も粒子も、フォトンですら全て吸収し、物理的な干渉が一切拒絶されてるんだよ。ベルディナが巻き込まれたのは、おそらくその星の意志が、自らの滅びを回避するために彼女の力を求めたからというのが最も説得力が高い――というのが、今のところ僕たちが出せる精一杯の推測だね」
艦橋の中央に立つシャオは、無数のホログラムウィンドウを指先で弾きながら、冷静に分析を口にした。
「ベルディナは……今も、一人で戦っているの?」
マトイが、祈るように胸の前で手を組み、モニターに映る漆黒の球体を見つめた。
「彼女にはエルティナがついている。それに、彼女は自称『
シャオが皮肉げに、けれど信頼を込めて微笑む。
「今は全シエラシリーズの演算リソースの50%を、あの閉鎖空間に観測に割いている。星がどんな夢を見ているのかは分からない。ひょっとしたら、オメガ世界のような、ファンタジックな世界が広がってるのかもしれないね。あの時は、君は自力で――というよりはアルマの力を借りて出てくることができたけど、ベルディナもそうなるのかは分からない」
「俺は……運が良かっただけだ」
『運を引き寄せるのも実力のうちだぜ、アッシュ』
通信機越しにゼノが先輩らしい笑みでアッシュを励ました。
『それで、どうするのだ? このまま手をこまねいているだけか?』
最年長者であるレギアスは、表情の読めないキャストの特有の低く落ち着いた声でシャオに問いかけた。
「その点に関しては、カスラに説明をお願いするよ」
「承知しました。では、こちらをご覧ください。つい数時間前の観測結果です」
カスラはそう言って全員のモニターに、黒体に包まれる惑星(オラリオ)を映し出した。
『現在、キャンプシップにて惑星の監視を行って貰っているクーナさんとヒューイとクラリスクレイスから提供された資料です。見た目だけではなにも変化がありませんが、フォトン探査モニターに切り替えます』
カスラはそう言うと、惑星全体を赤外線探査モニターのような表示に切り替え、改めて時間を進めた。
「うん? ねえ、アッシュ。今、一瞬光らなかった?」
マトイがモニターを指さしながら隣のアッシュに問いかけた。
「ああ、わずかだが」
アッシュはマトイに答え、確かに自分も見たとうなずき返した。
『その通りです。このように、内部よりフォトンの反応を確認することができました。反応の解析をした結果、ベルディナさんのフォトン反応と90%以上の一致を確認しました』
「なら、ベルディナは無事ということか?」
アッシュは思わず腰を上げようとしてマトイに「落ち着いて」と止められた。
『なら、話しは簡単だ。アタシらがそこにフォトンを注ぎ込んでやれば無理矢理通路を作ることだってできるってことだな?』
「それができれば苦労しないんだけどね……はっきり言って、君たちがそれをしたら、この惑星はコナゴナになっちゃうからさ」
シャオは脳筋なマリアの物言いに肩をすくめた。
「先ほどのフォトンは確かにベルディナさんが発せられたフォトンでありますが、まだまだ反応が小さく、具体的にそれを追跡することまではできませんでした」
ここで始めてシエラが口を開き、その経緯をモニターした。発現した瞬間にシエラが探索を開始したものの、黒体のわずか表面程度をかすめる程度の深度しか潜り込むことができない状況を示す。
「もしも、今後より強力なフォトンが発生した場合、あるいは地表まで追跡が出来、最終的にはベルディナさんのパスを取得することができる可能性があります」
シエラはそのシミュレーションデータを全員に示した。
『なるほど。希望はあると言うことか。しかし、このデータによると――必要なフォトンの量がここにいる者達でも発揮できぬような、膨大な出力になっているな』
アークスの頂点である彼/彼女たちですら凌駕するほどのフォトン出力となれば、この宇宙に存在し得るのか疑問に思えるほどのことだ。
「それは――何とかします!」
シエラは一瞬戸惑うが、それでもはっきりと答えた。
その時、艦橋に警告音のようなものが響き、はじかれるようにシャオとシエラが自らの前に膨大な量のコンソールを起動させた。
「巨大なフォトン反応を確認。反応を分析――これは、ベルディナさんのモノではない!? なぜ!」
「落ち着いてシエラ、今は追跡をお願い」
「了解ですシャオ――ああ、もう、すぐに小さくなって……消えました。追跡は、前回よりはマシ程度ですね」
シエラは一瞬で肩を落として椅子に座り込んでしまった。
「分析が完了したよ。確かにベルディナのフォトンではない。だけど、これはフォトンだけではない、未知のエネルギーが観測されてるね。
「マジック? それは、アルマさんみたいな?」
アルマはアークス唯一のマジックユーザーと言われるほど、不可解な技術を扱う。その技術こそが、かつてアッシュを特異点と化したオメガ世界から連れ戻し、同時に安全に送り込むことができたのだ。
「なら、ベルデイナも戻ってこれる希望はあると言うことか?」
「楽観視はできないけど、少なくとも可能性はできたね」
アッシュとマトイが手を取り合った。
「シエラ、そっちの解析はどうだった?」
「具体的なことはなにも。ですが、『私は、決して諦めない』という強い意志を感じることができました」
『なんとも勇ましいことだ。で? アタシ達はどうすればいい?』
マリアが首をかしげてシャオに問いかける。
「アッシュとマトイ、そしてアフィンには明日、現地に入ってほしい。何かあったらすぐに対応できるように、常に準備を整えておいて。それと、クーナ達のチームと交代してあげてほしい」
「分かった。俺は、今からでも向かえるが?」
「あー、俺はちょっと準備させてくれ、相棒」
「私も……」
落ち着きのないアッシュに、アフィンとマトイが少し申し訳なさそうに伝えた。
「とにかく冷静に行動してほしい。いくら君が
「……分かってる。出発は明日だ」
アッシュはそう言うと一人艦橋を後にした。焦る気持ちは分かる。実際、アッシュが先走っているおかげで他の者がかえって冷静さを保てている状態だ。本音を言えば、ここにいる全員が今すぐにでもあの惑星に突入して、直接ベルディナを捜索したいと思っているが、それは最悪の二次遭難を引き起こす可能性を考えなくてはならない。
「ねえ、シャオ君。一つだけ……」
「なんだい、マトイ?」
「この件、ダークファルスが絡んでると思う?」
その問いは、全ての核心を突いていた。
「今のところ分からない。向こうからは何の反応も返ってこないからね。だけど、最悪は想定しておくべきだ」
もしもダークファルスがあの惑星に存在して、それを侵食して目覚めることがあれば……宇宙そのものを守るため、惑星一つを消滅させる覚悟さえ彼らには必要なのだ。
誰もがそうならなければ良いと心から思う。しかし、いざというときは躊躇してはならない。アークスとはそう言うものだ。
そして、
「どうか、ベルディナを助けてあげてほしい」
「もちろんだよ。アフィンも……ね?」
「おう! 頑張ろうな、マトイ!」
アフィンは拳をグッと握りしめてガッツポーズを取った。
シオンとシバ亡きこの宇宙において、シャオの演算は宇宙一正確であることは間違いがない。そのシャオであっても、まだ彼女の救助は可能性が残っている程度の事でしかない。
しかし、彼女はシャオの予測を今まで裏切るような行動をとり続けてきた。まるで未来を見てきたような先見性で、常に最善の行動を選んできたのだ。
だからこそ、今回だって誰もが予想もしなかった方法で、ひょっこりと帰ってきてほしいとシャオは願った。
―補足―
上記の通り、ベルディナがオラリオに漂着しておよそ半年ほど経過してますが、オラクル船団ではまだ2日も経っていない状態ということになります。
よろしくお願いします。