ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
新章開始です!
あと、高評価ありがとうございました。頑張ります!
アストレアファミリア復活の巻
あの慌ただしい年越しから三ヶ月。オラリオには暖かな春の風が吹き始めていた。 私たちは、アストレア様から譲り受けた新しい拠点へと無事に移り住んでいた。借家よりもずっと広く、歴史を感じさせる邸宅は、今ではワカヒルメ・ファミリアの立派な本部であり、ワカヒルメ様の織物工房となっている。次は本格的な織機の導入だが、中古を買うにしてもレンタルするにしても、まだまだ先立つものが不安なようで踏み込めないでいる。何事も思い切りが大事だとは思うんだけどね。
それと、リザさんについてはかなりの朗報がある。あの遠征任務の後、27階層ではどうも
「ねえベルディナ! 輝夜もアスタも、ネーゼも、もうあんなに動けるようになったわよ!」
私が秘密の日記帳にいろいろ書き込み終わったところにアリーゼさんの声が投げかけられた。
今日、新居を訪ねてきたアリーゼさんが、嬉しそうに中庭を指差した。
そこでは義手を装着した輝夜さんとアスタさん、そして回復したネーゼさんがリハビリを兼ねた組み手を行っていた。引越し以来、アストレア・ファミリアの人たちは頻繁に遊びに来るようになったので、中庭で訓練をするのはもはや日常の光景だ。
ここは外から覗かれないようになっているので、私も時折アークス装備を展開してエルティナと戦闘訓練を行っている。そこにアストレア・ファミリアの血気盛んな小娘どもが乱入してきたってかんじだね。
以前、真っ二つになってしまった木刀を二本の小太刀に加工し直した、リューさんの新しい武器のお披露目もここで行った。彼女が『ネクス・エアリオ』からドロップした「ホムラノベニレンゲ」を使いこなす訓練も、密かに継続中だ。
最近は挨拶もそこそこに組み手を始めてしまうのだから、ここが誰の拠点なのか分からなくなっちゃうね。賑やかなのはいいことだけどさ。
輝夜さんとアスタさんの義手は大変調子がいいらしく、当初の違和感はどこへやら、今では自分の腕のように激しい動きにもしっかり追従している。
あの時、アミッドさんが私の無理を聞いてくれたおかげだ。人情が目にしみる思いだよ。もちろん、私が裏で手を回したことは彼女たちには内緒にしてもらっている。「正義」を志すファミリアに、身内びいきの横紙破りなんて聞かせる必要はないからね。
「本当、よかったですね。……でも、リューさんはなんであんなに不機嫌そうなんですか? また輝夜さんに言い負かされました?」
視線の先、中庭の低木に背を預けて空を仰ぐリューさんの姿があった。
「あー、あの子はねぇ……まだ、ダンジョンに潜れないのよ」
「そうなんですか? ギルドのペナルティ、まだ続いていたんですね」
先の事件のペナルティで、当面はダンジョン立ち入り禁止だと聞いていたが、まさか三ヶ月経っても恩赦が出ていないとは。五体満足で動けるのが自分だけということもあり、再出発に意気込む仲間たちから一人取り残されて、寂しいのだろうか。
「あ、そうだ。忘れるところでした。ガネーシャ・ファミリアから許可が下りたので、これをお渡ししておきます」
私はアリーゼさんに、二台一セットの通信機を手渡した。
「なに、これ?」
以前の遠征で得た深層素材を使い、エルティナが試作した最新型だ。地上から十階層程度なら直接通信できる。
さらに、ガネーシャ・ファミリアの要望で中継器の設置計画も進んでいた。エルティナが「こっちの世界の技術」でも作成・維持できるように工夫した図面を引き、十八階層の死角に密かに試験運用中の中継施設を建設したのだ。大手ファミリアが本気を出せば、わずか三ヶ月で二十四階層まで通話できるようなるんだから、本当に恐れ入るよね。
百科事典サイズだった通信機も、今では国語辞典くらいまで小型化できた。私としてはポケットサイズを希望したいけれど、それは今後の素材次第だ。
アリーゼさんに使い方を覚えてもらい、中庭の輝夜さんと試しに通信テストを行ってもらった。
「すごいわね、これ。以前借りた
そういえば、あの時はアリーゼさんも同じような
「なあ、これ、誰が持つんだ?」
ライラさんが興味津々で問いかけると、アリーゼさんは不敵に笑って通信機を掲げた。
「そうねぇ。貴重なものだから、私や輝夜が持つと戦闘中に壊しそうなのよね」
「ライラが持ってるのが一番良いんじゃね?」
ネーゼさんが手を上げて言う。まあ、妥当じゃないかな? ライラさんってこういうの得意そうだし(偏見)。
「それで、いま団長がもっておられる方はどうします? アストレア様にお持ちいただきますか?」
猫かぶりモードの輝夜さんがアリーゼさんが持っている通信機を指さした。確かに、パーティが分断されたときには威力を発揮するだろうけど、今のところは地上との交信に使うのが一番妥当と言えば妥当か。二台じゃなくて三台分の許可をもらえば良かったな。
「いいえ、これはリオンに持ってもらいましょう!」
「わ、私ですか?」
「そうよ。これがあれば、私たちがダンジョンにいてもリオンとお話しできるでしょ。良かったわねリオン。寂しくなったら、いつでもコールしていいわよ!」
「さ、寂しくなどありません!」
いやいや、寂しそうだったじゃん。嘘はいけないよ。神様連れてこようか?
『ねえ、ワカヒルメ様。さっきのリューさんの言葉は本当ですか?』
『嘘だね』
『ですよね』
通信機越しに確認して、ワカヒルメ様の返事から確証を得た。
「それで、出発はいつですか? なんなら私たちもお供しますけど」
現状私達はこれと言ってやることがない。通信機についてはある程度一段落したし、次の依頼が舞い込んでくる様子もない。白紙の依頼状が残っているのは、あとは――ロキファミリアだけかな?
「いいえ、今回は自分たちが今どこまで行けるかの確認でもあるから。気持ちだけ受け取っておくわ」
「分かりました。では、お気をつけて」
アストレア・ファミリアの方々は全員レベル4の中堅ファミリアだ。中層程度なら危なげなくこなすだろう。
心配する必要はないかな――と、後になって私はでっかいフラグを立ててしまったような気がしてちょっと不安になった。